軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

爆裂ポップコーン

「いってらっしゃいませにゃー!」

翌日。ポップコーン騒ぎがあったものの『猫の尻尾亭』は無事にいつも通り営業をしていた。

食堂を埋め尽くしていたポップコーンは、他の従業員や宿泊客の協力で片付いた。

数が膨大なせいでありがたみが減ってしまったが、元は美食保護区で採れた稀少食材だからな。好きに食べていいと告げると、嬉々として回収してくれたのだ。

どちらかと言うと大変だったのはポップコーンを回収した後の掃除だ。

こちらはやらかした俺とルミアの責任ということで二人だけで掃除することになった。

食堂や厨房を含む一階部分はかなり広く、ポップコーンによる油汚れを落とすのは大変だった。幸いにしてルミアの調合してくれた油落としの洗剤のお陰で、すんなりと油を落とすことができたが、ずっと這いつくばって地面を掃除していたので腰の方はバキバキだ。

伸びをすると、背中や腰回りの筋肉がミシミシとする。

「よう、昨日は大変だったな」

L字になったカウンター席に腰掛けると、バンデルさんが声をかけてくれた。

「その節は本当にご迷惑をおかけしました」

「ま、ビックリしたが、営業が止まるほどじゃなかったし気にしてねえよ。むしろ、夕食にいいおつまみが出せて、いつも以上に酒が入ったからな」

申し訳なく頭を下げると、バンデルさんは笑いながら言ってくれた。

あれだけのことを仕出かしたのに本当に優しい人だ。

「朝食はどうする?」

「……ポップコーンを食べようかなと」

バッグからポップコーンの入った革袋を取り出す。

これだけ大量にあると、少しずつでも消費していかないと一向になくならない。

「ただそのまま食べてもつまらねえだろ。俺がそれを使って、ちょっとしたものを作ってやるよ」

「え! 本当ですか!」

いくら美味しいポップコーンとはいえ、ずっと食べていては飽きる上にお腹に堪らない。

バンデルさんの魅力的な提案を聞いて、俺は即座にポップコーンの入った袋を渡した。

どうやって調理するのだろう。

カウンターから身を乗り出すように調理台を覗くと、バンデルさんはボウルの中にポップコーンを入れ、粉末状になったスパイシー樹皮をまぶして混ぜ始めた。

香辛料がよく絡むと、棒で使ってポップコーンを豪快に粉砕。粉末状になると、そこに小麦粉やお湯を入れてヘラで混ぜると生地となった。

生地を少し寝かせている間に、バンデルさんはハム、キュウリ、キャベツなどの具材をカット。それらの下処理が終わると、寝かせていた生地を綿棒で伸ばした。

平べったい大きな生地が出来上がると、バンデルさんはそれを熱したフライパンに投入。

ポップコーンとスパイシーの生地に匂いが漂い始める。

何度かひっくり返し、両面に焼き色がついたところで生地を回収。その上に先ほどカットした具材を置くと、くるくると生地を巻いていった。

「ほらよ。ポップコーンを使ったトルティーヤだ」

「おお!」

まさかポップコーンを生地に練り込んでトルティーヤにするとは思わなかった。

バンデルさんのアイディアに驚きつつ、早速と口へと頬張る。

柔らかな生地からは黄金コーンの甘みが感じられ、練り込まれたスパイシーの樹皮がアクセントとしてピリッと引き締める。

中にあるハム、キュウリ、キャベツにはマスタードソースがかけられており、生地との相性は抜群だ。

「美味しい!」

「喜んでもらえたようでなによりだぜ」

思わず声に出すと、バンデルさんが嬉しそうにニヤッと笑った。

通常の生地ならここまで味に深みが出ることはなかっただろう。甘みと風味が豊かなポップコーンを練り込んだからこそ、この味が引き出されていると言える。

自分でも料理はやる方だが、こんな調理法は思いつかないな。さすがはプロの料理人だ。

「ごちそうさまでした」

気が付けばあっという間にポップコーントルティーヤはなくなっていた。

そのままポップコーンを食べるより、満足感が段違いだ。

「他にポップコーンを使った料理とか思いつきますか?」

これだけポップコーンがあるのだ。他に調理法があれば、少しでも知っておきたい。

「トウモロコシならともかく、既に加工されて完成されたものだしな。精々がそのままサラダに混ぜたり、クルトン代わりにしてスープに浮かべたり、砕いてオムレツなんかに入れるぐらいしか思いつかねえ」

「いやいや、それだけ思いつくだけで十分ですよ」

そのくらいなら俺でも作ることができるし、機会があったら試してみようと思う。

「事前に備えていれば、きちんと回収して売ることもできたんですけどね」

これだけの美味しさだ。屋台なんかで売ってしまえば、それなりに人気が出ることは間違いないだろう。

しかし、今回は何の備えもなく、ポップコーンを食堂に降り注がせてしまった。

地面なんかに付着していない積もったものは綺麗だが、それをかき集めて売りに出すのはどうも憚られる。

「シュウは真面目だな。そこら辺の奴なら気にせず売ってただろうに」

「後でお腹を壊したなんて言われたら責任取れませんから」

結果として自分で食べるか、事情を知っている友人に理解してもらったうえでお裾分け程度しかできないのである。

ワケありとして説明して屋台で安く売り出すのも手だが、そこまでするほど切羽詰まっているわけではないからね。

「一粒であれだけ作れるなら、売りに出した時の利益は大きいだろうな。前に貰った爆裂コーンでもポップコーンは作れるのか?」

ふとバンデルさんがそんなことを尋ねてくる。

「できますね」

黄金コーンと同様に爆裂コーンも爆裂種だ。

同じように加工すればポップコーンが出来上がると、鑑定スキルも教えてくれている。

「ちょっと作ってみましょうか」

黄金コーンによるポップコーンの消費には関係ないが、爆裂コーンでどれくらい作ることができるのか気になる。

「中で作るのは勘弁してくれよ? やるなら裏庭でやってくれ」

「わかりました」

昨日やらかしておきながら、店の外でと許可してくれるのはバンデルさんも気になっているからだろう。

「にゃー? 二人ともどこに行くにゃ?」

「ちょっと裏庭でポップコーンを作りに」

「……昨日の今日でこりないにゃね」

ミーアに呆れられながらも俺とバンデルさんは裏口を出る。

だだっ広い空いたスペースの上に俺は大きなシートを敷いた。

魔道コンロに火をつけ、大きな鍋を設置すると油を入れて加熱する。

「では、投入します」

「ああ」

黄金コーンよりも小振りな爆裂コーンを鍋に入れて、蓋をする。

しばらく見守っていると、鍋の中で爆裂コーンが弾け始めた。

パンパンと派手な炸裂音が鳴る。

「……すげえ音だな」

「爆裂コーンですから」

ただ派手な音こそ鳴っているものの、昨日のように鍋が光輝いたり、蓋が吹き飛んでいく様子はない。鍋の中で小さなポップコーンが弾け、鍋をコツコツと叩くような音が聞こえる。これなら昨日のように溢れ返ることはなさそうだ。

そう判断してしばらく加熱すると、蓋がガクガクと揺れて隙間から小さなポップコーンが溢れそうになる。

慌てて火を止めて蓋を取ると、鍋の中には小さなポップコーンでいっぱいになっていた。

「ちょうどいい感じですね!」

「これくらいの大きさの方が食べやすくていいかもな。後は味だな」

俺とバンデルさんは数粒のポップコーンを手に取ると、そのまま口へと放り込んだ。

さっくりとした食感をしており、中はフワッとしている。

特筆すべきは圧倒的な風味だ。出来立てということもあって、コーンの香ばしさが口にの中に一気に広がる。

「あっ、美味しい! 甘さと香ばしさがちょうどいいです!」

「黄金コーンに比べると風味や甘みでは劣るが、香ばしさはこっちの方が上だな。屋台で売り出す分にはこっちの方がいいかもしれねえな。酒にもよく合う」

黄金コーンは上品な香りや甘みなのに対し、爆裂コーンは荒々しい香りと旨みといったところか。

「これなら屋台で気楽に売れそうです」

「お? 本当にやるのか?」

「なんだか楽しそうなので」

前回、ロスカと一緒に装飾品を売るのが楽しかったので、ポップコーン屋台も気楽に挑戦したいと思う。

日々の素材採取も大事だが、ここでしかできない事をやるのも楽しい。

「そうか。後はどうやって温かいまま提供するかが問題だな」

ポップコーンは常温でも食べられるが、温かいままに食べる方が美味しい。

注文される度に加熱して作っていては時間がかかるし、作った後も保温できる道具があるといい。

「それについては、解決できそうな知人に心当たりがあるので頼んでみようと思います」

「そうか。なら頑張ってみろ」

「はい!」

ポップコーンを回収し、道具を片付けると、俺は裏庭から大通りに出た。