軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1291.狼と竜

「まさかこのフェンリルに立ち塞がるのが、リザードになろうとはね……」

熾烈を極める、リザードとフェンリルの戦い。

「懐かず、初期ステータスも弱いが、潜在能力にあふれたモンスター。ここまでの育成は見事と言えるでしょう。ですが……神話の狼にはかなわない! 【月追い】!」

キャインは黒狼を走らせる。

そして一瞬で、リザードのもとへ。

放つ喰らいつきを下がってかわし、踏み込んでの噛みつきをさらに下がって避ける。

「横に!」

飛び掛かりに入れば、後ろ足の溜めにメイが気づいて指示を出す。

飛び込みからの踏みつけ攻撃をかわすと、近い距離で向かい合う二体。

「【紅蓮火爪】!」

叩きつける赤熱の爪が、地面から閃熱を噴き上げる。

「「…………」」

【超雷光蹴り】で、再び攻めるか否か。

しかしここで待たれて、跳んだところを狙われたらカウンター確定だ。

そんな心理戦の結果がわずかな空白を生み出せば、キャインは予想を裏切る手で先行する。

「【激流砲】だッ!」

閃熱越しに放たれたレーザーのごとき水撃が、リザードを貫きにくる。

意外な選択に驚くメイだが、反撃は早かった。

「りーちゃん! 【テールバッシュ】!」

振り上げる尾から駆ける猛烈な衝撃波が、迫る水流に直撃して高々と飛沫を上げる。

「フェンリル!」

それでも止まらない衝撃波が、黒狼に直撃して吹き飛ばした。

「【猛ダッシュ】!」

地面を転がったフェンリルの元に、駆けるリザード。

「そのままゴーッ!」

起き上がったばかりの黒狼に、リザードは拳打を三発入れ、そのまま強烈な頭突きまで見舞う。

「からの【テールバッシュ】だあああーっ!」

慌てて体勢を立て直すが、衝撃波に弾かれ激しく転がるフェンリル。

メイとリザードが、ここで優位を取った。

「……いいでしょう」

キャインはそう言って、残りHPが4割強となったフェンリルが立ち上がるのを待つ。

そして、その手を高く掲げた。

「世界の終末に、その力を解放するというフェンリルの本当の力。見せてあげましょう! ――――【終焉の覚醒】!」

キャインの言葉と共に、フェンリルの口と目に宿る炎が大きく燃え上がる。

身体にみなぎる力が鎖を引き千切り、始まる大型化。

黒狼は、プレイヤーなど一口で飲み込めそうな大きさに、姿を変えた。

「すごい迫力……」

驚くメイたちには、さすがに知らされていない。

このフェンリルが本来、大会終了後に猛威を振るい、後に続いていく展開の最後に立ち塞がるよう調整されていることに。

だがメイのリザードとの戦いに、熱くなってしまったキャインはもう止まらない。

「喰いつくせ……神々に黄昏をもたらす、災厄の大狼よ! 【月追い】!」

「ッ!」

身体が大きくなっても、その速度は変わらないどころか速くなっている。

さらに巨大化は、攻撃威力の上昇と範囲の拡大まで起こしている。

「りーちゃん! 右に回避っ!」

メイの反応は早かったが、予想以上の移動速度と広い攻撃範囲を前に、リザードはそのまま弾き飛ばされた。

「そのまま【紅蓮火爪】で攻め続けろ!」

振り返るフェンリルと、転がりからどうにか起き上がるリザード。

【月追い】で迫り、振り下ろす爪。

爪は避けられても、地面から噴きあがる閃熱はもはや、跳び越えられるようなレベルではない。

「防御っ!」

リザードは猛烈な勢いの閃熱を防御し、大きく弾かれた。

するとさらにフェンリルが、その口を開く。

「【激流砲】!」

続けざまの水砲は、付近一面に雨を降らせるほどに盛大な飛沫をあげた。

リザードは防御を崩され、後方にバウンドして転がる。

「追え、フェンリル!」

さらに【月追い】による超高速接近で迫り、その体躯の大きさを活かした単純な突撃で、リザードを再度跳ね飛ばした。

「りーちゃん!」

怒涛の攻勢は、信じられない速度でHPを削っていった。

残りは一気に、4割強ほど。

「これが、伝説にうたわれた神喰らいの力です」

あおむけに倒れたリザードを前に、両手を鷹揚に開き、邪な笑みを浮かべるキャイン。

神を喰らう黒狼の目に灯る炎は、今なお激しく燃えている。

「さあ、終わりましょう。これからはそのリザードも我が先兵になると思うと……感激しますねぇ!! アッハッハッハ!!」

キャインが笑い出したところで、リザードは足をフラつかせながら立ち上がる。

「負けるな! メイちゃん!」

「がんばれリザード!」

「メイちゃんと一緒なら、やれるぞ!」

すると拘束されたままの観客たちが、メイとリザードに応援の声を上げ始めた。

「みんな……!」

そして伝達していく歓声が大きく盛り上がったところで、メイは決意する。

最後の切り札である、アイテムの使用を。

「いこうっ! りーちゃん!」

メイの呼びかけに、大きくうなずくリザード。

「【覚醒の種】っ!」

リザードが、手にした種にかじりつく。

『進化先』があるモンスターは、食べるとごく短時間だけ進化状態になるそのアイテム。

リザードはその姿を、大型化させていく。

表情の可愛さが凛々しさに変わり、やがて鋭さが混ざり出す。

「「「お、おお……っ」」」

あがる感嘆の声。

リザードはその姿を、威風堂々とした二足のドラゴンに変えた。

「「「おおおおおおおおおお――――っ!?」」」

鎖を解いたフェンリルに並ぶ巨体に、観客たちがざわめきを上げる。

「すごーい! カッコいいーっ!!」

「ここで【覚醒の種】か……っ! だが、フェンリルが最強であることに変わりはない! 【激流砲】!」

再び放たれる、豪快な水砲。

姿を変えたリザードドラゴンに、メイが出した指示は――。

「【キノコ!】」

リザードドラゴンが片手を突くと、一瞬で二階建て級のメルヘンキノコが三本突き立った。

盛大な飛沫が上がり、キノコが吹き飛ぶ。

「【月追い】!」

即座にフェンリルは走り出し、リザードドラゴンの元に接近。

「【紅蓮火爪】!」

「下がって! りーちゃん!」

振り下ろされる爪の一撃をバックステップでかわすと、噴きあがる閃熱が視界を灼熱に染める。

走る緊張。

しかしメイに動きがなかったのを確認して、キャインは攻勢の継続を決断。

わずかな時間差を置き、二発目の爪の振り降ろしを叩きつけにいく。

一呼吸置くことで、メイはカウンターを警戒して【超雷光蹴り】が使えないからだ。

「りーちゃん!」

しかしメイは、さらにその先を行く。

両手で獣のポーズを取り、大きく息を吸うと――。

「「がおおおおおおおお――――っ!!」」

閃熱の噴き上げを、【雄叫び砲】で吹き飛ばした。

「っ!!」

吹き荒れる烈風は、あまりに強力。

この場にいた全員の体勢を崩し、さらにフェンリルも硬直させる。

「今だよっ! 【超雷光蹴り】だああああ――――っ!!」

大型化したリザードドラゴンは、翼を広げて跳躍。

「「「…………っ!?」」」

その迫力に、唖然とする観客たち。

視界を焼くほどの雷光を脚にまとい、叩きつける蹴りがフェンリルを弾き飛ばした。

続けて地面に落ちる雷が、大きな雷鳴を鳴らす。

「さすが……ですがッ!」

激しく地を転がったフェンリルは起き上がり、その口を開く。

「【激流砲】!」

「っ!?」

レンの使った戦法はなんと、最後に控えたボスであるキャインにも影響を与えていた。

これまで隠されていた『溜め』の【激流砲】は、まごうことなき超威力。

巻き起こった鉄砲水は防御を許さず、リザードドラゴンに激突して飛沫を上げる。

流され、大きく崩れる体勢。

消えていく水流を追うかのように駆けつけてきていたフェンリルが、リザードドラゴンの足に喰らいついた。

そして背負い投げのような形で、地面に叩きつける。

残りHPは、両者共に一割台に突入。

「りーちゃん! 【猛ダッシュ】!」

「フェンリル! 【月追い】!」

実はどちらの『覚醒状態』にも、制限時間あり。

勝利をつかむのは、最後のスキルを直撃させた方だ。

真正面からぶつかり合う、フェンリルとリザードドラゴン。

「勝負よ! メイ!」

「「メイさんっ!」」

聞こえた、レンたちの声。

「いけええええ――っ! メイちゃーん!」

「やっちまえ! リザードォォォォ!!」

背を押す、観客たちの叫び。

「最後は、【テールバッシュ】で勝負だ――――っ!!」

「やれ! 【食いちぎり】だああああああ――――っ!!」

二人の指示は、全く同時だった。

盛大な衝撃波と、無形攻撃を飲み込みカウンターに使うことができる喰らいつき。

そのままぶつかれば、フェンリルに軍配が上がる。

そしてそれは、リザードドラゴンの敗北を意味する。

しかし。顔の側部を地面に水平にして迫るフェンリルに対して、メイは――――。

「跳んで! りーちゃん!」

突然、跳躍を指示。

するとリザードは、待っていたとばかりにジャンプした。

「跳んだ?」

「まさか……」

「これって、まさか……っ!?」

思わず目を見開く観客席。

それは雪の街ウェーデンで大猿を倒す際、メイがリザードに一度だけ見せた技。

同時に皆が知る、メイの必殺技の一つだ。

跳躍したことで、放たれる尾の角度が変わる。

『飲み込み』の範囲をかわして振り下ろす尾は、フェンリルの首元から胴にかけて直撃。

そのまま、衝撃波を巻き起こす。

「ジャンピング【テールバッシュ】だああああああああ――――っ!!」

「「「おおおおおおおおおお――――っ!!」」」

メイの挙動を真似た攻撃は、まさしく動物値という名の信頼から生まれる学習の成果。

勝負を分けたのは、決定的な信頼の差だった。

吹き荒れる衝撃波にフェンリルは盛大に地を転がり、倒れ伏す。

「そんな……神話の魔物が破れるなんて……」

ヒザを突き、愕然とするキャイン。

勝負がつくとリザードドラゴンも、姿をいつものリザードのものに戻していく。

「……フェンリルを破るとは、見事です」

つぶやくキャイン。

しかしその眼光は、いまだ鋭いままだった。

「一層そのリザードが、欲しくなりましたよ!」

そう叫んで取り出したのは、洗脳の宝珠。

放たれる妖しい光。

それを見たリザードは、表情を失った。

「りーちゃん!?」

「あなたが覚醒用のアイテムを持っていたように、こちらにもモンスター洗脳用のアイテムがあるのですよ! さあリザード、主に背き、我が命令に応えなさい!」

「りーちゃんは、そんなことしないよっ!」

「ならば勝負です……! リザード!」

「りーちゃん!」

二人がリザードに、かける声。

「「【テールバッシュ】!」」

同時に命じられた一撃。

その言葉に応じて、リザードが放つ【テールバッシュ】

「バ、バカな……っ!」

衝撃波は、キャインのもとへ。

「神すら喰らうフェンリルすら我がものとした、洗脳魔法が効かないなどありえない……ありえないっ! うああああああああ――――っ!!」

迫る一撃が炸裂し、猛烈な風を巻き起こす。

こうしてスターダスト団の野望は、リザードの一撃によって砕かれたのだった。