軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

間話:『緊急召集の真相』

三人の足音が芝生に吸い込まれ、遠ざかっていく。

人の減ったカフェテラスに、再び潮風の音だけが戻ってきた。

マリアは、残されたテーブルの上をゆっくりと見渡した。そして、何もかもを見透かすような瞳で、傍らに佇むリリィへと視線を移す。

「リリィ。あなたも、そこに座りなさい」

凛とした、しかし有無を言わせぬ声だった。

◇◆◇

丘を駆け下りる私の足は、もつれそうだった。柔らかなワンピースの裾が風をはらんで邪魔になる。

「一体、何があったのですか、セラさん!」

「分かりません! ですが、通信はグレイグ中将からでした。『港のドックへ、至急』とだけ……!」

息を切らしながら答えるセラの横顔にも、緊張の色が浮かんでいる。ヴォルフラムさんは無言のまま、常に私を庇う位置取りを崩さず、獣のような鋭い視線で周囲を警戒していた。

やがて港の喧騒が近づき、目的地である巨大なドックが見えてくる。そこには、人だかりができていた。屈強な海兵や油まみれの職人たちが、遠巻きに何かを取り囲んでいる。その中心から、まるで鋼がぶつかり合うような、けたたましい怒鳴り声が響いてきた。

(……この声は……)

私の胸に、ひどく嫌な予感がよぎる。

人垣をかき分け、私たちはその中心へとたどり着いた。

そこに広がっていたのは、まさに子供の喧嘩そのものだった。

「だから! この『黒き衝動』はもっと速くなるって言ってんだ! このデカい船のエンジンをこっちに積めば、海の上を飛べるだろ!」

『黒曜の疾風』ことハヤトさんが、巨大な船――『スレイプニル』の設計図を指さしながら、目を輝かせて力説している。その手には、どこから持ってきたのか油まみれのスパナが握られていた。

「馬鹿言ってんじゃないよ!」

それに噛みついたのは、腕を組み、仁王立ちするマキナさんだった。顔も作業着も煤で汚れ、その目は完全に据わっている。

「船体の強度計算もなしにそんなことしたら、海の上でバラバラになるだけだ! そもそもアンタのその無茶な操縦に耐えられるよう、どれだけ補強に苦心したと思ってんだ! 流体力学を舐めるな!」

「気合だ! 気合でなんとかなる!」

「物理法則は気合じゃ曲がらねえんだよ、この脳筋ヒーローが!」

二人の間には、マキナさんが心血を注いで描いたであろう、美しい設計図が広げられている。だが、その上にはハヤトさんが書き加えたらしい、「ここにドリル」「 翼(ウイング) を装着」「必殺ビーム発射口」といった、小学生の落書きのような文字が踊っていた。

「私の美しい設計図に何してくれてんだゴルァ!」

「ヒーローにはこれくらい必要だろ!」

周囲の海兵や職人たちは、口を挟むこともできず、ただオロオロと二人を見守るだけだ。「また始まったよ……」「誰か中将閣下を呼んでこい……いや、もういらっしゃるのか……」という囁き声が聞こえてくる。

その人垣の後ろで、グレイグ中将がこめかみを押さえ、深いため息をついているのが見えた。彼は私たちの姿を認めると、まるで地獄に仏とでも言うように、すがるような目でこちらに歩み寄ってきた。

「すまん、リナ……。この馬鹿どもを止めてくれ……」

「…………」

私は、もう言葉も出なかった。

セラさんは氷のように冷たい視線を二人に向け、ヴォルフラムさんは「な、何事ですか、これは……」と呆然と呟いている。

緊急の呼び出し。

ただ、この子供の喧嘩を止めるためだけに、私たちは穏やかな休日を中断させられたのだ。

「……私の、胃が……」

私は静かに頭を抱えた。

アクア・ポリスの空は、私の心とは裏腹に、どこまでも青く澄み渡っていた。