作品タイトル不明
1310.無重力の罠!
「この感じだと、次の区画も何かありそうね……」
超重量区画を、どうにか抜け出した五人。
直後の区画は通常の重力だが、前方にはまた穴があり、今度はそこから配管がのぞいている。
所々割れて穴の開いた管からは、水が噴き出して大きな溜まりを作っていた。
「「「「っ!?」」」」
真ん中あたりまで進んだところで、大きな音。
再び不調を起こした重力装置によって、今度は一転無重力に。
すると剥き出しの配管から流れ出していた水が、空中に広がっていく。
「すごい光景です」
こうしてトンネルの一部が一瞬で、大量の水がプカプカと浮かぶ空間に早変わり。
ある種神秘的な光景に、思わず目を奪われる。
「……ツバメちゃん、なんかバチバチしてない?」
「確かにそうですね」
「さ、触ったら痛そうです」
メイの言う通り、浮かぶ水塊はどこで蓄えたのか電気を含んでいるようだ。
「満遍なく浮かんだ大小の水の塊が、ゆっくり色んな方向に動いてる中を、当たらずに進めってことね」
無重力の状況で、回避しながら進むのは難しいだろう。
なかなかに緊張感のある光景だ。
「あ、足元のヒビに手をかけて進めば、身体が浮かんでしまうことを防げそうです……っ」
そんなまもりの言葉に各々うつぶせになり、無数に走っているヒビを利用しながら、匍匐前進状態で進み出す。
儚い見た目のNPC少女も、たくましく匍匐前進し始めて、思わず吹き出すレン。
「うわわあーっ!」
一方メイは降りてきた電気水を、身体を『く』の字にして回避した。
すると今度はレンのもとに、前から球形の電気水が飛んでくる。
「あっぶな!」
横に転がって、これを回避。
しかし安堵の息をついたところに、またも前方から電気水。
「あっぶなーっ!」
さらにもう一回転がって、続けざまの回避に成功した。
「ツ、ツバメさんっ! 横から来てますっ!」
「今度は横ですか!?」
まもりの注意喚起に、ツバメは半回転して仰向けに。
そのままブリッジして、横から来たソフトボール大の電気水を回避する。
「ぶふーっ!」
急なブリッジで電気水を避けたツバメに、再び噴き出すレン。
「まもりもそこ、危ないわ!」
「っ!!」
今度は二つ。
まもりを挟むような形で、前方から平行のラインを描きながら飛んでくる二つの電気水。
まもりは慌てて身体の右側面を床につけて、『気をつけ』の姿勢をとった。
そして身体の前側をかすめるような軌道で、飛んできた電気水に――。
「ふーっ、ふーっ」
距離を生み出そうと、吐息で対応。
「「「あははははははっ!」」」
これには、皆して笑ってしまう。
どうにか危機を回避して、安堵の息をつくまもり。
フワフワと、ゆっくり飛んでくる水球が怖い。
なかなかない状況を楽しみながら無重力空間を進むメイたちだが、気にかかるのはやはり少女。
本人は今度、平泳ぎスタイルで前進中。
現状HPゲージこそ出ていないが、それは同時に『即死』する可能性もあるのではないか。
そう考えると、気が抜けないのも確かだ。
「来たよっ!」
常に少女の位置には、気を使っていた四人。
ゆっくりと飛んでく来るいくつかの電気水は、間違いなく少女の方に向かっている。
気付いたメイはうつぶせのまま後退し、少女を抱えて横に回転。
するとその横を、電気水が飛んでいく。
「もう一回!」
今度は来た方に戻る形で、二回転。
やはり慌ただしくなる、少女の回避問題。
そんな中メイは、伏せたまま前方の状況を確認する。
「そうだ!」
今、前の空間に電気水はない。
少女の手をつかんで、メイは前を向くと――。
「いきますっ! そーれっ!」
メイは少女をつかんだ手を、下から上に振り上げる形で振り上げる。
そのまま手を離せば、少女は床の上を滑るようにして飛んでいく。
まるでエアホッケーの、パックのように。さらに。
「今、チャンスかもっ!」
さらにメイも両手で床のヒビをつかみ、両手で同時に犬かきをするような手の動きで勢いをつける。
すると一気に床の上を進み、そのまま少女と共に電気水地帯を滑り抜けた。
「さすがメイ、最高のタイミングに目をつけたわね!」
それを見たレンたちも、この隙間が埋まってしまう前に早い判断を下す。
ヒビにかけた手を引く形で加速すると、地面スレスレの超低空飛行で危険地域をすり抜けた。
「なかなか緊張感のあるトラップだったわね」
「まままままったくです」
「ちょ、ちょっと感電してますっ!」
ツバメが少し電気水にかすめて痺れているが、どうにか水だらけ地帯を抜け出した五人。
浮遊状態のまま息をつく。
「……なにこれ?」
しかし、すぐさま目についた謎の四角い穴。
トンネル左右の壁に、このルートと垂直にぶつかるような形で作られた道のようなものがある。
そこには照明がなく、真っ暗だ。
「何かくるっ!」
聞こえた音に、いち早くメイが反応。
するとその直後、猛スピードで穴からコンテナが飛び出してきた。
それは突然、無灯火のトラックが飛び出してきたかのような状態だ。
そして間違いなく、電気水地帯を抜けて一息をついたところを狙いにきている。
「【低空高速飛行】!」
レンがメイの手を引くと、メイは狙い通り少女の手をつかんだ。
これで三人が、コンテナとの衝突を無事回避。
「ちょちょちょちょ【跳躍】!」
ギリギリで痺れが抜けたツバメも、地面を蹴ってコンテナの高さを超える事で回避に成功。
「【不動】【地壁の盾】!」
そんな中、まもりはとっさに防御態勢に入った。
だが無重力空間では、さすがに【不動】も効果なし。
大きな衝突音をあげて激突すると、ダメージこそ受けなかったが、大型車に跳ね飛ばされるような形で吹き飛ばされる。
「まもり!」
飛んでいく先にあるのは、今まさに抜けたばかりの電気水地帯。
このまま飛び込めば、次々に直撃して大ダメージ、最悪死に戻りもあるだろう。
とんでもない連携トラップだ。
「【ターザンロープ】!」
メイは最速で投擲するが、不運にもまもりの持っていた盾にぶつかり弾かれた。
まさかの救出失敗に、走る強烈な緊張。
「……まもりさん、シンバルですっ!」
「【シンバル】!」
ツバメの叫び声に、まもりはイチかバチか二枚の盾を叩いて鳴らす。
すると生まれた衝撃波が広がり、軌道が変更。
まもりは天井にぶつかって大きく減速し、ギリギリのところで電気水突入を免れた。
「あ、ありがとうございますっ!」
「使いどころ次第では、むしろ加速して特攻しそうだったので冷や冷やでした……」
まもりと一緒に、安堵の息をつくツバメ。
「これって正面からコンテナを受けてたら、反対側の道にそのまま押し込まれてパーティ分断? それとも死に戻り?」
「そ、そんな可能性もあったんですね……」
恐ろしい罠だったことに気づいて、まもりがあらためて震える。
「でも、とりあえずこれで『重い』と『軽い』の両方のポイントを抜けた感じかしらね」
「ドキドキだったねぇ」
今度こそ、息をつく四人。
「あっ、もしかして終点が見えてるかも!」
メイの【遠視】が、行き止まりの壁を捉えた。
どうやらこの辺りは、最後の難関になっていたようだ。しかし。
「また何かくるよっ!」
今度は正面から。
この無重力空間内を、魔力光を噴き出しながら低空飛行でやって来る何か。
それは一体の魔導鎧だった。