作品タイトル不明
1397.魔神戦Ⅱ
ツバメの危機に飛び込んできたのは、なんとカナだった。
【雷光旋風脚】を叩き込まれた魔神イグニシュガルドは、地面を転がる。
「カナちゃん!」
「助かりました……!」
「せめてお姉ちゃんが戻るまで、お手伝いさせてください!」
うなずくメイは、さっそくカナと共に走り出す。
「【バンビステップ】!」
「【速歩】!」
二人はあっという間に距離を縮め、メイが魔神の懐に。
剣を掲げた瞬間見えた、防御態勢。
「【カンガルーキック】!」
即座に軌道修正。
低い跳躍からの前蹴りで、敵を崩す。
「【雷走破】!」
そこにカナが続き、雷光の駆け抜ける拳打を入れ込めば、再びメイが前に出る。
「【重ね着】【装備変更】【キャットパンチ】! パンチパンチパンチ!」
【狐火】による効果で、盛大に弾ける青い火花。
「【虎爪拳】だーっ!」
【肉球グローブ】によって上がった火力に、大きく魔神が下がる。
「【爆水拳】【フェイント】! 【崩天気功】!」
詰めてきたカナのフェイントに、まんまと体勢を崩されたところで、魔法のように放つ気の一撃。
距離が遠くなるほど威力の下がるスキルだが、この位置なら火力も十分だ。
弾き飛ばされた魔神は、片腕をついて転倒を回避。
ここで一転、猛烈な反撃に入る。
「【バンビステップ】【フルスイング】! あれっ!?」
追撃に来たメイの頭上を跳び越えて、狙うは隙だらけのカナ。
その背はなぜか、こちらに向いている。
「カナちゃん!」
「……【風王脚】!」
もちろんこれは、カナの得意とする罠。
敵に背を見せた状態でも使える空刃を伴う回し蹴りは、見事に魔神を蹴り飛ばした。
「カッコいいーっ!」
「あ、ありがとうございますっ!」
これには思わず拳をあげて、歓喜するメイ。
だが一連の攻撃は、魔神の狙いをさらにカナに集中させる。
起き上がるのと同時に、一直線に特攻。
剣を掲げた【闇影】たちと振り下ろす剣は【剛千斬り】
合計十本の剣が、順番に振り下ろされる。
「【かばう】【不動】【クイックガード】【地壁の盾】盾盾っ!」
これをしっかりとまもりが防御したところで、カナが再び前に出る。
だが魔神は、【両断大鋏】でこれに対抗。
自身の分身体と共に、左右からカナを剣で挟むような攻撃を仕掛ける。
「【烈気解放】ッ!!」
しかしカナはさらに、気合の発生で対抗。
弾ける気で付近の敵の体勢を崩し、魔法をかき消し、次の一撃の火力を上げるこのスキルで【両断大鋏】を受け止めた。そして。
「まもりさん、お願いしますっ!」
なんとカナが敵の攻撃を受け、まもりに攻撃を任せるという通常とは逆の展開へ。
「はひっ! 【シールドバッシュ】!」
それでもすぐに走り出したまもりが突き出す盾から、放たれる衝撃波。
二歩ほどの後退と共に、再び魔神が大きく体勢を崩した。
「【飛天】!」
カナは止まらず、まもりを飛び越え空中から魔神イグニシュガルドを狙う。
「【鳳凰飛空脚】!」
地上からでも、空中からでも敵に向けて進む飛び蹴り。
流星の様に迫り直撃すると魔神は弾き飛ばされて転がり、爆発と共に炎が鳳凰の様に天に昇った。
「お見事です……!」
これにはツバメも、感嘆の息をつく。
そして前衛三人の攻勢は、まだまだ止まらない。
魔神が放つのは回避がとにかく難しい【闇影】と【暗雷】の組み合わせ。
生まれた四本の腕と合わせて、五つの雷光が駆け抜ける。
「同じ手を、そう何度も……! 【斬り捨て】【五連剣舞】!」
これをツバメは、短剣二刀流の乱舞で斬り払う。
「【バンビステップ】!」
「【速歩】!」
駆けていく雷光の左右を、メイとカナが疾走する。
先行したのはメイだ。
「【フルスイング】! からの【フルスイング】!」
縦から横へと続く二連続の剣撃を、魔神はギリギリのところで回避。
「【アクロバット】からの【フルスイング】!」
【狐火】によって青い炎を描きながら放つ、空中回転斬り。
これを必死に避けたところで、迫り来る四人のツバメ。
【分身】によって増えたツバメが各々の攻撃体勢に入るが、本命の動きは――。
「【紫電】!」
放つ雷光が、わずかな時間だが硬直を生み出す。
「【速歩】!」
すると分身たちの隙間を、割って出て来たのはカナ。
その両拳には、煌々と燃え盛る紅蓮の炎。
「【無双烈火拳】!」
マシンガンのような拳打を、叩き込むそのスキル。
残像を残すほどの高速拳打が凄まじい勢いで火の粉を飛ばすド派手な一撃が、そのまま魔神を弾き飛ばした。
「ないすーっ!」
「お見事です!」
これにはまもりも、拍手で賞賛。
「皆さんが合わせてくれたおかげですっ!」
普段とは違う、無邪気な笑顔を見せるカナ。
メイやツバメの戦い方や呼吸を見てきた彼女なら、三者が入り混じる連携も可能だ。
こうして戦況を完全に握られ、さらに残りHPが3割ほどまで減少した魔神。
ゆっくり起き上がると、戦い方に変化を起こす。
「……風が、強くなってきました」
「うわわわわっ!?」
噴き出す強烈な風は、台風が上陸しているかのよう。
これは魔神イグニシュガルドの、【天候変化】によるもの。
「っ!」
ツバメの目前に、駆け込んできた魔神はそのまま剣を振り下ろす。
「風にあおられて……進めませんっ!」
斬られたツバメは、地を転がる。
「ツバメちゃん! 【バンビステップ】!」
メイはすぐに動き出すが、向かい風によって速度が大幅に低下。
「全然進まないよーっ!」
対してこの風の中でも変わらぬ魔神は、カナを狙って移動。
風の影響を受けない【闇影】によって放たれる【四連崩剣】の回避は、異常に難しい。
初撃こそ回避したものの、続けての回避は不可能と判断して三つの剣を防御して大きく弾かれた。
「っ!」
するとそこで、風向きが変わった。
カナは背を押す追い風に、ここが攻め手だと判断。
「【速歩】!」
すぐさま動き出すが、魔神はここでカナとの間に【炎渦】を発動した。
慌ててブレーキをかけ、どうにか止まることに成功したが、一拍遅れて炎と風の属性効果が攻撃範囲を大きく伸長。
「きゃあああっ!」
その変化は不規則で、カナは焼かれて倒れ込むと風に吹かれて地面を転がった。
魔神はさらに天候を変化させる。
今度は風が止まり、代わりに猛烈な豪雨が降り注ぎ出した。
「あれは……!」
魔神の指が、カナに向けられたのに気づいたまもり。
「【かばう】【天雲の盾】!」
すぐさま防御に入ると、輝きと共に迫る【暗雷】が雨を通して枝分かれ。
大きく攻撃範囲を広げる。
まもりの盾はそれでも、しっかり防御を成功させたが――。
嫌な予感通り、【闇影】によって放たれた三つの【爆雷】が飛来して炸裂。
大きな雨粒を通して、付近一帯をまばゆく染めるほどの雷撃が駆けめぐる。
「「きゃああああっ!」」
カナとまもりの悲鳴が重なった。
魔神はさらに天候を変え、攻勢を維持する。
噴き出す猛烈な吹雪が、メイたちからあっという間に視界を奪ってしまう。
「っ!」
カナを狙って、突然白煙の中から出て来たのは【闇影】で二体になった魔神の【瞬葬剣】
慌ててカナがこれを防御すると、魔神は吹雪の中に消える。そして。
「くっ!」
再び違う角度からの二連撃。
背後だけはとられまいと、カナは視線を走らせる。
そしてまた、ギリギリの防御。
その威力は高く、HPは確かに削られていく。
「っ!」
わずかに感じた気配。
カナは『溜め』もできる【崩天気功】を発動し、魔神が現れるのを待つ。しかし。
登場はまさかの背後から。
放たれるのは十体の魔神による【剛千斬り】
本当の気配に気づいて振り返った時には、もう遅い。
「きゃああああ――――っ!!」
すさまじい勢いで振り下ろされた剣を三発を喰らい、カナのHPは危険域に突入した。
「カナちゃん! すぐに行くから!」
悲鳴を聞きつけたメイが、走り出す。
「無理をせず、待っていてください!」
「必ず向かいます!」
心強いツバメとまもりの声。しかし。
「死に戻りは受け入れます! 少しだけですが、お役に立てたままで……お願いしますっ!」
カナは自分を守って、メイたちがダメージを受けることがないようにと請願する。
元々ツバメの危機を、どうにかしたくて飛び込んだ戦いだ。
役に立ち、足を引っ張る前に去る。
魔神とのレベル差を考えても、この流れでの死に戻りは決して悪くない。
こうしてカナが覚悟を決め、魔神がカナにトドメを差すために剣を持ち上げた――――その瞬間だった。
「――――風を!!」
荒れる吹雪の中でも、メイはその声をハッキリと聞きつけた。
「いーちゃんっ!」
一匹の白いイタチがメイの肩に登場するのと同時に、吹き荒れる暴風が吹雪を一時的に吹き飛ばす。
それはわずか、二秒ほどだけ。
嘘のように透き通った視界。
魔神の姿が確かに見えたその瞬間を、逃さない。
「――――【超高速魔法】【ファイアボルト】」
狙撃銃から放たれたかのような一発の弾丸は、そのまま真っ直ぐに空中を駆け抜けて、魔神の腹部から背中へと抜けていった。
「っ!」
レンは、うなずきを一つ。
気付いたカナが、即座に動き出す。
「【速歩】!」
一瞬で懐に入り込み、放つ拳。
「【雷走破】【爆水拳】【フェイント】! 【斬火脚】!」
そのまま華麗なフェイントから、豪快な蹴りで魔神を高く蹴り上げた。
「【水月】!」
続けてツバメの突き上げた水刃が、容赦なく魔神を貫く。さらに。
「【大きくなーれ】! 【ソードバッシュ】!」
メイの【蒼樹の白剣】が伸長し、刺さるのと同時に衝撃波を放出。
消し飛んだ魔神はそのまま、砂煙をあげながら地を跳ね転がって倒れ伏す。
「……お姉ちゃん」
「うちの妹が、迷惑かけるわね」
危機を一転、最高のチャンスに変える。
ネムとの戦いを終えたばかりのレンが、ローブを揺らしながら杖を払ってみせた。そして。
「来た……闇を超えし者が、五月晴れが最強パーティに戻るぞ」
月明かりの中をゆっくりと歩いてくる魔導士の姿に、その場にいた見学者たちが息を飲んだ。