軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第474話 永遠の服従

深い暗闇に何者かが立っていた。

その暗黒空間はどこまで続いているのか、そしてそこがどこなのかさえ良く分からない。どこまでも続く闇の中に、その者はただ茫然と立ち尽くしていた。

「なんだ…ここは?」

牛の角とコウモリの羽を生やして、美麗な顔をした者が周りを見渡している。その者の名はアスモデウス、高位のデモンで古から闇に潜む存在だ。

しかしその高位のデモンですらこの空間は異様だった。普通の人間の精神世界とは全く違う空間がそこにある。

ざわざわざわざわ

暗黒が震えまとわりつくようにアスモデウスの周りに蠢いている。まるで暗黒の虫が大量に湧いている場所で、それが視界を埋め尽くしているかのように。

「で、出なくては。こんなところ…」

自分が入って来た道筋を探すがどこにも見当たらなかった。自ら侵入してきたのだから見失うはずがないはずの道筋を見失ってしまったのだ。

「どこに…。」

ひそひそひそひそ

何者かが、あざ笑うかのように、そして見下しているように感じる。

「お前はここの主か?」

ひそひそと笑い声がする方に声をかけてみる。自分が潜り込んだはずの本体がそこにいるのだと思ったらしい。

しかしその暗黒から答える者は誰もいなかった。

「ふっふははははは!怯えているのか?なぜ我の前に姿を現さんのだ?」

挑発するように話しかけてみるが暗闇は何も答える事が無い。

アスモデウスは精神力を振り絞りその暗黒に気をめぐらせてみる。すると何かがいる感覚が伝わって来た。

「恐らくこいつの核か?」

気配のする方に歩き始める。歩くたびにザラつくような、体を虫が走るような感覚を覚える。だが高位のデモンたるアスモデウスは恐れる事など無かった。圧力さえ感じる闇を押しのけて気配のする方向へと進む。

だが…

あれからどのくらい歩いたのか?むしろ一歩も歩いていないのか?反対の方向に歩いてしまっているのか?感覚が狂ったようだった。

「なんだ…こんなことが?」

次の瞬間だった。

バシュッ

全く気配がしなかったはずなのに、後ろから自分の右を何かが走った。

「なに!?」

前から恐ろしいほどの殺気と圧力が押し寄せて来た。自分がそこに立てている事すら不思議に思えるほどの物凄い殺気だった。

目の前の暗黒の中に何かがいた。

しゅううううぅぅぅ

その何かが息を吐いた。

「お前が核か?」

ぐりゅぅぅぅぅぅ

薄っすらと暗黒の中にその姿が浮かび上がってきた。

「なっ…。」

それは1匹の獣だった。いや…獣と呼ぶにふさわしいのかすら分からない。

恐ろしいほどの狂気を感じさせる獣。

長い後ろ髪が針のように逆立っていた。数本のいびつで恐ろしく尖った角が背中いっぱいに生え、不ぞろいに長く伸びている。4本の手が両脇から生えており、何本あるのかわからない指には、長い爪が鋭く伸びていた。顎は耳まで裂けており‥‥その口には…何かが咥えられていた。

「う、美しい。」

つい呟いてしまう。

そしてよく見ると…咥えられているのは自分の腕だった。

自分の右腕。

「お、お前…。」

するとその獣とは違う方向から声が聞こえて来た。

「馬鹿!食うな。腹を壊すぞ。」

「誰だ!?」

気配はしないのにハッキリと声だけが聞こえた。しかしその獣はその闇の声の言う事を聞くことなく、腕を咀嚼して飲み込んでしまったのだった。

「馬鹿め。」

暗闇の声が言う。

じゃぶじゃぶと音がする。どうやら目の前の獣が涎を大量にたらしているようだ。

「マズイ!」

獣が叫んだ。

「だから言ったろう!腹を壊しても知らんぞ。」

「ウルサイ!コロス!」

ガチガチガチガチ

獣が牙を鳴らして大きく口を開くと、蛇のように波打つ長い舌がどろりと吐き出された、舌は大蛇のように暴れているようだった。その舌の先にはさらに鋭い牙の生えた顎がある。

「何という…。」

「ガギャァォゥゥゥゥッ!!!!」

まるで自分の存在を押し潰してしまいそうなほどの鳴き声を、その獣が吐き出した。

アスモデウスの背中には、これまで数万年、一度も感じたことのなかったような戦慄がはしる。

次の瞬間

ドバアァッ

いきなり獣は大量な吐しゃ物を吐き出した。とてつもない量の吐しゃ物が流れ出て来る。

「ほれ!いわんこっちゃない。」

「ウルサイ!キエロ!」

「まあいい。」

高位のデモンともあろう自分が、目の前のやり取りに一歩も動く事が出来なかった。

「ガジュルウゥ!」

そしてその獣は急に何も無い暗黒に飛びついた。しかし何も捕えることなく下に落ち大人しくなった。いきなりどうしたというのか?眠ってしまったのか?

「ところで…。」

その暗闇の意識が…こちらに向いた途端。アスモデウスは自分の起源から、今まで一度も感じた事の無いほどの恐怖を覚えた。恐ろしいほど凶悪な意思を持った圧力が押し寄せて来る。

ガチガチガチガチガチ

アスモデウスは震えていた。

「おまえ。いったいどこから入って来た?」

「は、はっ」

言葉を発する事が出来ない。もし自分が人間であったなら数億回は気が狂うほどの、おぞましい呪詛のような気配がたたきつけられてくる。

「そ、それは。」

「口を開くな。」

「‥‥‥。」

「俺の器の中に勝手に入る事が許されると思ったか?」

い、いえ!

そう答えようと思ったが口を開く事は出来なかった。

「無限に死ぬか?」

それが造作もないであろうことが分かる。そしてその言葉が、自分のような矮小な存在にかけられた最大限の慈悲なのだと気が付いた。

自分はただただ、頭を地面にこすりつけてそれを受けいれるだけだと知っている。

「ふん。まあここに入り込めるだけの力はあると言う事か。とるに足らない塵のような存在でも使い道があるか?」

暗黒は考え事をしているようだ。

「お前の名を聞いておくか、発言を許す。」

これは気まぐれだ。

これはほんのわずかに生まれた遊び心。その闇の御方のちょっとした悪戯が生まれたが故のお言葉。

「アスモデウスにございます。」

震えが止まらず、自分がきちんと名乗れたかのすらも既に記憶になかった。いや…遠い昔に発した最後の言葉が自分の名前だったのかもしれない、そう思えてくるほど朧気な夢の時間のようだ。

「多少役に立つか…。」

闇がポツリとつぶやく。もちろん自分に話しかけたわけではない事が分かる。

「お前。未来永劫、魂の尽きるまでコイツに付き従え。反旗を翻すような意識を数瞬でも持った時、お前の存在はどの世界からも消え失せ、魂は未来永劫切り刻まれつづけるであろう。」

アスモデウスはただただひれ伏するだけだった。それすらも許されない事が分かっているがなすすべがない。

「失せろ。」

次の瞬間アスモデウスの体は開放されて、あっという間にもと来た道筋を戻されていく。女の体も透過し、ちぎれた自分の体へと戻るのだった。

そして暗闇…

「ガギャアアァァァァ」

意識を閉じていたのか、大人しくしていた獣が叫んだ。

「なんだ?不満か?」

「コロスコロスコロスコロスコロスコロス!」

「ふははははははは!そんなに俺が憎いか?だが殺す事は敵わん。お前は俺なのだから!」

「ガァァァァァァァァ!」

その暗闇の謎の存在は、意味不明な言葉を残して消えてしまったようだった。獣がどこを探そうとその存在を見つける事は出来ない。

すると…

獣はいきなり眠ってしまった。

‥‥‥‥‥‥

「えっと。」

目に光が射しこんで来た。

「ご主人様!」

「ラウル様!」

「ラウル様!!」

「ラウル!」

俺を覗き込んでいるシャーミリアとカララ、アナミスとオージェ。必死な形相で俺を心配してくれている。

「ああ、俺どうしたんだ?」

「ラウルよ…お前の心臓が止まっていたぞ。」

「えっ!心臓止まってた!? 」

「ああ、エリクサーをかけても戻らないから終わったと思った。」

そして俺は自分の胸を触ってみる。

ドクンドクン

動いてる。

「良かった。」

「ホントだよ!」

「ご主人様!ご主人様!」

「ラウル様ぁ!」

「よかった!本当に良かった。」

オージェ以外が泣いている。

「いやごめん。軽率な行動をとってしまったな。」

「このような事になるのなら、私がデモンに潜れば良かったです。」

アナミスが言う。

「えっと…デモンは?アスモデウスは?」

俺がガバっと起きると、目の前に跪いて頭を深く下げている男がいた。

「君主様。私の名前を憶えておいででしたか。なんと恐れ多い。」

「ん?どうしたのこれ?」

「分かりません。」

シャーミリアが言う。

「私は未来永劫、君主様に仕える為ここにおります。」

「体バラバラじゃなかったっけ?おまえ。」

「あれしきの事は、なんの問題ございません。」

…あれしきの…事?

「えっと、キチョウカナデは?」

「気を失ってるけど無事なようだぞ。」

オージェが言う。

「アナミス、起こせる?」

「はい。」

アナミスがキチョウカナデを目覚めさせる。

「あれ‥わたし…あ!アナミス先輩!どうしたんすか? 」

「よう、カナデさん。大丈夫かい?」

「は、はい!どうやら眠ってしまったようです!」

俺が手を差し伸べると頬を染めて手を取る。グイっと引っ張って起こした。

「無茶をさせたな。」

「な、なにがあったのか分かりません。」

「とにかく無事でよかった。」

「あざっす。」

栗色の髪のギャルはぺこりと頭を下げた。

「で、アスモデウス。どういう心境の変化だ?」

俺はアスモデウスを見て言う。

「君主様。私は悠久の過去より君主様にお仕えするために存在してきたのです。」

「悠久の過去よりって、さっき会ったばっかじゃん。」

「私は君主様のお役に立つためにおります。何卒!末席に加えてくださいますれば!」

「部下になりたいの?」

「は!」

アスモデウスは思いっきり床におでこを擦り付けてひれ伏した。

「え?どうしたらいい?」

俺が部下とオージェを見渡す。

「嘘偽りは言ってはいないようです。」

代表してシャーミリアが言う。

「そうなの?」

「はい。」

「ふーん。でもお前みたいな力を持った奴を、俺は従えられる自信が無いな。」

俺がアスモデウスに言うと、アスモデウスはそんな馬鹿な!と言ったような驚いた顔をする。

「け、系譜に加えていただけますれば、すぐに分かると思います!」

「系譜にねえ…。」

「はい!」

「わかった。じゃあ俺の配下に加えてやろうじゃないか。」

その瞬間だった。アスモデウスと俺の間にふわりとした光の綱が繋がったように感じる。

そして‥

《アスモデウス。》

《ああ…ありがとうございます!君主様の系譜に加えていただけるなど身に余る幸せ。》

念話で話しかけ、アスモデウスと系譜が繋がったと同時に理解した。コイツは本気で俺に従っている。そして未来永劫、俺の役に立ちたいと本気で思っているようだ。

「デモンの配下か…。」

「少しでも君主様のお役に立てますよう、粉骨砕身働かせていただきます!」

「わかった。よろしく頼む。」

「は!」

「言う事きけよ。」

「仰せのままに。」

「さてと…それじゃあ、たーくさん聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

俺は部屋に浮かんだ巨大な青い魔石を眺めて言う。

俺が何と戦っているのか、これでようやく謎が解けそうだった。

「とりあえず顔を上げろよ。」

「は!顔をお見せする事をお許しください。」

「そんなんどうでもいいから。」

アスモデウスはスッと顔を上げる。牛の角はそのままだがやっぱりイケメンだ。服は俺達の攻撃でボロボロになっており裸に近い。男の裸を見る趣味は無いので俺は少し考える。

「その羽を無くせるか?」

「もちろんでございます。」

他の羽の生えている魔人と同じで羽が消える。

俺はアスモデウスの身長に合うくらいの戦闘迷彩服2型を召喚する。

「着ろ。」

「こ、このような素晴らしいものを下賜いただけるとは!幸せにございます!」

女もいるというのにすっ裸になって迷彩服を着た。

牛の角を生やしたイケメンの迷彩戦闘服はなかなかにシュールだった。

「じゃあ話を聞こうか。」

俺達はアスモデウスを囲むように座り込むのだった。