作品タイトル不明
1396.魔神戦
始まったレンとネムの戦い。
そのため魔神との戦闘は、メイたちで三人で行う形となった。
見た目は人型で三メートルほどと、思ったよりも大型ではない。
その姿を端的に言うなら、手足の発達した竜といった感じか。
二足で大きな黒曜石のような剣を持ち、三本の角がある。
真ん中の角と尾の先には、黄金の飾り。
腰に巻いた長い漆黒の毛皮が、迫力を増している。
深く灰黒色の身体に、真紅の目。
魔神イグニシュガルドはゆっくりと、剣を持たない左の手を持ち上げる。
その指先が、閃いた。
「っ!?」
駆け抜ける稲光は、見てから避けるのはあまりに難しい。
これは指を向けるという予備動作の時点で、回避に入ることが求められる攻撃だ。しかし。
「わわっ!」
メイはこれを、驚きながらしゃがんで回避した。
これによって、システムが明確になる。
再び放たれる【暗雷】をメイは右に一歩の移動でかわし、左に戻る形で回避する。
「【アクロバット】!」
指を向けてから、テンポをずらすような真似はなし。
そう踏んだメイは次の一撃を、前方宙返りで回避して走り出す。
「【バンビステップ】!」
すると魔神も走り出し、正面からぶつかり合う形となった。
「【裸足の女神】!」
一瞬で踏み込み放つ剣撃を、魔神は見事にかわす。
さらに踏み込んでの振り上げを、飛び下がってかわしたところで再びメイは【裸足の女神】で再加速。
「【フルスイング】!」
豪快な振り降ろしを叩きつける。
これを剣で受け止めた魔神が下がったところで、メイは剣を高く掲げた。
「【ソードバッシュ】だああああ――――っ!!」
直撃する衝撃波に、防御を続けた魔神は砂煙を上げながら大きく後退。
この規模のクエストボスですら、これだけの距離を離される一撃は、やはり常軌を逸している。
魔神は黒の剣を下げ、顔をあげた。
「っ!?」
【瞬葬剣】はレンの【超高速魔法】を思わせる、弾丸のような速度で接近しての斬り抜けだ。
「【アクロバット】!」
だがメイは刃の数センチ上を、前方への回転跳躍で回避した。
見事な立会いを見せた両者に、ツバメとまもりが感嘆の息をつく。
もちろん魔神の力は、この程度ではない。
まるで目の前の存在を強敵と認めたかのように、発動する新たなスキル。
【闇影】によって、闇のオーラがその身体をたゆたい出す。
魔神はその剣を下げ、先ほどと同じ予備姿勢を取った。
そして放たれる【瞬葬剣】
メイはこれを、今度はしゃがんで回避するが――。
「っ!?」
初撃をかわした次の瞬間。
もう一体、闇で作られた魔神イグニシュガルドが、漆黒の剣を一拍遅れて振り払った。
「わああああ――――っ!」
これを喰らって、メイが斬り飛ばされる。
「【加速】!」
こうなれば即座に、追撃を防ぐためにツバメが駆け込んでくる。
対して空いた手を伸ばし、ツバメに指を向ける魔神。
その手はなんと、【闇影】によって五本に増加。
【暗雷】が発動し、稲光が目にも止まらぬ速度で接近する。
「くっ! 【スライディング】!」
ツバメはイチかバチか、身を低くしての回避を狙い成功させた。
すると続けざまに、魔神が剣を引く。
放たれる【瞬葬剣】
先ほどメイは跳躍したことで、遅れて来た二体目の剣に斬られた。
「【スライディング】っ!」
そこでツバメは再度の滑り込みで、回避を狙う。
すると見事な形で、二連続の振り払いもかわすことに成功したが――。
「三体目……っ!?」
魔神の二撃目までは、狙い通りの斬り払いで頭上を過ぎて行ったが、三体目の分身体は斬り上げモーション。
「ああああ――っ!」
雷光のような速度で迫ってきた剣撃に、斬られて転がった。
魔神はさらに、その指をまもりに向ける。
【闇影】によって残像のように見える黒腕と、飛来する四連発の【暗雷】
「【クイックガード】【天雲の盾】盾盾盾っ!」
まもりは見事な防御で、その全てを受け取めた。
すると今度は、火花を飛ばす激しい雷光弾を続けざまに放つ。
【爆雷】も【闇影】の影響で、飛んできたのは二発。
「【天雲の盾】っ!」
しかし軌道がブレたのか、二発目は少し頭を下げれば回避が可能。
初撃を受けたまもりは、二発目は見逃した。
だが通り過ぎた雷光弾は、後方で炸裂。
「きゃああっ!」
付近に駆ける稲光が、不運にもまもりの背を撃つ形となった。
正統派の強さを持ちながら、その戦闘力を大きく引き上げるスキルも使う。
どうやらそれが、魔神イグニシュガルドの戦い方のようだ。
「【バンビステップ】!」
起き上がったメイが仕掛けるのは、接近戦。
剣の振り降ろしから振り上げ、そのまま詰めて振り払いへとつなぐ。
これを下がることで回避した魔神は、大きな振り払いで反撃。
「っ!」
メイはこれをしゃがんでかわし、続く振り上げをサイドステップ一つでかわす。
見事な戦い。
ここで魔神は大きく踏み込んで、猛烈な斬り降ろしを仕掛けてきた。
強烈な勢いで迫る黒剣。
メイが張り付くような距離の接近戦を狙った理由は、もちろん。
「【重ね着】【装備変更】とっつげきー!」
間髪入れずに、メイの【鹿角】パリィが最高のタイミングで決まる。
激しく舞い散る青い火花。
大きく体勢を崩した魔神と、わずかな反動を受けるメイ。
「【加速】【リブースト】【雷光閃火】!」
ここでツバメは最速の一撃を叩き込み、そのまま横へズレて道を開く。
「【フルスイング】だああああ――――っ!!」
直後に豪快な振り降ろしが、魔神の胸部から腹部に駆けて直撃。
【狐火】によって青い炎に燃やされながら跳ね転がったところに、差さった短剣が起こす爆発。
ツバメは戻ってきた【致命の葬刃】をキャッチ。
自然とハイタッチをして、前後の並びを作るメイとツバメ。
見事な一撃で3割ほどHPを減らした魔神は、その赤眼を鋭く細めた。
ここで一つ、ギアをあげる。
【闇影】による【暗雷】での攻撃はこれまでと同様、こちらに向けて指を差す形。
メイたちは、意識を集中するが――。
「「「っ!?」」」
その腕の数が、驚異的。
「まるで、千手観音のようですっ!」
闇の腕だけが大量に生み出され、こちらに向けられる。
その迫力はまさに、千手観音像のようだ。
放たれる大量の稲光。
マシンガンの様に迫る雷光は、あまりにも速い。
「【コンティニューガード】【天雲の盾】!」
最初から盾に隠れたまもりは問題なし。
だがメイとツバメはあまりの攻撃数に虚を突かれ、わずかに判断が遅れた。
挑んだ回避も、メイは腕と足を弾かれヒザを突く。
それでも直撃を許さなかったのは、見事と言うほかない。
「っ!」
そんな中ツバメは、重なる形で飛んできた二つ目の雷光が直撃。
体勢を崩したところに、脚を弾かれ倒れ込んだ。
魔神は即座に狙いをツバメに決定。
一気に距離を詰め、スキルを発動する。
「【かばう】!」
気付いたまもりが慌ててスキルを発動するが、雷光を防御することで生まれた距離のせいでツバメに届かない。
魔神が放つのはやはり、シンプルな両手持ちでの剣撃だ。
これをツバメがどうにか避けると、さらに闇の素体たちが剣を振り下ろしてくるのが【四連崩剣】
「【スライディング】!」
二発目を滑り込みでかわした先には、即座に迫る三体目の攻撃。
大剣が直撃し、消し飛ばされるがそれは【残像】
そして最後の四発目。
「【跳躍】っ!」
もはやできることはジャンプのみ。
着地までにかかる時間を使い、魔神はさらに踏み込んで接近。
高速の直進移動から放つ内側への払いは、【闇影】の完全な分身体と同時に。
【両断大鋏】は、左右からの振り払いで挟んで斬る攻撃だ。
「くっ!」
ツバメはたまらず防御をするも、凄まじい威力に斬り飛ばされて転がる。
防御して2割減の威力は、恐ろしい。
しかしまだ、魔神の攻撃は終わらない。
「っ!」
起き上がったツバメの目に映ったのは、指をこちらに向けている魔神の姿。
再び始まる千手観音撃ち。
「ああっ!」
ここでメイとまもりを足止めし、起き上がる瞬間のツバメを弾いて転がす。
追撃に放つは、【闇影】による【瞬葬剣】
目にも止まらぬ高速斬りが、動けないツバメに追い打ちをかけるために放たれた。
早くも到来した大きな危機。しかし。
このクエストへの参加は、前の腹心復活の制止に関わっていることが条件となっている。
逆に言えば、それさえこなしていれば『飛び込み』も可能だ。
「【速歩】【雷光旋風脚】!」
我慢できずに、飛び込んできた雷光。
飛行艇から飛び出したカナは、そのまま激しい稲光を乗せた蹴りを魔神に叩き込んだ。