軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

家族に贈る薔薇とその意味

フルール・デュノアイエ毒殺未遂事件は貴族たちの間にも、市民たちの間でも知られることなく、王宮の一部のみだけに周知され秘密裡に背後関係などが捜査されていた。

毒を入れた実行犯とされる侍女はフルール様が第一王子ジュリアン様と婚姻したあと、王子妃となった彼女付きになるはずの貴族子女で、いまは見習いとして王妃の元で仕事を習っていた。

王宮で警護に当たっていた騎士たちは、当然、毒の種類と入手先、侍女の関係者を調べているだろう。

その騎士たちの動きの邪魔にならないように、さらに水面下でジュリアン様の指示でイレール様やフルール様のデュノアイエ侯爵家が動いている。

巧妙に外堀からジワジワと迫る捜査の手に、オレリアはどうするかしら?

怯えて逃走する?

第二王子に縋り命乞いをする?

いいえ、そんなみっともない姿は見せない。

あの女は切り捨てるものはすべて切り捨て、また振り出しに戻っても虎視眈々と好機を窺うだろう。

王宮から手紙を受け取った翌日は学園を休み、兄とアンリエッタと三人でサロンで過ごす。

交わす言葉は少ないが、私たちはジリジリとした焦燥を抱え待っていた。

日もそろそろ暮れるころ、執事の一人が恭しく手紙を持ってくる。

昨日と同じく、白い封筒に赤い封蝋。

兄が執事に礼を言い、ペーパーナイフで開封する。

「……明日、僕たちは王宮に呼ばれた。フルール様からの招待だが第一王子のジュリアン様も同席される」

「それで、お兄様! オレリアのことは? 第二王子たちのことはなんて?」

私の勢いに少し驚きながらも、兄はゆっくりと頭を横に振った。

「いいや、何も書かれていない。すべては明日わかることだ」

「そんな……」

気落ちしてソファーに座り込む私の背中をアンリエッタが摩って慰めてくれる。

フルール様やイレール様が味方になってくれていても、兄がフルール様の毒殺の首謀者として捕らえられ処刑される未来が変わったのかどうかは確信が持てない。

明日、のこのこと王宮を訪れて、そのまま兄は騎士たちに捕縛されてしまうかもしれないのに。

「大丈夫だよ。きっとエドモン先生が証拠を見つけてくれているはずだ」

「そうよ。オレリアたちはヴォルチエ国の薬草に詳しい人が王宮医師にいるなんて知らないんだから、絶対にボロを出すわ」

兄とアンリエッタに励まされたが、私の不安は消えることはなかった。

ギュッと胸のペンダントトップを握りしめる。

「カティンカ様が家族に贈ったペンダントトップは、ぼくの生家フェリエ子爵家で用意したんだよ」

エドモン様は快活に笑って、自ら私たちにお茶を淹れてくれた。

フェリエ子爵家の領地ではいくつかの鉱山があり、細工職人も多く抱えていた。

母が頼んだ薔薇の意匠のペンダントトップは、エドモン様の紹介で作られたものだった。

「カティンカ様直筆のデザイン画に色の指定まであってね。家族でお揃いにしたいと言っていた。カティンカ様から贈られたときのクリスチャンのニヤけ顔を想像して、なかなか楽しい仕事だったぞ」

私と兄が顔を見合わせて笑う。

確かに母からペンダントを贈られたときの父の喜びようはすごかった。

そして、アンリエッタが頬を染めて俯いているのがわからないわ?

「アンリエッタ、どうしたの?」

「ええっ! な、ななななな、なんでもないわ」

動揺しまくりなんだけど、触れないほうがいいかしら。

私はアンリエッタをそっとしておくことにして、兄にも目配せしておいた。

「僕たちは今でも大事にしていますよ」

ほら、と兄が首から鎖を手繰り寄せ緑色の薔薇のペンダントトップをエドモン様に見せる。

私もスルスルと鎖を手繰り寄せ、エドモン様に見えるように掲げた。

「確かクリスチャンは黒薔薇、カティンカ様は赤、サミュエル殿は緑で……あれ? シャルロット嬢は青薔薇だったけ?」

私は咄嗟にペンダントトップを握りこみ、誤魔化すように笑った。

「そうか……あと、もうひと……」

「あーっ、そうですわ! 私、聞きたいことがあったんです」

エドモン様に被せるようにアンリエッタが大声を出す。

しかもソファーから立ち上がり、フーフーと息荒くエドモン様に迫るので、私と兄はビックリしてしまう。

「アンリエッタ?」

「あ……。コホン。えっと、えっとえっと、その、ああ、そうそう。この薔薇の色の意味ってあるんですの?」

「へ? あ、ああ。それもカティンカ様は何か言っていたような? ふむ、あとでカティンカ様が描かれたデザイン画を探しておこう。見つかったら君たちのところへ送るよ」

母が描いたペンダントのデザイン画……それは、今でも母を深く愛している父へのいいプレゼントになりそうだ。

「はい。よろしくお願いします」

あら? さっきエドモン様が何か言いかけていたけど、なんだったかしら?

そして、エドモン様から送られるはずの母が描いたデザイン画は、その後の忙しさに忘れられ、私の手元に届いたときにはすべてのことに決着がついたあとだったのだ。

そのデザイン画に描かれた母の言葉に、私は母の愛情の深さと守りに触れ、そっと涙を流した。

「……ありがとう、お母様」

貴方の起こした奇跡で、私は今ここに愛する人たちと共にいられるのです。