軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

妖精カフェは今日も平和*4

……そうして。

カフェの前では、夜通し決闘が行われていた。いや、決闘というか、ラオクレスが何秒で挑戦者を捻るかの賭け、だったかもしれない……。

最後の方は流石にうんざりしてきたらしいラオクレスが『全員まとめてかかってこい』とやって、それでも勝ってしまったものだから、挑戦者の人達はすごすごと帰っていった、のだけれど……。

翌日から、ラオクレスへのお問い合わせが相次いだんだよ。

具体的には、『クロアさんをかけての決闘の申し込み』。

それによってラオクレスは一々あちこちへ呼び出されて、そこで戦って相手を数秒で伸して、そしてまた別のところに呼び出されては決闘して……と繰り返しているらしい。

「大変ねえ」

「誰のせいだと思っているんだ」

「あなたのせいだと思ってるけれど。ふふふ……」

疲れた様子のラオクレスはクロアさんの返答を聞いて、それもそうだな、と、また疲れた顔で項垂れてしまった。

「せめて、決闘が週一回とか月一回ならいいのになあ。毎日毎日、それも不定期じゃあラオクレスの体が持たねえよ」

「そうだなあ。じゃあラオクレス。いっそのこと、君への決闘の申し込みは予約制ってことにすればいいんじゃないかな?どうだい?」

フェイと先生は完全に他人事だと思ってにこにこ楽しんでいる。まあ、ラオクレスの決闘は今や、ちょっとしたブームになっていて、ソレイラの娯楽の1つみたいになっているし。フェイと先生もそれに乗じて飲み物とおつまみ片手に観戦したりしてるし。

まあ、フェイと先生がそうやってにこにこしているのを見て、ラオクレスはさらにがっくりしてるんだけれどさ。

「まあ、私はちょっと助かっているけれど、何をどう間違えたのか、私に決闘を申し込んでくる人もいてね?それはちょっと困ってるわね。私が戦えるっていうことはあんまり公にしたくないし……しょうがないから影で魅了の魔法にかけて処理してるけど。それに、トウゴ君に決闘の申し込みが行っちゃってるのも、ねえ」

「なんだと」

けれど、クロアさんがそう言った瞬間、ラオクレスはぎょっとして顔を上げた。

「あ、うん。来たよ。どうやら、僕がクロアさんに指輪を贈ったっていうことが分かっちゃったらしくて……まあ、それで、僕のところにも決闘の申し込みが来てます」

「だ、だが、決闘というと」

「うん。大丈夫だよ。ちゃんと毎回、勝ってるよ」

ラオクレスが心配そうにしているので、僕は胸を張って答えた。

「相手が剣を構えて僕を睨んでいる間に、ちょっと木の根っこを伸ばしておいて、踏み出した瞬間に躓いてもらってる」

「なんだと……」

ちゃんとやれてますよ、と答えるも、ラオクレスは何故か、おろおろし始めてしまった。

「もし相手が躓かなかったらどうする。或いは、躓いたとして、体勢を大きく崩さなかったら」

「その時には第二第三の根っこが出てくる」

この森は僕なんだから、僕の身を守るのに僕がちょっと根っこを伸ばすくらいはわけのないことだよ。大丈夫大丈夫。いざとなったら近くの木から腕を伸ばして相手を止めてもらうし、足元の草をわっさり伸ばして足止めにしてもいいし。

それに、そういう戦い方をしていたら、町の人からは『流石、森の精霊様……のお気に入りのトウゴさん!』『これはソレイラも安泰なわけだ!』と評判だ。

実際、僕、何度かソレイラの人を守るために根っこや葉っぱを伸ばしていることが度々あるので(最近は大荷物を持って腰をぎっくりやりかけたパン屋のおじさんの腰を支えたり、お菓子を持ったまま転びかけた小さな子を支えたりしたよ。)こういう風にセキュリティをお知らせできるのは悪くない、と思ってる。まあ、その、威嚇射撃、みたいな意味でもね。

……けれど。

「それはいかんな……」

ラオクレスは、深刻な顔で冷や汗をかき始めていた。

「俺のせいでトウゴが怪我をするようなことがあれば、ソレイラの全ての生き物に顔向けができん……!」

「あんまり気にしなくてもいいよ。怪我は鳳凰が治してくれるし、それに、僕が決闘してればラオクレスの分の仕事が減るよね?」

「そういう問題じゃあない!」

ラオクレス、決闘で疲れるよりも僕が決闘する方が大変なことだと思っているらしい。なんてこった。

……そうしてラオクレスは悩んで、悩んで……結論を出した。

「クロア」

「何かしら?」

「俺から指輪を贈る。それに着けかえろ。トウゴに被害を出すわけにはいかん」

「え、ええ?いいけれど……」

……あの、ラオクレス、疲れてないかな。なんか疲れて、色々な判断を誤ってないだろうか。大丈夫かな。

「それから……そうだな、ウヌキが言っていたことだが……これで、いいか……」

更に、ラオクレスが彼らしい武骨な文字で書き上げたのは……次の一文だった。

『クロアに求婚および交際の申し込みをする場合は森の騎士団詰め所にて然るべき手続きを踏み騎士団長ラオクレスとの決闘の予約を行うこと。』

……うん。

「いいの?」

「ああ。これでトウゴに決闘を申し込む不埒な輩は居なくなるだろう。そして俺も一々呼び出されずに済む」

……いや、あの、そうかもしれないけどさ。そうじゃなくて。そうじゃなくて……いいの?これ、いいの……?

……そうして。

「すごいわ。本当にすごい。あれ以来、1人も来ないのよ、求婚者!」

一週間後。クロアさんはにこにこしながら、僕らにお茶セットを運んできてくれた。

今日の妖精カフェは、平常通りの男女比。つまり、男女比大体5:5。老若男女がお菓子とお茶を楽しんでいる。……ちょっとだけ、クロアさん目当ての人も居るみたいだけれど、でもまあ、彼らもクロアさんを見ているだけで、特に何もしてこない。すばらしい。

「……まあ、そうよねえ。『森の騎士団長ラオクレスの女に手を出すな』って、専らの評判だものねえ」

「言うな……!」

ライラがくすくす笑いながら言うと、その横でラオクレスが頭を抱えてしまった。

「ふふふふふ。あれは『俺の女に手を出すな』っていう意味にしか見えないわよ、ラオクレスー?」

ライラが更に続けると、ラオクレスは只々、頭の痛そうな顔をする。

「……こうなるとは思わなかった」

「流石に浅慮が過ぎるわね。まあ、それだけ疲れさせちゃったっていうことでしょうけれど。ごめんなさいね」

クロアさんがお茶のカップを渡すと、ラオクレスはとびっきり渋い顔でお茶を飲み始めた。

「……仕方ない。トウゴに決闘の申し込みが行くよりは、妙な勘違いをされる方が、まだいい……」

「そ、そんなに僕、頼りないんだろうか……」

「俺の矜持が許さんというだけだ。俺はお前の騎士だぞ」

……ラオクレスって、クロアさんよりも僕を守ることを優先しているのか。そっか。なんかちょっと嬉しいような、悲しいような、恥ずかしいような……。

「ふふふ。トウゴ君、愛されてるわねえ」

「クロアさんもね」

でも、ラオクレスだって、こんなことしなくてもよかったはずだから。

クロアさんのことも大切に思ってるから、こういうことになっちゃった、っていうことだと思うので……うん。

僕はひとまず、僕と同じくにこにこしているライラと顔を見合わせて笑う。なんとなく。ただ、ちょっと、なんとなく!

そうしてラオクレスがぐったり、他の皆はにこにこ、という状況の中、やがて、深々とため息を吐いたラオクレスが顔を上げてクロアさんを見た。

「クロア」

「何?」

ラオクレスはクロアさんの指を見て、ちょっと渋い顔をした。

「後日、もう少し選んで指輪を贈る」

……今、クロアさんの指には、鈍色の指輪が嵌っている。

隕鉄の指輪、だそうだ。すごくシンプルな、ただの輪。地金自体が不思議な模様が入っている綺麗な金属だから、場所によって白金から黒まで、色々な色が見えるけれど、まあ、ただそれだけ。

隕鉄自体は優れた金属なのだけれど……それって美しさより実用性に優れている、っていう金属なんだ。ラオクレスの剣も隕鉄だけれど、まあ、隕鉄っていうのはそういう、頑丈で魔法と相性がいい金属。

……ええとね、ラオクレス、あの日、あの後すぐに指輪を買いに行ってすぐクロアさんに渡したんだけれど、その時の買い方が『このサイズで一番高価な指輪を売ってくれ』という、デザイン無視の買い方だったもので……ラオクレスとしては若干、後悔が残っているらしい。

何と言っても、宝飾店にはほとんど指輪が残っていなかったらしいんだよ。それはそうだ。この辺りの宝飾店の指輪は、クロアさんへの求婚者達がこぞって買い求めてしまっていて、華やかなデザインのものも高価なものも、どんどん売れてしまっていたから。

……なので、実用重視、『魔法への抵抗力を強めます』という、ほとんど防具みたいな指輪が、残っている中で一番高価な指輪だったんだって。

クロアさんがそういう指輪を身に着けていると、まあ、目立つので……そういう意味でも、ラオクレスはクロアさんに指輪を付け替えさせたいのかもしれない。

「そもそも、わざわざ買う必要もなかったか。トウゴにもう1つ、指輪を頼むなり何なりした方がいい指輪が手に入ったな……」

ということで、ここまで僕の安全を守ることと厄介ごとの解決としか考えずに直進してきたラオクレスは、少し後悔しているらしいんだよ。

……けれど。

「あら。私、これ気に入ってるのだけれど。ごてごて宝石が付いているよりも邪魔にならないし、魔法との相性も悪くないわ」

クロアさんはにっこり笑って、黒っぽい地金の指輪を指先で撫でた。

「まあ、ほとぼりが冷めてきた頃に外すわよ。それでいい?」

「……お前がいいならそれでいいが」

「ふふ。なら、私がいいからこれでいいってことにしましょ」

ラオクレスはまだ何か言いたげだったけれど、クロアさんはるんるんと上機嫌なので、これ以上何かを言うのはやめたらしい。

深々とため息を吐いて、ラオクレスはまた、頭の痛そうな顔をするのだった。

「それにしても楽しみだなあ」

そうしてラオクレスがちょっと可愛そうな一方、僕はちょっとうきうきしていた。

「明後日はいよいよ、ラオクレスがひたすら戦う姿を描ける!」

「……トウゴ君は本当にそれねえ」

うん。それです。

決闘はもう、全部取りまとめて月に1回、っていう風に決めてしまったんだ。そうすればラオクレスの負担軽減になるし。

ということで……僕はその決闘の日、第一回である明後日を楽しみにしているんだよ。だって、ラオクレスが戦う姿はすごく格好いいから。描きたい、描きたい。

「トウゴったら、お祭りの時みたいなはしゃぎ方してるわね」

「だって、一応名目は『精霊御前試合』だ。つまり僕にとってはお祭りみたいなものです」

ラオクレスが妖精カフェに張り紙をしてから森の騎士団詰め所に決闘の申し込みが殺到してしまって、それで我に返ったラオクレスがフェイや先生と考えた結果が、これ。『これは私的な決闘ではなく、ソレイラの公なイベントです』っていう体にしてしまった方が、クロアさんとのあれこれのほとぼりが冷めやすいんじゃないかな、ということらしい。

なので、まあ、明後日の決闘は僕に捧げられるもの、っていう名目になっている。つまり僕にとってはお祭りだ。

……それに、ライラが呆れたような顔をしているけれど、僕は知っているからな。いざ決闘が始まったら、ライラだってラオクレスを描きたくなるに決まってる。

「……祭り、か。まあ、そうだな。折角だ、楽しむことを考えるか……」

そしてラオクレスとしても、戦うのが好きなことに変わりはない。クロアさんとの関係について探りを入れられるのに辟易しているだけで、決闘自体はむしろ歓迎しているみたいだから。

「だが、明日の参加者もどうせ、クロア目当ての素人揃いなのだろうな……」

……けれどもラオクレスはまたそう言って、しょんぼりし始めてしまった。

「どうせなら強者とやりあいたいものだが」

まあ、そうだよね。クロアさんを狙ってくる人が全員強者、っていうわけじゃないよ。そりゃ勿論。

うーん……あ、そうだ。

「ええと、じゃあ、タルクさん呼んでこようか?」

あまりにもラオクレスがしょんぼりしているので、僕はそう、提案してみた。

「タルクを……?」

「うん。前、いい試合してたから」

僕の言葉に、ラオクレスが反応した。その目には、ちょっと光が戻ってきている。やっぱりラオクレスを元気にするのはこういうやつか!

「それから他にも、強そうな人に声を掛けてみようか。ええと、ルギュロスさんって戦えるのかな。ならとりあえず、ルギュロスさんでしょう?あとは……」

ラオクレスの為に精霊御前試合を盛り上げるにはどうすればいいだろう。きっと強い人と戦えれば、ラオクレスは楽しいと思うんだよ。

「あっ!トウゴ!それなら俺も出たい!剣の腕はからっきしだけどな!まあ、添え物ぐらいにはなれるぜ!ついでに兄貴も連れてくる!兄貴は優勝候補だぜ!」

……僕が考えていたらフェイがそう、口を挟んできた。成程。フェイとローゼスさん。楽しそうだ。

「サフィールさん……は忙しいかな。じゃあ、後は声を掛けるにしても、マーセンさんインターリアさん、くらいかな。あとは、がしゃどくろ、ふわふわ、龍、鳥……」

「……人間以外の参加はせめてがしゃまでにしておけ。龍に出てこられたら流石に民衆も困るだろう」

あ、はい。そうだね。そうだった。

「じゃあ早速、タルクさんに声かけてくる!ラオクレスは森の騎士団の参加を募っておいて!フェイはローゼスさん、確保してほしい!あとついでにルギュロスさんも!」

ということで、僕は元気になってきたラオクレスの肩を叩いてから、妖精カフェを出る。そこには丁度自分の出番を察知したらしい鳥が来ていたので、鳥にもふんと飛び乗って、そのまま森の方へ。祭壇から夜の国を目指して行こう。

……折角のお祭りなんだ。楽しくできるといいなあ。ラオクレスの為にも、僕の為にも!