軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第21話 嘘をついても許されるのが美少女

決闘は一分と経たずに終了した。

無残に灰になった三人の生徒は、決闘終了後にダンジョンが解除されると同時に復活。

収束砲撃を真正面から喰らったせいか、目覚めた瞬間はポカンとしていた。

「じゃ、負け犬共はさっさと消えてください」

「……ちっ、行こうぜ」

浄化ちゃんの言葉に憎々し気な視線を送っていた生徒たちだったが、やがて不機嫌な態度を隠すこともなくその場から立ち去った。

俺は改めて頭を下げる。

「ありがとうございます」

「いいんですよー。私たちの仲じゃないですか」

馴れ馴れしく俺とトアちゃんを抱き寄せた浄化ちゃんは、ニコニコと笑う。

女の子の良い匂いだぁ……。

「そ・れ・で、ちょっと聞きたいんですけど」

浄化ちゃんが俺達を掴んだまま笑顔でこう言った。

「ソルシエラってフェクトム総合学園の生徒ですよね。……誰が、ソルシエラですか?」

「っ」

「ああっと、どうしたんですか那滝ケイさん。女の子とくっついて照れちゃいました? なんて」

その時、俺はきっと初めて浄化ちゃんと目が合ったのだろう。

怖ろしく底冷えするような目だ。

今の彼女が全て上辺だけで、作られた虚像であることを一瞬で理解させるそんな冷たい目。

「視聴者の皆さん! さっきの決闘見ましたか? あれこそが証拠だと思うんですよ私は!」

ドローンカメラに向かって、浄化ちゃんが大げさに言う。

確信を持った言い方は、間違いなくソルシエラの正体を理解しているからこそだ。

「私はあの日、ソルシエラの収束砲撃を間近で見ました。だからこそ、その威力をよく覚えています」

記憶をなぞり、情報を羅列する。

その言葉に一切の淀みはない。

やがて、浄化ちゃんは今日一番の声で言った。

「ソルシエラの正体――それは月宮トアさん、貴女ですね!!!」

一瞬の沈黙。

その後、トアちゃんは震える声で申し訳なさそうに言った。

「ち、違います……」

「あれぇ!?」

ははは、この人ただの馬鹿だったわ。

「あの威力は間違いなくソルシエラのものだった筈なのですが……。ええ……」

未だに納得できない様子の浄化ちゃんは、トアちゃんをじろじろと見つめる。

そして、胸のあたりまで来たところでピタリと動きを止めた。

「……確かに、こんなに大きくは無かった」

「う、うぅ」

トアちゃんを虐めるなよ!

「浄化ちゃんさん、これ以上は困ります」

「ああっと、すみません。私、気になったらどんな手を使っても知りたい性分でして……迷惑かけてしまいましたね。すみません、月宮トアさん」

浄化ちゃんはバツが悪そうに頭を下げる。

本人に悪気はないと理解したのか、トアちゃんも怒ることは無かった。

うんうん、美少女同士仲良くね。

「というわけで、今回はガラの悪い探索者を倒しただけで、ソルシエラの正体はつかめませんでした……いかがでしたか?」

キュレーションサイトみたいな締め方するんだ、浄化ちゃんの配信って。

「今度は、フェクトム総合学園でお会いしましょう! それじゃ、おつじょうかー!」

ドローンカメラに手を振って、にこにこと笑う浄化ちゃん。

不意に、耳元で「手を振ってくれませんか?」と言われ、俺とトアちゃんも一緒に振る。

いえーい、先輩方見てるー?

「――っと、はい。ありがとうございます」

配信が切れたことを確認した浄化ちゃんは俺達を解放して礼をした。

「こちらこそ、助けていただいてありがとうございます」

「いえ、元は騎双学園の悪逆非道があのような探索者を生み出しているのです。私が正すべきなんです」

浄化ちゃんは至極真面目にそう言った。

「月宮トアさんも、すみませんでした。ソルシエラに近付けると勘違いして舞い上がってしまって」

「い、いえ。助けてくれて、ありがとうござ、います」

「ささ、今のうちにビーコン打ち立てちゃってください」

「あっはい」

トアちゃんはダイブギアから、五十センチ程の機械的な杭を取り出すとダンジョンの歪みの前に突き立てる。

そして、何やら設定を始めた。

成程。ダイブギア拡張領域ってああいうの入れるんだね。そうなると女装キットは何処にしまえばいいんだ?

「さて、じゃあ月宮トアさんが準備している間、次の配信の打ち合わせでもしますか」

「え、それはまず生徒会長に話を通してから――」

ぐいっと信じられない力で手を引かれる。

そのままトアちゃんから大分離された場所まで移動させられた。

怖いんだけど、この人。

「すみませんね。どうしても今のうちに確認をしておきたくて、ねえ――《《ソルシエラ》》」

「……何を言うかと思えば」

ば、ばばばばバレてるぅ!?

え!? なんで!?

「《《貴女》》がソルシエラだと確信したので配信は切りました。ここからは、私と貴女でお話です」

「だから、俺はソルシエラじゃないですって」

「そうでしょうか」

浄化ちゃんは俺の顔をずいっと覗き込んだ。

「髪の色や背丈が同じ。それに何より、貴女は確かに私のマーちゃんの不意打ち爆破を避けて見せた」

「っ、あの時の蛙はミスじゃなかったんですか」

「ははは、まさか」

先程の決闘の際に俺の前に転がり込んできた蛙は、どうやら故意だったらしい。

なんだコイツ思ったよりヤベエぞ?

「実験施設での会話でソルシエラがフェクトム総合学園の生徒だってことは予想できていました。残る問題は、一体誰がソルシエラなのか。照上ミズヒはソルシエラと共に戦う姿が理事会より公開されたため除外。蒼星ミロクもまた、早い段階で武装と能力から除外。残ったのは収束砲撃を使用可能な月宮トアと貴女」

俺を指さして、浄化ちゃんは自信満々な笑みを浮かべる。

「わざわざ決闘にしたのは、月宮トアの収束砲撃を見る為です。倒すだけなら、私一人で事足りる」

「……道理で、お膳立てが過ぎると思ったんです」

彼女の使う爆破する蛙は、この決闘において余りにもオーバースペックだった。

それでも、俺達フェクトム組が行動する余地があったのは、ソルシエラが誰かを見極める為。

そう考えれば、納得がいく。

いや、そもそも彼女がこれ程までに都合の良いタイミングで現れたことすら仕組まれたものなのだろうか。

「俺は見ての通り武器は短刀ですよ。あの特徴的な大鎌は持っていない」

「そんなのいくらでも偽装できます。……私が見ていたのは、眼ですよ――」

そう言って、浄化ちゃんは俺に急に殴りかかってきた。

女子生徒でありながら探索者の身体能力が存分に発揮された拳は空気を裂いて俺へと接近する。

その瞬間、赤い腕輪が出現し動体視力が向上し、俺は危なげなく躱して見せた。

……あ。

「やっぱり、その眼。ソルシエラもそうでした。経験に基づいた予測による行動ではなく、視覚で情報を捉えてからの後手での行動。それを可能とする驚異的な動体視力。今更隠しても無駄ですよ」

「俺は……」

ヤバい。

何故こんな暴露系の配信者に俺が負けるのだ!?

手汗びっしょりの俺を前に、浄化ちゃんは俺を追いつめるように言葉を続けた。

「盲点でしたよ。まさか、ソルシエラが男のフリをしているとはね」

「……ゑ?」

「今更しらばっくれるんですか? その中性的な声に顔。そして、女の子の体つきを隠すための一回り大きな制服――どう考えても貴女は女の子でしょう?」

浄化ちゃんが、俺を見つめる。

もう逃げられないぞ、と言外にそう告げるその表情を見て、俺は息を一つ吐いた。

状況を整理しよう。

浄化ちゃんは、俺がソルシエラであると知っている。

が、それは俺の女装がバレた訳ではないようだ。

ミステリアス美少女=女装野郎、ではない。

ミステリアス美少女=男装美少女、だ。

この違いは大きい。大きい!!!

というか、これはこれでチャンスなのではないだろうか。

……トアちゃんの方はもう少しだけ時間がかかりそうだし。

よし。

「――はぁ」

その視線は物憂げに斜め下。これが退廃的な目線角度である。

少し眠たげだとgood。

口元をキュッとしめて、不愛想に。

そして、俺は喉を締め上げていつもよりも高い声で言ってやった。

「気持ち悪い執念ね。正解よ、ストーカーさん」

乗るしかない、この 勘違い(ビッグウェーブ) に。