軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1309.重力の罠

「気持ちいいねーっ」

「はひっ」

四人は少女を連れ、無重力空間を突き進む。

それは映画で見た、宇宙船の中を移動する時のような動きで、思わず笑みがこぼれる。

月ならではの仕掛けを楽しみながら、ルアリアへつながる長いトンネルを一気に進行。

「あれ?」

かなりの距離を稼いだところで、不意に重力が『軽い』に戻った。

地面に引かれるようにして、着地する五人。

「ここはレバーが壊れて、連動しなくなってるのね」

長い時間放置されていた装置には、故障している箇所もあるようだ。

しかしそれも、ちょっとした楽しみの変化に過ぎない。

メイたちは大きく跳ねるようにしながら、軽重力の空間を進んで行く。

そして再び、次の区画に入り込んだその瞬間。

「「「「っ!?」」」」

全員がその場に倒れ込んだ。

「な、なにこれーっ?」

「身体が突然、重くなりました……っ!」

「ここはもう、重力制御自体が壊れてるって感じなのね……」

驚くほどの身体の重さは、通常の数倍か。

レンは杖を突きながら、制御のレバーを探す。

しかしこの区画用のレバーは、根元から折れてなくなってしまっていた。

どうやらこの区画は、厳しい重力下を進めという事のようだ。

「なるほど……この重さが、今度は進むのを邪魔してくるのね……」

まるで岩でも背負っているのかというくらいに、足が上がらない。

それでもドスドスと足音を鳴らしながら進むと、その先には崩れた足場。

ひび割れ、落ちくぼんだ足元は、普段ならひとっ飛びだ。

実際に深さも、1メートルほどしかない。

「メイはその子をお願いね」

「りょうかいですっ」

まずはメイに、少女を背負ってもらう。

「行きましょう」

そして四人うなずき合い、走り出す。

重たい足音を鳴らしながら加速し、そのまま穴の前で踏み切り跳躍。

「【ラビットジャンプ】!」

「【跳躍】!」

「はっ!」

「た、たあっ!」

メイとツバメは通常の半分以下の距離だが、問題なく穴を飛び越えていった。

「「…………」」

対してレンとまもりは、わずか数十センチしか跳べずに落下。

見事、穴に落ちる形となった。

「レンちゃん、どうぞ」

「ありがとう」

差し伸べられたメイの手に引かれて、どうにか穴を出る。

「まもりさんも」

「は、はひっ」

そしてツバメも同じように、まもりの手をつかむが――。

「っ!?」

信じられないほど重い。

「……う、くっ」

ツバメは全力を振るってまもりを引き上げようとするが、むしろ引っ張り込まれてしまいそうだ。

するとまもりは、一瞬で顔を赤くした。

「ああああっ! すいませんっ! 私がお昼を欲張ったばっかりに重たくなってしまったのかも……っ!」

「ふふっ。昼に現実で食べた分、こっちで重たくなったりしないわよ」

レンも、ツバメの腰を引く形で応援。

だがそれでもまだ、上がりきらない。

するとメイもレンの腰に手を回す形で、まもりの引き上げに参加する。

「いくよーっ! せーのっ、それーっ!」

その【腕力】に、上がらないものはなし。

まるで大きな作物を土から抜くかのような形で、まもりを引っぱり上げることに成功した。

「す、すみませんでした……私が重いばっかりに……」

最強の防御を誇るまもりも、意外な形で放たれた精神攻撃までは防げない。

メイの力を借りないと上がらなかったという事実に、思わぬダメージを受けたのだった。

しかしこの区画の仕掛けは、これだけで終わらない。

「「「「っ!?」」」」

ビシィッという大きな音は、天井にヒビが走る音。

落ちて来た小型の岩が、足元に信じられないほど深くめり込んだ。

「これ、当たっただけでも死に戻りの可能性がありそう……っ!」

「急ぎましょうっ!」

始まった崩落。

四人は頭上に注意しながら、ドスドス進む。

次々に落ちてくる岩塊は大きさは様々だが、「この大きさでこんなにめり込む!?」という重さになっている。

三十センチほどの岩が一メートル近くも沈み込む状況は、間違いなく即死罠級みだ。

「【装備変更】【バンビステップ】!」

それでもメイは頭装備を【鹿角】に変更して、移動能力向上。

レンと一度ハイタッチした後、少女を背負い、視界を広く取りながら重い区画を突き進む。

「【疾風迅雷】【加速】【加速】【加速】っ!」

ツバメもジグザグに折れ曲がるような移動で、落下してくる岩の間を駆け抜けていく。

二人はこの区画を抜けられそうだ。

一方レンとまもりは、二人縦に並ぶ形で進む。

「来たわっ!」

頭上から、二人をまとめて押し潰すほどの大きさの岩塊が落下。

「【不動】【地壁の盾】!」

これをまもりは、盾の角度を斜めにすることで、どうにか受け流す。

「「っ!?」」

落ちた岩塊はそのまま、床にまるごとめり込んだ。

「助かったわ! このレベルの岩を受け止められるのはまもりくらいね! ……ッ!?」

最大の危機を切り抜けたレンとまもりだが、突然鳴りだした警報のような音に身体を跳ねさせる。

「レンさん、まもりさん! 隔壁です!」

すると崩落の危機を感知したこの区画を封鎖しようと、メイたちがいる次の区画との間にシャッターが下り始めた。

「ツバメ、メイに【投擲】を!」

「はいっ! 【投擲】!」

ツバメは間髪入れずにレンの意図を理解し、下がって【ブレード】を投擲。

「【かばう】!」

それは本来、高速の低空跳躍で対象のもとに飛び込むスキル。

この重力の中では明らかに遅くなっているうえに、走り幅跳び並みの速度と高さしか出ない。

それでも普通に走るよりは速く、まもりは一気に距離を稼いだ。

「【コンティニューガード】【地壁の盾】【チャリオット】!」

あとはわずかな距離を、頭に盾を構えてドスドスダッシュで駆け抜けるだけ。

これで残るのはレンだけだ。

「レンちゃん、いけるよーっ!」

「お願い、メイっ! ルーン発動!」

ここで先ほどのハイタッチの際に刻んでおいた、【入替のルーン】が活きる。

レンは一瞬でメイと居場所を入れ替えと、危険区画を抜け出す。

「いきますっ! 【裸足の女神】!」

そして再び崩落地帯に戻ったメイは、鹿角のまま全力ダッシュ。

その圧倒的な速度は、強烈な重力下でも健在。

落ちてくる岩を避け、悪い足場でも関係なし。

降りてくる隔壁に向けて、一直線に駆けていく。

「メイさんっ!」

足場がさらに大きく突然の崩落して、思わず叫ぶツバメ。

「【ラビットジャンプ】【装備変更】っ!」

それでもメイは跳び、空中で【狼耳】に換えると、そのまま勢いに任せて速いローリングを三連続で繰り返す。

そしてギリギリのところで、隔壁による閉鎖を抜け出した。

「ふうーっ、危なかったぁ」

額を拭い、息をつくメイ。

「ありがとう。なかなか厳しい仕掛けだったわね……ってメイ! 尻尾尻尾!」

「し、尻尾が挟まれてますっ!」

「え? ええええええ――――っ!?」

見れば確かに、狼の尻尾が隔壁と床の間に挟まれている。

「ぬ、抜けないかもっ!」

まさかの事態に、困惑するメイ。

前に進もうとしても、完璧に挟まれてしまって抜けないし動かない。

「……どうしよう」

もちろん固定のオブジェクトは、力技で動かせるものではない。

このままここで一生を過ごす想像が始まり、メイはあわあわし始める。

するとツバメが、ポンと手を打った。

「メイさん、もう一度頭の装備を変えてみてください!」

「う、うんっ! 【装備変更】っ!」

ここでメイは【狼耳】を【狐耳】に変更。

「ダメだーっ!」

それでもガッツリ挟まれたままの尻尾に、メイは再び悲鳴を上げる。

「そ、それじゃないやつにしましょう!」

「【装備変更】っ!」

メイはさらに【猫耳】に変更。

「やっぱりダメだーっ!」

「鹿にしてみれば?」

「【装備変更】っ!」

メイはここで【鹿角】変更。

すると短い鹿の尾に変わったことで、隔壁を抜けることに成功した。

「よかったーっ! レンちゃんありがとーっ!」

短い鹿の尻尾を見ながら、ぴょんぴょんと飛び跳ねるメイに笑うまもり。

「ふふ。たぶん装備自体を解除すれば、一発で抜けられたわよ」

「あっ……えへへ」

ちょっと恥ずかしそうに笑うメイ。

実は遅いプレイヤーと速いプレイヤーを、進むか止まるかで分断する狙いのある難所。

全員での見事な脱出に、四人は安堵の笑みを浮かべる。

そして意外にも腕をブンブン振って応援していた少女も、うれしそうに飛び跳ねるのだった。