軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ガラスネズミの水晶

スタンニードルの実演を終えると、俺たちはグランテルへ帰還。

ルミアとサフィーは仕事があるために中央広場で別れ、俺は素材の納品をするために冒険者ギルドに向かった。

ギルドに戻ると、受付にラビスはいなかった。

今朝の一件での仕事で奔走しているのだろう。となると他の受付嬢に報告するのがいい。

受付嬢はシュレディのところが人気で長い列ができている。

いつもはそこを避けてラビスのところに並ぶのだが、採取依頼はシュレディに手続きを進めてもらったので、シュレディのところに並ぶ方がいいだろう。

別にシュレディが美人だから理由をつけて並んでいるわけではない。

「次の方、どうぞ」

しばらく待っていると、ようやく冒険者の列がさばけたらしい。

シュレディに声をかけられた俺は受付に進む。

「お帰りなさいませ、シュウさん。依頼の方はいかがでしたか?」

にっこりと上品な笑みを浮かべて出迎えてくれるシュレディ。

普段話している時はほとんど笑うことはないが、業務の時はこんなにも素敵な笑みを浮かべてくれるのか。他の冒険者たちがわざわざ長蛇の列を作ってまで並ぶ理由がわかった気がする。

「無事に採取できましたので、水晶の納品にきました」

「かしこまりました。テーブルの上に素材の方をお願いします」

「はい」

シュレディに促されて、俺はマジックバッグの中から二十本の水晶を取り出した。

「これは……ッ!」

水晶を目にすると、シュレディは笑顔を引っ込めて真剣な顔でひとつひとつを確認していく。

「一切に傷ひとつなく、魔力がまったく抜けていません。二十本とも間違いなく最高品質です」

「ありがとうございます」

鑑定スキルで最高品質なのはわかっていたが、実際に職員の人に評価されると嬉しいものだ。

「ここまで品質が高いと、ギルドで納品するよりも懇意にされている商会などに持ち込む方が高値で売れると思いますが?」

「懇意にしている商会もありませんし、探すのも面倒なので冒険者ギルドでの買い取りでお願いします」

「本当によろしいのですか?」

「はい、構いません」

より利益が出るのはわかるが、そこまでしてお金が欲しいわけではない。

それにクラーケン、ゲイノースなどの件でラビスをはじめとする職員の方には迷惑をかけたので今回の件はギルドでの埋め合わせとさせてもらおう。

「ご配慮ありがとうございます」

そんな俺の後ろめたい気持ちを察してか、シュレディはそれ以上何かを言うことなく受け取ってくれた。

「依頼達成の報酬は銀貨二十枚となりますが、品質が品質ですので銀貨五十枚をお支払いさせていただきます」

良い品質のものを買い叩いてしまっては冒険者ギルドの沽券にかかわる。こちらの増額については遠慮することなく、満額受け取らせてもらった。

依頼の報告を終えると冒険者ギルドを出て、南西の職人区画に向かう。

ガラスネズミの水晶はルミアとサフィーと山分けした、ギルドで二十本ほど売却したが、それでもまだ余っている。

せっかく品質が高いわけだし、綺麗な素材が大好きなロスカのところに持ち込もうと思ったわけだ。

そんなわけで南西の工房街を抜けて、ドロガンの工房にやってきた。

無骨な鉄製の扉をくぐって中に入る。

工房内の受付ではロスカが座って手作業をしていたが、俺に気付くなり狐耳をピンと動かして立ち上がった。

「あっ! シュウさん!」

「お久しぶりです、ロスカさん」

「本当にそうっすよ! シュウさんはもっとうちに顔を出すべきっす!」

装飾に使えそうな素材や、武具の加工に使えそうな素材が手に入った時によく顔を出しているのだが、ロスカが言いたいのはそういうことではないだろう。

「すみません。買い取り以外の用事でも、もう少しこちらにも顔を出すようにしますね」

「よろしいっす!」

どうやら俺の返答は正解だったらしい。ロスカが満足そうに頷いた。

なんてやり取りをしていると、奥からドロガンが武器を抱えてやってきた。

どうやら完成した武器を店内に並べるらしい。

「ドロガンさん、こんにちは」

「ロスカが騒がしくしてると思ったら、やっぱりお前さんか。ここ最近は街にいなかったみたいだが、どこへ採取に行っていたんだ?」

割と工房に籠って作業しがちなドロガンだが、俺が街にいないことは知っていたらしい。

あと俺が街にいない=採取しに行っているのが決定なんだな。まあ、合っているんだけど。

「ライラート家から依頼を受けて、美食保護区で採取をしていました」

「美食保護区! というと、あの美食素材で有名なあれっすか!?」

採取先を告げると、ロスカが大きな声を上げて驚く。

ライラート家の美食保護区は冒険者じゃなくても知っているほど有名なようだ。

「はい。とっても美味しい食材や珍しい素材がいっぱいありまして、今日はいくつかの素材を持ち込みにきました!」

「どんな素材っすか!」

「クイーンアントの甲殻です。硬度が高いわけじゃないですが、綺麗な色みだったので装飾品に使えるんじゃないかと思いました」

「おお! これは鉱石や貝とも違った独特な光沢に紫がかった色み! ありがとうございますっす! これは絶対に使えるっすよ!」

クイーンアントの甲殻を見つめながら大はしゃぎするロスカ。

喜んでもらえたようでよかった。

「次はソルジャーアントの甲殻です」

「おお、そいつはいいな。それなりの硬度がある上に軽いから駆け出しから中級の冒険者に人気の防具素材だ。商品にすれば、売れないことはまずない」

こちらはクイーンアントほど稀少な素材ではないが、鍛冶師にとって手堅い売り上げを出してくれる素材のようだ。

「とにかく数がたくさんあるのですが、どれくらい買い取っていただけます?」

「ふむ、在庫があるなら五十枚ほどくれ。足りなければ、追加で注文したい」

「わかりました。では、後ほど追加分を持ってきますね」

「頼む」

ソルジャーアントの素材については百単位であるので、こちらの在庫が早々に切れることはない。追加分がきても問題なく納品できるだろう。

「あと美食保護区とは関係ないのですが、先ほどガラスネズミの水晶を採取しました」

「ガラスネズミの水晶っすか? あー、あんまり品質が悪いと、装飾には使えないっすよ?」

ガラスネズミの水晶について詳しいのか、ロスカが心配げな顔をする。

「安心してください。ほぼ劣化せずに採取してきましたから」

そう言って、マジックバッグからガラスネズミの水晶を取り出した。

すると、ロスカが驚くような速さで水晶を手に取った。

「透き通るようなこの輝き! 魔力が抜けてなくて一切劣化してないっす! こんなに綺麗なガラスネズミの水晶は初めて見たっす!」

灯りに水晶を透かしながらキラキラとした瞳を浮かべるロスカ。

「これだけ綺麗なら装飾品にも使えますかね?」

「使えるに決まってるじゃないっすか! シュウさん、ありがとうございますっす!」

「よ、喜んでもらえたのならよかったです」

ロスカがこちらの手を握ってブンブンと振ってくる。

興奮しているせいか獣人の膂力がいかんなく発揮されている。

肩が外れてしまいそうだ。

「次のフリーマーケットはクイーンアントの甲殻とガラスネズミの水晶を使った装飾品にするっす!」

買い取りが終わると、ロスカが素材を手にして意気揚々と叫ぶ。

お土産の品々は、どうやら彼女の創作意欲を刺激するものだったらしい。

素材たちもマジックバッグの肥やしにされるより、ロスカの手に取って綺麗な形に生まれ変わる方が本望だろう。

次のフリーマーケットがとても楽しみだ。