軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

終わっていない指名依頼

クラウスの指名依頼をこなした翌日。

猫の尻尾亭で朝食をとろうと食堂に降りると、思いもよらない人物に声をかけられた。

「やあ、シュウ君。ちょっとこっちにきたまえ」

食堂にいるのはルミアの師匠であり、マスタークラウスの錬金術師であるサフィーだ。

「あれ? サフィーさん、どうしてここに?」

「今日は君に用があってな。外食ついでにここにきたんだ」

チリビーンズを頬張りながら言うサフィー。

「サフィーさんも外出とかするんですね」

「失礼な。あたしだってたまには外くらい出るぞ」

「俺の中では外で見るのが初めてだったもんで」

サフィーとはお店でしか会っていない。一日中、奥の工房でアイテムを作ったり、研究ばかりしているイメージだ。

「それより、君も何か頼んではどうだ?」

「そうします。ミーア、俺にもチリビーンズとパンをお願い!」

「わかったにゃー!」

注文を頼むと、ミーアの明るい返事がした。

サフィーが食べているのを見て、俺も食べたくなってしまった。

「ここの料理は中々に美味いな。それに獣人の店員たちも愛嬌があって、見ていて癒される」

「ですよね。ここに帰ってくると心が安らぐんですよ」

「ちなみにシュウ君はどの獣人の子が一番癒されるのかね?」

「うーん、一番といわれると難しいですね。ミーアの明るさと可愛らしさもいいですけど、クロイさんのクールで静かに佇む感じもまた――って、何を言わせてるんですか」

「君は中々の獣人好きなんだな」

ハッと我に返って突っ込むと、サフィーが苦笑した。

この人、見た目は一級品の美女だけど、中身は少しおっさん臭いところがあるので話しやすくて困る。

あまり女性と話さない話題までペラペラ喋ってしまった。

「はーい、チリビーンズとパンお待たせにゃー!」

「ありがとう」

「にゃんにゃん!」

礼を言うと、ミーアが手を丸めて猫ポーズをする。

ここぞとばかりの可愛さアピールだな。俺とサフィーの会話を聞いていたんだろう。

「はいはい、ミーアが一番癒されるよー」

「にゃー! すっごく適当で酷いにゃー!」

俺のおざなりな対応に頬を膨らますミーア。

そういうあざとい感じも非常に似合っていて可愛いのだが、癒されると言われると違うんだよな。ふとした瞬間に出てくる自然な感じがいいのだ。

憤慨するミーアをあしらって俺はチリビーンズに手をつけた。

ひき肉とトマトの味が大豆やいんげん豆に絡まって美味しい。

ボソッとした味ではなく、スパイスで辛くなりすぎないように味が引き締められているのが最高だ。

少し味が濃い目のチリビーンズをパンの上に載せて食べる。

うん、やっぱりパンとチリビーンズの組み合わせはいいな。

少し口の中が辛くなって水分が抜けてきたら、サラダを頬張って口の中を中和して潤いを与える。

このループをしているだけでずっと食べ続けられるな。

そうやってあっという間に朝食を食べ終わると、フルーツジュースを飲んでいたサフィーに尋ねた。

「それで俺に用というのは?」

「ああ、指名依頼の履行についてだよ」

「指名依頼?」

今、サフィーから受けている指名依頼はないのだが。

「ルミアとの素材採取……レッドドラゴンを討伐してから一度も行っていないのではないか?」

「あっ、でもあれは入金されましたし終わったのでは?」

レッドドラゴンを討伐してからルミアに教育費用に加え、レッドドラゴンからルミアを守ったことで特別報酬が出されている。

お陰で口座にはとんでもない額のお金が入っており、お礼も言われたので指名依頼は終了だと思ったのだが。

「指名依頼に関してはルミアの採取経験が十分になったとあたしが判断したタイミングで終了となる。それまでは報酬も継続的に払うつもりだ。大体、まだ依頼書にサインをした覚えはないぞ?」

「そ、それもそうでした。すいません」

依頼書に依頼者がサインをしていない限り、その指名依頼は達成されたことにならない。

つまり、まだ契約期間中というわけだ。

「ルミアも採取に行きたいと思っていても、レッドドラゴンのことがあって君に頼みにくいと感じているのだろう。よかったら、シュウ君から声をかけてやってくれると助かる」

確かにルミアとは露店で会ったけど、全然そんな素振りを見せていなかったな。

レッドドラゴンに襲われるようなことがあっては、ルミアからまた連れて行ってというのは言いづらいだろう。

「わかりました。この後、お店に寄ってお誘いしますね」

「ああ、頼むよ」

「にしても、サフィーさんもルミアさんには優しいんですね」

サフィーは朝が弱いというのに、わざわざ弟子のためにここにきて頼みにきている。

普段は割と適当にやっているように見えるが、師匠として弟子のために動くことのできる人なんだな。正直、見直した。

「……あれは抜けているとこはあるが優秀だ。早く一人前になってくれないとあたしの仕事が増えて仕方がないからな」

サフィーは珍しく頬を赤くすると、クラウスみたいな捨て台詞を言って宿を出ていった。

ちなみに会計は俺持ちだった。

サフィーが宿を出ていってしばらくして、俺はルミアのいる店に向かった。

外から店の中を覗くと、日当たりのいい窓際の席でルミアがハートのネックレスを眺めていた。

それは俺が露店で売り出したもので、ルミアはそれを買ってから身に着けてくれているらしい。

ルミアは頬を緩ませながら布で優しくネックレスを磨いている。

よっぽど、ネックレスが気に入ってくれたみたいで大事に扱ってもらえると、作り手としても嬉しいものだ。

微笑ましく外から眺めていると、ルミアはこちらに気付いたのか布を置いて、扉を開けにきてくれる。

「あっ、シュウさん。こんにちは!」

「こんにちは」

「シュウさんのネックレス、気に入っちゃって早速着けています」

どこか照れくさそうに胸元にあるハートのネックレスを見せつけるルミア。

「気に入ってくれたようで何よりです」

会話だけ聞いていると、完全に恋人関係だな。

実際は俺が露店でアクセサリーを売って、ルミアがそれを買ったというだけなんだけどね。

「今日はどうされましたか? 気になるアイテムでも?」

「いや、今日はお買い物じゃなく、ルミアさんと採取に行こうかなと思いまして」

「え?」

「あの指名依頼はサフィーさんがルミアさんを認めるまでですよね? まだ終了と言われていない限りは、俺とルミアさんが引き続き採取に行くのものなんじゃないかと」

というのは、さっきサフィーに言われた言葉であるが、今はこういう形で提案するのが自然だろう。

「ちょ、ちょっと師匠に確認してきますね!」

ルミアは慌てた様子で奥の部屋に入ると、すぐにサフィーを連れて戻ってくる。

「まあ、そうだな。まだまだルミアには採取の経験も足りないし依頼書に達成のサインもしていない。レッドドラゴンの騒動も落ち着いてきた頃合いだ。また採取に行ってもらおうか」

さっき宿に来て頼んできたというのに、今思い出したかのような反応をするサフィーが面白い。

苦笑すると、ちょっと睨まれたので表情を元に戻した。

「本当ですか!? 私、もうてっきり終わったのだとばかり思っていました。シュウさんとまた採取ができるなんて嬉しいです!」

どうやらルミアも終わったと思っていたので、切り出せなかったらしい。

俺との採取を楽しく思ってくれていたようでよかった。

「あれくらいで採取の経験が十分とは言えないからな。今日も採取の課題を出すから採ってきてもらうぞ」

「はい! シュウさん、またよろしくお願いしますね!」

「こちらこそお願いします」

ルミアの微笑みながらの言葉に俺は深く頷くのであった。