軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第20話 美少女は神に二物を与えられている

原作ではそこまで描かれていなかった要素として、ダンジョン配信がある。

最初は、なろう系らしく要素の一つとして取り入れられていたのだがその内、ゴリゴリの能力バトルへと話がシフトし配信が描かれることは無かった。

なので、俺はあまり配信や配信者について詳しくは知らない。

「ほら、二人ともこっち寄って寄って! ドローンカメラにピースピース!」

そう言って、馴れ馴れしく肩を組む浄化ちゃん。

トアちゃんは自分とは正反対の存在の登場に完全に混乱している。

「ほら、月宮トアさんもピース!」

「???? ……い、いえーい?」

「きゃーかわいー!」

わっかるー!

「……それで、俺達に何か用ですか?」

「取引しましょうよ」

ドローンカメラを前に、浄化ちゃんはハッキリとそう言った。

彼女の近くに浮かんでいるウィンドウには視聴者のコメントが流れているようだが、ここからだと文字が反転して見えない。

あ、『草』だけわかるわ。

「君たちフェクトム総合学園について、私はまだまだ知りたいことが沢山ある。だから、今度は正式に取材をさせて欲しいのです。対価として――」

浄化ちゃんを囲むように、蛙が姿を現す。

数えることなど最初から諦めてしまうような大群。

その全てが高威力の爆弾であることを知った今、彼女が何を言わんとしているかは理解できた。

「あそこの邪魔者を消すのを手伝ってあげますよ。どうやら騎双学園の名前を使って悪さもしているみたいだし……一石二鳥ですね」

「……取材の件はうちの生徒会長に伝えておきます」

「うんうん、交渉成立! 視聴者の皆、次はフェクトム総合学園での配信が決まったぜ!」

きゃぴきゃぴと飛び跳ねながら笑う浄化ちゃん。

その目の前を、炎が横切った。

「……ちっ、外したか」

見れば、身体から放出した炎をボールのように投げ飛ばしている。

それ強い? 微妙じゃない?

「お前の顔、見覚えあるぞ。騎双学園の風紀委員会と執行官に追われている逃亡者だろ。テメエも纏めて潰して、さらに報酬を貰うとするかぁ!」

お前さっきまでの覚えてねえのかよ。

良いように爆破されてたじゃねえか。

意気揚々と俺達を倒す宣言をしている生徒と、そんな彼に従う取り巻きAとBを見て、俺は内心でため息をつく。

うーん、これは一回ボコボコにしなきゃいけないな。

「浄化ちゃんさん、それじゃお願いしま――ん?」

「……はぁ」

早速手伝って貰おうと浄化ちゃんの方を見れば、それはそれは冷たい視線を生徒達に送っていた。

先程までの明るさはどこへ消えたのか、舌打ちまで聞こえてくる。

が、俺の視線に気が付いたのか、パッと表情を変えると笑顔で頷いた。

「うんうん、頑張りましょう! じゃ、早速あのクソ共を潰すために――決闘しましょうか」

「決闘?」

「わ、私達がですか?」

決闘とは、ダンジョンの攻略権利をかけて少数で争うとき使われるものである。

これが五人以上同士の戦いになると学園同士の戦争という形へ移行するのだ。

「三対三。決闘用のダンジョンは幻影都市。敗北を認めるか、全員が死んだら終わり……でいいですか」

浄化ちゃんがすらすらと告げるそれは、決闘における最もスタンダードなルールだ。

都市の一区画を模した半径五十メートルの人工ダンジョンの中での疑似的な殺し合い。

その最大の特徴は、決闘終了後全ての状態が元に戻るという事だろう。

つまり、決闘において死は終わりを意味しない。

現代ダンジョンの時代、死はそこまで忌避すべきものではなくなっていた。

恐れるべきは死の先に待つ永遠の終わりであり、その前段階の死自体はただ決闘の敗北を決める要因でしかないのである。

「俺達もそれで構わねえぜ。決闘ってことは、ダンジョンのコアはお前が持っているんだよな逃亡者」

「勿論。これ、かなーり高かったんですからね」

決闘に使われるダンジョンは、エイピス理事会の規定により定められている。

それ以外のダンジョンでの決闘は禁じられており、仮に行った場合は死んだとしても蘇生は難しい。

そして、このダンジョンコアは値段が張る。

規模が小さい安物でも一千万。

基本的には、ダンジョンを見つける役割りの生徒が所有するのだが……どうにも彼女は個人で保有しているようだ。

お金あるんすね、配信者って。

「それじゃ、ダンジョンを展開しまーす!」

浄化ちゃんが、立方体の機械的な箱を放り投げる。

すると、辺りの空間が歪み、瞬きした次の瞬間にはどこかの都市に立っていた。

大きな道路の真ん中。

交差点を挟む形で俺達と奴らは立っている。

青空の下、交差点に信号機のように取り付けられた決闘開始のランプが左から順に点滅していく。

浄化ちゃんはその間に俺達を見て言った。

「この決闘は私にとっては前座です。だから、さっさと終わらせましょう。私が爆破で相手をかく乱。君はその短刀で相手を切るチャンスを伺ってください。そして、月宮トアさん最後はお願いしますね。貴女のその武装ならできるでしょう?」

「……はい」

「あ、えっと、頑張ります」

トアちゃんが自分の身長以上ある重砲を構える。

本来は巨大なロボットの肩に載せるようなそれに、無理矢理取っ手を付けているかのような余りにも不相応な武装。

六波羅さんへの牽制のビーム砲撃しか見ていないが、実際威力の程はどうなんだろうか。

……というか、この浄化ちゃんとかいう生徒が俺達の事を知りすぎている。

何故、調べる必要があったのだろうか。

が、そんな事を聞く余裕があるはずもなく、ランプが最後の赤へと点滅する。

同時に、ダンジョン内にブザーが鳴り響いた。

「十秒で勝ちますよー」

そんな間延びした声。

相変わらず配信をしたまま、浄化ちゃんは駆け出した。

それに追従する蛙の群れ。

俺はその後方にぴったりと付く形で走った。

「真正面から来てくれるとはなぁ!」

「マーちゃんズ」

相手の威勢の良い言葉に反応することなく、浄化ちゃんが淡々と言葉を吐く。

そして、浄化ちゃんの背後で波打つように動く蛙の群れ。

ソレは相手三人をあっという間に囲むと爆破した。

「ぎゃぁっ!」

「ユウ君ヤバいって!」

「死ぬ死ぬ死ぬ!?」

阿鼻叫喚な探索者達の悲鳴が聞こえる爆破の渦を指さして、浄化ちゃんは俺に飛び込むようにジェスチャーする。

マジで?

「大丈夫です。マーちゃんは敵しか傷つけないので」

「その言葉、信じますからね」

死んでも復活できるという安心感から、俺は爆破に短刀を構えて飛び込む。

すると、爆炎は俺を避けるようにして道を作り上げた。

「すごっ」

その中を駆け抜けて、俺は爆破に巻き込まれた三人の前に飛び出る。

「ッ!? こいつ――」

一人が気が付いたがもう遅い。

俺は一人、また一人と流し切り、三人をキッチリ麻痺させた。

それとほぼ同時に、爆炎が晴れ視界が広がる。

俺の足元に倒れ伏す三人。

……これならもう俺がこのままトドメ刺した方がよさそうだな。

そう考えて短刀を握りしめたその時だった。

足元に一匹の蛙が飛び込んでくる。

「ッ!?」

赤い腕輪によって上昇した思考速度が、即座に回避を身体に命令する。

探索者としての身体能力にさらに魔力を上乗せして俺が飛びのくとほぼ同時に、一匹の蛙は爆発した。

「あぁっ!? ごめんなさーい。大丈夫ですかぁ!?」

「……っす。大丈夫です」

転がった俺へとぱたぱたと駆け寄った浄化ちゃんは、俺の制服の砂埃を払っていく。

「……制服、やっぱり大きいですねー」

「え?」

今、言う事か? まあ、大きいけど。

「っと、それじゃ最後の仕上げお願いしまーす!」

俺が疑問を口にするよりも早く、浄化ちゃんが手を上げた。

それが合図と理解したトアちゃんは頷くと、重砲の先を麻痺して倒れる生徒三人へと向ける。

機械的なボディが、光の収束を始めた。

トアちゃんの周囲から光が立ち昇っては、全てが武装の中へと吸収されていく。

それを見て、浄化ちゃんは言った。

「アレが、《《本来の収束砲撃》》ですよ」

え、トアちゃん収束砲撃を撃てるの!?

作中でも撃てる奴って限定されているのに!?

もしかしてフェクトム化物しかいない?

これ、ミロク先輩もなにかしら突出してるパターンじゃ……。

「使用者を通して空気中の魔力を一気に吸収。ダイブギアの演算により再配置して使用可能な魔力へと変換する。それらを束ねて放つ一撃こそが、収束砲撃」

浄化ちゃんの言葉通りのプロセスがこなされていく。

トアちゃんの周囲に出現する複数の魔法陣が、歯車のように回りだす。

鉄の冷たさが印象的だったトアちゃんの重砲は、至る所が唸りを上げ銃口が光を溢れさせていた。

光の粒子の中に重砲を構えて佇むトアちゃんの姿はあまりにも美少女で、随分と参考になる。

やがて、トアちゃんは大きく息を吐いて、言った。

「発射」

ごうっ、と衝撃波が風を巻き起こす。

アスファルトを大きく削り、辺りに存在していたビルの窓ガラスを粉々にしながら突き進む黄金の光。

それは、一秒と経たずに生徒達を飲み込んだ。

圧巻。

その一言に尽きる。

いつも、砲撃を撃つ側だったから知らなかったが、これ程までに迫力があるものなのか。

いや、もしかすると今まで撃った星詠みの杖の威力を上回っているかもしれない。

「これが……収束砲撃」

「やっぱり凄いですねー。探索黎明期から受け継がれる人類最強の技の一つの答え。威力だけなら現代でも未だに超えることができない魔力そのものでの攻撃。……凄いでしょう?」

「ああ、はい」

俺は呆気にとられたまま返事をする。

頭の上では、気持ちの良い青空とともに決闘終了のブザーが鳴り響いていた。