作品タイトル不明
第239話 スライムを纏う聖女 ~カトリーヌ視点~
私達はラウル様が召喚してくださった馬車のいらない車で西に来た。
途中にいくつもの町や村でバルギウスやファートリアの兵をしらみつぶしに殲滅してきた。
ほとんどの戦闘が勝負にならなかった。ほぼギレザム一人で勝利していると言ってもいい・・敵の人数が多ければみんなで戦うが、自分はほとんど出番がなかった。
今は全員で草原に立ち最後の村を眺め、先行調査に行ったギレザムの帰りを待っている。
「カトリーヌ。ここが最西端の村みたいね。」
「そのようですね。」
ルフラが私に言う。
村の向こう側には西の山脈が聳え立っている。山頂は雪で白くなっていた。
ここまで私とマリア、魔人のギレザム、ガザム、ゴーグ、ルフラ、スラガ。そして道すがら助けた獣人メイドのファミルの8名で移動してきた。
・・一度も苦戦することなく・・誰も怪我すらしなかった。
そして私が戦闘に参加する時は、いつもルフラに包まれ守られて戦ってきた。ラウル様がルフラアーマーと呼んでいる状態でだ。
ルフラが私を包み込み顔以外のいろんな穴に侵入してくるのだ。
すると・・不思議なことに魔人の念話が私にも伝わった。
《これが・・魔人達の感覚。そしてラウル様が感じている世界。》
そう思うとうれしくなる。自分もラウル様と同じ魔人になったのかと錯覚する。しかしルフラが抜けるとまたただの人間に戻るのだった。
格闘などの体術を全く身に着けていない私は、戦闘になれば後方に下がらなければならない。しかしルフラに包まれていると・・ルフラが勝手に動いて重い斧でも軽々と振り回せた。そして敵の攻撃が私に到達する事は1度も無かった。
・・結局戦闘で誰も怪我をしないから私の出番がない。
更に大量殲滅戦となればギレザムとガザム、ゴーグ、スラガはラウル様が召喚した機関銃を使った。これによってだいぶ時間が短縮されるのだそうだ。遠距離からの攻撃に敵兵はひとたまりもなく吹き飛ばされた。
町の調査を含む作戦の場合はラウル様の武器は全て車にのせて、私と獣人ファミルとスラガの3人で武器の見張り番をすることとなる。
私達が武器の番をしている間に他の全員が町に潜入するのだった。
マリアは人間なのに魔人よりも武器の扱いが上手く、かなりの戦果をあげることができた。なぜ魔人並みに戦う事が出来るのだろう?彼女はただのメイドなんじゃないのか?不思議だった。
そして戦闘が終わると私が町に呼ばれる。
呼ばれて町に行くと、町人の傷者や病人の回復をすることになる。
別にそれはいいのだ・・困っている人を助けるのはうれしい事だ。
・・が・・困ったことがおきてきた。町人を片っ端から治していると・・町人が私に尊敬のまなざしを向けてくるのだ。
「聖女様!私をお治しくださりありがとうございます。」
「聖女様の加護をお与えください。」
「聖女様、出来ればこの子にお名前を授けてください!」
町人たちは決まってこういう反応になる。
いや・・まってほしい・・
聖女ってなんだ・・・
私は聖職者ではない。ただの王宮魔導士見習いの光と回復魔法の魔法使いだ。
「えっと・・私は聖女じゃありません。」
と言うと町人はこういう。
「このような奇跡の技を持つ方は聖女です。」
・・勝手に決めないでほしい・・
これは認識の問題だ。
私は神に仕えた事は無い。神に祈る事はあっても・・敬虔な信者というほどではないのだ。
「人の名前を付けたことなどありません!」
とか
「加護を与える事など出来ません!」
とか
いつもこんなことを言う羽目になる。
私は光と治療のイメージを持って、魔力を行使して傷を治しているだけの魔法使いだ。聖女のような高尚な考えを持つ者ではない。確かに上位貴族の娘という事もあり身分は高かったが・・決して私は厚い慈悲の心を持っているわけでもない。
「ふぅ。」
「どうしました?」
私がため息をつくとマリアが聞いてくる。
「マリア・・私はまた聖女扱いされるのでしょうか?」
「カトリーヌ様・・たぶんそうなるかと。」
「重いです。」
「カトリーヌ様の力量なら仕方がない事なのかと。」
「名前とか一生のものよね。そんな重大な事を私に任せるとか・・ないわ。」
「貴族が領民の子に名前を付けるのはある事だと思います。」
「ここは私の家の領地ではないし、もとよりユークリットには王族も貴族も全ていなくなったわ。」
「私の目の前におります。カトリーヌ様は高貴なご身分の方です。」
「私はラシュタルのティファラ女王の様には考えられないわ。」
「そうおっしゃらずに・・」
そう・・最初に私は公爵の家に生まれた。
しかし・・王族の血をひく父は私が幼いころに亡くなった。父は私を溺愛していたが、その優しかった父は病気で死んだのだ。その後はナスタリアの姓を名乗る事になった。
父を亡くした悲しみが人を治したいと思い始めたきっかけだった。
始めて魔法を使ったのは・・屋敷に忍び込んで来た野良猫が怪我をしていた時だった。あとから聞いた話では最初に詠唱などを覚えないと治癒魔法は使えないそうだ。でも私はイメージと魔力の放出だけで猫の怪我を治す事が出来た。
一番最初に私の能力に気が付いたのは、たまに屋敷に訪れてくるご老人だった。
私が庭で巣から落ちた小鳥を治癒していたのを見かけたのだった。
「おや?嬢ちゃん怪我を治せるのかの?」
「はい・・」
「凄い能力じゃな!その力は大切にせんといかんよ。」
「はい・・」
「魔法学校にでも行くといいのじゃが・・あの母親が許さんか・・」
「魔法学校?」
「そうじゃ。そういう力を更に強くする学校じゃ。」
「魔法学校・・」
「ふむ・・じゃあカトリーヌ嬢ちゃん・・ワシからも頼んでやろう。」
その時初めて魔法学校という物を知った。それからは先生がこっそり魔術の本をくれた。字は厳しい母親のおかげで屋敷で習っていたので十分理解する事が出来た。魔法学校に行って学びたいと思った。
でも・・
「うむ・・ダメじゃった・・」
老人は母親の説得に失敗したらしい。
老人はサウエル・モーリスさんという人だった。
モーリスは後日再び屋敷を訪れた。そしてイオナ叔母様を連れてきたのだった。イオナ叔母さまはとても自由な人で、私のお母様とは全く違った雰囲気の人だ。イオナ叔母さまは私と遊んでくれ、そしてモーリス先生と一緒に帰って行った。
イオナ叔母さまが帰ったあとで・・
お母さんが急に魔法学校に通う事を許してくれたのだった。本来なら貴族として育てられ王家の誰かと結婚するはずだったが、私は王宮魔導士を目指す事になった。
そして数年学校に通ったある時・・あの大戦に巻き込まれてしまったのだった・・。
「あ、ギレザムが戻りました。」
ゴーグが言うので村を見ると、村の方からギレザムが走ってくる。
「調査の結果敵兵は100人程度しかいない。しかし町民に紛れているから民を傷つけないように殲滅する必要がある。ルフラはカトリーヌ様を頼む。」
「了解よ。」
ルフラが私にバサッとかぶさってしみ込んでくる。
「あっ・・」
いつもだ・・ルフラに侵入されるときはいつも声が出てしまう。そのたびに何か微妙な空気が流れているように感じるのだが・・それは気のせいのようだった。私が勝手に気にしているだけだ。
魔人達は全く意に介してない。
でも・・慣れない。鼻と口以外の穴にルフラが侵入してくる時の何とも言えない感じ。冷たくも温かくもなく何かがしっとりと侵入してくる感じ・・浸透しきると全く何も感じなくなる。
「じゃあカトリーヌ。いくわよ。」
「ええ。」
ルフラと直接話すが一人二役の様に私の口で話している。知らない人が見れば多重人格者だ・・だからあまり人の前でルフラを着ている時に話をすることはない。
「俺とマリアが正面から、ゴーグは左翼から、ガザムは最奥方面から、スラガとルフラは右翼から侵入。生け捕りは考えなくていい。見つけ次第殺害しろ。」
「了解。」
「はい。」
「わかった。」
「ええ。」
ギレザムの掛け声に全員が返事をした。
獣人のファミルを村の外の車に残して村に侵入する。
村には村人が普通にいたが兵士もそこらをうろついていた。私はルフラに包まれて動いているため物凄い速さで兵士に接近すると、あっとうまに兵士の首を折った。私の腕に首の骨を折る感触が伝わってくる。
「スラガは左に。」
「あいよ。」
スラガと別れ、そのまま兵士の死骸を放置し更に奥にすすむ。
ルフラが躊躇なくある建物に入っていくとどうやら飲食店の様だった。そこで食べている4人の兵がいたが直線的に近づいて一瞬で4人の頭に短剣を突き立てる。
この短剣もラウル様が召喚してくださったコンバットナイフという物だ。物凄く切れ味が良くて丈夫な短剣だった。
スッと短剣を抜き取ると・・全員が振り向く暇もなく食べ物に顔を突っ込んで動かなくなった。
「えっ!」
店主が驚いたように私をみた。
どう考えても私のような小娘が一瞬で行うような所業じゃない。
「あの・・敵から解放するために来ました。あとで片づけにきます。」
「きゃぁぁぁぁぁ」
ウエイトレスの女性が叫ぶ。その声を後に店の二階の階段を駆け上がる。この二階は宿屋になっているようだった。
ガチャ
ドアを開けて中に入ると、ベッドの上で裸の男が裸の女にのしかかって腰を振っていた。
「なんだ!」
男が一瞬こちらを振り向くが、スッと近づいて男の髪を掴み思いっきり後ろに引く。
ゴキィ
・・首が折れた。
そのまま男を女から引き離すと、女は泣いているようだった。
「助けに来ました。」
どうやら女性は乱暴をされていたようで体に痣を作っていた。
パァァァァ
女性に治癒魔法をかけてあげる。女性から痣が消えて目の下のクマも消えた。
「服を着てここから出なさい。」
女性に声をかけて部屋を出る。
そしてそのまま隣の部屋に行きドアを開ける。
ドアが開くと同時に剣が突き出てきた。どうやら隣の部屋の物音を聞いて兵士が待ち構え、剣で攻撃してきたようだった。私の胸の前で・・透明な盛り上がりが剣を巻き取る。もちろんルフラが私の体を守った結果だった。
そして私の掌底が男の顎を横から殴りつける。
ボゴォ
顎から下が20センチくらい横にずれて、男はぐらりと倒れ込んで来た。
ドサァ
倒れた男の首を踏みつける。
ゴキィ
「あと人はいないみたい。」
二階の部屋は二つだけだった。そのまま二階の窓を開けて体を外に出す。
シュ
ルフラが私を包んだまま跳躍する。隣の家の屋根に飛び移って屋根を走っていく。
「この建物にいるわ。」
数軒走った先の建物に兵士がいるのが分かるという。
ルフラが言うのでそのまま2階の窓を開けて侵入すると・・また・・男が少女に乱暴していた。
「ケダモノ!」
そのまま私が男に近づいて行く。男はベッドの横に置いてある剣を掴み振り向こうとするが既に遅かった。男の頭を思いっきり 蹴鞠(けまり) を蹴るように蹴っ飛ばす。
ゴキィィ
男の首が直角以上に折れ曲がり、だらりと体からぶら下がるようになる。
「きゃぁ・・」
ルフラがそっと叫ぼうとした少女の口をふさいだ。
「助けに来ました。もう大丈夫よ。」
私は少女に回復魔法をかけて体を治してあげる。
「うっぅうっ・・ぐすっ・・」
「かわいそうに・・もう大丈夫だから。」
「と・・・隣にも・・友達が・・」
「わかった。」
ルフラと私はそのまま隣の部屋に向かう。
今度はそっとドアを開ける。
すると裸の男が少女に覆いかぶさって乱暴していた。
「クズだわ。」
「ええ。」
ルフラと私の意見が一致した。
「なんだおまえら!」
男が剣を取ろうと手を伸ばすのでそのまま直線で飛びつき、肛門を思いっきり蹴り上げた。
ビチィ
お尻から血をまき散らしながら壁に激突する。そのまま前回りに回転しながらかかとを脳天に落とすと、耳から血を拭きだし目玉が飛び出た。
「ぎゃぁぁぁっぁ」
少女はそのまま失神してしまった。怪我をしていたようだったので治してあげる。
すると・・ギレザムから念話が入った。
「けが人がいる。カトリーヌ様は来れますか?」
「ルフラ、行きましょう。」
「ええ。」
そして私とルフラはギレザムがいる方向へ向かって疾走するのだった。