軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第731話 追跡者

やはり双頭の大蛇から抜き取った剣には、何か細工がなされていたのだろう。追跡者は剣を追って来たようで、人形が剣の周りを彷徨い歩いている。

「ギレザムの言うとおりだったな」

「思念の糸のようなものでしょうか?手繰って来たように思われます」

「そうかも知れないな」

そこに大蛇が居なかったので、人形達はウロウロと周囲を探し続けていた。小型ドローンのブラックホーネットナノから送られてくる映像には、複数の人形があたりを探している様子がうかがえる。

「どうやら、大蛇が逃げた跡を見つけたようだぞ」

「そのようですね」

双頭の大蛇が逃げる時に、巨体で押しつぶした草木の跡を見つけた人形たちが、ぞろぞろとそちらの方に向かって歩いて行く。あたりを警戒して歩くところなどは、まるで人間のようだった。

「グレースのゴーレムより、よっぽど高性能だな」

「まるで意志があるかのようです」

「だな」

「ご主人様。やはり、あの人形は私奴の気配探知にはかからないようです」

「シャーミリアの気配感知にかからないか…」

「はい」

「双頭の大蛇はどうしたかな?」

俺の問いに、大蛇を使役しているキチョウカナデが答える。

「この先に川があり、そこを山脈に向けて登っています」

「痕跡は消せていると言う事か?」

「はい」

人形たちが散開して周辺の確認をしだしたが、そのうちに川にたどり着いて、その痕跡を見失ってしまったようだ。あたりをきょろきょろと見渡しているような動作をしている。

「カナデ、今大蛇はどのあたりにいる?」

「川の上流に五キロです」

「そうか」

それなら、しばらく見つかる事は無いだろう。

《カララ、そちらから見て村に変化はあるか?》

カララに念話を繋げた。

《特に動きは無いようです》

《了解だ》

「村に動きが無いとすれば、敵さんは商隊を出すのをあきらめたかな?」

するとマキーナが答えた。

「むしろあの村で異常が出たとなれば、南から新たな援軍が送られてくる可能性があるのではないでしょうか?」

「確かに、南にデモンが居れば既に伝わっているだろうからな」

「恐らくそれまでは、商隊は出さないのではないかと」

「出さないかな?」

「魔獣の襲来にせよ魔人の襲来にせよ、異常値は異常値だと思います。確かに魔獣が人間の村を襲う事は、まれに起きる事かもしれませんが、このあたりには小型の魔獣しかおらず、あの大蛇の襲撃で敵はかなり警戒しているのではないかと推測いたします」

「ならば現状様子見をしてるって事か。援軍もありうるだろうな」

援軍を送るとはいえ、到着までは数日はかかる事になる。事を急いても仕方がないので、状況を見極めて作戦を進めていく必要がある。

《村に動きがありました》

カララから念話が飛び込む。

《状況は?》

《更に複数の人形が放出されました》

《了解だ。どちらに向かっているか分かるか?》

《恐らく先行した人形を追っているかと》

《了解だ》

やはり敵はかなり警戒している。俺は双頭の大蛇の襲撃を、事故のように演出しようと思ったのだが、敵は故意にやっている可能性を考慮しているのだろう。今度の敵は一筋縄ではいかないようだ。北の大陸で戦った敵とは一味違う。

「先行側が不利になるな。奇襲は危険だろう」

もちろん、人間達の安否を無視すれば攻略は容易いのだが、生きた人間を巻き添えには出来ない。

「ご主人様、よろしいでしょうか?」

「なんだい?マキーナ」

「我々が敵の援軍を襲撃すれば、村に被害は出ないのではないでしょうか?現状、戦力はあの人形しか確認されていません。大蛇と戦った様子を確認してもその力は弱かったです。我が軍が、援軍を叩いたとしても、挟み撃ちの脅威は低いかと愚考します」

「まあ、そうかもしれない。だが万が一村にデモン召喚の魔法陣があって、それを発動させられたとしたら、大量のデモンに挟み撃ちにされてしまうぞ」

「はい。これは一つの賭けになるのですが、敵の援軍を襲撃するのと同時に、村人の救出を行うことは出来ないでしょうか?」

「確かに俺もそれはありかと考えた。だがやはり、救出時にデモン召喚魔法陣を発動させられたらまずい」

「大変失礼しました。私の考えが及びませんでした」

「だがその作戦も悪くはないよ、その前に敵が援軍を出すか確認する必要がある」

するとシャーミリアが言う。

「それであれば、私奴が先行して確認致します」

マキーナの案を活かしたいようだ。

「だな。それならば襲撃するのが、俺達の軍じゃなくてもいいわけだ」

すると今度はギレザムが答える。

「また魔獣を使いますか」

「そうだ」

「大蛇に援軍を襲わせるわけですね?」

「いや…ここからはカナデと相談なんだが」

「なんでしょうラウル様?」

カナデが俺に近寄って聞いてくる。何というか…このキチョウカナデというやつは、パーソナルスペースの感覚がおかしい。近寄る顔の距離が近い。恐らくはこういう癖なのだろう。シャーミリアとマキーナがその距離に顔をしかめる。だがカナデは空気を読まなかった。

「複数の魔獣を使役出来ないか?」

「出来ると思います」

「大量の小型の魔獣を、なんだが」

「大量にですか…、さすがにコントロールが難しいと思います」

「コントロールしなくていい、ただ街道沿いに出没させるだけでいいんだ」

「それであれば問題ないかと」

「すぐに取り掛かろう」

もちろん援軍が送られてくる可能性は無いかもしれないが、相手が二重三重に警戒の網を仕掛けてくる以上、こちらも攪乱の罠を何重にもかける必要がある。じきに気づかれてしまうだろうが、このままではらちが明かない。

「ではやりましょう」

「ああ」

シャーミリアが援軍の有無を確認するため飛んでいった。俺とギレザムとマキーナは、カナデを連れて南へと移る。もちろん敵が出した人形に、遭遇する事の無いように慎重にだ。

「カナデ、大蛇は今どうなってる?」

「まだ敵には、見つかってません」

「あれはまだ使える、敵が迫ったら逃がすんだ」

「わかりました」

移動しながらもドローンから送られてくる映像を見ているが、人形たちはいまだに川の周辺を探索していた。追加の人形たちも合流したようで、そのあたりをごちゃごちゃと探し回っている。

「ギレザム、あれはいつまでやってんだと思う?」

「やはり見つけるまでではないでしょうか?」

「諦めないかな?」

「どうでしょう?」

俺達は人形のいる場所を迂回し更に南へと向かった。

《ご主人様。やはり援軍が出されております》

敵を視察に行った、シャーミリアから念話が来た。

《やっぱりそうか、マキーナの読み通りだな》

《そのようです》

《規模は?》

《人形でございますが、百体はいるかと。馬車を引いており人間もおります》

《ならばこのまま作戦を進める。シャーミリアはそのまま監視を続けてくれ》

《かしこまりました》

マキーナの推測どおり敵は援軍を出していた。思ったより数があり、敵が警戒していることが分かる。少しずつ様子見をするように動いているのが不気味だった。

「よし!このあたりでやるぞ!」

援軍の待ち伏せ作戦を始めるのだった。カナデが俺たちに指示をだす。

「ではすみません。小さな魔獣を集めていただけますと、ありがたいです」

「まかせろ」

そして俺はギレザムとマキーナに指示を出し、このあたりにいる小型の魔獣の捕獲をし始めた。小型の魔獣は、なかなかにすばしこくて簡単には捕まらない。ギレザムとマキーナはいとも簡単に捕まえてきて、キチョウカナデの所に連れて行く。

「くそー、なんで捕まえられないんだ」

俺は悪戦苦闘しながら、捕まえた小型魔獣をカナデの所に連れて行く。カナデのもとに連れてこれらた小型魔獣は、片っ端から使役され、次々とカナデのもとから街道に向かって走って行く。俺たちは、ひたすら狸のような魔獣や狐のような魔獣を捕獲しては送ってやるのだった。

《シャーミリア、そちらはどうか?》

《人形たちは眠りを必要としていないでしょうから、この進行速度であれば二日かかると思います》

《了解》

どうやらあの人形部隊の速度で二日以上かかる距離に、次の拠点があるようだ。デモンが動いたならもっと早いと思うが、敵はなかなか本丸を動かしてこない。ならばこちらもギリギリまで本隊を動かす事は無い。後出しじゃんけんだ。

「ふう。このくらいでいいだろう」

「「は!」」

ギレザムとマキーナが俺のもとへとやって来る。カナデは必死に魔獣を使役していたが、最後の一匹を終えたようだった。カナデがヘナヘナと座りこんだ。

「ふう」

「疲れたか?」

「申し訳ありません。魔力がなくなったのかもしれません」

「大丈夫だ。例えばカナデが寝ている時、使役している魔獣たちはどうなる?」

「言われたとおりの事をするだけです」

「それなら、ちょっと睡眠をとってくれ。魔力の回復を図らないといけない」

「わかりました」

俺はすぐさま一人用のテントを召喚して、ギレザムと一緒に設置した。そこにキチョウカナデを押し込んで護衛する。

「上手く行きますかね?」

「どうかな?とにかく情報が無さすぎて、手は限られている」

《ラウル様、村から更に増援が出されました》

今度はカララから念話だ。

《マジか。いったいどれだけいるんだ、あの人形》

《分かりません》

《村では、そんなに見かけ無かったけどな》

《先に出た人形は、戻ってもいないようですので、お気をつけてください》

《了解》

俺は再び監視用のドローンを召喚する。小型魔獣を捕獲している間に、先に飛ばしていたブラックホーネットナノは戻していた。バッテリーが切れている。ドローンが森の中を飛び回り、人形の影を追った。

「まだいるな」

「そのようですね」

俺が言うとギレザムが答える。モニターに映る人形は、双頭の大蛇が消えたあたりを、集中的にさがしているようだ。だか少しずつ、その捜索の輪を広げているようだった。

「しつこいな。てか、やっぱ、あれはやめないだろうな」

「かと、思われます」

「だと、大蛇が見つかるのも時間の問題だ」

「連れて来てはいかがですか?」

「カナデが寝てるけど」

「おこしますか?」

「いや、後一時間まて」

「はい」

今はカナデの魔力を復活させる方が先決だった。俺たちのいるところに捜索の手が伸びるまでは、まだ時間がかかるだろう。

それからきっかり一時間後、カナデを起こして大蛇を俺達のもとに呼び寄せる指示をだす。カナデはかなりダルそうだったが、なんとかなりそうだった。

「ギレザムがカナデを背負ってやれ」

「は!」

「わっ私はっ、だ、大丈夫ですよ!」

「いや、カナデよ!遠慮はいらぬ。乗れ」

「は、はい」

カナデは照れているのか、頬を染めながらギレザムの背中におんぶした。そうしているに、双頭の大蛇が俺たちのもとへやってくるのだった。