作品タイトル不明
112.
カイウスは、帝国にやってきて、毎日楽しく日々を送れていた。
元いたところでは、しゃべれなかったせいで、周りから酷い扱いを受けた。
……しかし、こちらに来て、状況が変わった。
毎日愛情を注いでくれるミシェルとギデオン。
優しいその仲間達。
カイウスは少しずつ、元気を取り戻してきたのだが……。
「げっ、げっ……げっ……」
カイウスは一人、男子トイレに居た。
便器に向かって、食べたものを吐き出してる。
……カイウスは摂食障害持ちだった。
幼い頃から、暗殺用の毒物を食べてきた結果である。
ミシェルに、申し訳がなかった。
彼女が自分を愛してることは十二分に伝わっている。
ミシェルが毒を、食事に入れるわけないということも、理解している。
だが頭で理解はしていても、体が拒んでしまうのだ。
少しずつ、食べられるようには、なってはきてるのだが……。
それでも……である。
「はぁ……。……?」
カイウスが部屋に戻ろうとすると、ふと、食堂のほうから、ガサゴソと物音がした。
気になって、物音のほうへと近づく。(盗人の類いだったら、ミシェルに報告しないといけない)
「あまくておいち~♡」
「ちる……?」
「ぬゎあ! って、なーんだカイウス様ですぅ~。びっくりさせないでよ、もー」
……ミシェルの副官であるティルが、両手に何かを握っていた。
茶色い塊だった。
「そえ、なぁに?」
「ああ、これ……。チョコですぅ」
「ちょこ……?」
「いわゆるお菓子ですぅ」
「おかし……」
もの自体は知っている。
しかし厳しい母、ミシェルは、体に悪いからと、市販のお菓子を与えてくれないのだ。
栄養のある手作りお菓子を食べさせてくれる。
だが同じ理由で、こっそり後で吐いてしまうのだ。
「なんで、こっしょり?」
「だって……ミシェル様お菓子禁止とかいう、アホお触れを出したんですぅ。お菓子禁止とか頭いかれてますぅ。口も悪いし、目つきも悪いし、頭も悪いんじゃあないですぅ?」
散々な言い様だった。
多分、相当、ミシェルに対して不満がたまっているのだろう。
……カイウスを通して、ミシェルにこの悪口が伝わってしまうとは思わないのだろうか。
こんな幼いカイウスでさえ考えつくのに、ティルはわからないのだろうか。
(なんだか……ちる、可愛い)
年は離れてるのに、なんだか近しい気がした。
それこそ、ギデオンに近い物を、ティルから感じたのだ。
「はっ。カイウス様、どうかこのことはご内密に。これ、賄賂ですぅ~」
袋に入ったお菓子を、カイウスに手渡してきた。
封をされているそれを見て、カイウスは理解する。
「これ……作った後、一回みっぷう、しゃれてる?」
「ええ、そうですよぉ」
……なら、毒物の入り込む余地はないのではないか。
もたついていると、ティルが封を切ってくれた。
カイウスはしげしげとチョコレートを見つめ……そして、パクッと一口。
口の中に、甘いチョコレートの味が広がっていく。
甘味による刺激が、口に、体に、そして……脳に響く。
「おいちー……」
「でしょぉ。甘い物はいいですよぉねえ」
もぐもぐむしゃむしゃ、とティルが新しいチョコを頬張っていく。
馬鹿みたいに、無警戒に、チョコレートを食べる。
それを見て、カイウスは完全に理解した。
封がしてあるものなら、安全だと。
……そして、このお馬鹿ハーフエルフが食べてるものなら、大丈夫だと。
「ちる。もっとほちー」
「おお、良いですよ。はいどーぞ」
「わぁいっ」
こうして、カイウスの摂食障害は、ティルによって少し改善されたのだった。
「カイウス様、絶対に、てぃるがチョコ食べてること、ミシェル様には内緒ですよ~。絶対ですからね、絶対に絶対に、言っちゃだめですからね」
「うん、ちる【が】チョコ食べてること、言わない」
「カイウス様が口のお堅いひとで助かったですぅ~! これならミシェル様に怒られないもんねー!」