軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

妖精カフェは今日も平和*3

ということで。

翌日、閉店間際の妖精カフェにて。

僕とフェイと先生が1つのテーブルで緊張感たっぷりにあったかいお茶を飲んでいた。

「はい。ご注文のお茶菓子セット。ごゆっくり」

「ありがとう」

そしてライラは店員さん。僕ら揃って、聞き耳の準備はバッチリ。

「うーん、いいなあ、このカフェ。お茶菓子が美味いし、緑茶も出してくれるし……」

そして緊張感がある僕らの中で一番リラックスしているのは間違いなく、先生。最近妖精カフェのメニューに追加された『緑茶ポット』なる急須を傾けて、ティーカップに緑茶を注いでいる。まあ、ポットで出てくる紅茶の緑茶版。

それに合わせて、お茶菓子もちょっと素朴。木の菓子盆の中に、妖精カフェのクッキーが数種類3枚ずつと、ちょっとお洒落なたまごボーロみたいなやつと、小さく切った黒糖風味のパウンドケーキと……そんなかんじのおやつが入っている。

「折角なら席もこたつにしたいもんだが」

「ええとね、以前僕がそれを提案したら、魔王がこたつの中から出られなくなっちゃったため、却下されました」

「あー、あの机に布被せてあったかくした奴だろ!?あれは駄目だ!カフェなんかにあれ置いてみろ!客が出ていかなくなる!」

うん。そうなんだよ。こたつ、僕も一度作ってみたことがあったんだけれど、あまりにも好評すぎてあまりにも不評だった。そんなかんじ。こたつを撤去する時には魔王の猛抗議に遭ったし……。

……という具合に、カフェにこたつを導入すると何が起きるかをフェイと僕とで先生に説明していたところ。

「……あっ!見ろ!あれ、来たんじゃねえの!?」

緊張感を取り戻したフェイが指さす先には、かららん、と軽やかにドアベルを鳴らして入ってくる……。

「……ルスターさんだ!」

ルスターさん!ルスターさんが来た!ルスターさんが来たよ!

ルスターさんはいつも、閉店間際の人が少なくなったところを狙ってやってくる、らしい。まあ、大抵その時間って、クロアさんは奥に引っ込んでることが多いからね。

けれど今日は違うぞ。クロアさんはずっとフロアスタッフしてるし、妖精達も気合が入ってるし。

そう。ルスターさんが入ってきたとなるや否や、妖精達が騒ぎ始めた。妖精達は何故か、ルスターさんを気に入っているらしい。何故だろう。遊んでもいい相手だと思ってるんだろうか。まあいいんだけどさ。

「あら、いらっしゃい」

「……よお」

それで、ルスターさんはクロアさんが店員さんをやっているのを気まずげに見ながら、近くの妖精に『妖精のおやつ券』を渡して、適当な席に着いた。気まずいのか、クロアさんから少し離れた位置の席だ。

そこへ妖精達がきゃいきゃいとはしゃぎながら飛んでいって、ルスターさんのおやつの準備をする。今日の妖精達のまかないおやつは、形が崩れてしまったケーキ盛り合わせ。ガトーショコラっぽいの、洋酒が利いたドライフルーツたっぷりのパウンドケーキ、アップルパイにチーズケーキに苺のショートケーキに……と、たっぷりの種類。そして、形が崩れてしまっている分、アップルパイに添えるアイスクリームや苺ショートとガトーショコラに添えるクリームはたっぷり!

……ルスターさんは妖精からおやつプレートを受け取ると、さっさとおやつを食べ始めた。ちょっと表情が綻んでいる。まあ、美味しいものを食べると人間だれしもこうなっちゃうよね。分かる分かる。

そうしてルスターさんがおやつを食べている間、妖精達は『不動のラオクレスを悠々と遊具にして遊ぶのは楽しいぞ』派と『できるだけ我々を気にしないようにしているにもかかわらず反応してしまうルスターさんで遊ぶのが楽しいのだ』派に分かれて遊んでいた。……まあ、妖精達ってこういう奴ら。

まあ、そういう具合に、ルスターさんが来て、おやつを食べ終わる頃。

からん、とドアベルが鳴って、入ってきたのは……!

「来た!」

「来たなあ!」

「遂に来たね!」

……花束を持った、明らかに求婚者の男性だ!よし!さあ来い!荒事になれ!

「クロアさん!」

閉店間際の店内に入ってきた男性は、クロアさんに向かっていくと、さっ、と花束を差し出した。

「俺と結婚してください!」

ストレートなプロポーズだ。すごいなあ……。

「……ごめんなさいね。今、まだ営業時間内だから」

そんな男性に対して、クロアさんは困った顔をしてみせる。まあ、閉店間際とはいえ、まだ営業時間内です。

「それに、何度も来てもらって悪いのだけれど、でも、やっぱりお断りさせて頂戴な」

「それでも俺は諦めません、クロアさん!あなたに振り向いてもらえるまで何度でも来ます!他の男に負けるわけにはいかないんです!」

……クロアさんが困った顔をしながら、ふと、ちらちら、とドアの方を見た。多分、ここに鉢合わせする求婚者が居たら荒事にもつれ込ませてやろうと画策しているんだと思う。

けれど、間が良いんだか悪いんだか、他の求婚者は居ない、というか……ええと、ドアの外に気配はあるから、中の様子を察知して入ってこない、のかな……?うーん、どうしようかな。困った。

……と、思っていたら。

「おい。てめえ、うるせえんだよ。騒ぐんなら他所でやれ」

ものすごくガラの悪いことを言いながら、ルスターさんが、求婚者の男性に近づいていった!

クロアさんが『これはいいぞ』みたいな顔で、そそくさ、と離れたのに気づいているのかいないのか。ルスターさんと求婚者の男性は睨み合う形になった。

「な、なんなんだ、お前は!」

「ああ?関係ねえだろ。てめえこそなんだよ。さっきから騒ぎやがってよお。ああ?」

……すごい。すごくガラが悪い。ルスターさん、すごく、ガラが悪い!

「目障りなんだよ。さっさと消えろ」

「お前に指図される謂れはないぞ!」

「ああ?やんのかテメエ」

そしてガラの悪いルスターさんは、求婚者に対してどんどん詰め寄っていって、ついに胸倉をつかみ始めて……!

「おい」

ぬっ、と現れたラオクレスによって、両者はつまみ上げられて、引き離されてしまった。

「流石に目に余る。出ていってもらおうか」

……偉大なる石膏像につまみあげられると、普通の人はそれだけで竦みあがってしまう。

ルスターさんに胸倉を掴まれていたその人は、這う這うの体で店から出ていってしまった。

「……よし」

それを見届けると、ラオクレスはルスターさんをそっと下ろした。

「まあ、なんだ。助かった」

そしてラオクレスはそう言うと……ルスターさんはちょっときょとん、として、それから……むっとしたような顔をする。

「そうだなあ。テメエがなんとかしてりゃあよかっただろ、あんなの」

「……まあ、そうだな」

ラオクレスは少々気まずげな顔をしつつ頷いている。ええと、今回ラオクレスが後から出てきたのは、『ラオクレスが出るのは本当に荒事になってから』っていう風にクロアさんと打ち合わせていたからなんだけれど……ルスターさんはそんなの知らないしなあ。

「へえ。いざって時に働かねえんじゃ、騎士様ってのは何のために居るんだかな?」

……なのでルスターさん、ここぞとばかりにラオクレスを悪く言い始めた。

「ちょっと、ルスター!」

「いや、いい」

流石に見かねて、クロアさんが割って入ろうとしたのだけれど……ラオクレスはそれを押しとどめて、ルスターさんの正面でルスターさんを見下ろす。するとルスターさんも負けじとラオクレスを睨み上げた。

「あーあ、気に食わねえなあ。テメエ、ここにただ突っ立ってるのが仕事なのかよ?こいつが言い寄られてるってのに放っとくってのはどういうことだ?」

「俺は森の騎士だがクロアの番犬じゃあないからな」

「ならなんでここに居るんだよ。おい」

「この町の治安を預かる立場だからな。店の警護は仕事の内だ」

「へえ?つまり職権乱用って奴か?」

「……乱用も何も、職務を全うしているつもりだが」

……なんとなく。なんとなく、2人の平行線な会話を聞いていて、僕はつい、先生を見てしまった。

先生は『うーん』みたいな顔をしながらラオクレスとルスターさんを見ている。ああ、そういえば、ルスターさんは先生が書いてない、のかな。……いや、多分、どこかに構想だけあったんだろうなあ、この顔を見る限り!この『ややこしい人物を生み出してしまった』みたいな顔を見る限り!

……そして。

ルスターさんはラオクレスに突っかかっているし、ラオクレスはここまで自分が突っかかられる理由が分からずに不動の石膏像をやっているだけだし、クロアさんはちょっと頭の痛そうな顔をしているし……という時間が過ぎて。

「もう我慢ならねえ!ぶっ殺してやる!」

遂に、ルスターさんがナイフを抜いた。

「ちょっと、ルスター。やるなら店の外でやって」

……けれどそこに氷のように冷たいクロアさんの声が飛んで、ルスターさんはナイフをそっと下ろした。

そしてラオクレスとしても、そろそろ言葉でのやりとりに疲れてしまっていたらしくて……剣に手を掛けて、ルスターさんを見下ろして、笑う。

「……よし。表へ出ろ。文句があるというのならこれで勝敗をつけてもいい」

「いいぜ!上等だ!」

と、いうことで。

彼らは揃って、カフェの外へ出ていった、のだった。

カフェの外には、ちょっとした人だかりができていた。

多分、クロアさんに求婚しようとして来た人達と、それを見て何事かと集まってきた人達。

そして……そこへラオクレスとルスターさんが出ていく。方や抜身のナイフを握っていて、方や剣に手を掛けた騎士団長。これはいよいよ何かあったぞ、と思ったらしいソレイラの住民の皆さんとクロアさんへの求婚者の皆さんは、ざわざわとざわめき始めた。

「……お前の得物はそのナイフか」

「ああそうだ!」

「そうか。なら、俺が剣というのは少々、不公平か。そもそもお前はあまり武術が得意ではないと聞いているが……ふむ」

そして、カフェの前のちょっと開けた場所で向かい合った2人は武器を手にぶつかり合う……というわけではなく、ラオクレスは剣をベルトから外して、近くに居た僕に預けてしまった。待って待って、重い重い!

しょうがないから剣を抱っこするようにして僕が見ていると、ラオクレスは両手を握りしめ、腰を落として身構えて……笑った。

「よし、いいぞ。さあ掛かってこい」

そして。

「……すまん。もう少し、手加減すべきだった」

ラオクレスを称える大歓声の中、ルスターさんは、見事に伸びていた。ラオクレスがハンデとして剣無しの徒手空拳で戦っていたにもかかわらず、ルスターさん、ほんの10秒で伸びていた。ほら、まあ、ルスターさん、弱いから……。

申し訳なさそうなラオクレスに剣を返していると、背後でばっしゃん、と音が聞こえる。何事かと思って振り返ったら……伸びているルスターさんに妖精が水をかけて起こしているところだった!

「ルスターさん、大丈夫?」

大変だ大変だ、と駆け寄ってみたら、ルスターさんは目を覚ましていて、そして、伸びていた影響か、ちょっとぼんやりしていた。

「……なんだ、あいつ。バケモンかよ」

「うん、まあ、化け物っていうか、石膏像……」

ルスターさんはラオクレスにあっさりと負けてしまって、ちょっとショックだったらしい。そういえばこの人、面と向かってラオクレスと戦ったことはなかったんだっけ。まあ、面と向かって戦うとこんなかんじだよ、っていうことで……。

「ルスターさん、元気出してね。あなたは盗みにかけては世界一だよ。クロアさんも、あなたがカチカチ放火王封印の宝石を盗んでしまった時にはすごく褒めてたよ……」

励ましの言葉をかけてみるのだけれど、ルスターさんはぶすっとした顔だ。

「妖精達だってあなたのことがなんだか大好きみたいだし……その、また来てね?」

「……もう来ねえよ。ったく……うわっ」

そうやってルスターさんが拗ねちゃったから、妖精達が大慌てでルスターさんのポケットというポケットに妖精おやつ券をねじ込み始めた。うーん、何故だか、ルスターさん、妖精に好かれてるんだよなあ……。まあ、ほら、妖精はちょっと面白い人が好きだから……。

あっ、こらこら。ちゃんと見て入れないと。これ、『妖精が心を込めてハズレと書いた紙』だよ!あああ!こっちに至ってはクロアさん宛てのラブレター!

……まあ、そんなこんなで妖精達におやつ券やその他のあれこれをねじ込まれたルスターさんは、心配そうな妖精達に見守られる中……舌打ちして、去っていった。

ちゃんとおやつ券を持って帰ってくれたから、まあ、多分、また来てくれるだろう。妖精は彼のことを気に入っているみたいだけれど、彼だってきっと、ここを気に入ってくれているはずだから。

と、まあ、ここまではよかったんだけれどさ。

「次は俺だ!」

「……は?」

こういう人が、新しく、出てきてしまったんだよ。

「クロアさんをかけて勝負しろ!」

フェイが口笛を吹いて囃し立てている。先生の口笛はすぴーっ、みたいな音なのでちょっと格好悪い。

「……何故、俺がクロアを賭けることになる?」

「剣を使ってもいいぞ!これでも俺は魔物の討伐で生計を立ててるんだ!」

「聞く耳くらい持て。おい」

新しく出てきてしまった挑戦者を前に、ラオクレスは只々困惑している。けれど観衆は盛り上がっているし、挑戦者はもう、抜刀しているし。

……そして、ラオクレスは、ため息を吐くと、諦めたらしかった。

「分かった。相手をしてやろう」

ラオクレスも抜刀すると、ぴしり、と剣を相手に向けた。

「俺が勝ったらクロアは諦めろ。贈り物も贈るな。騒ぐな。森の治安を乱すな。いいか?」

「な、なら俺が勝ったらクロアさんは俺が貰う!」

「……それについては俺が許可を出せるものではないが。まあ、いいだろう」

そして、ラオクレスはにやり、と笑うんだよ。

「勝つのは俺だからな」

……何と言っても、ラオクレスって、案外戦うのが好きな人なので。