作品タイトル不明
1211.空戦演習です!
「操船の方は、もう大丈夫そうだな!」
ツバメが見事な運転で、チュートリアルを思わせるクエストを一発合格した後。
三人も念のため、飛行艇の操縦を練習。
「楽しかったねぇ」
「本当ね。船もそうだけど、大きなものを動かす経験はなかなかできないから」
「はひっ」
クエストを終えた後は、自由に動かす時間がもらえるため、皆でしっかりと楽しんだ。
「そんじゃ帰ろうか――」
甲板に座っていたイスカがそう言って、立ち上がった瞬間。
「っ!?」
「あれはっ」
シナリオを背負っているはずのNPCイスカよりも、メイが一瞬早く気づく。
見えたのは、こちらに近づいてくる一隻の飛行艇。
「紅の翼だ……!」
イスカが警戒する。
近づいてくるのは、濃い色味の木材に紅色のマークが入った一隻の飛行艇。
そこにいたのは兵長と、トップの二人だ。
「賊がこんなところで何をしている」
「アンタらには関係のないことさ」
早くも火花を散らす、兵長とイスカ。
「我々は今、新たなエース候補生である二人に、飛行艇の操縦訓練を行っていたところだ」
どうやら紅の翼も、飛行艇の運転クエストをしていたところだったようだ。
「へえ、そいつは奇遇だね」
「なるほど、お前たちも同様だったか。だが我らはプロだ。能力のない者にフロートを使わせるようなことはしない」
「それはこっちだって同じさ」
そうすると兵長は、バカにするような目でこちらを見た。
「そうだ。ここらで一つ、演習というのはどうかな?」
「演習?」
兵長の挑発的な言葉に、イスカが眉をひそめる。
「本来であれば、ここで貴様たちを沈めてもいいのだが。本部の命なしに戦闘を行うわけにもいくまい。だが演習の内容については我らの自由。戦闘訓練も、その範囲内だろう」
「なるほどね……受けて立つよ」
そう言ってイスカは、演習を受けることにした。
「ルールはそうだな。あくまで今回は『移動と砲撃』のみ。先に敵船を小破まで追い込んだ方の勝ちでどうだ?」
「それで構わない。いいかい?」
「それなら、私が砲撃手になるわ」
うなずき合い、ツバメが舵を取る。
レンは、飛行艇甲板の側面に据え付けられた砲台の前へ。
「おもしれーことになったな」
「そうっスねぇ」
対して紅の翼のトップ二人も、このクエストに乗り気だ。
槍のナギは、口にくわえていたスティック菓子をパキッと鳴らして舵を取り、シャーマンのディアナが砲台に向かった。
「戦闘能力は間違いなく星屑最強を誇る『五月晴れ』だが、空戦の方はどうかな」
「こっちは全力でいかせてもらうっスよ!」
「のぞむところですっ!」
二人の言葉に、負けじと答えるメイ。
空を挟んで、向かい合う両陣営。
それから自然と二つの船が距離を取り、『定位置』についたところで、互いの船が側面を向け合う。
すると兵長が、ガンブレードを掲げた。
「さあ、紅の翼の力を見せてやろう。震えよ賊ども。空戦演習――――開始!」
放たれた炎の魔法が弾けて、それが始まりの合図となる。
そして二つの飛行艇に、HPゲージが現れた。
「直進!」
ツバメは動いている状態がとにかく回避に有効だと、すぐさま右ペダルを踏み込み前進。
同時に舵を右に回しつつ進んで、敵船を狙える角度を取る。
「発射!」
甲板に据え付けられている砲台の使用感は、ゲームにおいて空から迫る敵を、『機銃』で落とすものに近い。
横には90度、縦には75度ほど動かせる。
角度を操作したら、あとは『大地の宝珠』で砲身内に生み出される砲弾を放つのみ。
その後は重力に従って飛び、炸裂といった感じだ。
練習なしからの攻撃だが、レンの砲撃は見事なものだった。
「そうはいかねえぞっ!」
だがナギもペダルを踏み込み、速い直進で回避する。
すると砲弾は空中で炸裂し、爆炎を巻き起こした。
「おっととー!」
「爆発するのか!」
驚きながらもナギはその場で転回し、角度を合わせてディアナが反撃。
高めに放った砲弾は、こちらに向かって落ちてくる。
ツバメはそのまま、大きな円を描く飛行で回避しつつの接近を狙う。
「っ!」
直撃を回避したものの、爆発の余波に思わず目を見開く。
それでも、船の進行は止めない。
敵船の後方へ回り込むような形で進み、レンが砲撃に入る。
「それっ!」
聞こえた発射音。
これをナギは、再度の高速前進でかわそうとするが――。
「「うわっ!」」
レンはあらかじめ『また前進して逃げた場合』を予想して、十メートル程横の砲台に駆け、敵船の進行方向にも続けて砲撃。
砲弾の直撃こそなかったが、爆発が敵船を大きく弾いた。
同じ攻撃なら、『小破』まであと二発というところか。
「レンちゃんすごーい!」
「お、お見事ですっ」
思わず跳ねて喜ぶ、メイとまもり。
「やるな……! そんならっ!」
大きな揺れと共に、受けたダメージ。
ブルーウィングはそのまま、紅の翼の後方へと回り込んでいく。
対してナギが取った行動は、高速後退。
「っ!?」
これにはツバメも驚く。
後ろに回り込んでいくブルーウィングの先端に、船尾をぶつけようとしているかのような行動。
ツバメはブレーキをかけ、転回して砲撃という狙いを立てるが――。
「これはっ!」
敵船は直進を慣性に任せて、速い転回で船の側部をこちらに向けてきた。
かなりトリッキーな動きに、思わず翻弄される。
「発射だあ!」
放たれた砲弾の角度は、完璧。
ここからの回避は、間に合わない。
「「「「っ!!」」」」
船の側部に被弾し、砲弾によるダメージを受けた後。
さらに爆発によるダメージも計上。
一気に二発分のダメージとなった。
「直撃だと、大きくゲージを減らす形になるのですね」
「一気に窮地だわ……っ!」
空を自由に飛ぶ、飛行艇での空戦。
単純に砲弾をぶつけるだけでは、なかなか終わらない可能性があるためか、付属した『爆発』という要素が大きい。
「おそらくこの空戦はチュートリアル的なもの。ですが」
「どうせなら勝ちたいわね」
ツバメとレンは見合って、笑う。
敵船は砲台の魔法石が回復するのを待ちつつ、あくまで船の側面を『こちらに向けたまま』下がる。
この角度のままなら、ブルーウィングは反撃にも一度転回の時間が必要。
そのため次にどう動こうが、それに対応して砲撃を行い勝利できるからだ。
不利な状況。
最高速の高速前進でも、砲弾の爆発をかわせるかどうかは微妙なところ。
浮遊状態のブルーウィング。
回復する、ディアナの砲台。
「きたっスよ! これで終わりだーっ!」
もちろんディアナは、最速での攻撃を選択。
「いきますっ!」
放たれる砲弾に対して、ツバメがした選択は――。
「「「ええええええ――――っ!?」」」
思わずメイたちが、声をそろえて叫ぶ。
ツバメはここでなんと、フロートを『オフ』にした。
即座に下降が始まり、飛んできた砲弾は甲板の数十センチほど上を通り過ぎていく。
そして、二十メートルほど進んだところで爆発。
「イチかバチかでしたが……いきます!」
ここで即座にフロートを『オン』にして、落ちながら転回。
直後に、左へ輪を描くような軌道での上昇飛行に変更。
「これ、マズいよ!」
ディアナが気づく。
砲弾は、放たれた後に自然と落ちていく形で飛ぶ。
よって下方から弧を描くような形で上がってくるブルーウィングに当てることは、極めて難しい。
対してブルーウィングは、敵船の真下を通って上へ登りつつ角度を調整。
もちろん砲台を、斜め上に向けることは簡単だ。
砲弾を上方に向けて放つのだから飛距離は落ちるが、そこそこ接近している状態なら問題なく届く。
「レンさんっ!」
「発射――っ!」
放たれた砲弾は、そのまま敵船の側面に直撃。さらに。
「「っ!」」
爆発で追加ダメージ。
これで合計三発分。
紅の翼の飛行艇はゲージが一定を下回り、小破となった。
「やったー!」
「お見事ですっ!」
両船のゲージが消え、演習が終わる。
メイとまもりは、手を握り合って歓喜する。
「……チッ。今日のところはこれくらいでいいだろう」
演習は、空賊ウィンディアの勝利で幕を閉じた。
すると兵長は忌々しそうに舌打ちをして、こちらに背を向ける。
「さすが五月晴れだな。こんなトリッキーな動き、土壇場でやっても普通できねーだろ……!」
「それを成功させるから五月晴れなんスよ。でも……次はこうはいかないからね?」
奇手を用いるツバメが相手でなければ、勝利していただろう見事な操船。
ナギたちはそう言って楽し気な笑みを向けると、この場を後にした。