軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第732話 擬装襲撃

俺達は更に南へと進み、街道にほど近い森の中に潜んだ。時間が経てば大蛇の通り道を辿って、後ろからも追手の人形たちがやってくるだろう。前の街道からは、百体を超える人形が押し寄せている。

《シャーミリア、俺の位置が分かるか?》

先行し、敵の増援部隊を監視しているシャーミリアに念話を繋いだ。

《はいご主人様。このまま進軍すれば、あと数時間でそちらに接触するかと思われます》

《了解だ》

俺とギレザムとマキーナの後ろに、双頭の大蛇を従えたキチョウカナデがいる。大蛇はおとなしくとぐろを巻いて佇んでいた。こんな恐ろしい大蛇を使役できる魔力量は、異世界人ならではだ。

「カナデは透明化の魔法を行使できるかな」

カナデは既に魔獣の大量使役で魔力を消費しているので、透明化の魔法を使えるかを確認する。

「一人だけなら出来ます」

「十分だ」

カナデは生きている物なら、その装飾品ごと透明化出来る魔法を使う。水魔法で生体の何かに水蒸気をまとわりつかせて、光魔法でそれを屈折させて見えなくさせているのだと、モーリス先生が解析していた。

「これから鏡面薬を使うが、それは時間と共に効果が無くなる。そうなったらカナデは自分の魔力で透明化してくれ」

「わかりました」

「俺達も透明化し、俺とギレザムが大蛇の両脇に着く。マキーナは大蛇の上に乗って取りついてくる人形を落とせ。カナデはマキーナと一緒に大蛇に乗ってくれ」

「「は!」」

「わかりました」

「マキーナはカナデを守ってくれよ」

「承知しております」

敵の隊列にデモンがいないとなれば、俺達の気配を察知される事はないはずだ。それを見越して、俺は透明化して戦いに臨んでみることにしたのだった。俺達が待っているとシャーミリアから念話が来る。

《ご主人様、もうすぐ接触いたします。魔獣の大群が見えます》

《了解だ。シャーミリアはこっちに戻ってきてくれ》

《は!》

言ってほとんど間を置かずに、超高速飛翔で戻ったシャーミリアが俺の側に立った。

「よし」

俺が着ているヴァルキリーの腕を前に差し出すと、一部がパカっと開いた。これはミーシャがグラドラムから持ってきた、ヴァルキリー用の新装備だ。まあ…ただの収納ケースなんだけど、召喚武器以外を携帯出来なくて困ると相談していたら、作ってくれたみたいだ。バルムスって何でもできる人なんだなあってつくづく思う。

四人が俺のケースから、鏡面薬カプセルを取り出した。

「あとこれを使う」

「「「は!」」」

俺が召喚したのはM9火炎放射器だ。銃は一切使わずこれで対抗する事にする。

「シャーミリアは上空から見て、双頭の大蛇に取りつきそうな人形の確認を頼む」

「かしこまりました」

「行こうか」

「「「は!」」」

「はい」

俺達は鏡面薬で体を不可視化し街道の方に進んでいく。双頭の大蛇だけが見えている状態だった。もちろん見えていないと意味がない。森の側から街道を見れば、小型の魔獣が大量にぴょんぴょんと跳ねている。

「いるいる」

「どうします?」

カナデが聞いてくる。

「攻撃はしなくていい、とにかく敵から逃げるようにさせろ」

「はい」

「ご主人様、人形軍団が来ました」

シャーミリアが言う方向を見ると、大量の人形が押し寄せてきている。そしてそれらは、魔獣の大群を前にして侵攻を止めるのだった。人形の集団の中に馬車が数台あった。

「あの馬車の中に人間が三人おります」

「了解だ」

どうでるか…

俺達が監視していると、止まっていた人形達は剣を手に、小型の魔獣へ切りかかり始めた。

「カナデ、とにかく魔獣たちには攻撃を避けるようにさせてくれ」

「はい」

魔獣たちはぴょんぴょんと素早く攻撃を避け始めた。人形にはオーガ並の能力があるようだが、小型の魔獣の俊敏さに攻撃をあてることが出来ないでいるようだ。人形と魔獣たちの乱戦が始まったので、俺達はすぐに作戦を決行する事にした。

「行くぞ」

すうっと双頭の大蛇が森を出て、透明化した俺達もそれに合わせて街道に出て行く。小型の魔獣に気を取られているのか、まだこちらが来た事に気が付かないようだ。

《大蛇のブレスで焼く!魔獣をどけて射線をあけさせろ》

大声で叫べば敵に気が付かれてしまう為、あらかじめカナデの後ろに座らせたマキーナに念話で伝える。俺がマキーナに念話で指示を出すと、小型魔獣が一気に左右に動いた。そこに残された人形数体に、双頭の大蛇が吐き出したブレスが一気に広がって行く。ゴオオオ!と勢いよく燃え盛って行く炎。

《やっと気が付いたな》

《《《は!》》》

双頭の大蛇に気が付いた人形たちが、こちらに数体向かってきた。だが小型の魔獣が邪魔をしてなかなか前に進むことが出来ないでいる。他の人形もその場所に集まって来た。

《ハマった!》

カナデが再び小型魔獣を一気にどかして、そこにブレスを叩きこんだ。そのタイミングと同じくして、俺とギレザムも火炎放射器を放出する。名付けて双頭の大蛇、火炎マシマシ作戦だ。

《マキーナ、次は大蛇に右手を攻撃させてくれ》

《は!》

双頭の大蛇の背に乗ったマキーナから、カナデに指示が伝えられる。さっきと同じように小型の魔獣が左右に分かれて、そこにブレスが通った。そうして人形は少しずつ削られて行くのだった。やり方は面倒だが、巨大な森の主が小型の魔獣を従えて襲っている図が出来上がった。と思う。

《ご主人様、左舷から数個の人形が接近しております》

《了解》

俺は不自然にならないように、双頭の大蛇の頭のそばに行き左に火炎を照射する。なかなか消えない火炎放射器の火に、人形達は燃えつくされていくのだった。人形が双頭の大蛇にとりつこうと思っても取り付けないでおり、露払いは俺とギレザムがやった。

火炎マシマシ作戦!めっちゃ上手くいってる!

《マキーナ、もっと魔獣を暴れさせてくれ》

《伝えます》

すると小さい魔獣たちが、ぴょんぴょん跳ねながら人形を撹乱していく。人形が少しずつ数を減らしていき、小型の魔獣達の勢いが増してきた。

《ヒャッ!ハァァァ!燃やせ燃やせぇぇぇぇ!》

もちろん今の心の叫びは俺の本心だ。そんな凶悪極まりない悪党に、燃やしつくされていく人形達。かわいそうに。

《そろそろ次の段階に》

ギレザムが冷静に言う。

《そ、そうだな》

俺がノリノリで人形を焼いていると、ギレザムが冷静に次の行動に移るよう促してきた。

《マキーナ!双頭の大蛇に馬車を襲わせろ!もちろん中の人間を殺さないようにな!》

《伝えます》

小型の魔獣と双頭の大蛇と火炎放射器のコンビネーションで、人形を焼きつつも馬車の方へと近づいて行く。すると馬車の前には、八本足の馬スレイプニルが居た。

《あれは、殺したくないんだが》

《伝えます》

双頭の大蛇が鎌首を上げてスレイプニルを睨みつけると、スレイプニルは怯えるように右往左往するのだった。

ビュゥオオオオオ!

双頭の大蛇のもう一つの頭が、スレイプニルめがけて大量の冷気を吐き出した。するとスレイプニルがみるみる氷に包まれていく。足を止められたスレイプニルは、身動きが出来ずに恐怖の眼差しを大蛇に向けていた。

《よし!このぐらいでいい》

双頭の大蛇が再び寄り付こうとしていた人形に火炎を吐いたので、俺とギレザムもそれに合わせて大量に火炎放射器から炎を吐き出した。そのせいで焼けた人形が積み上がり、後続が足を止められる。

《よしよし!ギレザム!景気よくやっちゃって!》

《は!》

《マキーナは、カナデに馬車を上手く破壊するよう指示を。中の人間は殺すな!》

《は!》

ブン!と大蛇が尻尾を振ると、馬車の屋根が綺麗に吹き飛んだ。戻ってきた尻尾が側面をガツンと削ると、中に三人の人間が固まるようにして座っていた。乗っていた人間は普通の町民のような恰好をしている。

「ひっひぃぃぃぃぃぃ!!」

男が叫び、その男の前に双頭の大蛇が鎌首を上げた。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ、アッ!!アンフィスバエナだぁぁぁぁ!」

なるほど。この双頭の大蛇はアンフィスバエナとか言う名前なのか。こっちじゃメジャーな魔獣なんだろうか?

「どうしてこのような場所にアンフィスバエナが!」

「そんな事より、逃げなくてはいけないわ!」

「食われるぞ!」

人間達が馬車の反対側から降りようとするので、アンフィスバエナが尻尾でそれを阻止する。

「だ、だめだぁぁぁ」

「どうしたら!」

「まずい!」

人間達は、頭をかかえて馬車の中央に固まってしまった。

《シャーミリア!馬車の中の人間にデモン干渉があるか確認してくれ》

《確認したところ、三人とも干渉は受けていないようです》

《了解だ》

それを聞いた俺は馬車に近づいて三人を良く見る。男二人に一人は女だった。男のような恰好をしていたので気が付かなかった。

《怪我をさせずに捕らえられるか?》

《伝えましょう》

すると今度は冷気を吐くアンフィスバエナが口を開けた。

ん?ちゃんと伝わった?冷気を吐かないよね?

キャァァァァン!!!

いきなり高音の音が鳴り響いた。アンフィスバエナが口から威嚇音を発したらしいが、相当うるさくて少し頭がクラクラした。三半規管がやられたのかもしれない。気がつけば馬車の上の人間達は、皆倒れ込んでいたのだった。気絶してしまったらしい。

《捕えろ》

するとアンフィスバエナは、その三人をガバっと口の中に入れてしまった。

《食うなよ》

《大丈夫だそうです》

《わかった》

冷気を吐く大蛇の口に人間三人がすっぽりと入り込む。

《離脱しよう、その前に人形は始末しておく。小型の魔獣たちを一気に森にひかせてくれ》

《はい》

俺が指示を出すと、小型の魔獣が一気に森の中に消えて行った。何匹かはやられてしまったようだが、人形たちの攻撃を避け続けて無事にお役御免となったのだ。小型の魔獣が居なくなり人形だけになったため、一気にアンフィスバエナの方へと突撃してきた。

《薙ぎ払おう》

アンフィスバエナの炎と、俺と魔人たちの火炎放射器が一斉に火を噴いた。ゴオオオオオ!という音と共に一気に人形を焼き尽くしていく。

《ギレザム、全部燃やし尽くすわけにはいかない。岩を投げて数体の足を破壊してくれ》

《は!》

俺の見ているそばで、足元に転がるソフトボール大の岩が浮き上がる。それが思いっきり人形の足めがけて飛んでいくのだった。ボゴォォ!と音を立てて、人形の足が壊される。大量の炎が放出される中で、次々と岩で足を破壊されていく人形達。その作業を続けているうちに、とうとう身動きが出来る人形が居なくなってしまった。

《離脱する、馬車も燃やせ》

《《《は!》》》

そして俺達は燃え盛る馬車と人形たちを尻目に、その場所から森へと離脱していくのだった。不自然かもしれないが、敵は魔人が攻撃をしたと確証を得る事は出来ないだろう。敵が搦め手を使って来るのなら、こちらも搦め手を使うのは当たり前だ。これから、また俺達は敵の出方を見る事になるのだった。