軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

800年前の悪女は毎日がとても楽しい③

私は『青春』というものを送ったことがない。

元は孤児だったし、魔法の才能が発覚してからは強制訓練の毎日だったし、愛のない養子入りだし、その後も一心不乱に魔法の研究をしていたら、婚約者からの冤罪で800年の封印だし。

だから、ちょっと憧れていたのだ。

放課後に誰かと遊ぶ――なんて、普通の学生生活を。

「お、お招き……ありがとう、ごじゃいます……」

「ううん。一緒に食べてくれると嬉しいな!」

お友達と、お茶会‼

甘い物は大好きな私。この王子君と一緒にいたレミーエちゃんも、偏見込みで甘い物が好きそうな外見しているものね。きっと楽しい時間を過ごせるはずだ!

なので私は、お見舞いの翌日の放課後に、レミーエちゃんを呼び出した。

学園内に併設されたカフェテリアで、事情を説明したところ特等席を用意してくれたよ。この『ルルーシェちゃん』はお金に困っていない様子で、テーブルいっぱいに宝石みたいなお茶菓子をたくさん用意することができた。

しかし、レミーエちゃんの紅茶カップを持つ手がガタガタ震えている。

そうか、『ルルーシェちゃん』のほうが爵位が上なんだっけ?

緊張を取り除くためには……やっぱり女の子が好きだという『あの話題』をするしかないよね!

「ところで……あの王子君のどこが好きになったの?」

「ぶへぇっ!」

あら、ばっちぃ。彼女、紅茶を噴き出しちゃった。

だけど多少の粗相は素が出るきっかけにもなるだろうし、私は気にせず彼女の口周りを拭き拭きしてあげながら会話を続ける。

「見た目はザ・王子って感じで悪くないよね。でも……正直少しバカっぽくない? あんまり運動神経が良さそうにも見えないかったし、たとえ王子様じゃなくても、もっとイイ男が他に――」

「サザンジール様は、すごく優しい人なんです!」

カップを置いたレミーエちゃんが、周りに響く声で叫ぶ。

悲痛なまでの訴えはなかなか情熱的でよいけれど……どうしても私の頭には疑問符がいっぱい浮かんでしまう。

あの、婚約者のお見舞いに他の女を連れてくる男が?

本当に私の世界とこの世界じゃ、一般的な常識や価値観が違う可能性も否めないけど……。そんな私の疑問が顔に出ていたのか、レミーエちゃんがわたしの両手を掴んで必死に告げてきた。

「すごく、真面目な人なんです。そして何より……あの人は、ルルーシェ様のことが大好きなんですうっ!」

……うん。あれだね。この子はすごくいい子だね。

少なくとも王子君とルルーシェちゃんがこのままじゃ仲違いすると思って、必死に仲を取り持とうとしてくれているんだろうね。めっちゃ友情。私、こういうのはすごく好きだよ。

だからこそ、私はにっこりと聞いちゃうのだ。

「それ、恋敵にお話ししちゃっていいことなのかな?」

「別に私も……本気でサザンジール様と上手くいくなんて思ってないです。だってあの人、何かあるたびに『ルルーシェが』『ルルーシェが』なんですよ? まともに話すの、今日が初めてなのに……私、ルルーシェ様のこと他人とは思えないもん」

すると、レミーエちゃんもにっこりと笑顔を返してくれて。

私は自然と提案を口にしていた。

「それじゃあ、私とお友達になってくれる?」

「えっ?」

レミーエちゃんが目を丸くしながら、おずおずと訊いてくる。

「それこそ……私が疎ましくないんです、か……?」

「私を蹴落として、王太子妃の座を狙う?」

「まさかまさかまさかそんなそんなそんな!」

慌てて否定する様子がすごく 愛(う) いね。

私はまともに恋なんてしたことがないけど、こんなかわいい子にだったら取られても仕方ないって思ってしまうよ。

「まぁ、狙ってきたとしても恋のライバル。お互いの手の内を探るためにも、親交を深めて悪いことはないよね?」

私が意地悪くそう言うと、レミーエちゃんはとても嬉しそうな顔で笑った。

「ルルーシェ様って、こんな気さくな人だったんですね!」

……そういや、つい口調も令嬢風にするのを忘れていたけれど。

まぁ、どのみち、私は本物の『ルルーシェ=エルクアージュ』ではない。

だけど、本人の知らないうちにお友達の一人や二人、増えておいて損はないよね。この子はこんなにもいい子なんだもの。

ここから、私たちはお喋りにどんどん花を咲かせた。

あのサザンジールって王子君の話もしたし、王子君との出会いの話も聞いたよ。

きっかけは王子君の落とし物を拾ったこと。その落とし物をレミーエちゃんが直すことになって、そのやりとりをしているうちに、レミーエちゃんが他のクラスメイトに虐められていることが発覚したらしい。そこで、王子君は自分の身分を盾に、彼女を被害から守ろうとしていたというのだ。

「それなら、あの王子君に直接もの申してもらえばよかったのでは?」

「それって先生に告げ口するのと一緒で、陰で倍返しされちゃうかなぁ、と」

「なるほどね」

まあ、これからはレミーエちゃんが困っていても私が助けてあげられるだろう。待ってろ、いじめっ子! この稀代の悪女が徹底的にやり返してやる‼

そんなことを意気込みつつも、話の流れで『今度ドーナツを食べに行こう』とか、そんな約束もして。

ルルーシェちゃん、元に戻ったらびっくりするかな? それでも残りわずかの余生、少しでも楽しい毎日を過ごしてもらえたらいいなって思って。

そして、レミーエちゃんと一緒に帰ろうとしたときだった。

「ルルーシェ」

銀髪の爽やか少年が、私の肩を叩いてくる。

年の割にはなかなか色気のある少年だけど、女慣れした様子が軽薄にも見えてしまうかな。そんな美少年に対して、レミーエちゃんが私の後ろに隠れる。

……これは、悪い男なのかな?

「どちら様かしら?」

警戒心全開で、きちんと令嬢言葉も使って尋ねれば。

「ショックだな……階段から落ちた衝撃で、義理の弟の名前も忘れちゃった?」

跪いた彼は、私の手に唇を落としてきた。

「僕はザフィルド=ルイス=ラピシェンタ。末永くお見知りおきを――僕の女神」