軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

精霊御前試合*1

「それではこれより、第一回森の精霊御前試合を開会します!」

僕は開会の挨拶を終えて、席に着く。その横にはクロアさんと、来賓のレッドガルド領主さん……つまりフェイのお父さん、そしてレネが居る。

「楽しみだわ!楽しみだわ!」

「楽しみにしていいのかなあ、これ……まあいいか」

「おにいちゃん、おにいちゃん。じゅんびいい?アンジェはだいじょうぶ!」

そして救護席には、子供が3人と、フェニックスに鸞に鸞。あと鳳凰。

……クロアさんにただ求婚するつもりだった皆さんはぽかんとしているけれど、でも、彼らだってちゃんと『ソレイラで開催される武闘大会に参加します』っていうところに参加申し込みしているわけなので、文句は聞きません。

クロアさんへの求婚権を得るために参加者がどんどん応募してきてくれた今回の御前試合だけれど、まあ、名目は『精霊御前試合』っていうことになっている。要は、僕に見せるために行われる決闘だ。

……何だかんだ、ソレイラは決闘するのに最も適した土地ではあるんだよ。何と言っても、フェニックスも鳳凰も鸞も居るので、怪我人が出ても大丈夫なんだ。

そして何より……。

「ラオクレス、頑張ってね」

「ああ」

戦うのが好きな、僕の騎士が居るので。

なので、ソレイラはこういう試合にぴったりの土地だと思うよ。

今回の試合はトーナメント形式。つまり、ラオクレスと戦えない人が出てしまうのだけれど、それについては『どうせ俺が決勝戦だ。俺と戦いたければ勝ち抜け』というラオクレスの一声で文句が収まった。

ラオクレスと戦いたい人……つまりクロアさんに求婚したい人達は、真正面からラオクレスとぶつかってもあんまり勝ち目がない人が大半だから。だからトーナメントでちょっとでもラオクレスが消耗したところを運良く叩ける可能性に賭けた方がまだ勝算がある、っていうことらしい。

そして数少ない『クロアさんに求婚したいしラオクレスと戦ってもいい線行く』みたいな人達は、皆こういう決闘の大会でクロアさんに自分の強さをアピールする機会を得られたことを喜んでいるし。まあ、そういうわけで文句は収まりました。

それから、試合は降参あり、場外ありのルール。僕が描いて出したステージの上から落ちちゃったら負け。それから、武器の使用は認めているけれど、魔法と毒物と召喚獣は認めていない。純粋な武術と力で勝ち抜いて下さい、っていう形式だ。

……僕としては魔法もアリの戦いを見てみたかったんだけれど、ちょっと、その、それをやってしまうとステージがすぐ崩壊してしまいそうだったので……魔法に耐性のあるステージを開発できるまでは、武術だけの御前試合になる。

うう、魔法も描きたい。描きたいから早く、ものすごく頑丈なステージを描けるように頑張ろう……。

さて。

ラオクレスが選手宣誓をした後は、早速トーナメント戦の開始だ。

……とは言っても、参加者のほとんどはクロアさんへの求婚者なので、大抵は求婚者と求婚者の戦いになる。

そういう試合はあんまり見どころが無い。僕としてもあんまり描きごたえが無い。けれど……参加者の内の一握りは、ちゃんと見ごたえのある試合をしてくれるんだよ。

「へへへ。こういうの、久しぶりだなあ」

そんなことを言いながらへらりと笑って細身の剣をふりふりみょんみょんやっているフェイを見ていると、なんだか不思議な気分になる。

……フェイって、魔力があんまり無くて魔法があんまり使えないし、武術も得意じゃない、みたいなことを本人が言っているから、こういうの、出たがらないのかなあ、と思っていたんだけれど、それはそれ、これはこれ、らしい。

「ま、森の精霊様の目を楽しませるための余興程度にはなりてえよな!」

フェイはそう言って、僕に向かってウィンクしてきた。どうやらフェイ、自分の苦手なことをやってでもお祭りに参加したかったらしい。まあ、彼らしいよね。

構え、の合図があると、フェイと対戦者の人がそれぞれに武器を構える。

……この時僕は初めて、自分の親友が武器を構えるところを見た。

フェイの武器は細身の剣。みょん、としなる刀身を持った剣を構えて相手を真っ直ぐ見つめるフェイの真剣な顔を見ていたら、ああ、僕の親友かっこいいなあ、と思う。

そして、始め、の合図があると同時、フェイは一気に踏み込んで、細くしなやかな刀身を振り抜いて、相手へ斬り込んでいく。

相手がフェイの剣を躱してフェイに向かって斬り込めば、フェイはそれを剣の根元で受け止めて流して、すぐさま次の一手を打つ。

……目が、印象的だった。

緊張の為か、それとも、わずかでも多く情報を得ようとしてなのか、いつもより大きく開かれた目。そのぎらりと輝くような緋色。真剣で真っ直ぐな眼差しが、すごく、印象的だった。

ああ、彼、ドラゴンの末裔なんだったなあ、って思い出すような。そういうかんじ。

「そこだっ!」

吠えるように叫んだフェイの剣が、向こう見ずなくらい真っ直ぐ相手へ迫る。相手は持っていた剣でフェイの攻撃をなんとか受け止めたけれど、柔軟にしなる剣はそのまますぐ軌道を変えて、相手の胸の辺りをすぱりとやっていた。

それに相手が怯んだ瞬間、フェイは……。

「よし、もらったぁー!」

元気よくそう叫んだと思ったら、剣をぶん、と振って相手の目を眩ませつつ突進していって……。

「よし!」

……飛び蹴りで相手を地面に倒して、倒れた相手の首筋に剣の先を突きつけて、一本を取っていた。

成程。純粋な剣術だけで戦う訳じゃないんだな、フェイ。こういうところも含めてとても彼らしいと思う。

勝負あり、の宣言を聞いて、フェイはようやく緊張を緩めた。はふ、と息を吐いて、ちょっと荒く呼吸して、そして。

「トウゴー!やったぜー!」

満面の笑みで、僕に向けて手を振ってくれた。

「かっこよかったよー!」

僕も手を振り返すと、フェイはウィンクしてすぐ、僕以外の観客の皆さんに向けて舞台役者みたいなお辞儀をして見せていた。

……その後、舞台から降りていくフェイの足取りはちょっと強張っていて、ああ、きっと結構緊張してたんだなあ、なんて思う。……そういうところも含めて、僕の親友は格好いいんだよ!

ということで、僕がフェイを見ていたら。

「と、とうご!とうご!ゆーりゃてぷてーだび、ふりゃめえるーら!?」

「へ?何?てぷてぷ……?」

レネがなんだか必死な顔で僕にくっついてくるので、よく分からないながらもとりあえず抱きつきかえしておいた。しばらくそうしていたらレネは何だか満足したらしくて、「ふりゃ」とにこにこしながら離れていった。……寒かったのかな?

今日、参加しているのはフェイだけじゃない。他にも、ローゼスさんやタルクさん、ラオクレスも当然参加しているし……あと、ルギュロスさんも参加してるんだよ。

ちょっと意外だったんだけれど、フェイが誘ったらルギュロスさんも参加してくれたらしい。「絶対にレッドガルドなぞに負けん!」と意気込んでいたルギュロスさんを見る限り、多分、なんか、こう、焚きつけられたんだと思う。

「ふん!レッドガルドにできることが私にできないはずはない!」

……そしてそんなルギュロスさんは見事、剣で相手を綺麗に倒したところだった。

ええと、フェイみたいに飛び蹴りが混ざる事は無くて、純粋に『剣技』っていうかんじだった。

フェイの剣みたいにしなるタイプじゃないけれどそんなに大仰でもない剣は、ルギュロスさんっぽいなあ、と思わされるデザインだった。……ちょっと光の剣に似てるデザインだ。

そしてルギュロスさんは、まあ、『勇者』として活動していた時期があるくらいなので、剣の練習、結構していたみたい。慣れてるかんじがあった。

「ルギュロスさんもすごいなあ……僕も練習すればああいう風に戦えるんだろうか」

「だーめ。トウゴ君はやめておいて頂戴」

僕もああいう風になれたらなあ、と思うのだけれど、クロアさんがそう言って笑いながらふにふに僕の顔をつついてくる。

「戦う術なんて覚えなくていいわ。あなた十分、強いもの」

「……そう?木の根っこを伸ばすくらいだけれど」

「それでいいの。あなたの最大の武器は、『どう見ても戦えそうにない風貌』なのよ。それで相手を油断させるっていうのも立派な戦術の1つなんだからね」

クロアさんはくすくす笑って、僕の頭を撫でる。それを見ていたレネも僕の頭を撫で始める。

……うーん、僕もフェイやルギュロスさんみたいになれたらなあ、と思うけれど、でも、まあ、向き不向きがあるっていうのは分かっているつもりなので……僕はこの方針でいきます。はい。

「弟が出たんだから私だって出るさ」

次はローゼスさんの出番だった。彼もフェイと同じ、よくしなる細身の剣での参戦だ。

……なんだけれど、すごく、強かった。

ローゼスさんはフェイとは対照的にちょっと目を細めて戦いに臨むと、相手に息も付かせぬ攻撃をお見舞いして、あっさり一本取ってしまっていた。

フェイよりも技巧派、っていうかんじがする。うーん、すごい。流石、ローゼスさん……。

「やっぱり兄貴はすげえなあ」

あっさりと勝利を収めて舞台を降りたローゼスさんに、ちょっと複雑そうな顔をしたフェイがそう言うと、ローゼスさんはちょっと笑って、「修行あるのみだぞ、フェイ!」と、フェイの頭をわしわし撫でていた。

うーん、こういうところも含めて、ローゼスさんって、お兄さん、っていうかんじがするなあ。

「ローゼスさん、強いんですね」

「ああ。ローゼスは中々、武芸にも魔術にも才能を発揮していてね。まあ、自慢の息子だ」

フェイのお父さんに話しかけてみたら、彼はにこにこしながらローゼスさんとフェイの頭の撫で合いを眺めていた。

「そして一方、フェイはそこまで武芸や魔術が得意じゃあないらしいが……まあ、あの真っ直ぐさこそが、奴の武器だな。人の心に潜りこむのは、話術を弄するローゼスよりも腹の探り合いなんてする気が無いフェイの方が、余程上手い」

フェイのお父さんは深い赤色の目をそっと細めて……やがて、ちょっと照れたように言った。

「……まあ、2人共揃って、自慢の息子なんだよ」

「でしょうね」

にこにこもじもじ、といった様子になってしまったフェイのお父さんを見て、なんだか羨ましくなってきてしまった。フェイが羨ましいのかローゼスさんが羨ましいのか、それともお父さんが羨ましいのか……よく分からないけれど。でも、なんとなく、羨ましいなあ。同時に微笑ましくも、あるのだけれどね。

それからタルクさんの出番があって、いつも通りのふわふわした剣技に相手が翻弄されている間に一本取っていた。

タルクさんの武器は、細身の剣2本。それを持って踊るようにひらひらと剣を繰り出していく様子は、舞踏みたいですごく綺麗なんだよ。

勝った後のタルクさんは、ひらりふわりと踊るように一回転して、そのままぺこん、とお辞儀。うーん、夜の国の人達って、人間とはまた違う美しさがあるんだよなあ。これだから、描きたくなっちゃう。

「たるくー!」

レネが歓声を上げると、タルクさんはレネに気付いて、ひらひら、と手袋を振ってみせてくれた。ついでにマントの裾をひらひらさせてくれた。……ちょっと茶目っ気があるところも、タルクさんのいいところ。

「久しぶりだな、こういった催しは」

……そして次に出番が来たのは、インターリアさんだった。

彼女、参戦してるんだよ。マーセンさんが止めるかと思ったんだけれど、むしろ逆で、夫婦そろって出場してる。

インターリアさんは剣と盾を使う、騎士らしい戦い方。ラオクレスの戦い方にちょっと似てるけれど、ラオクレスより力が無い分、より軽く手数を増やす戦い方を目指しているみたいだ。

……インターリアさんが女性だからと思ってか、相手の人はちょっと油断していたらしい。けれど、インターリアさん、そこらへんの男性よりよっぽど強いんだよ。そりゃそうだ、彼女、森の騎士なんだから。

ということで、ものすごく鋭く容赦のない剣の一突きであっさり腹部を刺された相手の人は、すぐ救護席に運ばれて来てフェニックスのお世話になっていた。……何だかんだ、この試合始まって初めての大怪我だ。

カーネリアちゃんは「インターリアを甘く見たら駄目よ!私の騎士で森の騎士でマーセンさんのお嫁さんなんだから、強いに決まってるんだわ!」と、フェニックスの横でにこにこしてた。それを聞いてインターリアさんも照れつつにこにこ。僕もにこにこ。

インターリアさんの次はマーセンさんだった。彼は普段、僕が持ち上げられないような剣をひょいひょい扱って戦うのだけれど……。

「俺もエドに倣ってみるかな。さあ、かかってきなさい」

……ラオクレスがそうしていたのを見ていたからか、マーセンさん、素手で戦うことにしたらしい。剣をその場に置いて、徒手空拳で相手を挑発するポーズ。

剣を持って突っ込んできた相手をひらりと躱すと、その筋肉の塊みたいな体をびっくりするほど滑らかに動かして、相手の背後に回り込んで回し蹴りを叩きこむ。

それで相手がたたらを踏んだら、すかさず相手を取り押さえて剣を取り上げてしまって、「確保ー!」の一声。これで試合終了。

……森の騎士団の強さを再確認できてよかったです。

カーネリアちゃんも「インターリアの旦那さんなんだもの!弱くっちゃ駄目に決まってるんだわ!当然だわ!」とものすごく嬉しそうだったので、僕、またしてもにこにこ。

……というように、順調に決闘が続いていくのだけれど……遂に。

「お、お前が森の騎士団長、ラオクレスだな!」

「ああ、そうだが」

ラオクレスの番が来た。これには観客も大いに盛り上がる。だってラオクレスだよ?盛り上がらない訳が無い!

「俺が勝ったらクロアさんに求婚させてもらうぞ!」

「好きにしろ」

相手はまあ、クロアさんの求婚者の人だ。彼は初戦でラオクレスに当たってしまったわけなのだけれど、怯む様子はない。腕に覚えがあるのかな。

けれど、それにラオクレスはにやりと笑って……剣を、床に置いた。マーセンさんと同じく、徒手空拳の構え。

そして。

「……まあ、俺に勝てれば、だがな」

ものすごく格好いいことを言って、戦闘開始の合図と同時、ラオクレスは床を蹴って一気に相手に迫った!