軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ネックレス作り

「ふうー、サッパリしたぁ」

ドロガンの工房を後にした俺は、そのまま猫の尻尾亭に帰るのではなく、大衆浴場で身体を綺麗にした。

坑道内にいると土煙を被りやすい上に鉄臭くなるので、どうしても髪や肌が気になってしまうのだ。

それにレオナから、獣人は鼻が利くから清潔でいた方がいいと教えてもらったからな。

浴場に行く前に、ベッドでゆっくりしたい気持ちはあるが、それを聞いてしまうとどうしても気になるものだ。

普段、ミーアたちの獣耳や揺れる尻尾を見て癒されている分、それくらいはエチケットというものだろう。

にしても、鉱山で採掘をしてドロガンの工房にいたせいか、すっかり日が暮れてしまっているな。

既に空は暗くなっており、設置された魔道ランプや店から漏れる光が大通りを照らす。

これからが夕食時とあってか、多くの者が食堂や屋台に詰め掛けており、朝の喧騒とはまた違った様相を呈していた。

賑やかな人の波を縫って歩くと、あっという間に猫の尻尾亭にたどり着く。

さすが浴場から近い宿屋だ。

「にゃー! シュウ、お帰りにゃ!」

「ただいま」

フロアの中に入ると、忙しそうに料理を運びながらもミーアが声をかけてくれる。

なんてことない、いつものやり取りであるが今日は妙に心地よかった。

「今日もデミオ鉱山に行ってたんだにゃー? あそこは狭くて鉄臭いし大変だ……にゃー?」

ミーアが途中で言葉を切るなり、こちらに近付いてスンスンと匂いをかいでくる。

「にゃー? シュウから鉄臭い匂いがしないにゃ? 本当に鉱山に行ってきたのにゃ?」

「さっき浴場に行ってきたからね」

「にゃるほどにゃ! いやー、シュウはどんなに疲れていてもちゃんと清潔でいるから偉いにゃ」

「あー、やっぱり獣人だと鼻が利くから気になるでしょ?」

「気になるにゃー。常連のお客はそれがわかってるから身綺麗にしてくれているけど、新規ですごい匂いをさせているお客もたまにいるにゃ」

「そういう時は大変だね」

ミーアに言われてみてみると、いつも宿で挨拶をする宿泊客や常連客は皆、身だしなみがしっかりとしている。

やはり、獣人が経営している宿屋だけあって、そういう部分には気を付けているのだな。

日本と違って風呂に入る習慣が薄いこの世界の人からすれば、毎日身綺麗にするのは大変だろうに。

しかし、それでも獣人と楽しい空間を共有するためにこなしている。改めて考えると、ここの宿泊客や常連客がいかに紳士であることがわかるな。

「まあ、いつもミーアやお店の皆がいるから快適に生活ができているからね。いつもありがとうね」

「にゃー、シュウは良いことを言うにゃー。そういう何気ないお礼の言葉はグッとくるにゃよー。エール一杯くらいならアタシのサービスで奢るにゃー」

「おっ、本当? じゃあ、もっとお礼の言葉を言えば、料理も無料になる?」

「それはにゃいにゃー。ほら、さっさと席に座るにゃ」

残念ながら料理までサービスしてもらえることはないようだ。

俺はミーアに背中を押されるようにして、カウンターに座る。

食堂の中では俺と同じように獣人の子と和やかに喋るお客や、バンデルさんの料理を夢中でかっくらう冒険者、酒をお代わりしまくるドワーフと様々な人がいる。

ほぼ一日中、静かな坑道内にいたために、この賑やかさが心地いい。

一人で黙々と採取し、自然を感じる時間もよかったが、なんやかんやで人の喧騒も恋しかったのかもしれないな。

翌朝、朝食を済ませた俺は、冒険者ギルドに向かうでも買い物に行くでもなく、自分の部屋で過ごしていた。

今日はやってみたいことがある。

それはアクセサリー作りだ。

最初にデミオ鉱山に行った時に、採掘することができた魔力鋼。

魔力を流すことで粘土のように柔らかくなる銀色の鉱石。この特性を利用して、ペンダントやキーホルダー、イヤリングなどといったものが作れるのだ。

とはいっても、前世などにあった本格的なものを作るわけではない。俺でもとっつきやすくイメージしやすいゴシックネックレス的なものが主だ。

中学生の時に流行った、十字架、髑髏型、鍵、ドラゴンのようなちょっと中二っぽいデザインのやつ。

チラッと市場を見た限り、そのようなデザインのものは売っていなかったので、もし完成すると売れるのではないかと思った。

まあ、そんな仮定の未来よりもまずは作ることを楽しもう。

マジックバッグから取り出した魔力鋼に魔力を込めてやる。するとゴツゴツしていた魔力鋼が粘土のように柔らかくなった。

手で直接こねることもできるし、魔力を内部で動かすことによって形を変えることもできるようだ。

まずは比較的簡単そうな十字架を形どってみる。

内部で魔力を動かしすぎるとみにょーんと伸びてしまうが、そこは調節してやれば問題ない。

十字の形になればそれぞれを均等な厚みや長さへと整える。

「意外と難しいけど、魔力コントロールの練習にもなるな」

魔力を動かす感覚が限りなく均等でないと、左右で長さが違ったり、分厚さが違ったりする。それではカッコ悪いので、じっくりと時間をかけながら均等にしていく。

そうやって三十分くらい格闘すると、ようやく土台が完成した。

テーブルの上に置いても傾くことはないし、遠目に見ても長さもほぼ均等だ。

その出来栄えに満足しつつ、次は魔力を移動させることによって土台を凹ませたり、隆起させて凹凸を作っていく。

そして、中央に凹みを作って、ロスカから交換してもらったサファイアをはめ込む。

後は魔力鋼を動かして、サファイアの形に合うように変形して固定しやれば完成だ。

「できた! 十字架ネックレス!」

初めてながらかなり上手くいったのではないだろうか。

作りは単純なので精緻とはいえないが、色々な飾りつけのパターンやデザインなんかを模倣して、施してやればかなりいい線をいきそうな気がする。

そして、何より作っていてとても楽しい。この世界にきて素材を採取すること以外の楽しみが料理くらいしかなかったので、これは室内でもできる新たな趣味になりそうだ。

趣味は人生を豊かにする。新しい趣味を持つことはいいことだ。

肝心のチェーンの部分はさすがに一から作ると時間がかかりそうなので、そこは市場にあるものを買えばいいだろう。

チェーンの部分だけならば比較的安価で売られているし。

「次は鍵を模したネックレスでも作ってみるか」

自分の出来栄えに満足した俺は、次のネックレスを作るべく新たな魔力鋼を手に取った。