作品タイトル不明
1394.聖戦
「……時が来た」
少女は、つぶやくように言う。
「このクエストを完遂し、勝負に勝つことで私が闇を超えし者を凌駕したことを証明する。そしてナイトメアは……私のものになる」
中二病の、お約束だったはずの掛け合い。
まさか今も本気で狙っているなんて、思わなかった。
だが唯一の救いは、「私に勝てるなら」と条件付けをしてあることだ。
ゆえに、絶対に負けられない。
「ずいぶんと、気が早いのねぇ」
そして相手が今も本気にしている以上、何を言っても無駄だろう。
それなら勝って、目が覚めるのを待つしかない。
「勘違いをしないことね。私を超えることに比べれば、これまでのクエストなんてチュートリアルに過ぎないわ。フフッ、早く勝負を――――楽しみましょう」
始まる、闇を超えし者モード。
余裕と妖しさ、そして戦いへの好奇心で作られたナイトメアの表情に、少女は思わず身体を震わせた。
「我が名は、宵闇ネム・ラグナロク――――さあ、聖戦を始めよう」
伸ばした右手には、宝石の埋め込まれた指ぬきのグローブ。
「【火祭】」
先手はネム。
8発同時に放つ炎弾には、緩い誘導がかかっている。
「【低空高速飛行】【旋回飛行】!」
これをナイトメアは、得意の弧を描く飛行で回避する。
「【烈波】」
爆発的な衝撃波で敵を吹き飛ばす一撃は、ダメージは低いが発動が早く速度もある。
「っ!」
ナイトメアは急停止でこれをかわして、反撃に入る。
「【誘導弾】【連続魔法】【フリーズボルト】!」
「【焔薙ぎ】」
ネムは迫る氷弾を、炎を生み出す大きな手の払いで弾き飛ばした。
初級魔法も打ち消す近接スキルで見事に対応すると、続けてその手を伸ばして指を鳴らす。
「【コンステレーション】」
星座を意味するそのスキルは、ナイトメアの付近にいくつもの小さな火球を展開。
ぶつかれば爆発、任意でもそれが可能という厄介なスキルで、ナイトメアの自由な移動を制限する。
「【火祭】」
そんな状況で放つ8発の火炎弾が、肩口をかすめていく。
「【烈波】」
「くっ!」
逃げた先にはまた火球。
回避の方向が限定されたナイトメアは、迫る衝撃波に強く弾かれた。
「【彼岸火花】」
「っ!!」
ネムは20発の火炎弾を一気に放つ上級魔法で、しっかり押さえにくる。
「【低空高速飛行】【旋回飛行】! 【低空高速飛行】!」
迫る火炎弾と輝く火球の隙間を、飛行の中断を用いて必死の回避。
しかし炎弾と火球がぶつかることで生まれた爆発に、巻き込まれて転がる。
広がる炎と煙。
そして高火力魔法ゆえにできる硬直を突き、ナイトメアはすぐさま反撃に入る。
「【超高速魔法】【誘導弾】【フリーズボルト】!」
わずかな白い輝きの後、弾丸のような速度で迫る氷弾。
「っ!」
これはネムは黒の【日傘】を開くことで、しっかり防御。
跳弾のような軌道で弾かれた氷は、粉々になって散る。
狙いは外れたが、ここでナイトメアは『防御された場合』の戦法に変更。
仕掛けを一つ施してから、【低空高速飛行】での接近を計る。
「思ったより楽しませてくれるみたいね……それなら接近はどうかしら? 【低空高速飛行】【連続魔法】【フレアアロー】」
接近を仕掛けることを宣言しつつ、【日傘】で弾ける魔法を放ちつつ接近。
こうなれば相手は、【日傘】を持ったままナイトメアを待ち受ける選択をする。
「【魔剣の御柄】」
【フリーズストライク】を込めての接近で、放つ振り降ろし。
これをネムは横移動でかわして、魔力を込めた【日傘】を振り払う。
「はあ!」
ナイトメアはしゃがんで回避して、そのまま踏み込み剣を振り上げる。
ネムはこの攻撃を、サイドステップでかわすが――。
「っ!」
その攻撃は片手。
即座に踏み出し、ナイトメアは空いた左手を伸ばしてきた。
「そうは……いかないっ」
手で触れて【燃焼のルーン】の刻む攻撃には、さすがに緊張を見せたネム。
必死に身体を引くと、ナイトメアの手が鼻先を通り過ぎて行った。
「【解放】!」
だがそこに続くのは、【魔剣の御柄】に込めた【フリーズストライク】の解放。
「【任意瞬間移動】(テレポート)!」
追い込まれたネムは斜め後方への短距離瞬間移動で、迫る氷砲弾を回避する。
「やっかいなスキル、でも……!」
ナイトメアは、攻撃の手を止めない。
即座に続ける攻撃で、ネムを狙い撃つ。
「【悪魔の腕】!」
「【任意瞬間移動】っ!」
しかし魔法陣から出てきた巨腕の叩きつけを、ネムは連続の瞬間移動で姿を消した。
「二連続ですって……!?」
これだけの優良スキルが、連続使用できることに驚くナイトメア。
だが何より大きな問題は、ネムの姿が見えなくなったことだ。
それでも落ち着いて考える。
こういう時、メイはいつも――。
「【スタッフストライク】!」
イチかバチかで振り上げた杖が、頭上から落ちてきたネムの日傘振り降ろしとぶつかり弾き合う。
二人とも一度、大きくバックステップ。
「【仕込み日傘】」
魔力の刃を伸長することで、虚を突く一撃を放つそのスキル。
「【超高速魔法】【フリーズボルト】」
そしてナイトメアの放つ氷弾。
二つの攻撃は、両者の数センチ横を通り過ぎていった。
「「「…………」」」
「お姉ちゃん……」
卓越した戦いに、見入ってしまう掲示板組。
これにはカナも、思わず固唾を飲む。
「さすがナイトメア。もっと、手に入れたくなった」
「フフッ、お褒めの言葉として受け取っておくわ。でもまだ……私を超えられるとは思えないけど?」
中遠距離でも、近接でも譲らない好勝負。
ナイトメアは嫌な寒気と楽しい戦いに、妖艶な笑みをこぼしてみせた。
「【誘導弾】【連続魔法】【フリーズボルト】」
戦いの再開はナイトメアから。
あえて右斜めに撃つことで降り注ぐ形で迫る氷弾を、ネムは左に向かう事で回避する。
「【ブリザード】!」
そこですぐさま氷嵐を起こすことで反撃の防ぎつつ、視界の一部を隠してしまう。
「【誘導弾】【フリーズストライク】!」
ここで再び、右斜めに向けて放つ氷砲弾。
「っ!」
これでネムには、氷嵐の中から突然氷砲弾が飛び出してくる形になる。
「そうはいかない……っ! 【任意瞬間移動】!」
それでもネムは慌てず、得意の瞬時移動で回避に成功。
だがナイトメアが杖を構えたままにしていたことで、瞬間移動先に『前後』は選べなかった。
なぜなら移動した瞬間に【超高速魔法】をそのまま放たれたら、さすがに瞬間移動でも回避が間に合わないからだ。
ただ杖を真っ直ぐ向けているだけ。
あまりに見事な牽制に感嘆しながら、ネムはさらに左に避けることを選択。
だがそれこそまさに、ナイトメアの狙い通りだ。
「そこっ! ルーン発動!」
「っ!?」
発動エフェクトに驚くネム。
接近戦時に触られてはいないはずと、自身を見下ろして確認する。
だがその『仕掛け』は、最初に【日傘】を使用した時。
傘のせいでナイトメアの姿が見えなくなった際に地面を触り、足元に【氷結のルーン】を【設置魔法大型化】で仕込み済みだった。
「【任意瞬間移動】!」
すぐさま距離を取るネムだが、距離はそこまで長くない。
移動先で突き上がった氷山の一角に強く弾かれ、そのまま転倒した。
「【低空高速飛行】!」
ここでナイトメアは、接近を選択。
すると伸ばした杖に対し、ギリギリのところで【日傘】の使用が間に合った。
しかし防御を選んだということは同時に、移動による回避を捨てたという宣言となる。
ナイトメアはむしろ、この流れを望んでいた。
「素敵な傘ね。でも壊してしまうのはもったいないから――――【ペネトレーション】【インフェルノ】」
この位置からではもう、瞬間移動での回避も不可能だ。
【色炎のお守り】によって紫に染まった溶岩のごとき炎が炸裂し、夜空をまばゆく照らし出す。
「ああああああ――――っ!」
【日傘】の防御を破って、与える大きなダメージ。
地面を跳ねるほどの勢いで転がったネムの前で、紫の炎がゆらゆらと揺れる。
「【誘導弾】」
ナイトメアは杖を構えて、炎が落ち着くのを待ちながら先に誘導弾を発動。
そして炎が消えかかり、ネムの姿が確認できた瞬間。
「【聖槍】!」
先手を放った。
「私の【任意瞬間移動】の強さは……溜めスキル等の状態を『保ったまま』移動できること」
迫る光の槍を目前まで引き付けてから、ネムは左斜め前方へと移動。
難なく【聖槍】を回避すると、今も足元に小さく揺れる炎の中、その手をナイトメアへと向けた。
炎が燃え赤る中で、すでに【トライマギア】は発動済み。
「その目に焼き付けよ、煌爛たる炎華の庭園――――『スカーレットガーデン』」
飛来する灼熱の蕾が飛来し、炸裂。
花びらのように舞う赤紫の炎花が、大きく開く。
「この範囲……逃げ切れないっ!」
ナイトメアは慌てて【低空高速飛行】で逃げようとするが間に合わない。
炎花の花園に巻き込まれて、大きく燃え上がった。
「……やるわね」
再び燃え上がった業火に、大きく減少するナイトメアのHPゲージ。
「一人でこれだけの規模のクエストを進めるほどの魔導士。私の前に立ち塞がるなら……フフッ、これくらいじゃないと」
瞬間移動と、三つの魔法の合体。
素晴らしい構成の戦い方に、笑みがこぼれ続けるナイトメア。
その一方。
「【日傘】を開いた時にルーンを刻み、戦いの中で相手をその場所に寄せていく……戦闘中にこんな仕掛けを当然のように用いる思考、やはり……欲しい」
ネムもその思いを強くする。
戦闘時にここまで先を思考して戦う魔導士など、どこを見てもいない。
「「「…………」」」
煌々と輝く溶岩から噴き上がった炎の直後に、三つの業火を一つにして反撃。
視界を焼くほどの戦いは、まさに魔導士の最高峰。
圧倒的な戦いに、見学者たちは息を飲んだ。