軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

久しぶりの森

素材採取をすることになった俺とルミアは、グランテルの外にある東の森にやってきていた。

「あー、森にやってくるのは久しぶりだな」

視界一面に溢れる木々などの植物、そして、微かに感じる生き物の気配。

真っ暗で道が限られているデミオ鉱山とは大違いだ。

ああいう暗くて入り組んだ道も冒険感があって悪くないが、ずっと過ごしていると陰鬱とした気持ちになってくるので、明るいということはそれだけで重要だ。

「最近はデミオ鉱山に行っていたのですよね?」

「ええ。採掘にハマってよく行っていましたが、ちょうど森が恋しくなってきたところだったのでルミアさんとの採取ができてよかったです」

「そう言ってもらえると助かります」

「別にサフィーさんの課題がなくても採取に誘ってくれてもいいんですよ?」

「本当ですか? でも、シュウさんもお忙しいんじゃ?」

少女ともいえる年齢なのに、こちらの忙しさを考えるとは何ていい子なんだろう。

「確かに指名依頼はたくさん来るようになりましたけど、全部を引き受ける義務もないですし、体が持ちませんから」

「それだけシュウさんの腕を皆さんが評価しているということですよ」

「それは嬉しいのですが、たまには何も気負うことなく採取したくなることもありますので」

自分が採ってきた素材で誰かを喜ばせることも好きであるが、一番大好きなのは気ままに素材を採取すること。

たまには何事にも縛られることなく採取をしたい時だってある。

「そうだったのですね。それじゃあ、是非ともお誘いさせてもらいますね。実はグラグラベリーのジャムがなくなってしまって買おうかと思っていたんですが、シュウさんがいるならば採取したいです!」

「今日は課題の品が優先なので、採取できるかわかりませんが必ず一緒に採取しましょう」

「はい!」

「ところで、今日は何の素材を採取するんです?」

俺がそう尋ねると、ルミアはポケットからメモ用紙を取り出す。

「えっと、憤怒の種と七色ブドウに上質な砂ですね」

「憤怒の種は森で見たことがありますけど、七色ブドウと上質な砂は見たこともありませんね」

憤怒の種というのは、森に生えている木の実の種で、とても辛く、食べるとムカムカとした怒りの感情が出てくるらしい。

感情が滅多に動かない人に食べさせて、怒りの反応を見て楽しんでいる冒険者を見たことがある。

「七色ブドウというのは七色をしたブドウです。一つの粒ごとに色が違うだけでなく、味も違うんですよ。美味しいのですが鮮度の劣化が激しく、痛みやすいのであまり市場にも出回らないんです」

「なるほど、そんなブドウがあるのですね」

それぞれ色が違うだけでなく、味も違うってどんな感じなのだろう。

是非ともその場で採取して食べてみたいものだ。

「これは錬金術に使えるものなんですか?」

「いえ、使えないと思います。多分、師匠が食べたいだけかと」

苦笑しながら答えるルミア。

サフィーがわざわざ俺の宿にまできて頼んできたのって、もしかして七色ブドウが食べたいからなんじゃないだろうか。そんな気がしてならない。

「でも、他の二つの錬金術で使える素材ですよ。憤怒の種は身体能力を高めるポーションなどに使えますし、上質な砂はポーション瓶の作成に使えますから」

そんな俺の疑いを察してか、ルミアが必死にファローをする。

へー、砂がポーション瓶の材料になるのか。

「上質な砂というのは、どこか特別な場所で採れる砂なんですか?」

この森の中を幾度となく歩いたが、そんな特別な砂地があるとは思えなかったのだが。

「いえ、川の下流にある普通の砂ですよ。それを錬金術スキルで不純物を分離すると、上質な砂になるんです」

「ということは、今日はルミアさんが錬金術スキルを使うってことですか!」

「あれ? そういえばシュウさんの前では一度も使ったことがありませんでしたっけ?」

「はい、見た事がないです」

「では、今日は錬金術のスキルをお見せしますね。とはいっても、私の腕前は大したことありませんし、見た目も地味なのでガッカリするかもですが……」

「いえ、見せてもらえるだけで十分嬉しいです!」

錬金術スキルって、一体どんなものなのか気になっていたんだよな。

今日はルミアが実演してくれるというので、楽しみが一つ増えた。

「まずは森にある素材を採ることにしましょうか。憤怒の種の自生地は大体わかるのですが、七色ブドウはどの辺りにあるんでしょう?」

「師匠によると憤怒の種がある辺りから、北東方面にあるみたいです」

「なるほど。まずは憤怒の種と七色ブドウの採取をしましょうか。そして、最後に帰り道にある上質な砂を採取するということで」

「わかりました」

「知らない素材なので手間取ることがあるかもしれませんが、その時はすいません」

「いえ、それも素材採取の醍醐味ってやつですから」

ルミアがグッと拳を握るようにして笑顔で言う。

俺がどこかで言った言葉を覚えていたのだろう。

その笑顔に釣られ、笑い合いながら足を進めた。

ルミアを連れて、魔石調査で魔物を回避しながら湖の近くまで一直線に進んでいく。

憤怒の種は以前、ヤマドコロを探している時にチラリと見かけた覚えがある。

大きな鳥が赤いトゲトゲとした果実を食べて、怒声のような声を上げて飛んでいったので印象に残っている。

多分、あの時の赤い果物が憤怒の実で、その中にあった種が憤怒の種なのだろう。

恐らく、俺の調査スキルでちゃんと探すことができるはずだ。

湖の近くまで来たところで憤怒の実で検索して調査を発動。

すると、森の中で青色の丸い果物の輪郭が浮かび上がった。

あの中に憤怒の種があるに違いない。

近付いてみると、樹木に赤いトゲトゲとした木の実が生っていた。

【憤怒の実】

トゲトゲしたいかめしい木の実。食べると辛みと旨味がある。

中にある憤怒の種は果肉よりも十倍辛く、怒りと共に力が湧いてくるという。

さらに身体強化ポーションやパワーポーションなどの身体能力を引き上げる効果を持つ。

果実自体にそれらの効果はない。

鑑定してみると、ちゃんと憤怒の実と表示された。

「おっ、憤怒の実がありましたね」

「本当ですね! こんな風にぶら下がって生えているのですね!」

憤怒の実の生え方はサクランボに近いもの。

いくつもの実がぶら下がっているのは少し可愛らしくもある。

「それでは採取していきましょうか」

「そうですね」

憤怒の実はそれほど高いところに生っていない。

下の方に生っているものであれば、十分にルミアの身長でも届く。

俺は採取ケースを取り出して、その中から小さな鋏を取り出す。

こういう時はナイフよりも小回りの利きやすい、小さめの鋏が使いやすいだろう。

いいね。この状況によって道具を使い分けることができる感覚。

俺は憤怒の実を採取する前から既にご機嫌であった。

「あっ、もしかして採取用の鋏ですか?」

「ええ、ついこの間頼んで作ってもらったんですよ」

「新しい道具が手に入ると使う度にワクワクしちゃいますよね。私も師匠に仕事道具を貰った時は、ずっとニヤニヤしていました」

前世ではこういう事を言うと、結構ドン引きされていたのだがルミアはそうでもないよう。むしろ、同じ側のようだ。喜びを分かってくれる人がいてとても嬉しいな。

鋏をずっと眺めてニヤニヤしているだけでは採取はできないので、早速鋏を伸ばして茎の根元で切る。

ドロガンが作ってくれた鋏は、あっさりと刃同士が閉じて茎を断ってくれた。

刃同士が擦れ合ったりすることは全くないし、切れ味もいい。

お陰でパチパチとリズムよく憤怒の実を採取することができる。

「うおー、やっぱり採取用の鋏はいいなぁ」

小さいのにこの切れ味。木の実や葉っぱの間を縫うようにして、茎だけを正確に素早く切ることができる。

オーダーメイドして作ってもらった甲斐があるというものだ。

パチパチと茎を切って憤怒の実を採取していると、ルミアがどこか羨ましそうに見ているのに気が付いた。

「……少し使ってみます?」

「大切なお仕事道具なのにいいんですか?」

「新しく手に入った道具を喜ぶことのできる貴重な同士ですから」

これがただの鋏くらいでなどと言う人には勿論貸さないが、俺の喜びを分かってくれたルミアなら粗雑に扱ったりしないだろう。

「ありがとうございます! うわっ、すごく使いやすいですね!」

採取用の鋏を渡してみると、ルミアは早速使って茎を切っていく。

そんな彼女の無邪気な反応がとても微笑ましかった。