作品タイトル不明
1399.魔神戦Ⅳ
「これが、最終形態でしょうね」
残りHPは1割程という、厳しい状況にあるレンがつぶやく。
【融合】によって【闇影】と一つになった魔神イグニシュガルドは、さらに大型化。
見上げるほどになった体躯の半身が、まるで闇が燃えているかのように揺れている。
「オオ……オオオオオオオ……」
低くノイズがかった声で、何かを語る魔神。
「オオオオオ……オオオオオオオオ――――ッ!!」
一瞬で空気が張り詰める。
「くるよっ!」
地面を揺らすほどの、激しい踏み込み。
巨躯を持つにもかかわらず、魔神は一瞬で接近してくる。
すさまじい速度から放つ、剣の振り降ろし。
メイとツバメが左右に分かれて回避すると、叩きつけた剣が強烈な衝撃波を巻き起こした。
吹き荒れる風に揺られながら見えたのは、【闇影】で四体に増えた魔神の姿。
【闇剣舞】を発動。
四体が一斉に動き出し、手にした大剣を振り回してくる。
「【バンビステップ】!」
メイは率先して前に出ると、追いかけてくる形の連撃を、華麗な足の運びで回避する。
反撃を狙って隙を見据えるが、振り下ろした剣が生み出す風でわずかに出遅れた。すると。
「「っ!!」」
二人は完全に虚を突かれた。
続く剣の振りに合わせて、ツバメが動き出したところに発動する【投剣】
巨大な闇の剣が、次々に飛んでくる。
「【疾風迅雷】【加速】【加速】【スライディング】!」
「【ラビットジャンプ】!」
電柱よりも長い両刃の大剣が、地面に次々突き刺さる。
斬られながらも、直撃の回避には成功した二人。
だが体勢を立て直す合間に、間髪無しで迫る大型四体による【骸骨割りの刃】は、上方から迫る千切りのような攻撃だ。
「「っ!」」
とっさの飛び込みで刃の隙間に転がり込んで、息をつく。
ここで魔神は闇影体を抹消して腕に変え、五本腕での【首斬りの刃】へと続けた。
「【装備変更】【アクロバット】!」
「っ!」
虚を突かれた状態からの攻撃。
「くっ!」
ツバメは回避にこそ成功したものの、大きく体勢を崩した。
そこに迫るのは【闇影】で増やした五本の腕で放つ、大型化した【暗雷】
「ああああ――っ!」
炸裂する雷光に弾かれて、派手に地面を転がる。
さらに流れ弾はしっかりまもりに防御を強制し、レンの足までその場に縫い付けた。
「ツバメちゃん! 【裸足の女神】!」
次々に現れる腕が怒涛の勢いで剣を振るい、攻撃し続ける【魔神千手剣】の発動。
メイはすぐさま駆け込み、二つの振り降ろし、二連続の斬り払い、左右から来る袈裟斬りと払いの連携を避け、続く強烈な振り降ろしの余波にたたらを踏みながらも、直後の払いを【アクロバット】でギリギリ回避する。
そこに迫るのは、左右に生まれた二本の腕による【両断大鋏】
「っ!」
メイはこれをその場で伏せることで回避してみせた。しかし。
その直後にもう一つ、本体が上段から剣を振り下ろしてくる。
奇をてらわず、横に一回転。
それだけで直撃をかわし、吹き飛ばされるだけにとどめる。
あまりに見事な回避は、目撃したものを驚かせるレベルだ。しかし。
起き上がろうとしたところに見えたのは、大型化した闇影六体による飛び掛かり【自爆】
盛大な爆発攻撃には、回避の隙間などない。
「わああああああ――――っ!」
直撃を受けたメイが、派手に吹き飛ばされた。
前衛二人が場を離れれば、狙いは当然後衛へと変わる。
発動するのは、剣を持たない腕を生み出し続け、大型化した【爆雷】を機関銃のように撃ちまくる【爆雷千手砲】だ。
「【クイックガード】【天雲の盾】! 盾盾盾盾盾っ!」
瀕死のレンを背に、炸裂する雷光をひたすらに遮断する。
レンは「無理に助けなくていい」と言ったが、まもりもこれだけは譲りたくない。
「っ!」
真横をすり抜けた爆雷に、即座に反応。
やはり【不動】を使わなかったのは正解だ。
まもりは左後方に大きく一歩足を下げ、炸裂によって生まれた雷光を受け止める。さらに。
「【チャリオット】! 【クイックガード】【天雲の盾】盾!」
右足に体重をかけて身体を右に回して、そのまま前進。
二つの雷光弾に追いつき打ち消したところで、急停止。
「【暴食の盾】! 【解放】っ!」
同時に迫り来ていた四つの雷光弾を盾に『喰わせて』吐き出し、難を逃れる。しかし。
「っ!」
そんなまもりの横を通り過ぎて行こうとした光弾に、慌てて飛び込む。
「まもり! っ!」
弾かれ大きく転がったが、まもりが意地で止めた雷光弾の炸裂はレンをかすめるにとどまり、どうにか1割を切るところで生き延びることに成功。
「【加速】【リブースト】!」
そして同時に、ツバメが駆け込む隙を作り出した。
「【分身Ⅲ】!」
一機に生まれるツバメの分身は100体。
だがこの全てを目くらましに変えて、横から駆け込む本物のツバメが放つのは――。
「【エンチャント・ヴェノム】【アクアエッジ】【八連剣舞】!」
高速の剣舞で一気に毒を叩き込む。
最後の一撃は、ギリギリ。
もしも【アクアエッジ】でなければ、間に合わなかっただろう。
こうして魔神の体内に蓄積した毒が炸裂。
その足を確かにフラつかせた。
「【重ね着】【装備変更】っ!」
メイはここで【狸耳】と【狐耳】に、装備を変更。
「出てきて、おっきなわたし!」
「「「っ!」」」
するとメイの声に応えるように現れたのは、十メートル級のメイ。
巨大な魔神に負けない大きさのメイの登場に、思わず誰もが息を飲む。
「いけーっ! 必殺のジャンピング【ソードバッシュ】だああああーっ!」
メイの言葉通り跳んだ、巨大なメイが振り下ろす剣は圧倒的な迫力。
これを魔神は受け止めようとするが、【まやかし】に実体はなし。
これまでなら、これだけで終わりだった一手。
だが【狐火】によって、巨大な豪炎となり燃え上がる。
【狸耳】と【狐耳】による連携が、見事に魔神を燃やしてみせた。
「すごい……!」
これには思わず、興奮してしまうレン。
全身を包んでいた青い炎が消えていき、魔神のHPが3割を切った。
このまま攻め切りたいところだ。しかし。
「オオオオオオオオ――――ッ!!」
咆哮一閃、イグニシュガルドは一気にメイたちを潰しにくる。
【グランレギオン・マギ】によって生まれた、巨大化状態の闇影体はこちらも負けじと100体。
掲げた右腕を振り下ろせば、上空に現れた大型の魔力光弾が一斉に落下してくる奥義。
その光景に、思わず呆然とする。
巨大な魔力弾が一斉に夜空から降り注ぐ光景はまるで、世界を終わらせる流星群。
何より落下速度が、光が尾を引いて見えるほどに速い。
「【装備変更】【バンビステップ】!」
メイが頭装備を【鹿角】に変えて、回避を開始。
だが右へ左へ柔軟な足の動きと、早い段階での危険地帯の予想をしてもなお、魔力光弾が地面にぶつかった際の爆発がHPを削っていく。
「っ!?」
そんな中、『重なった魔力光弾』の二つ目の爆発に巻き込まれて転倒。さらに。
「【スライディング】! 【斬り捨て】!」
同じように重なる形で迫る二つの光弾の一発目を斬る、ツバメに気が付いた。
「っ!?」
「【裸足の女神】っ!」
二発目の存在に気づき、驚くツバメのもとに最速で飛び込んでいくメイ。
「【装備変更】【フルスイング】だーっ!」
倒れ込みながらの一撃。
【魔断の棍棒】で打ち返した光弾は一直線に飛び、闇影の一体にぶつかり消し飛ばす。
これでどうにか直撃を避けたが、ツバメは直後に落ちてきた光弾に弾かれ、爆発の衝撃に巻き込まれて吹き飛ばされた。
「ああああああ――っ!」
倒れ込んだツバメと、体勢を崩したメイ。
「【クイックシールド】【天雲の盾】! 盾! 盾っ!」
一方のまもりは、レンの前に立ち防御に集中。
「【マジックイーター】! 解放!」
見事に、前後二連発の魔力光弾にも対処した。
だが、斜め後方。
盾が届かない位置に落ちた光弾の爆発には、さすがに対応できない。
レンと共に、衝撃波に巻き込まれてダメージ。
「っ!!」
続く流星のごとき光弾。
HPが1割を切っているレンに迫る二つの光弾は、どちらも半端な位置だ。
崩れた体勢。
片方に対応してしまったら、もう一つの爆発が防げない。
「【水球の守り】っ!」
まもりはここで、厚い球形の水泡を生み出し対応。
必死の防御で、少ないダメージでレンを守り切った。
どうにか、耐え抜いた奥義。
だが全員が防御や回避の態勢を取ったため反撃ができず、魔神はさら攻撃を続ける。
「「「「っ!?」」」」
【グランレギオン・グラディアートル】は、メイたちを挟む形でズラリと並んだ大量の巨大闇影が、端から順に剣を振り下ろしていく最終奥義。
それは左右から挟み込んで迫る『千切り』といったところか。
闇影の列の先に立つ本体が、勝利の笑みと共に手を振り下ろせば始まる処刑。
手前から次々に、すさまじい勢いで巨剣が振り下ろされていく。
その中心に立たされてしまった以上、できることは二つだけだ。
「まもりはツバメをお願い!」
「はひっ! 【かばう】」
まもりがすぐに動き出し、振り下ろされる剣撃から自分とツバメを守りに入る。
「私はイチかバチかに賭けるしかなさそうねっ! 【黒翼】!」
剣の軌道を考え、レンはいち早く真上への飛行で回避を狙うという賭けに出た。
「タイミングが、全く同じ……」
つぶやいたのは、まもり。
左右から迫る巨剣には二枚の盾での防御が必須だが、全く同じタイミングの攻撃の場合どちらかは通常防御での対応となる。
そうなった時、二人とも生き残る自信はない。
「【連続投擲】!」
そんなつぶやきを聞いたツバメは【風ブレード】の投擲で、極々わずかだが片方の剣速を低下させた。
「【不動】【クイックガード】【地壁の盾】盾ぇぇぇぇ――っ!」
振り下ろされた剣の威力は、圧倒的だった。
しかしまもりは、見事に防御を成立。
生み出された衝撃波に強く弾かれ、ツバメと共にHPを大きく削られながらも存命に成功した。
「……【野生回帰】!」
そんな中、メイは防具を全て吹き飛ばして走り出す。
「【裸足の女神】っ!」
追いかけて来る振り降ろしの波に追いつかれることなく、砂煙を上げながら直進。
迫る剣の波を駆け抜けて、そのまま魔神のもとへ。
しかし魔神はここで、なんと【身代わり】を展開。
巨躯を持つ闇影たちが作る壁は、もはや山のようだ……しかし。
「【装備変更】! 皆さま! 何卒よろしくお願い申し上げま――――すっ!」
【猫耳・尻尾】を【狼耳・尻尾】に替え、右手を掲げて呼び出す仲間。
クマ、白狼、ケツァール。
【群れ狩りⅢ】によって呼び出された召喚獣が、一斉にメイの後ろに居並ぶ。
インナー姿に獣耳のメイが仁王立ちになれば、その迫力に誰も思わず息を飲む。
「行こうっ!」
獣たちの王が、召喚獣たちと共に走り出す。
まずは先行した白狼が、豪快な喰らいつきで闇影体を放り投げた。
続くケツァールが滑空から鉤爪蹴りで、二体目の闇影体を弾き飛ばす。
そして暗黒剣士に扮した巨クマが、手にした聖剣を放り投げ、三体目の闇影体に【グレート・ベアクロー】を叩き込んだ。
これで残りの【身代わり】は、一体のみ。
「いきますっ! 必殺の【ソードバッシュ】だああああ――――っ!!」
駆け抜ける衝撃波は荒れ狂いながら進み、最後の【身代わり】を消し飛ばした。
全ての壁を打ち砕いたメイの前にいるのは、影の臣下を失った魔神のみ。
開かれた道。
この瞬間を、待っていた。
【黒翼】による垂直飛行は、見事巨剣の回避に成功。
レンは黒の羽が舞い落ちる中を、【浮遊】で滞空する。
ここで発動するのは、神社クエストで得たあまり見せたくない新スキル。
それは【魔眼】の、もう一つ上のスキルとなる。
「目覚めなさい――――【魔神眼】!」
目を開くと虹彩のエフェクトが広がり、今度は両眼が金色から真紅に変わる。
……この瞬間も、もちろんツバメは待っていた。
「黒き翼を持つ天使、両手に光と闇の二つを掲げ、常世に舞い降り魔を穿つ。聖なる輝きは大地を照らし、深き闇が夜の安息を生むだろう――――」
「――――【エンジェル・ハイロゥ】」
RPGの詩人が歌う、伝承のような詠唱。
レンが両手を開けば、夜空に浮かぶ大きな黄金の光輪。
降り注ぐ、キラキラとした瞬き。
その直後、まばゆい聖光が大地を穿つ。
それはまさに、悪しき地上の者たちを浄化する神の奇跡のごとき一撃。
駆け抜ける衝撃と共に、一転して天高く黄金の光が登っていく。
範囲も威力も、ケタ違い。
HPゲージを消し飛ばされた魔神イグニシュガルドは、聖なる光に焼かれるようにして消え去った。
瞬きと共に、ゆっくりと消えていく光粒。
その一撃は後に中央大陸の端でも観測されたと、まことしやかに語られるほどだった。そして。
真紅の両瞳を輝かせながら、聖なる光に照らされる黒きレンの姿に、目を奪われない者はいなかった。