軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

公爵子息の思い

俺がモルヴァン公爵家の嫡子イレール・モルヴァンとしてこの世に生を受けたとき、両親はもちろん両家の祖父母や叔父叔母まで待望の嫡男誕生に大喜びしたという。

別に長い間、両親二人が子に恵まれなかったわけではない。

祖父母が長い間、父が生まれずに思い悩んだ日が続いただけである。

しかし、孫にも恵まれないかもと密かに悩んでいたのに、父と結婚した母はすぐにあっさりと第一子で俺を産んだ。

俺は王族の血も流れる王位継承者であり公子として、高度な教育と贅沢な物に埋もれて育った。

子供心に窮屈さを感じていたときもあったが、妹が生まれてからは「自慢の兄」となるべく頑張った。

父が友として、将来の主として、幼いときに第一王子ジュリアンと交流を持たしてくれたことも、上昇志向を持ついい切っ掛けとなっていた。

当然ながら、どの教師にも褒められ父母からの信頼も得て、妹のヒーローとなった俺は、今思うと少し傲慢で生意気な子供だったかもしれない。

俺より性格の悪い第一王子ジュリアンがいたので、自覚するのに時間がかかってしまったが……。

子供同士のお茶会や、第一王子の側近候補として城へ招かれたりする忙しい日々のなか、不幸はある日突然に訪れた。

妹、ミレイユ・モルヴァンの夢魔病の発症である。

幼いときは公爵令嬢であるのにお転婆で家族で頭を悩ましていたのに、他家のお茶会に参加するときはお澄まして評判がよく、表裏の激しさに乾いた笑いが漏れたものだった。

それでも、寝坊することが多くどこか憎めない妹を、全力でかわいがり愛してきた家族が伝えられた病名に絶望したのは想像できるだろう。

不治の病、夢魔病。

原因も治療方法も不明で、せめての救いは眠るように苦しまずその命を終えること。

俺は、後継教育も無視してとにかく治療方法や薬の情報を集めるため奔走した。

金も権力も使えるものはなんだって使ったし、第一王子ジュリアンにも手伝わせた。

あいつは次代の王らしい腹黒な性格で頼りたくはないし借りは作りたくなかったが、妹の命には代えられなかった。

幸運なことに奴の婚約者、フルール・デュノアイエ侯爵令嬢がミレイユとは仲が良く、彼女からの口利きもあり、ジュリアンの重い腰を上げさせることができた。

しかし……やはり夢魔病の薬は見つからなかった。

半ば、ミレイユの病に屈服しかけていたころ、気にも留めたことのない領地の噂を耳にした。

死亡率の低い領地……アルナルディ子爵家の噂だった。

王都から近い領地でありながら、土地が痩せ農作物も育ちが悪く、これといった産物もない、正直辺境の荒れ地と変わらない貧乏な領地だった。

アルナルディ子爵は、昔王宮で文官として働いていて、宰相が彼のことを覚えていた。

曰く、「彼だからこそ経営できている領地」だそうだ。

しかし、宰相もアルナルディ子爵本人に医学の心得はなかったと断言した。

さらに調べると、亡くなったアルナルディ子爵夫人が薬の知識が豊富で、老人や子供にも飲みやすい風邪薬を作ったことがわかった。

だが、その当人、カティンカ・アルナルディ子爵夫人は既に故人だ。

「ん? 息子がいるのか」

夫人が領地を回り病人の様子を診ているとき、必ずその近くには嫡男であるサミュエル・アルナルディがいた。

もしかして、亡くなった子爵夫人の能力をこの子供が受け継いではいないだろうか?

その子供は俺と年齢が近く、今は王都の学園で学んでいるという。

会いに行こう。

もしかしたら、何か夢魔病を治す知恵を貸してもらえるかもしれない。

もしかしたら、夢魔病に効く薬草を知っているかもしれない。

そんな僅かな希望を胸に学園を訪れた俺は、彼女と出会う。

何の因果か……サミュエル・アルナルディの妹、シャルロット・アルナルディ子爵令嬢と。

不思議な人だ。

どこかアンバランスな、少女のような、淑女のような……気高い夫人のような、会うたびに話すごとに彼女の印象がコロコロと変わる。

「あら、イレール様はご自分の魅力に揺らがない彼女が珍しいだけでは?」

扇を開いて口元を隠しこてんと首を傾げて、こちらを揶揄うのは学園に通っているフルール嬢だ。

俺がサミュエル殿に会うため学園を訪れる理由として、第一王子からの連絡係となり婚約者であるフルール嬢へ面会していることにした。

最初は彼女も友人であるミレイユのことと親身になっていてくれたが、最近では俺がシャルロット嬢に振り回されているのを楽しんでいる風である。

さすが、ジュリアンの婚約者である。

俺に群がらない令嬢は確かに珍しいが、そもそも彼女は結婚とかに興味がなさそうだ。

通っている学園の淑女科の成績もいいし、所作も美しい。

騎士科の男たちが彼女の噂をしているのを聞いたこともある。

だが、彼女は友人のニヴェール子爵令嬢と共に行動し、兄であるサミュエル殿の研究を手伝っている。

そう、俺が求めていた夢魔病の研究を、サミュエル殿は始めていた。

いや、違う。

学園の優秀生だけに許された卒業論文の研究課題として「夢魔病」を取り上げようとしたが、なぜか別の薬へと変えてたらしい。

それは、第一王子ジュリアンも危険視している、同腹の弟、第二王子ディオンの行動を危惧してのことだった。

シャルロット嬢は、その細い体で必死に腕を伸ばし、兄であるサミュエル殿と友人、父である子爵や領地を守ろうとしていた。

……惹かれないわけがない。