作品タイトル不明
1398.魔神Ⅲ
「助かったわ。カナは下がって身を守ってて」
「お姉ちゃん……」
カナの残りHPは、火力の高いスキルに弾かれただけでも危険。
やって来たレンはそう言って、メイたちと合流した。
せっかく生まれた退避の時間。
今なら死に戻るよりも、さらに良い退き方を選べる。
カナは下がって、見学に戻ることにした。
「では、下がります!」
「カナちゃん! ありがと-っ!」
「助かりました」
「よ、良い連携が、できました」
メイたちに見送られて、距離を取る。
見れば、ゆっくりと立ち上がった魔神イグニシュガルドのHPはゼロ。
だが当然、これは終わりではない。
魔神の背後に立ち昇る闇影が、その身体を包み込む。
するとそのまま左半身が、闇色に変わった。
影を取り込み、一回り大きくなった身体。
その足元には、水たまりの様な『闇影』が円形に大きく広がっている。
新たに生まれたHPゲージが次の形態への変化を示唆する中、向かい合う両者。
「まもり、無理して私を助けなくていいからね」
同じことを言う姉妹。
ネムとの戦いの後、残ったHPは1割台というところ。
レンは「そろそろ派手に死に戻ってみせた方が、特別視されなくて済むかも」と、笑いながら杖を取る。
すると魔神は、手にした剣を静かに下げた。
「しゃがんでっ!」
「「「っ!!」」」
メイの言葉に、全員が腰を落とす。
すると剣から伸びた数十メートルの闇影が、刃となって空を裂く。
影の刃で大きな輪を描く広範囲斬撃【首斬りの刃】は、派手な斬撃エフェクトを残して駆け抜ける。
頭上を過ぎていく、恐ろしい剣撃。
魔神はそのまま、縦の軌道で長い攻撃を行う【骸骨割りの刃】へとつなぐ。
まもりとレンは無理をせず、サイドステップでこれを回避。
「【裸足の女神】!」
「【加速】【リブート】!」
一方メイとツバメは、かわしながらの前進を計っていた。
狙われたメイは、少し大きな弧を描く軌道で接近。
そのためツバメが、先に魔神のもとへたどり着いた。
「【三日月】! 【旋空】!」
半円を描くような【村雨】の振り降ろしから放つ、大きな回転の振り払いを、魔神が下がってかわしたところで――。
「【アクロバット】!」
メイがツバメの頭上を跳び越え、剣を振り下ろす。
「【ソードバッシュ】だああああ――――っ!!」
炸裂する猛烈な衝撃波に、身体が粉々になる『四体』の魔神イグニシュガルド。
「「っ!」」
それは闇影に作られた【身代わり】だ。
派手に飛び散った闇影は、そのまま落ちて足元の影に混ざる。
魔神はすぐさま、メイに手を伸ばした。
するとメイの足元の闇影から生まれた六体の魔神が、前後左右から剣を手に【飛び掛かり斬り】を仕掛けてくる。
「大きくなーれ! 【フルスイング】!」
【蒼樹の白剣】を伸ばし、放つ豪快な振り回しが、見事に五体をまとめて粉砕。
残る最後の一体には四本の【風ブレード】が突き刺さり、巻き起こる風に弾き飛ばされた。
メイはウィンク一つでお礼をして、ツバメがうれしそうにはにかむ。
魔神の攻勢は続く。
今度は剣を手にした闇影の魔神が十体、メイとツバメを狙って疾走。だが。
「「…………?」」
二人は困惑する。
なぜか闇影は、手にした剣をほとんど引かずに目前まで到来。
メイとツバメが先手を打とうとしたところで、内側から急に膨れ出すと――。
「わああああああ――――っ!?」
「ああああーっ!」
まさかの十体全員【自爆】
燃え上がる闇の炎が、メイとツバメを吹き飛ばした。
するとすぐさま走り出す、魔神イグニシュガルド。
その剣を引き、メイを狙って斬り抜けの体勢に入る。
「高速【誘導弾】【フレアアロー】!」
しかしこれをレンが、高速で曲がり来る熱線をぶつけて強制停止。
弾かれ回転受け身を取った魔神は、その狙いをレンに向けた。
放つのは先ほどまで使用していた斬り抜けスキル【瞬葬剣】の、強化版である【瞬刃烈葬】
超高速で、刃を持った三体の闇影たちが接近する。
「【かばう】【不動】【クイックガード】【地壁の盾】!」
すぐさま、その前に入るまもり。
初撃の右への斬り抜けを弾き、続く左への一撃も防御。
「っ!」
その二体の後ろに隠れるようにしていた三体目は、なんと『突き』
虚を突かれながらも、まもりがそれを受け止めた直後。
魔神本体が三体目を跳び越える形で、豪快な斬り下ろしを仕掛けてきた。
さらにここで、一つの仕掛け。
「ディ、ディレイですかっ!?」
この飛び掛かりに慌ててしまうと、すぐには来ない『溜めの振り降ろし』に引っかかる。
大きなディレイは、タイミングを合わせて守るタイプのスキルを使う者に取っては厳しい攻撃だ。
……それでも。
後ろにいるのは、HPが1割強ほどしかないレン。
「させませんっ!」
グッと足に力を込めて、動こうとする身体を抑える。
「……【地壁の盾】っ!」
そして見事、全ての攻撃を受け止めてみせた。
だが魔神は止まらない。
今度は複数体の闇影が、取り囲むようにして斬りかかってくる【闇剣舞】で攻勢を継続。
左右から迫る二体は、どちらも斜めの斬り下ろし。
「【クイックガード】【地壁の盾】盾っ!」
これを、掲げた二枚の盾で受け止める。
即座に消え去る闇影の背後から出て来たのは、高速の斬り抜けを放つ本体。
「【地壁の盾】っ!」
これも見事に防御して、すぐに視線を走らせる。
「っ!」
見えたのは、レンの後方から迫る闇影の姿。
「レンさん、左に一歩! 【かばう】!」
レンに敵は見えていないが、信じて踏み出す一歩。
すると闇影の振り下ろす剣の真下にギリギリ飛び込んだまもりは、盾を無理やり合わせる。
スキルは間に合わず、通常防御。
敵の剣の威力に、そのまま倒れ込む。
「まもり……っ!」
振り返りながらレンは、状況を把握。
前衛組の位置を確認して、すぐさま指示を出す。
「ツバメお願い! とにかく当てて!」
駆けてきていた漆黒のアサシンに、一声。
「【リブースト】【電光石火】!」
振り返り際の本体には、軽打で良し。
とにかくツバメに気を引かせて、魔神の反応が遅れた隙に『溜め切った』杖を伸ばす。
「【コンセントレイト】【聖槍】!」
放たれた大きな光の槍は腹部を貫く形で突き刺さると、そのまま炸裂。
魔神を弾き飛ばした。
「ありがとう、まもり」
レンはツバメに笑ってみせた後、手を伸ばしてまもりを引き上げる。
「……お、重たくないですか?」
「ふふっ、大丈夫よ」
敵の攻撃を抑えた事よりも、体重を気にするまもりに笑う。
シンプルゆえに強力な魔神の攻勢だが、レンはここでしっかりと流れを見極めてみせた。
「すごい……」
敵の攻勢は怒涛だった。
しかし結果として少ないダメージで済まし、魔神にそれ以上の深手を負わせる。
まもりの言葉を信じて一歩だけ移動、その間に次の一手を探してツバメに任せ、同時に『溜め』ておく。
一連の判断で危機を好機に変えた姉の姿に、思わずカナがつぶやいた。だが。
「「「「っ!?」」」」
さらにHPを減らした魔神は、次の手を打ってくる。
【レギオン】は100体の闇影を生み出し、同時攻撃を仕掛けるスキル。
これだけでは、止まらない。
立ち並ぶ全ての分身体が、全て【闇影】による5本腕で【暗雷】を放つ。
合計500発。
扇状に並んでの斉射は、強いフラッシュと共に。
ストロボの乱舞に、メイとツバメはすぐさま防御を選択した。
「【不動】【コンティニューガード】【錬金の盾】【天雲の盾】!」
まもりはレンを守る形で、盾を大型化。
どうにか危機を脱したが、驚きは止まらない。
なんと【レギオン】の分身体が、まだ消えていない。
「続くの!?」
レンの驚愕に応えるように、100体が振り下ろす【骸骨割りの刃】
縦に伸びる剣撃が、ツバメを狙って降り注ぐ。
「【加速】【リブースト】! ああっ!」
入り乱れる攻撃。
惜しくも攻撃範囲から抜け出し切れなかったツバメは、斬られて転がった。
「【バンビステップ】!」
この隙を突き、メイは一直線にレギオンたちの合間を抜けて本体のもとへ。しかし。
握っていた手を魔神が開くと、その分身の全てが【自爆】で盛大な爆発を巻き起こした。
「うわああああ――っ!!」
全方位から迫る爆発の波に飲まれ、転がるメイ。
魔神は間髪置かずに、追撃へ動き出す。
「【疾風迅雷】【加速】【加速】っ!」
牽制に走るツバメは、そのまま一気に魔神のもとへ。しかし。
突然、魔神が嘘のように振り返った。
放つ【瞬刃烈葬】は【闇影】と本体が同時に、超高速で迫り来る剣撃。
足元を払う一撃を小さなジャンプでかわし、即座にその場にヒザをついて次撃を回避。
するとほぼ間髪無しで、三体目が低めの斬り払いを仕掛けてきた。
「【スライディング】っ!」
慌てての回避は、イチかバチだったが成功。
だが四体目の本体は、三体目までの回避で崩れたところを狙う。
「あああああっ!」
シンプルな斬り下ろしが、ツバメを斬り飛ばした。
高いダメージと共に宙を舞い、落下するツバメ。
しかし地に落ちていく瞬間も、その目は敵を捉えている。
魔神が再びメイを狙おうと、身体をそっちに向けたのに気づくと――。
「――――続きます! 【受け身】!」
地面に突くと同時に転がって、そのまま立ち上がる。
「【電光石火】!」
最速で放つ斬り抜けは見事に魔神を斬って、その先へ。
「【反転】」
振り返るのと同時に、その手につかんだ【村雨】が閃く。
「【斬鉄剣】!」
生まれる豪快な斬撃エフェクト。
高速で斬り返す刃を放つ、脅威の連携『ツバメ返し』
刀を鞘に納めると風が止まり、魔神がその場に倒れ込むのがいつもの流れ。だが。
「【グリーンハンド】【アイヴィーシード】!」
吹き飛んだツバメを守ろうと駆けてきていたメイが、その右手を地面に突いてスキルを発動していた。
一気に伸びたツタは、倒れようとする魔神を受け止め磔にする。
メイとツバメの二人が、同時にレンの方に視線を向けた。
もちろんレンはツバメの『続きます』を信じて、準備を終えていた。
この好機を、逃したりはしない。
「闇を掲げし魔性の術師、片手に宿りし暗焔は、夜冥に潜む魔を燃やす。心得よ。汝の前に立ち塞がるは、闇を纏いし夜の王」
「――――【ダークフレア】」
杖から放たれた粒子の集合体は、さらに小さく集束すると魔神を巻き込み猛烈な勢いで炸裂。
激しい黒輝の爆炎をまき散らしながら、ゆっくりと消えていく。
「これがお姉ちゃんたちの……戦い」
この距離で見るレンたちの戦いは、なぜ多くのプレイヤーをあれだけ夢中にさせるのかよく分かる。
攻防と機転が、まさに別次元。
ともすれば一方的に魔神の攻勢が続きそうな、嫌なスキルの連発。
だがわずかな声の掛け合いで、見事に攻防を転換して反撃へとつないでいる。
これで残りHPは、半分を割り込むほどまで減少。
大きく後退した魔神イグニシュガルドは、いよいよ最終形態を取る。
「……なるほど、最後は大型化なのですね」
「感心する前に、詠唱の件について聞きたいんだけど」
始まったのは【融合】
闇影と混ざり合うことで、その身体を巨大化させていく。