軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

硬魔石と宝石を交換

「あっ、シュウさん! 硬魔石を採ってきたっすか?」

ドロガンの工房に戻ると、ロスカが元気な声を上げて出迎えてくれた。

「採ってきましたよ。ドロガンさんを呼んでもらえますか?」

「わかったっす!」

俺がそう頼むと、ロスカはくるりと身を翻して階段を降りて鍛冶場に向かう。

ドロガンはきっとすぐに硬魔石を確認するだろうから、マジックバックから採掘してきた硬魔石を出して受付台に置いておく。

それがちょうど終わった事に、ロスカがドロガンを連れて戻ってきた。

「硬魔石を採ってきたんだな?」

「はい、ここに」

そう言うと、ドロガンはツカツカと歩いてきた硬魔石を手に取る。

ドロガンの表情は真剣そのもの。不機嫌そうな顔がさらにしかめられており、小さな子供なら見ただけで泣いてしまいそうな迫力だ。

じっくりと色々な角度から眺めて、大きさ、質などに問題がないか確認しているのだろう。

鑑定スキルで高品質ということは確認しているが、熟年の職人に眺められると不思議と緊張するものである。

「量や質などに問題ありますか?」

「いや、問題ない。見事に質のいいものだけ厳選しているな。採取依頼ばかりやってるだけのことはある」

「おお、親方が誰かを褒めるなんて珍しいっす!」

ロスカが驚いているようだけど、今のドロガンの台詞って褒めているのか? ちょっとわかりにくい。

「やかましい。そんなことよりも魔力を込めろ。ただし、前のようにバカほど魔力を込めるんじゃねえぞ?」

「……えっと、具体的にはどのくらい込めれば?」

冒険者プレートやクルツの実のような事件もあった。最近はコントロール力も上がったとは、些か不安がある。せめて目安とかが欲しい。

「硬魔石が藍色になるくらいだ」

「わかりました」

硬魔石は魔力を注げば色が変わる。藍色という色の境界が微妙なのはさておき、そういう目安があれば何とかなるだろう。

俺は硬魔石に手をかざして魔力を注ぐ。

すると、硬魔石は淡い青色から青色に。そして、段々と暗い青になり、藍色っぽくなったところで止める。

「このぐらいですか?」

「もうちょいだ。下の方が微妙に明るい」

手を止めておそるおそる尋ねると、ドロガンが硬魔石の下部分を示した。

そこを見てみると、確かに下の方だけ微妙に明るい。

再び手をかざして魔力を注ぐ。下の方が完全に藍色になるようにほんの少し――

「もういい!」

ドロガンの叫び声によって反射的に注ぐのをやめて手を引いてしまう。

突然叫ばれたのですごく驚いた。心臓がバクバクする。

そんな俺の状態を気にもせず、ドロガンは硬魔石を持ち上げて観察。

「よし、これでいい。あと二つこれと同じのを用意しろ」

「わかりました」

どうやら今ので丁度良かったようだ。一度、要領を掴めば難しくはない。

俺はドロガンやロスカに見守られる中、硬魔石に魔力を注いでいく。

「はあ……やっぱり、綺麗っすね」

「硬魔石の色が?」

「はい。特に魔力を注ぐことによって色が移り変わる瞬間。とても綺麗っす」

ため息を吐くような声で呟くロスカの顔は、まるで子供が初めて玩具を手に入れたかのような純粋なものだった。

装飾人とあってか、綺麗なものには目がないんだな。

「これで十分だ。早速、ツルハシを作る。四日後に仕上げの魔力を注ぎにこい。その時にお前さんの採取道具と合わせて渡す」

「わかりました。四日後ですね」

ドロガンは藍色に染まった硬魔石を三つほど掴むと、地下の鍛冶場に降りて行った。

四日後には完成か。その時が楽しみだな。

「あっ、ロスカさんってカットされた宝石とか持っています?」

「そりゃ、装飾人なんすから持っているっすよ。なにか欲しいものでもあるっすか?」

「はい、少しやってみたいことがあって売ってもらえたりできます?」

「いいっすよ。今、見せるっすね」

ロスカは気前よく返事すると、受付テーブルに移動して引き出しから箱を取り出した。

宝箱のような箱を空けると、そこには色とりどりのカットされた宝石がある。

どれも丁寧に手入れされているのがわかり、とても美しい。

「どんな色やサイズがいいっすか?」

「色はたくさんで、サイズは小さなものでいいです」

「じゃあ、この辺りの宝石っすね!」

ロスカがそう言って示したのは、宝石の大きさが一センチから三センチ程度のもの。

俺がやろうとしているものでは、それで十分だ。

「これくらいの大きさで大体いくらです?」

「一つで銀貨六枚から八枚っすね」

小指の爪よりも小さいサイズでも綺麗にカットされた宝石だけあって、結構な値段がするもんだな。

まあ、それでもお金に余裕はあるのでやってみたい。どの色のものを買おうかと選んでいると、ロスカがそわそわとした様子で尋ねてきた。

「……あの、あたしから提案というかお願いがあるんっすけどいいですか?」

「お願いとは?」

「もし、良かったらシュウさんの魔力を注いだ硬魔石と交換とかしてくれないですかね? 色の変化した硬魔石の装飾品として使ってみたいんです」

「構いませんけど、ロスカさんでも魔力を込められるのでは?」

「いやいや、あたしは魔力が少ないので無理なんすよ。普通はシュウさんのようにササッと注いだりできないっすからね?」

そういう理由でロスカにとって価値のあるものだったのか。

「どのくらいの数の宝石と交換できます?」

「シュウさんの魔力を込めた硬魔石になると、価値は軽く金貨五枚くらいはあるっすから少し色をつけて十個と交換でいいっすよ!」

物によっては一つで銀貨八枚するものもあるのに、サービスをしてくれたものだ。

「じゃあ、交渉成立で!」

「ありがとうございますっす!」

俺とロスカは互いに手を握り合って笑顔を交わす。

「それじゃあ、先に硬魔石に魔力を注いじゃいますけど、どの色がいいんですか?」

ロスカが求めるのは硬度ではなく色だ。先程のようなざっくりとした魔力コントロールで染めるのはマズい気がする。

「さっきみたいに完全に染まりきった色じゃなくて、移り変わる前の微妙な色の混ざった瞬間のものが欲しいんすよね」

「どの色の間くらいです?」

「青と藍色の間くらいっすかねー。あたしがじっくり見てるんで、ゆっくり魔力を注いでもらえると助かるっす」

「わかりました」

こりゃまた難しい注文がきたものであるが、やるしかないだろう。

ロスカが見守る中、俺は硬魔石に手をかざしてゆっくりと魔力を込める。

最初の淡い青から青まではすぐに染めてしまい、そこからはじっくりと少量の魔力を込めていく。徐々に青色から暗い青色に。ひとつひとつの粒子に浸透させるようなイメージで。

ロスカは真剣な瞳で凝視して、硬魔石を観察している。

何も言わないということはまだ、ロスカが求めている色ではないのだろう。

下手に込めすぎるとロスカの求める色ではない失敗作になってしまうので、少し緊張する。

でも、まだ硬魔石は残っているし、ダメになっても魔力で染め上げて極硬魔石にしてやればいいのか。そう思うと少し肩の力が抜けた。

「ここっす!」

その瞬間、ロスカが大きな叫び声を上げた。

突然の声に思わず驚いて、魔力を注ぐのをやめる。

さっきのドロガンと同じパターンだ。真剣故に声が大きくなるのはわかるけど、少し心臓に悪い。

「どうです?」

「……青から暗い青に移り変わる絶妙な瞬間っす! このどの色にもなりきれず、混ざり合おうとしているこの境界上の色の良さは最高っすね!」

ロスカの言う色合いの良さとやらは俺には理解しきれないが、満足しているようだった。

「ありがとうっす、シュウさん! そこにあるのから十個持って行っていいっすよ!」

よっぽど気に入ったのだろう。ロスカはそう言うと夢中になって硬魔石を眺め始めた。

「じゃあ、遠慮なく」

俺はルビーやサファイア、エメラルドのような綺麗な宝石を十個ほど貰い、工房を後にした。