軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1345.登れ石の巨獣

巨体を持つロックライノの外皮は、優秀な石材になっている。

その中でも身体の上部、特に頭部付近の石材は特別製。

本来は一日に一度だけある、短い休憩時間を狙うのが定石らしく、そのタイミングを外せば難易度は急上昇してしまう。

「いきますっ! 【装備変更】【モンキークライム】!」

だがメイはロックライノの左脚を、【鹿角】で一気に駆け上がっていく。

「始まった!」

するとメイが腿から腰のあたりまで来たところで、身体を震わせ始めた。

どうやら身体の上部に近づくと、気になって振り落としにくるようだ。

「うわわわわっ!?」

巨大なロックライノが震えるだけで、大きな高低差が生まれ、自然と始まるロデオ状態。

「【重ね着】っ!」

ここでメイは【鹿角】の下に【猫耳】を重ねておく。

行き先をしっかり見つめながら、ロックライノの動きに合わせて体重のかけ方を変えて進む。

後は身体をこわばらせず、柔らかい足の運びで進行して――。

「っ!?」

ロックライノは突然、両後ろ脚だけ蹴り上げての跳躍で腰を高く上げた。

「うわわわわわーっ!」

まるで二人乗りのバイクが急ブレーキをかけ、後部座席からポーンと跳ね上げられるような形で、高く放り出されたメイ。

普通のプレイヤーなら、そのまま転がり落ちてしまう勢いだ。

「わわわわわわわーっ! 【アクロバット】!」

しかしメイは、空中を一回転しながら身体をひねり、体勢を整える。

「もう一回っ! 【アクロバット】!」

続け様の跳ね上げも華麗な空中回転で乗り越えて、首へとつながる背中の中央部に着地。

さらに、そんなメイを狙って攻撃を仕掛けてくる二匹の大型鳥には――。

「【重ね着】【装備変更】からの……とっつげきーっ!」

久しぶりのシンプルな特攻は、【鹿角】に【狐耳】の【狐火】を乗せた一撃。

青い炎の宿る角に弾かれた大型鳥は燃え上がり、仲間を巻き込みながら落下していった。

「いい感じかもーっ!」

青い炎を灯す、【鹿角】のカッコ良さに思わず感動。

運動能力を最高に引き上げてくれる『鹿×猫』と共に、『鹿×狐』にも手ごたえを感じるメイ。

するとロックライノは両前脚を持ち上げて、ナポレオンの肖像画の馬のような体勢に移行。

「あっぶなーい!」

急こう配が突然、壁に変わるような事態。

それでもメイは、しっかり外皮岩の隙間をつかんで上を向く。

「【モンキークライム】!」

そして一気にスルスルと頭部を駆け上がり、見事に頭頂部へたどり着いた。

「すごーい……!」

海岸線に棲む巨大な魔物。

その頂上から見る光景は、圧倒的だ。

広がる海と、草原から続く山並みには、感嘆せざるを得ない。

「おい見ろよ、ロックライノの頭に誰か乗ってるぞ」

「本当だー、すごいヤツがいるなぁ」

遠く海岸線を歩くパーティが、あんぐりと口を開けたまま感嘆する。

「それでは、失礼しますっ!」

メイはさっそく剣を取り、そのまま頭部の小さな盛り上がりを叩く。

すると割れてこぼれた外皮の石が、アイテム欄に収まった。

【次良石】:ロックライノから取れる高品質の石材。全体で二番目にいい物。

「あれっ?」

しかしその品質は、最高ではない。

メイが首を傾げて地図を見返すと、どうやら一番いいものは『首元』にあるようだ。

「なるほどー」

こうしてメイが、声をあげたその瞬間。

「うわっととと!」

ロックライノが突然顔をブンブン振り出した。

メイは慌ててしゃがみ込んで、事なきを得るが――。

「っ!?」

その身体が大きく沈んだ、次の瞬間。

今度は跳躍と共に、全力で頭を振り上げられた。

「ええええええええええ――――っ!?」

メイは大砲で飛ばされたかのような勢いで海へ。

一気に二百メートル沖合へと飛ばす、驚異的な振り上げだ。

「すごいパワー……」

一直線に、海へと飛んでいくメイ。

普通に考えればクエストはここまでにして、【次良石】を持ち帰るのが当たり前だ。しかし。

メイは感心したまま、空中で右手を突き上げる。

「それでは――――何卒よろしくお願いいたしますっ!」

空中に生まれた魔法陣から、飛び出してきたのはケツァール。

メイを乗せると、そのまま一気にロックライノのもとへと帰還する。

だが空からの接近は、ロックライノの気に障る。

「……ヒビ?」

その外皮に入る無数のヒビ。

メイが嫌な予感を覚えた、次の瞬間。

ロックライノの外皮石の破片が一斉に射出。

「ええええええ――――っ!?」

まさかの範囲攻撃に、思わず悲鳴を上げるメイ。しかし。

「右に旋回して、大きな破片をかわしたら一度急降下! 八の字に飛んで位置を直したところで、そのままロックライノの方を向いて直進しながらプロペラ回転でお願いしますっ!」

その指示で、見事な回避を成功させた。

このスキルは『空からの接近で安易に採らせない』という、明確なメッセージだ。

しかしメイは、そんなことには気づかずケツァールと共に一直線。

今や従魔一体の白夜が、夢に見るほど参考にした飛行で、一気にロックライノのもとへ。

「ありがとーっ!」

その背から飛び降りたメイは、ケツァールに手を振りながら落下。

「【ターザンロープ】!」

ロックライノの胸元の岩の出っ張りにロープをかけ、その勢いで腹の下へと潜り込んだ。

「【装備変更】っ!」

その手に【肉球グローブ】をつけ、【ぶら下がり】を使って停止。

反転し、『うんてい』の要領で一気に首元へと突き進む。

「っ!?」

すると頭部に向けて上がってくるプレイヤーの存在に、いよいよロックライノが猛然と暴れ出した。

ここから首元の壁を登って、ノドの途中で止まって外皮を回収するのは、揺れる壁でロッククライミングしながら採集をするようなものだ。

やはり『攻略タイミング』を外して最高の石を得るのは、かなり難しい。

しかし、そこはメイ。

「【グリーンハンド】【アイヴィーシード】!」

ここでツタを生やして『緑の涎掛け』を生み出すと、一気に『石場』へと登っていく。

「これなら大丈夫っ!」

ロックライノはさらに大きく暴れるが、しっかり生えたツタにつかまれば問題なし。

右手の剣で外皮を叩き、首元の石を回収する。

【至高石】:ロックライノから取れる最高品質の石材。

「やったー!」

ロックライノの休憩時間を、外して最高の石を取る。

そんなとんでもクエストを見事にやり遂げたメイは、両手を上げてよろこぶ。

「えっ……?」

するとその瞬間、ロックライノが跳んだ。

着地の反動で、ツタに絡めていた足が離れる。

「わ、わああああああああ――――っ!」

落下はあっという間で、ターザンロープも間に合わない。

それでもメイはそのまま普通に地面に着地して、落下ダメージを受け入れる。

だが勢いは両足だけで止まらず、そのまま尻もちをついた。

これでHPの減少が5%程度で済んでいる辺りに、凄まじい【耐久】が垣間見えるが――。

そんなメイにかかる、大きな影。

「え、ええええええええ――――っ!」

迫り来るのは、前進するロックライノの巨大な前足。

実は完全に踏まれると、HP関係なく即死扱いになるこのクエスト。

直後。メイの悲鳴が消え、その大きな足がしっかりと地面を踏みしめた。

ロックライノは特に気にすることもなく、進んで行く。

そして砂浜に、海風が吹いた後。

「あぶなかったーっ!」

とっさの【穴を掘る】で作った穴からひょこっと頭を出したメイは、安堵の息をついたのだった。

「なんと! 【至高石】と【次良石】の両方を手に入れたのか!?」

するとすぐさま、ヘルメットをかぶったNPCたちが駆けつけて来た。

「すごい。こんな良質の石を見たのは久しぶりだ……どうだろう、君の石材は我らに加工をさせてくれないか?」

「俺たちは京で、石材加工をやってんだ」

「いいんですかっ? ありがとうございますっ!」

ロックライノの休憩時間を突かずに石を得るなら、その難易度はベリーハード。

それでも見事に、メイは最高の石とその加工師を見つけることに成功したのだった。