作品タイトル不明
116.
聖王国と帝国との軍事演習……を装った実戦は、『セイファート』高原で行われることになった。
聖王国の始祖セイファート王が、魔物の大群を追い払ったとされる草原である。
若き軍人、マルコーは、聖王国軍の多さに恐れおののいた。
皆がガチガチに装備を固めている。
遠くて、敵の表情はうかがえない。
だがその大軍勢からは、アリアリとした殺意が感じられた。
(属国である聖王国には、帝国を攻め入る大義名分がない……。軍事演習を使って難癖を付け、そのまま攻め入ろうっていう魂胆か……)
若き軍人たちの額に脂汗が流れる。
苦い薬草を舐めてるような、そんな味が舌の上に広がっている。
マルコーも、そして他の軍事達もそうだ。
皆が不安がっている。
自分らだけで、果たしてあの大軍を撃退できるだろうかと……。
(けれど、やるしかないのだ。大事にしないようにと、ミシェル様からお達しが出ている)
帝国が属国相手に戦争をして、勝利したとなれば、悪い噂が方々に広がってしまう。
そうなれば、平和な時代が終わってしまう。
また戦が戦を呼ぶ時代に逆戻りだ。
(勝たねばならぬ……勝たねば……最悪、自分が死んだとしても……)
「なに暗い顔をしてるんだい!」
「ぐ、グレース様!」
Sランク冒険者、グレースが、マルコーの背中を乱暴に叩く。
「何そんなくらい顔をしてる。負けるかも知れないって思ってるのかい?」
……図星だったのか、皆が気まずそうに、グレースから視線をそらす。
「しっかりをし! おまえたちを鍛えたのは、だれなのか? もう一度よーく考え直すんだね!」
(……そうだ。我らはSランカー。英雄から直々に指南を受けているのだ)
ここで負ければ、指南役の、グレースの顔に泥を塗ることになるのだ。
もとより負けるつもりはなかった。
「グレース様の、そして祖国のため! 我らは勝たねばならぬ! そうだろう、みんな!」
マルコーが誰よりも先に声を張り上げると、仲間達が「そうだ!」「そのとおりだ!」と勇ましく応じる。
「ありがとうございます、グレース様。おかげで、士気があがりました」
グレースは「あ、その……なんだ……」となんだか言葉に詰まっていた。
「その……さ。ま、マルコー」
「なんでしょう?」
「こ、この戦いが終わったらさ……あんたに言いたいことが、あるんだ」
「ボクにでございますか?」
(一体なんだろうか……。というか、なぜ今言わないんだろう……)
そこへ……。
「……今は、ごめん、言えないんだ。でも、ちゃんと言うから。だから……」
そのときだった。
「おい、グレース」
「ぎ、ギデオン様」
グレースの付き添いでついてきた、ギデオン皇帝陛下だった。
「おまえ何故、『マルコーのことが好きだ』と、今言わんのだ」