軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第733話 捕らえた商人

俺達はすぐさま森に向かって逃げ込んだ。じきに追手が来て、あの人形たちの残骸を見つけるだろう。

「カナデ。小型魔獣の使役を全て解けるか?」

「放っておけば、じきに切れます」

「了解だ」

魔力の影響が無くなればカナデの使役は解けるようだ。やはりイオナの『手懐け』とは違って、切れればその効果は無くなるらしい。ひと時だけ、魔獣の力を借りるのならばカナデの能力は有効だった。

「この子はどうします?」

カナデがアンフィスバエナを見て聞いてくる。しかもこんな巨大な大蛇を『この子』とかいってるし。

「コイツはひとまず山脈まで連れて行こう、さっきの川を上流に向かって行けば追手も撒ける」

「はい」

そうして俺達は森を進み、再び川にたどり着いた。そのまま山脈方面へと進む。川を遡っているうちに、鏡面薬の効果が薄れ始めて、俺達の体が露わになった。山脈に入ると徐々に岩肌が現れ始める。

「よし、ここまで来れば偽装は終わりだ」

「人間を襲ったアンフィスバエナが、山に帰って行ったという形にはなりましたね」

ギレザムが言った。

「まあ単純に引っかかってくれるかは分からんけどな。とにかくこいつは拠点まで連れて行く」

「わかりました」

俺が言うと同時に、前方の岩の陰から人が出てきた。

「ラウル様」

「カララ、ご苦労さん」

「お迎えにあがりました」

俺はアンフィスバエナの輸送のために、カララを呼んでいた。魔力回復の為、カナデを早く休ませてやりたかったのだ。

「よし、カナデはここまででいいぞ。ギレザムはカナデを背負ってあげてくれ」

「は!」

「私は大丈夫です」

そう言ってカナデがアンフィスバエナから降りてくるが、ふらついている。魔力の使い過ぎで、体がいうことをきかないのだろう。ギレザムはカナデの言う事など聞かずに、グイっとお姫様抱っこをしてやった。

「あ…」

「よい、お前は十分に働いた」

「あの、ありがとうございます」

カナデは照れたように頬をそめている。そして、アンフィスバエナをカララが糸で巻いて持ち上げた。

「拠点に戻るぞ」

「「「「は!」」」」

カナデは既にギレザムの腕の中で眠っていた。ここまでかなりの魔力を使ったので、本格的に休ませる必要がある。

「カララ、村の様子はどうかな?」

「あれから目立った動きはありませんでした。森で捜索していた人形たちも、ラウル様の計画通り戦闘場所に集まったようです」

「よしよし」

「あとは、自然に魔獣が隊を襲ったと思ってくれるかどうかですね」

ギレザムの言うとおり、敵が勘違いしてくれれば万々歳だが、マキーナの言うようにこの襲撃は不自然でもある。俺達の存在に敵が気が付いて、行動を起こしてくる可能性も否定できない。今のところ、この作戦がどこまで有効かは不明だった。

「ラウル様!」

今度はゴーグが現れた。

「ゴーグ!皆を守っていてくれたか?」

「はい!」

拠点周辺を哨戒していたゴーグが、ジッとアンフィスバエナを見てゴクリと唾を飲みこんだ。

「ラウル様。これはどうするんです?」

「今はまだ決めていない。状況によってはまだ働いてもらうかもな」

「それが終わったら?」

「山に帰すつもりだ」

「えっ!食べないんですか!」

なるほど。ゴーグはこれを食べたかったらしい。だがここまで俺達の為に頑張ってくれた奴を、食うわけにもいかない。

「ゴーグ。コイツはここらの主かもしれない。生態系が壊れたらまずいから、自然に戻さないといけないよ」

「うーん…わかりましたー」

ゴーグが残念そうに言った。確かにこのオーガ三人組と一緒に食べた、レッドヴェノムバイパーはウナギのような味がして極上だった。あの時は俺達を襲ってきたため殺したのであって、今回は俺達の都合でこき使ったのだ。そいつを用済みだからと言って食うのは、なにか違う気がする。

「ゴーグよ、このあたりにも魔人がいるのだ。そ奴らはこれに守られているのかもしれん。ラウル様のおっしゃる通りに自然に帰さねばならん」

ギレザムがゴーグ諭す。

「分かったよギル。ラウル様がそうおっしゃったのだから、俺は食わないよ」

ゴーグがちょっと不貞腐れたように言った。

「まあ確かに、前に食ったレッドヴェノムバイパーは美味かったからな。コイツがこの山脈に居たって事は、他にも似たような奴がいるかもしれないだろ。そいつを見つけて食うならいい」

俺がそう言うと、ゴーグの顔がパァァァァァと明るくなる。

「本当ですか?」

「まあ、見つけたらな。もしかしたらアンフィスバエナ自体が稀な魔獣かもしれんから、あまり期待はしないでくれ」

「わかりました!楽しみができました!」

食いしん坊のゴーグと話しながら拠点に着くと、皆が出迎えてくれた。

「カナデ、着いたよ」

「…う、うん。は、はい!」

カナデは相当疲れているようだ。だが最後に一つやってもらわなばならない事がある。

「捕まえてきた人間を、アンフィスバエナの口から出してくれ」

「わかりました」

カナデがアンフィスバエナをじっと見つめると、冷気を吐く方の頭の奴が首を降ろして人間を吐きだした。唾液でどろどろになっているが、溶けたりはしていないようだ。まだ気を失っているようだが、息をしているので生きているのは間違いない。

「よし、ギレザム。カナデを車両へ」

「はい」

ギレザムはカナデを、テント代わりのRG-33L装甲車の中へと運んで行った。カナデにはしばらく休んでもらう必要がある。

「カララはこいつを森に隠してきてくれ」

「かしこまりました」

アンフィスバエナはカララに持ち上げられたまま、森の方へと消えていく。俺達の目の前には、アンフィスバエナの唾液でどろどろになった人間が、気を失って横たわっていた。

「アナミス、こいつらを調査したい」

「かしこまりました」

アナミスがやって来て三人の傍らへしゃがみ込む。すうっと、アナミスから靄が出て来て人間を包み込んだ。

「この者達は、デモンの干渉も魅了も受けておりません」

「オッケー。それじゃ、カトリーヌ。この三人に回復魔法を」

「わかりました」

アナミスと代わるようにカトリーヌが来て、三人に向けて手をかざす。

「ヒーリング!」

すると三人の体がボワンと輝いて、すぐに収まった。悪かった顔色が戻ってくる。

「よし、じゃあカトリーヌとマリアは車両へ行って、カナデを頼む」

「「わかりました」」

「ファントムはこっちに来い!」

《ハイ》

ファントムが俺のもとへとやって来る。そして三人の前にファントムをしゃがませて、にらみを利かせるようにした。俺はヴァルキリーを着たままで、アナミスをファントムの後ろへと回らせる。

「みんなは適当に隠れてくれ」

「「「「「は!」」」」」

シャーミリアとマキーナ、ギレザム、ゴーグ、ガザム、ルフラが俺達のまわりから消えた。この三人の視界には、ヴァルキリーを着た俺とファントムしか映らない。

「じゃアナミス、彼らを起こしてくれ」

「はい」

アナミスから赤紫のモヤが出て来て、三人の人間を包み込んだ。

「…うん…」

「…あ…あ…」

「うう…」

三人はうめき声を上げて少しずつ目を覚ます。そして最初に目に入って来たのがファントムの顔だった。

「ひっ!」

「うわ!」

「きゃあああああ」

「静かにしろ」

俺が声をかける。すると三人はヴァルキリーを着た俺の方を向いた。

「騎士様?」

鎧を着ているので騎士に見えたらしい。女が俺を見てそう言った。

「質問だけに答えろ。こちらへの質問は無しだ」

俺がそう言うと、俺とファントムをきょろきょろと交互にみてからコクコクと頷いた。自分達が置かれている状況が分かって来たらしい。

「俺達はお前たちを、恐ろしい大蛇から救った。もう少しで食われるところだったが、無事でよかったな」

「あ、ありがとうございます!」

三人が恐縮しながら礼をし、さらに女が俺に聞いてくる。

「あ、あなた方は?」

「おい、質問はこちらからだと言ったはずだが?」

「すみません…」

「お前たちは何者だ?」

「は、はい。私たちはアラリリスの商人でございます」

一人恰幅の良い男が言う。どうやらこいつがこの商人達の主らしい。

「お前たちもか?」

「私は娘です。この父についてきました」

「私は御者でございます」

「アラリリスから商売をするために来たって言うのか?」

すると三人は顔を見合わせて、すぐには答えなかった。答えようか迷っているような感じだ。

《ファントム、ガオーってやれ》

「ガーーー!!」

ファントムに威嚇されて三人は思いっきり委縮した。言葉を発する事も出来なくなってしまったようで、これ以上ないくらい真っ青な顔をしている。流石にファントムを焚きつけたのは悪かったかもしれない。

「今ならこいつは俺が抑えられる。でも俺でも抑えられなくなったらどうなるか分からないぞ!」

もちろん俺がファントムを抑えられない訳はないのだが、とりあえず嘘をつく。

「わ、わかりました!どうかこのお方に穏やかになさるように言ってくださいますか?」

「わかった。おい、ちょっと落ち着け」

ファントムはただ口を閉ざす。ただ俺の言う事を聞いているだけだが、荒ぶるファントムを抑えた形にはなっただろう。

「私達は商いをしに来たわけではございません。指示をされて物資を運んできたのです」

「指示をされた?誰にだ?」

「それは…」

また言葉を濁らせようとしたため、ファントムをけしかける。

「は、はい!あの、新しい王の勅命です。直接はお会いしたことは無いのですが、その使者様より申し付かって来た次第でございます」

「王?王が物資を届けろと?」

「はい」

《アナミス、こいつらに嘘は?》

《ございません》

どうやら嘘はついていないようだった。一介の商人に王が勅命を下したらしい。

「お前達だけで来たのか?」

もちろん人形たちと来た事は知っているが、知らんふりをして聞いてみる。

「護衛と一緒にまいりました」

「その護衛は冒険者か何かか?」

「いえ、王の軍です。王が私たちの護衛にと遣わした兵隊でございます」

「なぜ、商人ごときに軍が護衛をする?」

「わかりません。私たちはただ言われた事をやるだけなのです」

「商売にならんのじゃないか?」

「商売など、とうの昔に店じまいです」

「店じまい?」

「はい。私たちの暮らしは、ある時期を境に一変してしまったのでございます」

商人の雰囲気が変わったのが見て取れる。何かを話そうとしている顔になったようだ。ようやく、隠している事を話す気になったのかもしれない。

「一変しただと?何が変わった?」

「あなた方は、もしやシン国の御方でしょうか?」

「質問はこっちからだ」

「失礼いたしました」

「その変わった内容を聞かせてもらおうか」

「わかりました」

それから商人は、俺達に事の顛末を話し出すのだった。