軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

七色ブドウ

憤怒の実を採取した俺たちは、七色ブドウがあるという北東を目指して歩いていた。

「憤怒の実があったので、きっとこの辺りに七色ブドウがあるはずです」

ルミアがサフィーから貰ったメモを見ながら呟く。

「ひょっとしてそのメモに地図が書いてあったり?」

「書いてはいるんですけど酷く大雑把で……」

苦笑するルミアからメモを受け取ると、そこには子供の落書きかと思うような絵が描かれていた。

湖の近くにトゲトゲした憤怒の実が描かれており、その斜め右上くらいに『この辺』と文字で書かれている。

「確かにこれは大雑把ですね」

「師匠はあまり絵心がないので」

せめて、道中にある素材名や魔物でも教えてくれれば参考になったというのに。

無理にイラストで描かなくてもいいのにな。

なんてことを思いながらメモをルミアに返す。

それから魔石調査で周辺の魔物の状況をチェック。

すると、キャピル、ワイドスパイダー、モルファス、フライムカデなどの魔物が表示された。

俺達に近付いてきているのは一番温厚なモルファス。この魔物は特にこちらから手を出さない限り、攻撃をしてこない魔物なので迂回する必要もないだろう。

のんびりと進んでいると、特に進路を変えなかったモルファスと遭遇。

「あっ、モルファスです」

艶やかな紫色の羽を動かして、モルファスは優雅に俺たちの前を横切っていく。

それが木々に遮られて見えなくなったところでルミアがホッと息を吐くように感想を言った。

「キャピルがあんな風に綺麗になるって素敵ですよね」

「そ、そうですね」

俺が言い淀んでしまったのは共感できなかったからではない。

見えなくなった視界の先で、モルファスが待ち伏せしていたワイドスパイダーに捕まってしまったからだ。

ワイドスパイダーの長い脚に絡みつかれるモルファス。

シルエットしか見えない分、余計にリアルな部分を想像してしまう。

弱肉強食の世界だな。

「虫型の魔物が増えてきましたね」

「あっ、そう言えば師匠が七色ブドウの周りには虫型の魔物が集まりやすいって言っていました!」

なんとなく呟いた俺の言葉を聞いて、ルミアが思い出したかのように言う。

「ということは、この辺りに七色ブドウがあるのかもしれないですね」

「はい、手分けして探してみましょう!」

とはいっても、この辺りは魔物が多いのでそれほど距離を置かずに探してみることに。

「あっ! それっぽいのがありましたよ、シュウさん!」

調査スキルを使おうかなと思っていると、ルミアが興奮した声を上げた。

どうやら今回は調査を使うまでもなかったようだ。

ルミアが指さした方角を見ると、木々の枝葉に隠れるように七色のブドウが生っていた。

場所自体は日陰部分で目立たないところにあるが、その鮮やかな色彩がどうしようもなく目を惹いてしまう。

たとえ、少ししか露出していなくても、それだけで十分にわかってしまうほどだった。

魔石調査で周囲に魔物がいないことを確認してから、俺とルミアは七色ブドウらしき素材に近寄ってみる。

【七色ブドウ】

七色の色合いをしたブドウ。その色によって味が違い、七種類もの味を味わうことができる。七種類同時に食べると絶品。

「鑑定してみましたが、どうやら七色ブドウで間違いないようですね」

「本当ですか!? じゃあ、これが七色の味がするという……」

思わず七色ブドウを見つめるルミア。

七色の味がするという不思議なブドウ。味が気になるに決まっている。

「ちょっと食べてみましょうか」

「はい! これも採取者の特権ってやつですね!」

「そういうことです」

素材を一番新鮮な状態で食べられるのは採取者の特権だ。

市場には出回らず、その場でしか食べられない素材や料理を食べることだってできるのだ。

「じゃあ、私は黄色にします」

「俺は赤色で」

ルミアは嬉しそうに黄色の粒を手でちぎり取り、俺は赤色の粒を手に取る。

どちらも通常のブドウでは考えられないような色合いだ。

とても鮮やかな色合いをしていてカラフルなグミのようだ。

自分の取った粒を眺めると、俺とルミアは顔を見合わせて同じタイミングで口に入れる。

「おおっ、イチゴの味だ!」

皮や果肉の感触は俺の知っているブドウそのもの。しかし、風味や味は濃厚なイチゴそのものであった。

明かにブドウの食べ応えや食感なのにイチゴ味をしているのがとても面白い。

皮は薄味ながらも、そちらもきちんとイチゴだ。

「すごいですよルミアさん! ブドウなのにイチゴの味が――って、ルミアさん、大丈夫ですか?」

味の感想を述べようとしたら、ルミアが何かを堪えるようにして身を縮めていた。

「す、酸っぱいです」

「あっ、もしかしてそっちはレモン味とか?」

おそるおそる尋ねてみると、ルミアは酸っぱさを堪えるような顔をしながら激しく頷いた。

この濃厚なイチゴ味が、そのままレモンの酸味に反映されているとしたら中々に恐ろしい味だな。

なんて考えている間に、ルミアは見事に口の中のものを呑み込んだ。

そんなに酸っぱかったのだろうか。

試しに黄色の粒を食べてみる。

「あれ? そんなに酸っぱいかな?」

確かに普通のレモンよりも少し酸っぱいが、きちんと甘みもあってキツい酸味というわけでもない。

「私、昔から酸っぱいのと苦いのは苦手なので」

なるほど。まあ、味覚なんてものは人によって違うことだしな。

俺とルミアに個人差があっても何ら不思議ではない。

「口直しにイチゴ味をどうぞ。これなら酸っぱくないですから」

「ああ、本当です。濃厚なイチゴの味です」

赤い粒のものを渡すと、ルミアは口に入れてしかめていた顔を和らげた。

「他の色はどんな味がするんでしょうね」

「確かめてみましょう」

俺とルミアは赤と黄以外の粒を取って、味を確かめてみる。

「橙色のものはオレンジだ!」

「緑はマスカット味です!」

「紫はブドウで藍色はブルーベリーだ!」

すごい、本当に色ごとに味が違うことに驚きを隠せない。

ブドウなのにイチゴで、レモンで、オレンジでマスカットで……飽きることのない味だ。

「ルミアさん、青はどうです?」

「青は……なんて言ったらいいのでしょう? 美味しいのですけど食べたことのない味です」

青い粒を口にしたルミアは、味をどう形容したらいいかわからずに戸惑っているようだ。

何かに例えることすらできないということは、今までにない味ということだろう。

「あっ、ラムネだ」

青い粒を取って食べてみたところ、まさに味はそれだった。

「ラムネ……ですか? 聞いたことのない食べ物です」

「俺の故郷にあったお菓子みたいなものです」

「変わった味のお菓子があるんですね」

実際は重曹やコーンスターチ、クエン酸、砂糖なんかを組み合わせたものであるが、お菓子として楽しまれていたし間違いではないな。

しかし、ここでラムネ味が来るとは思いもしなかったな。

この世界ではこんな化学的な味などないと思っていたが、ファンタジーパワーも恐ろしいものだな。

この世界では食べられないだろうと諦めていた味も、もしかすると何とかなるかもしれないな。

七色ブドウのお陰で新たな楽しみができてしまった。料理の幅を増やすためにも、たくさんの素材を採取しなくてはな。

「シュウさん、これ違う色のものを食べたらどうなるんでしょう?」

なんて考えていると、ルミアが赤と青の粒を持っておそるおそる言ってくる。

さすがは錬金術師だけあって、素材に対する好奇心が強いようだ。

「鑑定スキルによると、七色全部を同時に食べると絶品だそうですよ」

「七色全部ですか! なんて贅沢な! や、やってみます!」

七色ブドウの粒は普通のブドウと大きさがそう変わらないので、七粒一気に口に入れることは可能だ。

俺とルミアは七色の粒を揃えると、同じタイミングで食べた。

「「~~~~っ!!」」

イチゴ、オレンジ、レモン、マスカット、ラムネ、ブルーベリー、ブドウ……七つの味が複雑に絡み合い、酸味と甘みが怒涛のように押し寄せる。

まったく違う味をしているが、それらは絶妙にマッチしていて言葉にいい表せないほどだった。

「「絶品……」」

強いて味を述べるならば、鑑定先生の言っていた通りの言葉が合うのだろうな。