作品タイトル不明
1395.聖戦Ⅱ
「さあ、舞踏会を続けましょう」
貫通の溶岩弾を叩き込んだナイトメアが笑う。
「当然。この輪舞が終わった時、聖城レン・ナイトメアは我がものとなるのだから」
対してネムも、その口端に楽し気な笑みを浮かべた。
「さすが使徒長……すごい戦いだ」
これには飛行艇に集まった見学者たちも、思わず息を飲む。
「【連続魔法】【誘導弾】【フリーズボルト】」
仕切り直し。
ナイトメアが放つのは、斜め上方から曲がって落ちて来る氷弾。
「高速【連続魔法】【フリーズボルト】」
直後に速い氷弾を放ち、遠回りの氷弾に続く形で敵に届くようにする。
先に放った魔法に後の魔法が追い付いてくるという難しい状況は、判断に悩ませる。
「っ!」
速遅の連携でネムを惑わせ、回避に集中させたところで、ナイトメアは一気呵成に出る。
「【滅多撃ち】! 【ファイアボルト】【ファイアボルト】【フレアアロー】【フレアアロー】【フレアアロー】!」
怒涛の勢いで放たれる火炎の弾丸と矢に、いよいよ厳しくなる回避。
「【フレアストライク】【フレアストライク】!」
狙いは体勢を崩したところに、上級魔法をぶつけることだ。
「【任意瞬間移動】! 【任意瞬間移動】!」
「【フレアストライク】!」
「くっ……!」
二度の瞬間移動回避の直後、ネムは迫り来ていた炎砲弾を飛び込み回転で回避する。
「もう一つ! 【フレアストライク】!」
「……【任意瞬間移動】!」
体勢は完全に崩れた状態。
それでもネムは、この怒涛の攻勢を瞬間移動でやり過ごした。
「なるほどね」
ナイトメアが、その挙動に覚える閃き。
だが、ネムの反撃は速かった。
「来たれ【フラマ・ドラコニス】」
手を掲げると、地面からわき上がった炎の渦巻きが、地を駆ける龍となる。
ナイトメアは迫る火竜の喰らいつきをかわし、飛びかかりを回避する。
だが炎の龍は消えず、気づけばその長い身体が『巻き込む』形で迫っていた。
「そういうこと……っ!」
地を這った後に炎が残るため、逃げ場はあっという間になくなっていく。さらに。
「【彼岸火花】」
20発の火炎弾を一気に放つ上級魔法で、畳みかける。
ナイトメアは諦めて防御を選択し、吠え盛る炎と火炎弾を受ける。
その効果時間は長く、なかなかのダメージとなった。
「【火祭】」
続けて放つ8発の火炎弾。
迫る誘導の一撃を、ナイトメアが引きつけてから回避したところで――。
「来たれ【フラマ・ドラコニス】」
「このレベルのスキルなのに、クールタイムはずいぶんと短めじゃない……っ!」
思わずもれる本音。
ネムは攻撃の手を緩めない。
「【トライマギア】【ローズフレア】【ローズフレア】【ローズフレア】」
「っ!?」
手の中に輝く炎が大きく、よりまばゆく輝いていく。
「その目に焼き付けよ、煌爛たる炎華の庭園――――『スカーレットガーデン』」
炎の龍が、再びナイトメアを巻き込んだところで放つ赤紫の猛火。
もはや回避の道などない。
ナイトメアは身を守るように、自らの両肩を抱いた。そして。
「……でも、二度目はそう簡単にもらわないわ【黒翼】!」
黒の翼を生やして、垂直に飛び上がった。
虚を突くコツは、一度防御を選んだかのような体勢を見せることだ。
「っ!?」
思考が完全に追撃に移っていたため、ネムは反応が遅れた。
迫るスカーレットガーデンをかわし、黒い羽を散らしながら迫る、一直線の高速飛行。
「はあっ!」
そのまま【魔剣の御柄】で斬りつけて、解放。
初撃こそかすめる形にとどめたが、続く解放の【フリーズストライク】に弾かれて大きく転がった。
ネムは慌てて体勢を立て直し、顔を上げる。
「っ!」
見えたのは、風に舞って飛んでくる包帯。
そして妖艶に眼帯を外す、ナイトメアの姿だった。
「【魔眼解放】」
黄金に輝く右目は、まるで眼帯によって抑えられていた力が解放されたかのよう。
さらに【増幅のルーン】が、その腕で光り出す。
「【ペネトレーション】穿て――――【聖槍】」
杖の先端部分を中心にして生まれた、八本の光の槍が衛星の様にゆっくりと回転。
わずかな時間差で、一斉に放たれる。
瞬間移動をしても、その先で別の槍が刺さるだけ。
聖なる輝きと共に巻き起こった爆発が、ネムを吹き飛ばした。
「くっ……!」
「言ったはずでしょう? 私を超える者にしか、この杖を預けることはないと」
ナイトメアは、楽しそうに笑みを浮かべてみせた。
大きくHPを減らしたネム。
しかし焦る様子はなく、ゆっくりと立ち上がる。
「問題ない。超えてる……だから世界とナイトメアは、私のものになる運命」
そうハッキリ告げて、スキルを開放する。
「――――【堕天】」
「っ!?」
大きなエフェクトと、生まれる風に思わず後ずさるナイトメア。
頭部に生えた、二本の黒角。
その片方は半分ほどで折れ、内部に輝く赤紫の結晶のようなものが見えている。
ネムの見た目がハッキリと変わった。そして。
「――――【クィントマギア】」
「なっ!?」
まさかの言葉に、驚愕する。
ナイトメアは知っている。
クィント、それはすなわち――――。
「【ローズフレア】【ローズフレア】【ローズフレア】【ローズフレア】【ローズフレア】」
やはり、聞き間違いではない。
同種魔法を五つ合わせて放つそのスキルが、解き放たれる。
「【低空高速飛行】ッ!!」
レンは即座に、最高速で移動を開始。
「さあ天使よ、祝福の笛を鳴らせ――――『終末の炎』(レーヴァテイン)」
直後に放たれた地獄の猛火は、天を焼く。
昼間の太陽のように辺りを照らし、荒れる熱波を駆け巡らせる。
「っ!」
早い反応で退避を開始したナイトメアは、焼かれながらも直撃を回避。
しかし覚醒状態のネムは、攻撃を継続する。
「【トライマギア】【火祭】【火祭】【火祭】」
放たれる、24発の炎弾。
「【低空高速飛行】!」
再びの高速移動で、迫る炎弾をかわす。
「【トライマギア】【彼岸火花】【彼岸火花】【彼岸火花】」
だが、今度は60発だ。
「覚醒時は『三つ』が、連続で使えるようになるの……っ!?」
【低空高速飛行】と【旋回飛行】の組み合わせで、ナイトメアは削られながら回避を継続。
一方ネムはその手を掲げて、召喚魔法を使用する。
「出でよ……ルー」
背後の魔法陣から出て来たのは、古代の英雄を思わせる巨大な戦士。
黄金の髪をなびかせ、その手の大槍を大きく引いた。
「ケルトの太陽神ルー……! 召喚まで大物じゃないッ!!」
一撃離脱型の召喚。
レンはすぐさま、魔法を放って対応。
「【魔砲術】【誘導弾】【フリーズストライク】!」
しかし慌てて撃った氷砲弾は、ルーの肩の上を遠く外れて飛んでいった。
「しまった……!」
「おい使徒長が的を外したぞ!? そんなに慌ててるのか!?」
まさかの事態に、驚きの声をあげる掲示板組。
これにはカナも、目を見開いた。
次の瞬間、ルーに投じられた槍が地面に刺さり爆発。
レンには、防御以外の選択が取れなかった。
「【クィントマギア】」
大きくHPを削られ、フラつくナイトメア。
さらに続く、ネムの猛攻。
「【ローズフレア】【ローズフレア】【ローズフレア】【ローズフレア】【ローズフレア】これで最後――――『終末の炎』」
天を焼き地を焼く、世界に終焉を伝える烈火。
「……さすがに、効いたわ」
連続の防御でも大きく減ったHPは、もう残りわずか。
次の一撃を受ければ、おそらく防御でも敗北だ。
「ナイトメア、私のものになって」
そう言って、右手を伸ばすネム。
「フフッ……これだけの力で誘われると、うれしくなるわね。でも、その前に聞かせて?」
極限まで追い込まれた状態。
しかしナイトメアが顔を上げ、見せる妖しい笑み。
その嫌な余裕に、なぜかネムの背が震えた。
「あれだけの大型召喚に【誘導弾】を使って、外れたことに疑問を持たなかった?」
意味が分からずにいるネム。
その後方上空には、輝く一発の氷砲弾。
「違う! 使徒長は慌ててたんじゃない! 【魔砲術】でわざと遠くに飛ばして、【誘導弾】で戻ってくる魔法を『あの子に向けて』放ってたんだ!」
「召喚を止めるために見せたのは……フェイクか!」
驚愕に、唖然とする見学者たち。
影に気づいたネムは慌てて振り返るが、後方から一直線に飛んできた氷砲弾に肩を激しく打ち付けられた。
「う、そっ!?」
「【連続魔法】【誘導弾】【フリーズボルト】」
「【任意瞬間移動】!」
「【誘導弾】【フリーズストライク】」
「【任意瞬間移動】!」
大きく体勢を崩したネムは、大慌てでナイトメアの攻撃を回避。
「そして。二連続の瞬間移動を見せられた時点で、何度でも連続で使えるように錯覚しがちだけど、三度目以降の【任意瞬間移動】はクールタイムが長くなっていく。そうでしょう? ――――【コキュートス】」
「……【任意瞬間移動】ッ!」
飛来する純白の氷弾は、冷気を収縮させたもの。
炸裂した白煙は、容赦なく広がっていく。
ネムはクールタイムの終了を待って瞬間移動を計るが、ギリギリで間に合わない。
レンの予想通り。
瞬間移動の連発は異常に有利だが、三連続目は遅くなる。
絶対零度の白煙が、ネムの半身を凍結させた。
「【低空高速飛行】」
接近してきたナイトメアは、着地と同時にその手に闇の刃を生み出し、優雅に一回転。
「永遠の眠りに、相応しき悪夢を――――【ナイトメア】」
トドメの一撃を、華麗に突き刺した。
「フフッ。貴方、なかなか楽しませてくれたわ……ありがとう」
収縮した闇が一気に炸裂し、HPが消える。
「そんな……」
ネムはゆっくりと時間をかけて、その場に倒れ伏した。
「……でも。私を率いるつもりなら、魔神じゃなくて野生の神を連れてこないといけないわ」
そう言って薄く笑う姿は、闇を超えし者の威容を感じさせる。
我が身を守ることに成功し、心の底から安堵しているその心中を知る者は、もちろん本人だけだ。