軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

黄金ポップコーン

ドロガンとロスカに素材を納品すると、俺は『猫の尻尾亭』に戻ってきた。

「シュウ、お帰りにゃー」

「ただいま」

受付ではミーアが退屈そうにしていた。

時刻は夕方に差し掛かる少し前。

受付にやってくる客もおらず、食堂スペースで料理を食べている宿泊客もいない。

「暇そうだね」

「数時間もすれば大忙しにゃ。だから、今のうちに力を溜めておくのにゃ」

ミーアはそう答えると目を瞑った。

背中を丸めてテーブルに突っ伏している様は、まるで猫のようだ。

お昼寝の邪魔をしないようにミーアから離れる。

クロイをはじめとする他の従業員たちも欠伸をしながら掃除をしていたり、奥の部屋で和やかに談笑しているらしき声が響いていた。実にのんびりとしていていいな。

自室にこもる気にはなれず、食堂の空いているイスに腰かける。

微かに響いてくる話し声をBGMに、テーブルの上にお気に入りの素材を取り出して眺める。

「小腹が空いたな」

素材を観察していると、不意に空腹を感じた。

バンデルさんに料理でも頼もうか? でもガッツリ食べるほど、お腹が空いているわけじゃない。ちょっとしたお菓子をつまむくらいの気分。

美食保護区で採ってきた食材で、ちょっとしたお菓子になりそうなものはないか。

そう考えながらマジックバッグを漁っていると、黄金コーンの存在を思い出した。

たった一つしか採取できなかったが、採取方法を教える代わりに持ち帰りを許してもらった素材。

取り出してみると、大きなコーンが黄金色の光を放った。

相変わらず綺麗な輝きだ。

「にゃにゃ! シュウ、それは金塊かにゃ!?」

うっとりと黄金コーンを眺めていると、ミーアが食い入るような瞳をしてこちらにやってきた。

昼寝をしていたはずだが、黄金コーンの強い煌めきによって目を覚ましたらしい。

というか目が完全にお金のマークになっていて怖い。

「違うよ。黄金コーンっていう、美食保護区で採れた食材さ」

「こんなに綺麗なのにトウモロコシなのにゃ?」

黄金コーンを触らせると、金塊ではないと理解したのかミーアが残念そうな声を上げた。

「仮に金塊だとしても、ミーアのものにはならないからね?」

「その時はシュウのお嫁さんになるにゃ」

釘を刺すように告げると、ミーアがもじもじと恥じらいの表情を浮かべながら言った。

「理由があからさま過ぎだよ」

女性から言い寄られてここまで嬉しくないのは初めてだ。

「強いオスにメスが惹かれるのは当然のことにゃ」

この場合の強いは腕っ節じゃなく、経済的な強さを表すのだろう。

せっかく若返ったんだ。恋愛をするなら年相応なムーブがいいな。

「にゃんて冗談は置いておいて、このトウモロコシは美味しいのにゃ?」

「料理に使うと絶品らしいけど、今回はちょっとしたお菓子にして食べてみたいんだ」

普通のトウモロコシを焼いてもポップコーンにはならないが、この黄金コーンや爆裂コーンは当然爆裂種。

加熱することで粒の中の水分が水蒸気となって膨張。圧力によって皮が破れ、ポップコーンとなるのだ。

「ええ! 絶品な食材をお菓子にしちゃうなんて勿体ないにゃ!」

「別にお菓子にしたらマズくなるわけじゃないから」

「ならいいにゃ」

ポップコーンの味の保証をすると、騒いでいたミーアが大人しくなった。

お菓子が美味しくて相伴に預かれるのであれば、構わないようだ。

「そんなわけで黄金コーンを調理したいから台所を借りていい?」

「バンデルはいないけど、シュウなら構わないにゃ」

ミーアに案内されて、俺は食堂の奥にある厨房に入らせてもらう。

とはいっても、ポップコーンを作るだけだ。複雑な調理過程などない。

フライパンに入れて加熱するだけだ。

ただコーンが大きいので弾ける時のことを考慮し、大きな鍋にしておくのがいいだろう。

「大きな鍋とかある? できれば大きいものがいいんだけど」

「このくらいかにゃ?」

ミーアが上半身を隠すほどのスープ鍋を持ってくるが、黄金コーンの大きさを思うと不安だ。

「もっと大きいものはない?」

「そんなに大きい鍋がいるのかにゃ?」

「加熱することで粒が弾けるんだ。だから、大きくて丈夫な鍋がいい」

「それならこれでどうにゃ!」

リクエストすると、ミーアが奥の部屋から自分の身体よりも大きな鍋を持ってきてくれた。

普通の女性なら間違いなく運べない重さだろうが、獣人ということもあって軽々とした様子だった。

「ありがとう。この大きさなら何とかなりそうだよ」

「――はっ! あたしとしたことが、男の前でこんなにも重そうなものを運んでしまったにゃ!」

コンロの上に載せたところで、ミーアがハッとした顔で呟いた。

ミーアにそんな繊細なキャラは期待していないので大丈夫だ。

頭を抱えているミーアをよそに、俺は炊き出し鍋の蓋を開けて油と塩と一緒に黄金コーンを放り込む。

通常ならコーンを乾燥させる必要があるが、黄金コーンの場合はこのまま加熱することで問題ないらしい。コンロを操作し、加熱する。

「これで終わりにゃ?」

「うん、あとはコーンが弾けるまで待つだけ」

「どんなお菓子になるか楽しみにゃ!」

大きな鍋の前でひたすらに待機。十分ほど時間が経過するが、一向にコーンが弾けない。

「まだかにゃ?」

「コーンが大きいから火が通るのに時間がかかるのかも」

中火にしていた火を少しだけ強めて、さらに十五分ほど待機。すると、鍋の中からグツグツという音が聞こえてきた。

「おっ、そろそろかも!」

「それは嬉しいんだけど、やたらと鍋が震えてるないかにゃ? それに鍋も光って……」

ミーアの指摘した通り、大きな炊き出し用の鍋がコンロの上で震えている。それはもう大丈夫なのかっていうくらい。

やがて、鍋の震えはガタガタと大きなものになり、内部から黄金色に光が漏れ出す。

まるで爆発するのを堪えているかのようだ。

「これはマズいかも?」

「かもじゃなくて絶対にそうにゃ! 急いでここから離れるにゃ!」

ミーアと一緒に鍋の前から離れると、炊き出し鍋が黄金色に強く発光。

そして、大きな爆発が起こった。

圧力により蓋が天井にぶち当たり、内部からは金色のポップコーンが噴き出した。

「にゃー!」

「ポップコーンだ!」

金色のポップコーンが宙を舞い、雨のように降り注ぐ光景はとても綺麗だ。

「ちょっと! なにやってるの!?」

「なんだなんだ? すごい音がしてるぞ!」

ポップコーンを見上げていると、奥の部屋からクロイをはじめとする従業員たちが出てきた。それだけじゃなく、自分の部屋でくつろいでいたらしい宿泊客たちも慌てて階段を下りてくる。

黄金コーンは今もなおパンパンと音を立てて弾けている上に、あれだけ派手に蓋が吹き飛ぶ音がしたのだ。何事かと思って飛び出してくるのも無理はない。

「シュウ君、これどうなってるの!?」

「すみません、ちょっとお菓子を作っていたらこうなってしまって……」

「どんなお菓子を作ったらこんな事になるのよ!?」

クロイに思わず突っ込まれる。

ポップコーンを知らない人からすれば、まるで意味のわからない現象だろう。無理もない。

「ねえ、これいつになったら止まるわけ?」

「俺にもちょっとわからないです」

俺たちがこうやって会話をしている間も、鍋からポップコーンが吐き出され続けていた。

既に俺とミーアのいる厨房はポップコーンで埋まり、食堂の方にまで積もっているが未だに止める気配はない。

このままの勢いでいけば、猫の尻尾亭の一階部分は埋まってしまいそうだ。

鍋の上にマジックバッグを掲げれば止められるかもしれないが、既に食堂の半分が埋め尽くされている。ここまできてしまっては、もうどうにでもなれといった気持ちだ。

やけくそになった俺は傍にあるポップコーンを食べた。

外はサクッとしており、内部は綿菓子でも食べているかのように柔らかい。

香ばしさが口内に広がり、濃厚なコーンの甘みが後からじんわりとやってくる。

優しい甘みに塩が絡んで、実にいい味わいだ。

「美味しい!」

一つ目を食べたばかりなのに、気が付けば二つ目、三つ目を口に運んでいる。

手が止まらない美味しさだ。

「本当にゃ! これ美味しいにゃ! 手が止まらなくなるにゃ!」

ミーアもその美味しさの虜になったのか、夢中になって次から次へと口に運んでいる。

「ちょっとなに呑気に食べてるのよ」

そんな俺たちを見て、クロイが飽きれたように言ってくる。

「クロイも食べてみるといいにゃ! これ美味しいにゃよ!」

「えー?」

クロイがテーブルの上に積もっているポップコーンを手に取り、スンスンと香りを嗅ぐ。

すると、クロイは驚いたように目を見張って、おずおずと口に含んだ。

「お、美味しい! なにこれ!」

クロイは驚きの声を上げると、もぐもぐと口を動かして二口目を食べた。

真っ黒な猫耳と尻尾耳が喜びを表すようにピクピクと動いている。

「わっ、本当だ! 香ばしくて美味しい!」

「コーンの甘みと塩けが抜群だ」

気が付けばクロイだけじゃなく、他の従業員もポップコーンを食べていた。

「おい、シュウ! このポップコーンっていうの俺たちも食べてもいいか?」

階段の方からおずおずと状況を見ていた、顔見知りの宿泊客たちが尋ねてくる。

後でマジックバッグで回収できるとはいえ、こんなにもたくさんのポップコーンを持っていても仕方がない。

「見ての通り、たくさんあるのでお好きにどうぞ」

「やっほー! 菓子の山だ!」

「うおおお、これ美味ええ!」

「手が止まらないわ!」

迷惑料も兼ねて許可すると、宿泊客たちは嬉々としてポップコーンを食べ始めた。

夢中になってその場で食べるものもいれば、革袋にせっせとポップコーンを詰めて自分の部屋に持ち帰る者もいる。楽しむスタイルはそれぞれだな。

ちょっとした小腹を満たすために、あるいは何かのお供として食べていたのに、気が付けばポップコーンに魅了されている。

まさにやめられない、とまらない。

ああ、これこそがポップコーン。いや、美味しさや中毒性は前世のポップコーン以上なので、期待を遥かに上回る味だと言えるだろう。

黄金コーンをポップコーンにしてみて良かった。

ちなみに黄金コーンによるポップコーン供給は『猫の尻尾亭』の一階部分を埋め尽くしたところで止まり、買い出しから帰ってきたバンデルさんに当然のように怒られた。