作品タイトル不明
113.
一時間後。深夜、ミシェルの寝室に雷が落ちた。
「おまえは馬鹿ですか?」
「ひぃん……早すぎますぅ~……」
寝室にはミシェルのみがいた。
ギデオンはカイウスと一緒に別室へ移動してる。
ベッドの前に正座させられているティル。
ミシェルはベッドサイドに腰をかけて、コンコンと、ティルにお説教をしていた。
「なんでばれたんですかぁ~……」
(まさかカイウス様が……?)
「カイウスがご機嫌で、ティルからチョコをもらったと」
「なんでー!? うそつきー! あいたっ!」
ミシェルの容赦ないげんこつが落ちる。
ぐわん、とティルの体が揺れる。
「カイウスが言ったのは、食堂でティルからチョコをもらったということ。おまえがこっそり備品をくすねて、深夜にチョコレートを食べてることまではいってません」
「ななな、なんで備品をくすねていることを……あいたっ!」
ミシェルは状況から、ティルの犯行を推理したのである。
「チョコレートにはカフェインが含まれています。睡眠障害を起こしたらどうする。それに、食べさせた後歯磨きはしたのか? おまえは可愛いカイウスを虫歯にするところだったんだぞ」
いつもの、敬語を使っていない。
淡々と指摘するのはいつも通りではあるのだが。
ティルは知っている。
ミシェルはキレればキレるほど、口調が早くなるのだ。
現に今のセリフも、とんでもないスピードで繰り出されていた。
そもそも、ミシェルが手を挙げている時点で、そうとうお冠である(手より口がでるタイプの人間なので)。
「……すみません、少し熱くなってました」
(少し……? 相当ぶち切れていたような……)
「おまえにも、褒めるべきところはあります。お菓子とは、盲点でした」
「ほえ……?」
このまま懲戒解雇の流れを覚悟していたので、ミシェルからの賛辞に戸惑う。
「封をしているものであれば、カイウスも安心して食べられる。これも気づきませんでした。ティル……ありがとう」
ミシェルにとって、カイウスの摂食障害は、最大の懸案事項だった。
ミシェルをもってしても、解決策が思い浮かばなかったのである。
そこに、今回の一件で、封をしてあるお菓子や、食品ならいける……と気づかされた。
「ありがとう、ティル」
「ど、どういたしましてぇ」
ミシェルから褒められても、嬉しいとは思わなかった。
むしろ、恐怖を覚えていた。
何か裏があるのではないかと……。
「さっそくエステラに言って、明日からは、封をした食品を使わせるようにしましょう」
「は、はひ……あ、あのぉ~……」
一番気になってるところを、ティルは尋ねてみることにした。
「てぃるは、クビじゃないんですかぁ?」
「まさか。ティルは辞めさせませんよ」
辞められては困る、ではなく、辞めさせないと笑顔で言った。
「おまえは大事な歯車ですから」
「ひぃん、人ですらないぃ……」
「これからも馬車馬のように働いてもらうので」
「やっぱり人じゃないぃ~……ひぃん……」
……かちゃり。
ドアが静かにひらくと、そこにはギデオンと、カイウスが居た。
カイウスは、ととと、とティルのもとへやってくる。
「ちる。ごめんなさい……。ぼくのせいで……」
カイウスは、どうやら自分のせいで、ティルが怒られてると思っているらしい。
本当に、優しい子だ。
その場にいる全員がそう思った。
「ううん、てぃるのアホが露見して怒られただけなので、カイウス様は悪くないですぅ」
しょぼくれた表情のティルを見て、カイウスはミシェルに言う。
「ちる、わるくない! ぼくが、わるいから。みえう……おこらないでっ」
「……怒ってません」
しかし、今までとは比較にならないくらい、あのギデオンすらおののくほどの、恐ろしい表情を浮かべた。
「み、ミシェル……ど、どうした……?」
あまりにも怒っているようだったので、ギデオンが尋ねる。
「別に怒ってませんけど。カイウスがティルなんぞをかばってるのが羨ましいとか、ティルなんぞと仲が良いのが許せないとか、私のほうがカイウスを愛してるのにこのボケとか、思ってませんよ」
((思ってるんだ……))
どうやらカイウスに気に入られてるのが、ミシェル的には許せないらしい。
「あ、あのね……てぃるのことは、気にしなくていいですよぉ~……」
ティルは言外に、あんまり仲良くしないでいいよと、カイウスに伝える。
だが優しいカイウスは、ふるふると首を横に振る。
「みえう、おこらないで。ちる、ぼくにやさしくしてくれた。ぼく、うれしかったの」
ミシェルの表情がさらに険しくなる。
「あ、あのね……その、カイウス様ぁ……。あんまりてぃるをかばうのよくないよ……」
「ちるは、ぼくがまもる!」
「あ゛~……」
……その後眠くなったカイウスを連れて、ギデオンは素早く退出。
残されたティルは明け方まで、コンコンと、お説教された(と愚痴を聞かされた)のは言うまでもない。