軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第442話 密林の死闘

魔人達のカモフラージュには目を見張るものがある。土に潜ったり木の枝に体を隠すようにしたり、ちょっとやそっとじゃ分からない。

だが今回の敵は油断がならない、それは索敵能力を持っている可能性があるからだった。ゴーレムの時も俺達が森を進軍している時も、比較的すぐに嗅ぎつけてやって来た。

《来たな。》

《ニホンジンがいないようです。》

俺達が森に潜み敵を待っていると、少しずつ人間の反応が近づいてくるのが分かった。しかしギレザムは日本人を察知する事が出来ていないようだった。単純に察知できていないのか、先に兵士たちを送り込んで後ろで様子を見ているのかも分からない。もちろんハイグールの体を借りている俺には分かる由もない。

《全員索敵に集中しろ。》

《《《《《は!》》》》》

ギレザム、ミノス、ゴーグ、アナミス、ルピアの超進化組が念話で答える。シャーミリアやカララなら察知能力は高いが、シャーミリアは河童に憑依した状態だしカララはここに居ない。未知数の力を持つ日本人を見失うのは厄介だ。俺はとりあえず能力の高い部下に日本人の気配を探るように促す。

《俺も分かりません。》

《我も。》

《私もです。》

《私も。》

ゴーグ、ミノス、アナミス、ルピアが返事をしてくる。

《もしかしたら動いていないのかもしれない。とにかく集中するんだ。》

目視でプレートメイルを着た兵士や、ローブを纏った魔導士の姿が見えて来た。距離にして150メートルも無い。

《一発かましてやろう。ルピア!》

《はい。》

タタン!

枝の上のルピアが小銃で狙いを定めて、一人の騎士を撃つと命中して倒れたようだった。しかしその後すぐに森の奥から石のつぶてがルピアめがけて飛ぶ。ルピアは軽やかに飛び他の木に身を隠した。

《ラウル様。どうやら攻撃した方向を読まれたようです。》

ルピアが言う。

《そのようだな。》

やはり敵は俺が思っていたような索敵能力を持っている可能性が高まった。しかもこの木々の間を縫って石の魔弾を正確に撃ち込んで来た。その精度もかなり高いようだ。

《みんな、敵は何らかの方法で俺達の居る場所を察知している可能性が高い。遮蔽物のある場所へ隠れて迎撃態勢を取れ!》

すると大木の後ろに隠れているギレザムが後ろにハンドサインで合図する。それを見た魔人達が場所を移していくと、そこに間髪入れずに魔法が飛んできた。幸い誰一人被弾する事はなかったが、敵は既に俺達の位置を掌握していると思って間違いない。

《敵兵達が止まりました。》

《ああ、俺達の待ち伏せが読まれたようだ。》

《相手も遮蔽物のある場所に隠れましたね。》

《厄介だな。》

そしてお互いの動きが止まり膠着状態に陥った。どうやら敵も俺達の攻撃が届く事を分かったらしい。

カサカサカサカサ

俺達に向かって敵の方から風が吹いて来た。木々の葉がこすれる音がして吹き抜けていく。

《臭いがします。》

ゴーグが言う。

《どんな?》

《騎士や魔法使いではない独特の、ちょっとラウル様に似たような臭い。》

どうやら気配を探る事は出来ないが、ゴーグの敏感な嗅覚にひっかかって来たらしい。どうやら風に乗ってきた日本人の臭いを察知したようだ。

《了解。と言う事は間違いなく日本人はいるって事だ。》

《はい。》

こういう戦闘の時に、この系譜の力による念話はとても役に立つ。無線なら傍受されたり音がしたりしそうだが、念話は直接頭の中で会話ができるぶん敵より有利だ。そもそも敵には無線なんかないから、それぞれの判断で動いていると思っていいだろう。

またしばらく膠着状態が続いた。

すると…

バガッ

「ぐあっ!」

オークの1人がいきなり叫び声をあげた。

《どうした!?ギル!確認しろ!》

《は!》

ギルが声のした方に向かって走っていく。

《ラウル様。魔法による攻撃かと思われます。》

《どうした?》

《エリクサーにより回復しましたが、石弾が木を貫通して腹を貫かれたようです。》

《石弾が?》

という事は敵の攻撃はこちらの自動小銃より強力だという事だ。

…こちらの誰かに徹甲弾を装填したスナイパーライフルをもたせれば良かった。俺の連結LV2で撃てばこの木なら容易に貫通する。全員の自動小銃にはパラぺラム弾が装填されているため貫通力は無かった。おそらくこの一連の攻撃は、あの魔法使いの日本人によるものだろう。剣士と拳闘士タイプの奴らは近接戦闘にならなければ攻撃は出来ないはずだ。

《ギル、先に日本人の魔法使いを仕留められないかな。》

《おそらくは一番後方にいるでしょう。》

《そうだな。それなのにこの威力で石を飛ばしてくるのか。》

《脅威ですね。》

《ああ。でも次弾がすぐに飛んでこないところを見ると、あの攻撃は時間がかかるようだぞ。》

《そのようです。》

《しかしこのまま持久戦も分が悪い。》

相手は恐らく石弾の攻撃の準備に入っているだろう。こちらは30人しかいないから一人一人やれば十分に勝てると判断してるに違いない。そのまえにこちらから仕掛ける必要があった。

《我が壁になりましょうか?》

ミノスが言う。

《ダメだミノス。オークをやった石弾が最強の攻撃とは限らない。もっと強い威力で急所を突かれればお前とて怪我をするかもしれん。》

《しかし…。》

バグン!

「ぎゃっ!」

次の攻撃が来た。

《被害は!》

《オーガが一体、足を撃ち抜かれました。》

《ポーションで回復を。》

《は!》

アナミスが怪我をしたオーガの所に行ってポーションを与える。

《ご主人様。女を置いて私奴も戦線に戻ります。女はオークに守らせております。》

《わかった。シャーミリア来い!》

《は!》

シャーミリアがこちらの苦戦を念話で聞きつけて河童をよこすらしい。しかし河童で何ができるというのか…

まてよ…

《よし、河童が到着次第仕掛けるぞ!俺とシャーミリアが囮になって走る。部隊の半分はその場で援護射撃を行い、半分が俺達が走り抜けたのと反対方向に走って回り込め。視線に入った騎士や魔法使いから殺せ。》

《《《《《は!》》》》》

さっそくギレザムが後ろに控えている魔人達にハンドサインを送る。ここに俺が直接いれば全員に念話が使えるんだが、泥棒髭の体は性能が悪すぎて魔力の伝達が難しい。とにかくギレザムの指揮に任せるしかない。

《お待たせいたしました。》

俺の後ろに河童シャーミリアが立つ。

ボズン

すると泥棒髭の頭上をすり抜けて、河童の胴体に穴をうがった。俺が隠れていた木を貫通してシャーミリアの河童に命中したらしい。まあ俺達にはなんてことない攻撃なんだけどね。

《よし行くぞ!》

《はい!》

泥棒髭と河童のハイグールが凄いスピードで、敵から向かって右に走り出した。最前列に隠れていると思われる騎士のところに向かって猛ダッシュする。すると魔法使いたちから一斉にファイヤーボールやアイスランスが飛び出し、俺達を追いかけて攻撃して来た。いくつかの魔法を被弾してしまうがハイグールにとっては何の問題も無い。敵の意識は俺達2体にくぎ付けになったようだ。

それに合わせて、15人の魔人達が一斉に援護射撃を行う。

パラララララ

パラララララ

パラララララ

援護射撃のおかげもあって魔法攻撃が止み、俺達は一番先頭で木の陰に隠れている兵士の元へとたどり着く。その隙にギレザム率いる部隊が反対側に向かって音も無く走りさって行った。

「う、うわあ!屍人!」

パニクっている騎士に泥棒髭と河童が飛びついた。甲冑はバルギウスの物だった、どうやらバルギウスから消えた50万の将兵の一人らしい。慌ててはいるが剣を構える事は身についているらしい。

ドス

流石はバルギウスの騎士、慌てながらも泥棒髭の腹に剣を突き立てる。しかしそんなことでハイグールは止まらないのだった。

「ぐわ。」

《シャーミリア!食え。》

《は!》

ガブッ

おもいっきり河童が喉もとにかぶりついて血しぶきが舞う。騎士は払いのけようとするが出血のためどんどん力が抜けてやがて動かなくなった。

シャグ ジュルリ ズルッ

俺が周りを見張っているが誰も助けには来ないようだった。もちろん助けに来ようものなら援護射撃を行っている魔人からハチの巣にされるだろう。

俺が見ている前で、河童の潰れていた片目が少しづつ戻って来た。そのまま続けて食べ続けている。俺が食べやすいようにおもいっきり鎧をひっぺがして裸にしてやった。

パラララララ

パラララララ

どうやら反対側に向かった魔人達の攻撃が始まったようだ。既に俺達の周りから人間の気配が消え反対側に向かって走り去っていった。

《お待たせしました。》

河童が血でぬらぬらと口の周りを濡らしながら俺のそばに立つ。

ズッズズズ

ゆっくりと河童の斬られた腕の部分の肉が盛り上がりつつある。

《ちょっと時間が無いからな。》

全部は食わないで次の戦闘に備えるシャーミリアに言う。俺はそのまま援護射撃をしていた部隊に、手招きをしてこっちに来るように伝えた。魔人達は一気に俺達の元へと集まった。

「よし!お前達、今度はこちら側から攻撃するぞ。敵を発見次第殺せ。」

「「「「「は!」」」」」

そして俺の指示の下で更に敵の裏手に回り込んでいく。すると木に隠れていた兵士たちが見えてきた。

パラララララ

パラララララ

パラララララ

自動小銃の乾いた音が鳴り響くと次々と兵士たちが倒れていく。

「そのまま木に隠れながら進め!魔法を使う敵は右舷にいると思われる!十分注意しろ!」

「「「「「は!」」」」」

そして魔人達は奥へと進んで行った。こちら側の部隊には直属の魔人がいないところを見ると、全員が向こうの陽動部隊にいるらしい。

そして俺とシャーミリアのハイグールは、死んだり死にかけたりしている騎士たちを手当たり次第に食い散らかしていくのだった。

ぞぶり ぶちゅ しゃぐっ

正直‥‥気持ち悪い。本体の俺は吐きそうになりながらも戦力補充のために一生懸命食っている。精神がガリガリと音を立てて削られていくのが分かる。

血で真っ赤になりながらも少しずつ損傷したからだが治っていくのが分かる。シャーミリアの河童もすっかり腕が生えてきたので、手榴弾の詰まった頭陀袋を返した。

どう考えても、こっちの方が悪役だよな…

そんなことを思いながらもお構いなしに人間達を襲っていく。

ううう…これも戦いの為だ。

俺はとにかくガンガン精神が削られていくのを感じていた。人間をかじるなんて…正直こんなことはしたくないのだが、魔人達に被害を出さない為にも、泥棒髭と河童を強化しなければならない。

好き嫌いなんて言ってられない!

そんな俺の気持ち悪さと相反して、泥棒髭の力がどんどん強くなっていくのが分かった。

《いくぞ!》

《はい!》

あんまり悠長に人間を食っていると、魔人部隊に置いてけぼりを喰らってしまうので、ほどほどに食い散らかしたらついて行くのをくりかえす。

《ラウル様!》

《どうした?》

ギレザムだった。

《敵が引いて行きます。》

《さすがにそうだろうな。》

《いかがなさいますか?》

《追わない。一旦俺の元に集まってくれ!》

《《《《《は!》》》》》

しばらくすると全部隊が俺の元へと集まって来た。もちろん敵の警戒は怠っておらず、10人ほどの魔人が逃げて行った方向へと銃を向けて構えている。

「ラウル様。」

「ギル。魔人に被害は?」

「何度かあの石弾に貫かれたものがおりましたが、デイジーのエリクサーカプセルにより回復してます。」

「了解。」

「それでいかがなさいます?」

「俺達ハイグール2体を強化する。その間に敵が近づかないように警戒を頼む。」

「かしこまりました。」

またギレザムが兵士たちにハンドサインを送ると、魔人達が森の中に散開して広がって行った。

ほんとカッコイイお前。ギレザムを特殊部隊の隊長にしようかな。

俺はそんなことを思いながらも、シャーミリアに言う。

《あの…シャーミリア。俺一旦この体から抜けて良い?》

《申し訳ございません。ご主人様につらい思いをさせてしまいました。もちろん抜けていただいて構いません。敵の動きがあり次第すぐにお呼びします。》

《わりぃ…》

そして俺は人間喰いをシャーミリアに任せ、泥棒髭からログアウトするのだった。