軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第443話 人食いはつらいよ

おげえええええ!

俺は聖都側の森に意識を戻したとたんに、茂みに顔を突っ込んで吐いていた。

「ラウル様!」

カトリーヌが俺のそばにやってきて背中をさすってくれている。早々にふらふらと草むらに倒れて吐き始めたのだ。それは心配もするだろう。

どうしてこうなったかと言うと、戦闘中に急場をしのぐため、泥棒髭ハイグールを強化する目的で敵兵をかじりまくったからだ。まあ泥棒髭が劣化していてくれたおかげで、その視界も感覚も感度が悪い為そこまで生々しく感じる事はなかったが、リアルな人間をかじる感覚とは、それはそれはおぞましいものだった。

よくよく考えると俺、魔人っぽい事初めてしたかも。

もちろん人間を食わない魔人の方が圧倒的に多い、しかし人間を養分として取り入れる者達も少なからずいる。その感覚の一端をこんなところで初めて感じるはめになるとは思わなかった。

それを思い出すと…

れろれろれろれろ

またこみあげて来る。

「どうなさったのですか!?」

カトリーヌが心配そうに俺の背中をさすりながら声をかけて来る。

「いや、大丈夫だ。大丈夫なんだが…」

おげえええええええ!

するとカトリーヌが俺に癒しの回復魔法をかけてくれた。

パアアアアア

俺の体が光り輝いていくぶんか楽になる。帰ってすぐヴァルキリーを脱いで本当に良かった。もし着たまま間に合わなければヴァルキリーの中でいってたかもしれない。

人の死はたくさん見て来た。戦闘ではかなりひどい事態にもなったし、ゾンビたちが兵士を襲った挙句に銃で大量虐殺するのも見た。その時はここまでの事にはならなかったというのに、どうやら俺の精神が受け付けなかったようだ。

まあ…人を生で食うのを精神的に大丈夫なやつがいたら大したもんだ。

…魔人にはそんな奴いっぱいいるけど。

あんな感じなんだな…

うっぷ。

口を押えて青くなっているが、カトリーヌが必死に魔法をかけてくれているので、持ちこたえる事が出来た。

「よほどお辛い事があったのですね。」

「うーん。あえて自分から突っこんだんだがな。」

「あまり無理はなさらないでください。」

「あ、ああ。」

カトリーヌが半分涙目になって慰めてくれている。

「ラウルさん、大丈夫ですか?」

するとグレースが森の奥から戻って来たようで俺に声をかけてきた。

「ああ、グレース。どこに行ってたんだ?」

「昨日出したゴーレムたちにもっと具体的な指示を出して来ました。なんていうかコマンドを何百通りも入れてプログラムの様なものをしてたんですが、なんとあのゴーレムたちは曖昧な判断を的確にするようになったんですよ。」

「曖昧な判断?的確に?それは良い事なのか?」

「まあ前世のAIでは無理でしたね。」

「グレースの言ってる意味がよくわからない。」

「えーっと…ゴーレムが周りに起きた現象を自分に入力して、かなり最適解に近い動きをとる事が出来るようになると思います。まだ実験段階ですが臨機応変に動くことができるようになりそうです。 」

さすが元IT系。言ってる事はさっぱり分からんがなんか良い事らしい。

「とにかくグレースなりにいろいろ考えてくれてるんだな。ありがとう!」

「ラウルさんがゴーレムたちを使用して、戦闘結果をいろいろフィードバックしてくれたおかげですよ。これからもよろしくお願いします。」

「わかった。ゴーレムの事で何か気がついたらすぐに伝えるよ。」

「ありがとうございます。ところで顔色がわるいみたいですがどうしたんです?」

「ああ、それは‥お、おえっぷ。」

おげえええええええ

ヤバイ。うっかり思い出してしまった!やっぱ人食いなんてするもんじゃない!前世でも今世でももともと俺は人間として育ってきたんだし、あんなもんを受け入れられるはずはなかった。

「あ!気持ちが悪いんですね!それならいいものありますよ!」

グレースが言う。

「いいもの?」

「ちょっと待ってください。」

するとグレースが虹色の髪を揺らしながら、おもむろに収納庫かから何かを取り出した。と言うか出したのは俺が収納させていた水のペットボトルのようだった。その蓋を開けて3分の1くらいの水を捨てる。

ドポドポドポドポ

「そして…。」

グレースは再び収納庫から薬包のような物を取り出した。スッとその紙を開くと鼻に抜けるような爽やかな匂いが広がる。その紙には緑色の何かの粉が包まれていた。

薬?

サラサラサラサラ

ペットボトルの口からその粉を入れる。そしてペットボトルの蓋をしてシャカシャカとシェイクし始めた。するとペットボトルの中が黄緑色に色づいて行く。

見た目は緑茶のペットボトルに見えるが…

「さあ、これを。」

「ん?飲めばいいの?」

「はい。」

ペットボトルの蓋を開けて、一口ゴクリと飲み干してみた。

「ニガ!‥‥ん?さ、さわやかぁ!なにこれ!」

「企業秘密です。」

「えっ?なんで?」

「嘘です。それはミーシャさんとエミルさんで作ったお茶ですよ。それを粉にして紙につつんだものを僕の収納庫に入れていたんです。」

「これって、お茶なんだ。」

「はい、なんかグラドラムでおじさんたちが飲み比べしてたじゃないですか。あの時具合悪がっている二日酔いのおじさんたちの為に作ったらしいんです。かなりいろんなものが配合されているらしいです。」

凄い。なんとなく胃も癒されて治って来たみたいだ。

「もしかして、エミルの精霊術も含まれてるのかね?」

「正解です。」

俺はじっとそのお茶を見つめておもむろに言う。

「あの…グレース…これは…。」

「ええ、もちろんバカ売れする事請け合いですよ。」

「だな!」

「ええ。」

クックックックックッ

俺とグレースが悪人のように笑う。間違いなくこれはいい物だ。ひと口飲んだ時は苦みが走るが次の瞬間あっというまに気持ち悪さが消え、その後爽快な香りが口いっぱいに広がって鼻に抜ける。お茶と言うより薬の一種なのだろうがこれを欲しがる人間はいっぱいいるだろう。

「ほんっとうに!ありがとう。」

「いえいえ。」

助かった‥人食いの記憶と共に気持ち悪さが一気に抜けていくようだ。多少思い出しても口の中がスースーして爽やかなため、全く気持ち悪くならなかった。さらに胃がかなり落ち着いたようで胃液が上がってくる事がまったく無い。

いい香りだ…

「そしてグレース。さっきは俺がいっぱいいっぱいで話半分だったが、ゴーレムがかなり進化したようだな。」

俺は先ほどのグレースとの話に戻す。

「ええ。ゴーレムたちがAI顔負けの動きをする可能性が見えてきました。ただこの作戦中に何体もつぎ込まないといけないでしょう。」

「戦いで壊すと言う事か?」

「データを取るなら止むを得ません。」

「なるほどな。恐らくゴーレムはドワーフ達が作れる。エミルと合流したら強化の精霊術をかけてもらったり、モーリス先生から結界をはってもらったりできるし、ゴーレムの生存率も上がるだろう。成長し続けられる個体も作れるんじゃないか?」

「それまでに戦闘でデータをたくさん取りたいです。」

「ああ、魔人達も気づいた事はなるべく報告させるようにする。」

今話した一連の流れをカララとルフラとセイラ、マキーナに念話で伝えた。戦闘になったらゴーレムの動きを確認してもらう事にしよう。

「では。」

そしてグレースが踵を返して再びゴーレムの所に行こうとする。

「あ!グレース待って!」

「はい?」

「アレ数包くれ!」

「そうでしたね!もちろんです。」

グレースが5包ほどのさっきのお茶を俺にくれた。

「では。」

グレースが行ってしまった。

「ふう、助かったよカティ。回復魔法とグレースのお茶のおかげですっかり回復した。」

「良かったです!」

「じゃあ、また向こうに戻る。」

「えっ!」

カトリーヌが断固反対!のような顔をする。

「悪いがこちらは膠着状態になっている。敵の動きが無ければどうする事も出来ないし、あっちはだいぶ切羽詰まってるんだよ。俺の弱さで足を引っ張るわけにはいかないんだ。」

「ですが、また先ほどのような無理をなさるのでは?」

「大丈夫だ。今は既にシャーミリアが作業を終わらしてくれている。」

「そ、そうなんですね?」

「だから心配するな。」

「わかりました。」

カトリーヌは半分納得していないような表情で俺を見る。

「ルフラ!カティを頼むぞ。」

「もちろんです。」

ルフラにカトリーヌを任せて俺は再び泥棒髭に潜るため、再びヴァルキリーを装着した。

《大丈夫なのですか?我が主。》

《ああヴァルキリー。お前にまで心配をしてもらうなんてな。》

《かなり身体がお疲れのようで。》

《向こうも正念場なんだ。》

《それではお気をつけて。》

《ああ。》

ヴァルキリーにまで心配されるとは思わなかった。だがもうハイグールでの人間の捕食はこりごりだ。精神的にかなりつらい事が分かった。

スッ

《ご主人様。》

《遅くなった。》

泥棒髭に共有をかける。

《精神が少し弱っているようですが?》

《カトリーヌとグレースのおかげで回復したよ。もう大丈夫だ。》

《私奴が至らぬばかりに、ご主人様へ多大な迷惑をおかけしました。》

《お前のせいじゃない。俺の判断だ。》

《は、はい…》

泥棒髭に戻って周囲を見渡す。するとかなり視界も良くなっており、心なしか泥棒髭の体が軽く感じられた。だいぶ反応も良いようでこれならかなりの動きができそうだった。

《ギル、敵に動きは?》

ギレザムは警戒態勢を取りながら敵の方角を向いていた。

《今の所ありません。ですがさらに拠点の方から兵が送り込まれているようです。森から出る事も無く一定の距離で待機しているようです。》

《て、事はあちらさんにも何か秘策があるんだろうな。》

《そう推察されます。》

《ドラゴンなどの大きな気配は?》

《ありません。》

《わかった。》

再度敵が来たら今度はゲリラ戦で少しづつ削るべきだろうか。最後は白兵戦にもつれ込む可能性もあるだろうな。しかし森の中ならば木を使って立体的に動ける魔人に分がある。問題は敵の日本人と俺達が遭遇した透明なドラゴンだな。

平地に出ればその危険度はかなり高くなるだろう。ここに透明なドラゴンがいるとは限らないが、ゴーレムたちが襲撃されたおりに狼煙を上げていた。何らかの援軍を呼んだに違いなかった。

俺は軽くなった泥棒髭の動きを確認して考える。

《ゴーグ!アナミス!ホウジョウマコをここに連れてきてくれ!》

《はい!》

《わかりました。》

二人が再び森の奥へと引き返していく。

《さてあの女を使ってやってみるか。》

アナミスが眠らせた女を再びアナミスに起こさせて、あることをやってみる事にするのだった。