作品タイトル不明
1212.三号艇
「大したもんだなぁ! あのブライト王国が選んだ新エース候補に勝っちまうなんて!」
紅の翼も同時に、プレイヤーを擁立してのクエスト。
そして始まった、新人パイロットのぶつかり合い。
虚を突く飛行で勝利を飾ったのは、ツバメたちの乗ったブルーウィング。
ライバルの兵長が悔しそうに去っていったのを見て、普段悪者扱いされているイスカは大喜びだ。
「やっぱりあたしの目に、間違いはなかったね!」
そう言って、満足そうに何度もうなずく。
今回は紅の翼の二人も、なかなかの操船ぶりだった。
初回同士の戦いとは思えない迫力は、見ごたえ充分だ。
「そんじゃあ、一度アジトに戻ろうか」
「了解しました」
すっかり運転に慣れたツバメは飛行艇を転回させ、アジトへ向かう。
今度はスムーズに滝の下を通って、あまり濡れることなくブルーウィングを格納庫へ収める。
「おおーっ!」
そして、メイが感嘆の声を上げた。
アジトではすでに、二号艇と三号艇が完成を迎えていた。
さらに四号艇と五号艇も組み立てが進んでおり、いよいよ基地内が迫力を感じさせるものになってきている。
「空賊って感じになってきたわね」
「はひっ、カッコいいですっ!」
「一つの飛行珠から取れるフロートは八個から十個という話でしたが、あと数機はどこで製作するのでしょうか」
「それなら、ここ以外にも基地がある」
応えたのは、エア。
タラップに降りてくるのを、待っていたようだ。
「また資金援助をしてくれている人物にも一つ、フロートを譲る約束をしていてね。彼は自分で好みの機体を作っているそうだよ」
「それはすごいですね」
どうやら空賊に味方する者も、別口で飛行艇を作成しているようだ。
「さて、イスカ。彼女たちの飛行能力はどう見えた?」
「間違いなく新たなエースだよ。紅の翼がスカウトした新人にも勝っちゃうくらいだからね」
「紅の翼が選んだ新人に……!? それならもう間違いないな」
そう言ってエアは、大きくうなずいた。
そしてその手を、アジトにたたずむ出来立ての飛行艇の一つに向けた。
「完成したばかりの三号艇。今からあの機体を……君たちに任せたい」
「「「「っ!!」」」」
そう男が言った瞬間、三号艇付近のライトが一斉に点灯する。
堂々たる雰囲気を感じさせる飛行艇が、照らし出された。
話には聞いていたが、実際に任されるとなるとテンションも上がってしまう。
「好きに名前を付けるといいよ」
そんなイスカの言葉に、三人は顔を見合わせる。
「「「――――ブラックウィング」」」
「やめて!」
つい先日【黒翼】を手にしたばかりのレンがいる以上、どうしても思いついてしまうその名前。
もちろんレンは、これを即時拒否だ。
「急がなくていいから、この船をどうするか決めたら教えてねー」
そう言ってイスカは、四人を残して格納庫の端に置かれた作業用デスクへ。
そこには椅子も並んでおり、どっかりと座り込んで一息。
すると代わって、整備士や飛行艇の技師などが、デスクでメイたちを待ち受けていた。
「ウィンディア三号艇の名前は決まりましたか?」
「今悩んでますっ」
メイが応えると、技師たちはうなずいた後に言葉を続ける。
「新機のデザイン等をカスタムすることもできます。希望があればお伝えください」
「そんなこともできるのーっ?」
「自動車のゲームとかで好みのペイントしたり、ステッカーを張るのと同じ感じかしら」
まさかのカスタム要素。
大きな紙面には三号艇の図が描かれており、パーツごとに模様を入れたり色を変えたりできるようだ。
「明るい色の木材を使ってるのは、いいと思うのよね」
「はい。空賊とは言いますが、爽やかで格好いいです」
濃い色の木材を黒塗りの金属でつなぎ、赤で彩った紅の翼は『雰囲気』が出過ぎてると、レンは息をつく。
「こ、後方のフラップなんかをエメラルドグリーンにするとかはどうでしょうか」
「メイがいる船は、やっぱり緑の印象あるかもね」
「……理由を聞いてもいいかな?」
「少し濃い緑も入れると、色使いに奥行きが出ますね」
「なんで緑なのかな?」
「木製の飛行艇に緑は、とても合いますね」
「それだともう『木』が空を飛んでるみたいになならないかな? あと、なんでわたしがいる船は緑が似合うの? ねえねえレンちゃん」
「メイの爽やかさと、鮮やかな緑が似ているからよ」
「えへへ……さすがに無理やりだよーっ!」
そんなやりとりに笑う。
しかし白色が入ることで生まれる爽やかさは、本物だ。
淡い緑を中心に色を選ぶと、技師たちが紙面上の飛行艇の該当パーツに色を塗ってくれる。
「カッコいいかも……」
すると思った以上に雰囲気の良い飛行艇の完成図ができあがって、メイが思わず歓声を上げた。
そして、想像する。
勢いのある赤やクールな青ではなく、少し落ち着いた雰囲気のある緑は、大人の選択と言えるのではないか。
どこか優雅さも感じるグリーン。
そんな飛行艇の甲板で、ハードカバーの本を読みながらコーヒーの一杯でも飲めば、なかなか大人の雰囲気になりそうだ。
それは海賊の豪快さとは違う、高貴なる空賊の雰囲気。
「いけるかもっ!」
もちろんバナナやリンゴを取り出した時点で、すぐさま森に見えてくるという危険も持ち合わせているが、メイはもう止まらない。
「これでお願いしますっ!」
こうして、三号艇のカラーリングが決定。
「名前はどうすればいいのかしら。やっぱり植物系でいく?」
「それでしたら、ユグドラシル辺りですか?」
「私の要素と、上手に混ざってる……!」
野生と中二病の足し算が、綺麗な着地を見せて震えるレン。
ツバメのあまりに早い回答に、思わず息を飲む。
「も、もう少し可愛くならない?」
「では、少し可愛さを足して……セフィロト丸ではいかがでしょうか」
「野生と中二病に、そこはかとなく可愛さまで……っ」
「に、日本の船のようですねっ」
クスクスと笑うまもり。
「どうだい? 決まった?」
「セフィロト丸でお願いします」
「了解!」
「決定した!?」
イスカは大きくうなずいて、これでプロフィールが完成。
「これから四号艇、五号艇の組み立てもあるから、三号艇は自由に乗ってくれていいよ」
「はいっ!」
こうしてメイたちの駆る飛行艇三号機『セフィロト丸』は、ロールアウトの時を迎えるのだった。