軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第240話 意外に繊細な龍の子

ルタン町には3000人のファートリアとバルギウスの兵を強制労働の目的で残留させた。

俺はオージェに内緒でサキュバスを使い兵達を完全洗脳するように指示して来た。兵士たちは自分の故郷の事も家族の事も、一切合切を忘れて仕事に邁進することだろう。

ルタンの町のすみずみまでは見ていないが、かなり拡大したようで物凄い数の魔人がいた。ルタンは、すでに魔人国の領地と言ってもいいだろう。

そして俺は前線の戦力を増強する為、フラスリア領に向けて100名の兵士を派兵するように指示した。俺達に遅れてフラスリア領へ来る事となっている。さらに魔人1000名をユークリットに移住させるように指示する。

西方のマーグがシュラーデンにかかりきりになるため、ティラが人選した魔人100名をダークエルフのウルドに率いさせてラシュタル基地に向かわせる。50名をシュラーデンに50名をラシュタル基地に補充する予定だ。

俺はグラドラムのタピにも念話で連絡をして、さらに3000名の魔人をルタンに移住させるように指示を出し、既に魔人の姿を隠す必要がなくなったため、オーク長ガンプ、オーガ長ザラム、スプリガン長のニスラも全て大陸内に進出させる。

ラシュタルのクレには兵が到着次第、基地を増強できるよう準備を進めるよう指示をした。

当初の予定通りだった。

ルタン町を起点に魔人を大陸に進出させることに成功しつつある。

「いやあ・・ルタン町では美味しいもの三昧でしたね!」

オージェが隣で微笑みながら言う。

オージェは190センチほどの背丈で適度に筋肉のついた黒髪の偉丈夫だ。その笑みはとても人懐っこいものがありとても好ましい男だった。柔道か武道の道着のようなものを無造作に身に着けている。

オージェは物凄く幸せそうな顔をしていた。それもそのはずでパトス町長の家でも、かなりのご馳走を出してもらい接待されたからだ。

「ホントですね。凄い食いました・・しかしオージェさんはよく食いますね。」

「腹八分目のつもりです。」

「そ・・そうですか?」

そう。オージェの胃袋は底なしだった。おそらく・・セルマ熊ぐらい食う。

俺達は既にルタンの町を出てフラスリア領に向け出発していた。向かっているのは俺とオージェ、シャーミリア、ファントム、ティラの5人とセルマ熊1匹だ。

ルタン町を出てすでに1日が経過している。1日でかなりの距離を進んで来た。

移動速度は恐ろしく早い。ほとんど休みなしで走り続けている。この世界の道は前世とは違って舗装などされていなかった。さらに道じゃないようなところも通ることがある。それを考えると車などよりはるかに速いのだった。

俺がセルマ熊の背中に乗りティラがファントムの肩に乗っている。楽をしている訳ではない、俺とティラではこの巡航速度についていけないのだ。時速100キロくらいで走り続けているというのに、オージェは易々とついてくるのだった。

《シャーミリアとファントムは、もともと生きてすら無いから疲れないはずだが、オージェはどうしてこんな奴らについて来れるんだろう?セルマの方をたまに休ませないといけないくらいだ。》

「オージェさん!疲れませんか?」

「いいえ全然。龍国から大陸の道のりに比べたら小春日和の散歩程度です。」

「そ・・そうですか?」

龍国からの道のりってどれだけ過酷だったんだろう?俺はその昔ラーズとの訓練で魔人国の北の山脈で死にかけたことがある。

・・俺はふと気になった事を聞いてみる。

「あの・・オージェさん!龍国からはその格好で来たんですか?」

「そうです!」

「荷物は?」

「この腰にぶら下げた鉈だけです。他は特に何も持たずに出ました。思いつきだったもので。」

《そうか・・思い付きで何百キロあるか分からない、あの極寒の山脈をふらりと超えてきたんだ・・こんな薄着で・・。チート過ぎるだろ。食料とか・・現地調達したんだろうなあ・・仲間にすることが出来て良かった。》

《ご主人様・・恐ろしい男を仲間にしましたね・・》

《ああ・・ホントだよ。》

俺はシャーミリアと念話で話しながら身震いする。

進んでいくうちに陽が暮れてきたので俺はオージェに聞く。

「今日1日何も食ってませんけど、そろそろ腹減りませんか?」

「減りましたね。」

「あそこに森があります。街道からそれて森にはいり魔獣を狩りませんか?」

「それなら・・私はいつも御馳走されてばかりですので、私が魔獣を獲ってきますよ!」

「いやファントムにやらせますから!」

「いいんですいいんです。」

俺の返事もそこそこに、腰の鉈を手にしてオージェが森の中に駆けて行った。

オージェが魔獣を獲って来てくれるそうだ。

「ミリア・・なんかすごい人を仲間にしちゃったよ。」

「はい。底が知れません。」

「だな。」

するとティラが言う。

「でも私は好きです。いい人の様な気がします。」

「ティラはそう思うか。俺も悪い気はしていないよ。」

「なんかあの人、私に気を使ってくれるんです。」

「そうなんだ。」

するとシャーミリアも言う。

「そういえば・・私奴にも気を使ってくれますね。」

「そうなのか?」

「そしてファントムにも気配りしておるようです。」

「ファントムに気配りする人初めてだな。」

「大体は恐れて近づかないですから。」

「だな。面白い男だ。」

「はい。」

《凄いな・・ファントムにも気配りするなんて、見た感じは繊細な感じはしないんだけど・・こうやってわざわざ魔獣を狩ってくるとか申しでて来るし・・》

「とにかく薪を集めよう。ファントム!」

ファントムがあちこちから薪を集めてきた。シャーミリアが高速きりもみであっというまに火をおこす。どんどん薪をくべて火をどんどん大きくする。

「温かいです。」

ティラがポツリという。

「そうだな。」

くるるるるる

セルマも炎に近づいてきて俺の後ろに腹ばいになる。獣でも中身がメイドなので火は怖くないのだった。

パチパチパチ

焚火が爆ぜる。

すると森の中からデカイ6メートルはあろうかという、グレートホーンディアを2頭担いでオージェが飛び出てきた。

「お待たせした!」

「いや・・全然待ってませんけど。」

「そうですか?じゃあ私が肉を切り分けます!」

「ああ手伝いますよ。」

「いいんです!座っててくださいよ。」

「え・・ええ。」

するとオージェは腰にぶら下げていた鉈を使って、手際よくビッグホーンディアを解体していく。物凄く繊細で丁寧な仕事だった。木の枝を手早く敷いてその上に毛皮をおいて、肉を部位ごとに並べていく。

「凄い。」

まるで料理人の様に手際が良い。2頭の巨大なビッグホーンディアはあっというまにいろんな素材に分類されていた。

「それじゃあ・・焼きましょうか?」

俺はファントムの背負子から塩と香辛料を取り出す。

「焼きましょう!焼きましょう!」

俺は並べられた肉に塩と香辛料を振りかけた、オージェはそれを手際よく枝に刺して焚火の周りに立て始めた。内臓も棒に刺して焼いている。

ジューッ!

肉が焼けるいい匂いがたちこめてきた。肉から滴る脂が食欲をそそる。

「美味そうですね!」

「本当ですね!」

肉が程よく焼けてくるとオージェが肉と内臓の部分を石の上に置く。

「おまえ食べていいよ!」

オージェはセルマ熊に食べていいという。どうやらセルマ熊にも気配りしているようだった。

くるぅぅ

いただきます。

・・と言っているんだと思う。

セルマが食べ始めるとオージェが俺とティラにも肉を勧める。

「さあ、さあ。」

「じゃあ遠慮なく。」

「いただきます。」

獲りたてのビッグホーンディアは美味かった。肉のさばき方が早いからなのか変な臭みも無かった。オージェはやはり味にもこだわっているようだ。

そして相変わらずオージェは凄い勢いで肉を食い始める。

縦だか横だか分からないビッグホーンディアのレア焼きを口の周りを脂だらけにして食っている。

しばらく食べていると・・そろそろ腹が膨れてきた。

「さあ、ラウルさんもっと!」

「い、いえ。そろそろ限界です。」

「まだこんなにあるのに?」

「はい。」

「ティラ嬢ちゃんは?」

「私ももう・・」

「そうですか?じゃあセルマ!食おう!」

くるるぅ!

オージェはセルマと一緒に肉を食い続ける。

「ごちそうさまでした!」

くくるぅがおがお!

オージェとセルマが口の周りをべろりと舐め揚げ満足そうな顔をしている。

「よく食いますね?」

「腹八分目です。」

どうやらこれでも腹八分目だそうだ。

「それじゃあオージェさんとセルマも食べたことだし、朝まで休憩しましょうか?」

「ん?朝まで休憩ですか?」

「えっと・・はい。」

「まだまだ動けますが。」

なんてこったい・・オージェの体力は魔人並みらしい。

「セルマは動けるかな?」

くるぅぅぅ・・・・

「どうやらセルマが少し休みたいそうです。ここで1刻(3時間)ほど休みましょう。」

「そうですね。では皆さんがそういうのであれば私は見張りに立ちます。」

「いえ。見張りはファントムがやります。」

「そんな・・いつも彼では・・」

「良いのですよ。あいつは今まで眠った事が無いんです。だから彼に任せてください。」

「眠った事がない・・・?」

「ええ。」

「分かりました。では彼に任せるとしましょう。」

オージェが納得してくれたようだった。

焚火の周りに座りながらオージェと話をすることにした。するとオージェから聞かれる。

「あのう・・魔人の事をあまりしらないのですが・・なぜシャーミリアさんとファントムさんは眠らないし食べなくても大丈夫なのですか?」

「ああ、シャーミリアはオリジナルヴァンパイアといって吸血鬼の祖なんです。ファントムはそのシャーミリアに作られた、ハイグールという種類なので不老不死で眠りません。」

「ヴァンパイア!ハイグール!すごい!」

「えっと・・ご存知ですか?」

「・・あ、あの・・いや・・なんとなくシュラーデンの町の本でみたような・・」

「本に?本当ですか!?そんな書物があるとは思えませんが?あったんですか??」

「・・あれ・・人から聞いたんだったかな?」

「それを知る人物が!?」

「そうだったようなそうでなかったような・・」

なんだかオージェの目が泳いでいるような気がする。ヴァンパイアやグールを知っているなんて大陸でもそう多くはない・・

でも・・なんかこれ以上詮索するのはいけないような気がしてやめる。

「それにしても・・魔人さんたちは凄いですね。」

「いやいやオージェさんに比べたらそれほどでもない気がします。」

「一度ファントムと仕合ってみたいんですけどねぇ・・」

「それはやめましょう!ファントムは不老不死ではありますが、壊滅的に壊されたりするとどうなるか分からないんです。」

「手加減はしますが・・」

「まあいつか・・」

「そうですか・・」

いやいや・・マーグの時は手加減できなくて怪我させたじゃん・・

どうやらオージェは気配りが出来て優しい反面、やたらと好戦的な一面を持っているようだった。

とにかくこの二人に仕合をさせてはならない気がするのだった。

「ではオージェさん・・私も一休みします。」

「はい。それでは目覚めましたら出発しましょう。」

「はい。」

俺はセルマにボフッと背中を預けて眠りに入るのだった。