作品タイトル不明
125.
聖王国の使者シンシャーを味方に引き込むことに成功したミシェルは、その後打ち合わせを済ませ、彼を聖王国へと送り出した。
「ミシェル様ぁ~……」
城門からの帰り道、半泣きのティルが駆け寄ってきた。
その顔を見た瞬間、ミシェルの胸に嫌な予感がよぎった。
厄介ごとの気配を察し、ミシェルの眉間に深いしわが刻まれる。
「手短に」
「ギデオン陛下が城の壁を破壊してしまわれました~」
「……はぁ」
(まあ予想できないことでもなかったけども。まったく……)
ティルに連れられて、ミシェルは現場へとやってきた。
廊下の壁に、人の背丈ほどもある大きな穴がぽっかり開いている。
そして壁の前にはギデオンが堂々と立っていた。
「よく逃げずにいましたね」
「ふっ……俺は逃げも隠れもせん」
「……そうですか」
ミシェルの端正な顔がかすかに歪む。
それを横目に、ティルがそろりそろぉりと後退し始める。
「どこへ行こうとしてるのですか、ティル?」
「ひぃ! てぃ、てぃるはぁ……この件についてはぁ、無関係ですからぁ」
降りかかるであろうミシェルの雷を、一人だけかわそうとしたのだ。
「監督不行き届きです。連帯責任です」
「ひぃん……そんなぁ~……」
「ギデオンが勝手しないように見張れと命じたではありませんか」
確かに、そういう命令は受けていたのを、ティルは思い出す。
(殺される……殺されてしまう……てぃるは天に昇ってしまうぅ……)
そのときだった。
「ちる?」
「カイウス様!」
カイウスがとてとて、とこちらに歩いてくるではないか。
後ろには見張りの兵士が続いている。
カイウスはティルのそばへ寄り添い、不安げな顔を向けてきた。
「ちる……どうしたの? ないてる……いじめられたの?」
(カイウス様……お優しいですぅ~……。てぃるのこと気遣ってくれるなんてぇ)
胸の中に、温かなものが広がっていく。
……しかし、背後から刺すような視線を感じた。
極低温の、怒りのオーラを発してるのは、他ならぬミシェルであった。
(あ、これやばいかも……。ここで虐められていたのはだれってなれば、絶対にミシェル様に飛び火する。カイウス様に気遣っていただけていること自体、ミシェル様からすれば面白くないに決まってるのに!)
いずれにせよ、ティルはミシェルからの不興を買っている状況にあった。
(できれば今ここで一番会いたくなかった!)
「カイウス」
「みえうー」
ミシェルがカイウスを抱き上げて、その頭をそっと撫でる。
「ティルは虐められてはいません。悪いことをしたので、叱っていたのです」
「わるいこと?」
「ええ」
するとカイウスが潤んだ目で、ミシェルを見上げる。
「みえう、ちる……ゆるしてあげて」
……カイウスからの初おねだり。
その内容が、よりにもよってティルを許して欲しいというものだとは。
(絶対に、絶対に怒ってる……!)
おねだりの内容が内容だ。
多分あの冷徹妃は、カイウスからお菓子買ってだの、玩具買ってだのと、可愛らしいおねだりを望んでいたに違いない。
「……許すもなにも、怒ってないですよ」
(絶対うそだーーーーーーーーーーーー!)
地獄の鬼のような冷たい目で、ミシェルがそう言っていたのだ。
どう見ても怒ってる。
「ずるいぞ、ティル」
今まで黙ってみていたギデオンが、おもむろに、口を開いた。
「貴様、なに俺より先にミシェルに叱ってもらっているのだ」
(誰のせいでこんなカオスな状況になってると思ってるんですかぁこの馬鹿ぁ……!)