軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

800年前の悪女は毎日がとても楽しい④《完》

「……レミーエちゃん、先に帰っていてもらえる?」

私を『女神』なんて上目遣いで呼んでくる少年はさておいて。

ワンテンポ遅れて、私は震えていたレミーエちゃんを先に帰す。

なーんか前にも、同じようなことをされた気がするんだよね。

誰だっけなー。普通なら彼氏や婚約者だけど……私を800年前に封印した婚約者は、こんな気の利いたことを一切しない男だったしなー。

でも『女神』ではなかったはずだ。

私は『彼』の……何なんだっけ……?

そんなことを考えこんでいると、目の前の銀色少年が私の顔を覗き込んでくる。

「ルルーシェ、本当に具合悪い?」

私を心配してくる眼差しは、どうも本物らしい。

私は「ごめんごめん」と適当に謝りながら、ふと思い出す。この銀色少年は『ザフィルド』って名乗ったっけ? その名前、私はたしか昨日聞いたはずだ。そう、彼は――

「あー、お兄ちゃん王子に噓八百教えたやつかー!」

私が指さした途端、青い瞳が鋭くなる。

「……昨日、兄上からも聞かれたんだよね。『お前は俺を嵌めようとしているのか?』って。ルルーシェが吹き込んだの? 困るなー、僕が二人の仲を引き裂く理由があるはずない――」

そんな流暢な彼の言葉を「理由はいくらでもあるでしょ」と止める。この手の口の上手いタイプは、好きに喋らせておいたらロクなことがないからね。

「たとえば、自分が王位を継ぎたいなんて理由でお兄ちゃんを引きずり落とすために兄の醜聞や素行の悪さを利用するのもアリだよね。あるいは……もっと単純にルルーシェちゃんのことが好きって理由も――」

今度は、思わず私が言葉を止めてしまった。

だって、目の前のザフィルド君がこっちが恥ずかしくなるくらい顔を真っ赤にしているからだ。

「そ、そんなはっきり君に言われるなんて想定外だ」

「好きなんだ?」

私がニヤニヤ小首を傾げたら、彼は口元を隠しながら拗ねた声を出す。

「……これは、僕も期待していいってことなのかな?」

「さあ、それはどうなんでしょう?」

私は『ルルーシェちゃん』と全くお話したことがない。

なので、当たり前だが『ルルーシェちゃんの好きな人』が誰なのか知らない。

ただ、ここまで恥ずかしそうにも嬉しそうににやけている男の子を、なんにも知らない私が地獄に突き落とすことは忍びなくて。

「まぁ、せいぜい期日までに頑張ってみれば?」

あなたの頑張り次第では、ルルーシェちゃんが死ぬ前にイイ仲になれるかもしれないね? 楽しいデートの一回や二回はできて、二人の楽しい思い出が作れるかもしれない。

……もし、ルルーシェちゃんに何の気もなかったら……ごめんね?

そうして弟王子君を一人残して、帰路につこうとした時だった。

《きみって悪い女だね! 悪役令嬢もびっくりだよ!》

どこからともなく、青年の声が聴こえる。

……これはあれかな。神様の声かな?

悪役令嬢って言葉も面白いね。決して『悪の令嬢』ではなく、『悪役』を演じる『令嬢』ってことだよね。

私は、夕焼けに向かって口角をあげる。

だって、私は『本物』の悪女ノーラ=ノーズだからね。

残念ながら、そんな中途半端な女ではないのだ。

◆ ◆ ◆

「ノーラ……ノーラ!」

「うん……?」

誰かに呼ばれて、目を開ければ。

あら、見覚えのある天井。ここはあれかな、 私(・) の学校の保健室だ。

そんな場所で、私を見下ろしてくる亜麻色髪の猫目が特徴な美少年の顔に。

私は手を打った。

「あー、そうだ。アイヴィンだ! 私はあなたの女王様だったね!」

「いや……階段でまた足を滑らせて今まで気絶していたコに、いきなり下僕扱いされると思わなかったよ」

愕然とするアイヴィンはさておいて。

姿見で自身を確認すれば、ちゃんと『いじめられっ子』の身体に憑依した『 私(ノーラ) 』である。そうだ、私はこの『いじめられっ子』の代わりに、完璧な青春を過ごしているんだったね。

アイヴィンが時計を見上げた。

「ちょうど午後の授業が始まるところだ。このまま一緒にお昼寝する?」

「まさか、授業に出るに決まっているでしょ?」

私が授業をサボることで、身体の子の成績を下げるわけにはいかない。

ただでさえ今まで底辺だったのだ。学問や魔術技術ともに、私の才覚でトップに躍り出ることは難しくないけど……出席日数だけは日頃の努力の賜物だからね。何事もコツコツが最後にモノを言うのだ。

だけど、ベッドから降りた私は「その前に」と、アイヴィンに向かって手を差し出す。

「あれ、やってくれない?」

「……どういう風の吹き回し?」

「夢から覚めたいから?」

「それなら、普通は口にキスをするものだと思うのだけど」

そう文句を言いながらも、彼は躊躇うことなく私の足元に膝をつく。

そして私の手に唇を落としては、いつもの台詞を口にしてくれた。

「これでご満足ですか? 俺の女王様(マイ・クイーン) 」

「うん、とてもいい光景だね」

私は、私の忠実な『王子様モドキ』に、ひどく満足して。

果たして、少しだけ身体を借りた『ルルーシェ=エルクアージュ』という少女がどんな子だったのだろう。その答えは、今の私にはわからないけれど。

だけど、いつか会えたら、仲良くなれそうな気がするのだ。

数か月後、お互いの生を終えて、どこから遠くの空の上で――ね。

《800年前の悪女は毎日がとても楽しい おしまい♡》