作品タイトル不明
1346.スニーキングミッションはこうなりがち
「ここに【神銅金】があるのね……」
レンが地図を見ながらやってきたのは、京の東部にある金属加工師たちの仕事場。
扉を開くと、中では職人たちが肩を落として座り込んでいた。
「どうしたの?」
「ああ、実は【神銅金】を野盗に盗まれてしまったんだ。それで神具の生産が止まってしまってな」
「なるほどね。それなら私が取り戻しに行くわ」
「本当か……? やつらはここから北に進んだ先にある岩山の洞くつに潜んでいるようなのだが……【神銅金】は特別な金属。全力で守ってくるだろう。そこで、これを貸し出そう」
棟梁らしき人が差し出してきたのは、見覚えのあるアイテム。
「これ、【強奪のグローブ】じゃない」
それはツバメが【スティール】をする際に使っている、スキル付きの一品。
どうやら、野盗から盗んで奪えということらしい。
「担当がツバメでなかったことは、幸運と言っていいのかしら……なんていうと、私もあぶないわね」
自分も【幸運】が低いことを笑いながら、クエストの概要を確認。
内容はシンプルに、岩の洞くつで【神銅金】を盗むだけだ。
「無理に敵を倒す必要はない。取り戻すことができれば、礼として君の仕事を手伝おう」
「方向的にはできるだけ見つからずに進んで、最悪の場合は打倒。できるだけ気付かれずに盗んで帰る形ね。待ってて」
レンはクエスト内容を確認すると、すぐに【低空高速飛行】で森を進んで北の岩山へ。
見つけた深い穴は、奥深くへと続いている。
「普通に考えると、魔導士一人では厳しいわね」
魔法攻撃は『音』の観点で見つかりやすく、移動速度の遅さは敵の『仲間呼び』を阻止しにくい。
ここはどう考えても、忍者やアサシンのフィールドだろう。
「そんなわけで、【変化の杖】」
レンは黒猫に化けると、闇の中へと踏み込んでいく。
進んで行くと、すぐに見えた野盗の男。
向けられる視線に、思わずレンは足を止める。
「「…………」」
そして始める、にらみ合い。
「にゃ、にゃーん」
気圧されたレンが鳴き声真似をすると、野盗は興味なさそうにそっぽを向いた。
「……猫の真似で通してくれるとか、恥ずかしい事させないでよ」
意外な流れに、照れるレン。
実は緊張感を増すために、プレイヤーがどんな姿で来ても『気づきそう』な行動をするだけのNPCだったりするのだが、さすがにそこまでは予想できない。
レンは『隠れながら進んで時に暗殺』という手間を省いて進み、野盗の集まる焚き火の空間をのぞき込む。
そこには二十人近い野盗が集まって、戦利品の確認で賑わっていた。
「念のため、一つ仕掛けをしておきましょうか」
ここで変身を解き、ルーンを刻んでからクールタイムを待ち、再び変身。
いよいよ野盗たちの部屋に、踏み込んでいく。
「リーダー。その【神銅金】って、いい品ですよねぇ」
「そうだろ? 職人共が後生大事に抱えてやがったんだけどよォ、こいつは高く売れるぞ! はっはっは!」
一人だけ付けた、宝石付きのヘアバンドがリーダーの証。
猫レンは部屋に並んだ木箱の裏から樽の背後に回り、姿を戻す。
本来であれば、ここまでにあった仕掛けを起動することで一部の野盗を釣り出し、人数を減らすのだが、変化の杖なら余裕でここまで到達できる。
「さあいくわよ……【スティール】」
樽の後ろから発動するも、一発目は失敗。
レンは苦笑いしながら、施行を続ける。
「【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】……思ったより盗めないわね」
なかなかうまくいかない状況。
どうやら今回はレンも、巡りが悪いようだ。
「【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】……ああもうっ」
ここで野盗の一人が立ち上がったため、レンはスキル発動を停止。
はやる気持ちを抑えながら、新たな酒樽を持って行く野盗の動きを見送る。
振り返ったら、即再開だ。
「【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】」
繰り返される怒涛の【スティール】
だが、まだ盗めない。
するとまた別の野盗がやって来て、レンの隠れている酒樽に向けて一直線。
「ちょっと待って……!」
その視界から逃れるために動いた先は、また別の酒樽。
しかしそこにも、酒を取りに来た別の野盗が。
仕掛けで野盗を分散しなかったツケが、ここで来てしまう。
二人の野盗の視界から逃れる場所は、どこにもない。
慌てて【変化の杖】を取り出すも、時すでに遅し。
「なんだテメエは! どこから入り込みやがった!」
「っ!」
発見されるのと同時に、レンは走り出す。
こういうタイプのクエストでは、見つかった場合そのまま戦っても基本的には勝てないようになっている。
ましてやこのような『敵陣中央』で戦うのは、さすがに無謀だ。
追って来る20人近い野盗を引きつれて、レンは見知らぬ岩の洞くつを駆け抜ける。
「野盗をバラけさせてないから、全員一丸となって追ってきてるわね……!」
勘に任せて、道を右に左に。
だが野盗は足も速く、魔導士に振り切るのは難しそうだ。
「最悪っ!」
左の道に逃げようとしたレンは、その先から駆けて来る数人の野盗を見つけて、右の通路に路線変更。
「先が分からない洞窟を逃げる時ほど、ドキドキすることはないわねっ!」
先は行き止まりか、罠か、それとも敵の集まる終点か。
どんな可能性もあり得るため、高鳴る鼓動。
「……でも」
長い通路に飛び込んだところで、レンの思考が走り出す。
続く狭い道と、追ってくる野盗たち。
その中には、『魔法陣の刻まれたマント』を羽織った者もいる。
それは炎や氷結などの耐性を、大きく上げるものに違いない。
「道の途中でこれを使われたら、逃げようがないでしょ!」
レンは杖を出口前まで来たところで振り返り、杖を伸ばす。
「【魔力蝶】!」
放つは、青白の羽を持つ大量の蝶たち。
そこが狭い道となれば当然、蝶たちの距離感が縮まり密度があがる。
「「「う、うわああああああ――っ!」」」
恐ろしい速度で削られ、倒れていく野盗たち。
蝶たちはそのまま、あふれ出すような形で通路を飛び出し消えていった。
「面白い光景だったわね」
どうにか危機を乗り越え、安堵の息をつくレン。
こういう時はまた、同じポイントに戻ればチャンスが来る。
来た通路を戻って、焚き火のもとに戻ろうとするが――。
「やれええええ――――っ!!」
「っ!?」
なんと野盗たちの一部は、道の出入り口の横に張り付く形で隠れていた。
「その隠れ方、新しいわね!」
再び背後を取られて、慌てて逃げるレン。
逃げればまた気づいた野盗たちが合流し、15人を超える一団が後を追って来る。
「やっぱり隠密系ミッションで敵に発見された後は、基本地獄で間違いないわね!」
結局また、知らない道をとにかく走る形での逃走。
「できれば、外につながってくれるといいんだけど……っ!」
レンは一度洞窟を抜けての、仕切り直しを期待する。
しかしそのまま駆け抜けた先にあったのは――。
「焚き火の部屋……っ!」
なんとクエストの中枢ポイント。
仕切り直しとは真反対の状態だ。
「でも……っ」
だからこそ思い浮かんだ一手に、レンはちょっとワクワクした笑みを浮かべた。
足は止めず、焚き火の間を駆け抜けたところで振り返る。
「一度やってみたかったのよね……水計」
そして再び野盗たちを狭い道に集めたところで、杖を上げる。
「発動! 【暴水のルーン】!」
【設置スキル大型化】で天井に張っておいたルーンは、威力を大きく上昇する。
「「「う、うおおおおおおおお――――っ!!」」」
余計な空間がないため、ルーンからあふれ出した大量の水は激流となる。
その絶大な威力に、野盗たちは一人も残さず流された。
「集めて流す。き、気持ちいい……」
思わず歓喜の息をつくレン。しかし。
振り返った時に見えた、宝石付きのヘアバンドを思い出す。
「……い、今ので流れていった中に、目的のリーダーがいたんだけど!」
気付いて、大慌てで駆けていくレン。
「はい【スティール】!」
今度は見事に成功。
無事、倒れ込んでいた首領から【神銅金】を盗み出した。そして。
「ソロになると本当に、メイやツバメのすごさが身に染みるわねぇ」
らしからぬドタバタに苦笑いしながら、レンは洞窟を抜け出していくのだった。