作品タイトル不明
117.
「は!? な!? なぁ……!?」
(何をいきなり言ってるんだ、この馬鹿皇帝が!)
思わず、皇帝を罵倒しかけたグレースだったが、相手が馬鹿だろうが、皇帝だったことを思い出し、言葉を飲み込む。
「おいマルコー」
「は、はい……」
ギデオンはマルコーに尋ねる。
「おまえ、どう思う? グレースのこと」
「は!? ど、どう……とは」
「だから、グレースはおまえが好き。おまえはグレースのことをどう思ってるのか。好きなのか、どうなのか」
(やめろおぉおおお!)
グレースは内心で、声がかれるほどの大声で叫んでいた。
(空気を! 空気を読めよ!? ここは最前線で、これからマルコーは戦いに出るのだぞ!? それに、なぜ第三者がそんな余計なことを言うんだい!)
普通の人間なら、空気を読むだろう。
しかし残念、この男、 無能の血(ブラッド・オブ・ノアカーター) を継ぐ者。
空気を読むなんて上等なスキルは身につけていなかった。
「好きかどうか聞かれたら……その……別にキライではないですが……」
(えー! き、キライじゃないのぉ~……!?)
グレースの顔に赤みが差す。
絶望の淵にたたき落とされたと思ったのだが。
「なんだ、煮え切らんやつだな。好きなのか、嫌いなのか。はっきり言え」
(もういい、もう十分だから! ギデオン、止まってくれぇ……!)
「も、もう良いですから、陛下!」
グレースはたまらず、待ったをかける。
だがギデオンは不思議そうに首をかしげる。
「何故だ? おまえ、マルコーはこれで死ぬかもしれないのだぞ?」
「なっ!?」
一瞬、ギデオンはマルコーを馬鹿にしたのかと思った。
だが、グレースはすぐに、考え直す。
(これから彼は戦場に立つ。確かに、戦場では何が起きるか分からない……今生の別れになるかもしれない……)
「そんな意味深なことを言って、死んでいった輩を、俺は何人も見てきた。俺は常々思っていたのだ。言いたいことがあって、言いたい相手が目の前にいるなら、言っておけばいいとな」
「…………」
ギデオンの言う通りだった。
死ぬかも知れない。
自分も、そして、マルコーも。だから……。
「あ、アタシは……ね。マルコー。好き……」
「おまちください、グレース様」
マルコーは真剣な表情で、彼女の言葉を遮る。
「レディに恥をかかせたくはありません。男のボクが先に言う。それに貴女はただ応えるだけでいい」
マルコーは、グレースのメンツを守ったのだ。
「? なんだおまえ、グレースはおまえのこと好きだと言っただろ……」
「陛下。少しお静かに。ミシェル様に言いつけますよ?」
「うむ……黙ろう」
ギデオンを黙らせた後、マルコーは言う。
「グレース様。実は貴女をお慕いしておりました。ボクとお付き合いしていただけないでしょうか?」
マルコーからの申し出に、グレースはジワ……と涙を浮かべる。
そして、何度も、グレースはうなずいた。
「貴女を未亡人には絶対にさせません。帝国に、そして貴女に、勝利をお約束いたしましょう」
「ああっ。勝っておいで」
「はいっ!」
ギデオンはそんな二人のやりとりを見て、不思議そうに首をかしげる。
「なあ、ティルよ」
グレースの補佐として、ついてきていたティルに、ギデオンが尋ねる。
「あの二人は今まで、何をウダウダグダグダしているのだろう? あいつらは互いに最初から好き合っていたんだろう? なぜ今この場で好きだのなんだの言ってるんだ?」
「…………」
「好きなら好きって思った時に言えばいいのではないか? それが、なんだ、この戦いが終わったら言うだの、実は前からお慕いしていただのと」
「陛下みたいに、みんな馬鹿じゃないんですよぉ……ひぃん! お尻蹴らないでっ」
「ちっ。わからんがまあいい!」
ギデオンが声を張り上げる。
「貴様ら! さっさと演習を終わらせろ! 俺は早くミシェルの元へ帰りたいのだ! ぐだぐだ戦いを長引かせたら、しょうちしないぞ!」
そこに他意はなかった。
本当に、ギデオンは心から、さっさとこんなくだらない戦いを終えてミシェルのもとへ帰りたいだけだった。
「陛下はボクたちの勝利を確信なさっている! その信頼に、応えるぞ、みんな……!」
マルコーはそう解釈して、仲間達を鼓舞する。
「「「おおおおおおっ」」」
その様子を見て、ギデオンはまたも不思議そうに首をかしげる。
「何故あいつらは急にやる気をだしたんだ……? やる気あるなら最初からやる気を出せば良いのに……」
「……てぃるは陛下と違って賢いので、余計なことは何も言わないですぅ……」