軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18話:知らない世界*5

「えーと、これで準備はいい、かな。よし……」

石造りの建物の中央にカチカチ放火王の封印の宝石を設置して、たんぽぽを宝石から建物の外の地面に移植。さて、これでよし。

「じゃあルギュロスさん、お願いします」

「仕方ないな……」

僕らはルギュロスさんにお願いして、カチカチ放火王の封印を早く解くための魔法を使ってもらう。

……僕らが見守る中、ルギュロスさんはなにかもぞもぞ言いながら魔法を使って……そして。

カタカタと、封印の輪が揺れ始めた。僕らが見守る中、封印の輪はカタカタと更に揺れて……そして。

パキン、と、割れてしまった。……どうやらルギュロスさんの魔法は、封印の輪を壊すための魔法だったらしい。

途端にカチカチ放火王が出てくる。いつものように、小さな小さな火柱がぽこん、と上がって、天井を焦がすでもなくちろちろと揺れて……そして。

「ちょっと久しぶりだね」

カチカチ放火王が出てきた。……案の定の、手乗りサイズ。随分と小さくなって、僕でも踏み潰してしまえそうな、今にも消えてしまいそうな姿では、あったけれど。

『何の用だ!このようにして余を呼び出すなど……余を嘲笑いに来たのか!』

カチカチ放火王は怒って、ぽふん、と火を吹いてきたのだけれど、まあ、この程度なら大丈夫。さっ、と避ければそれで済む。

「僕、あなたに聞きたいことがあるんだよ」

火を避けてすぐそう尋ねれば、カチカチ放火王はちょっと表情を歪めつつ、不思議そうな顔をする。

『何を話すことがあるというのだ。余は貴様らと滅ぼし合う同士。それを、一体どう』

「僕ら、共存することって、できないんだろうか」

構わず尋ねると、カチカチ放火王はちょっと嫌そうな顔をした。あんまり時間をかけているとまた消えてしまいそうだし、質問は急ぎたかったんだよ。

『愚かなことを。余と貴様らは相成れぬ存在同士。互いに互いを滅ぼす以外に生き残る術などありはせぬ』

「……あなたはどうしてそんなにこの世界を滅ぼしたいの?」

『それを望む者が居るからだ』

う、うーん……早速、僕、困ってしまっている。カチカチ放火王と和解できる気がしない。暖簾に腕押し、糠に釘……?

「おい、魔王」

僕が困っているところへ、ルギュロスさんが助けに来てくれた。ちょっと高圧的な声を上から投げかけつつ、ルギュロスさんはカチカチ放火王を見下ろす。……カチカチ放火王は、少しばかり嬉しそうな顔をした、ように見えた。まあ、カチカチ放火王って呼ばれるより魔王って呼ばれたいんだろうなあ、こいつも。

「今すぐ消えたくなければ質問に答えろ。……いくら積まれればこの世界から手を引く?」

……ルギュロスさんが結構俗っぽい聞き方をしたことにびっくりしつつ、僕以上にカチカチ放火王がびっくりしていた。多分、全くの予想外から来た質問だったんじゃないだろうか。

『……余は利益を得るためにこの世界を滅ぼすわけではない。よって、貴様らが何を積もうが目指すものは変わらん』

「大層な理念を抱えているようだが、一体それは何だ?愚かな人間に嫌気が差したか?」

『この世界に、だ!』

噛み合っているのかいないのか、ルギュロスさんに言葉を掛けられたカチカチ放火王は、僕が話しかけた時よりスムーズに話す。流石だなあ、ルギュロスさん。

『この世界は滅ぶべきだ。このようなものがあるから、――から逃れて愚か者が迷い込む』

「え、何て?」

『貴様には聞き取れんだろうな!』

ああ、また聞きとれない言葉が出てきた。しかも怒られてしまった……。

それからも僕らの噛み合うような噛み合わないような会話は続いた。

「迷い込む?それはどういうことだ。説明しろ」

「それってレネのことだろうか?或いは、魔王?」

『余は迷い込んだわけではない!この世界を滅ぼすために、この仮初の姿でやってきただけに過ぎぬ!』

「いや、魔王って、あなたのことではなく、あっちのまおーんと鳴く方なのだけれど……」

早速、カチカチ放火王が怒りだしてしまった。いや、あなたは自分のことを魔王だと思っているかもしれないけれど、やっぱり魔王というのはあっちのふにふにした不定形の真っ黒い変な生き物のことなので……。

『あれもまた、余と同種のものだろうに、どうしてあのような腑抜けた姿に……』

「えっ、あなたは魔王と知り合いなの!?それとも故郷が同じとか!?」

『知り合いではない!同種のものだろうと推測しただけだ!あんなやつのことは知らん!』

「ふっ、貴様よりはあちらの黒い妙な生き物の方が上手くやっているように見えるがな」

『あれが上手くやっている、だと!?ふざけたことを!あれは自らの役割を忘れた愚か者に過ぎぬ!』

そうなの?と魔王に聞いてみると、魔王は、まおーん?と不思議そうに首と尻尾を傾げている。うん、そうだね、分からないね。そんな気はしたよ。

「あの、ところで。あなたはアージェントさんとはどういうご関係だろうか……?」

「単なる協力関係か?それとも、伯父上が貴様と手を組むにあたって深い理由でもあると?」

続いて、アージェントさんについても聞いてみることにした。

『知らぬ』

「えっ」

『この世界の者がこの世界を滅ぼす理由など見当もつかんな』

……なんと、手を組んでいる割に、カチカチ放火王はアージェントさんの目論見を知らないらしい!

「なのに手を組んでいるの!?」

『余の手駒が増える分には些事など構わぬ。まあ、あれはあれで中途半端に聡い故、なのだろうが……余の知ったことではない』

「ちょ、ちょっと待って。そもそもアージェントさんってやっぱり、この世界を滅ぼしたいの!?」

『そうでなければ余と手を組もうなどとはせんだろうな』

え、えええ……。どうしよう。アージェントさん、結構大変なことをしようとしている人だった……。

「それは……途中で貴様を出し抜いて、貴様の力だけ使おう、ということではないのか?」

『それこそ余の知ったことではない』

「ちなみに、なんでアージェントさんがそんなことをしようとしているのかは……」

『知らぬと言っておろうが!』

あ、うん。そうだった。うーん……アージェントさん、一体どうしたんだろうか……。

「……伯父上がただの馬鹿であった可能性もあるのか」

「うーん、馬鹿っていうよりは……狂ってしまった?いや、でも、話していてそういうかんじはなかった……」

僕とルギュロスさんは2人でちょっとひそひそ話をしつつ、なんだかおかしいなあ、というような思いを抱く。

「まあ……どうであれ、伯父上は世界を滅ぼそうとしているものと手を組んでいる。それは間違いないようだがな」

あ、そうか。もしアージェントさんがカチカチ放火王と手を組んでいなかったなら、きっとカチカチ放火王は『手を組んでなどいない!』と怒っただろう。つまり、アージェントさんがカチカチ放火王と手を組んでいたことだけは、まあ、確実……。

ふと見ると、カチカチ放火王の火が大分、弱まってきていた。そろそろ消えてしまうかもしれない。大変だ。

「ねえ。あなたは、この世界を滅ぼしたい、んだよね?」

『そうとも!余は、このふざけた世界を燃やし尽くす!そして、外なる世界へあるべきものを還すのだ!』

慌てて聞いてみたら、カチカチ放火王はそう言って、ぼう、と炎を燃え上がらせた。落ち着いて、落ち着いて。

「『外なる世界』って、夜の国のことなんだろうか」

……そこで僕はようやく、これを聞く。

例の魔導士の幽霊からもルスターさんからも聞けなかった話。カチカチ放火王が目指しているらしいものについて、どうしても聞いておきたかった。

なんとなく、胸がざわつく。嫌な予感がする。聞いちゃいけないものを、聞こうとしているような、そんな気がする。

けれど、知らなきゃいけないような、そんな気もするし……もし、僕らとカチカチ放火王との間に共存の道が少しでも見えるのなら、それを選びたいと、思うから。

「あなた達がその世界に行きたいっていうことなら、協力できるかもしれない。夜の国じゃないにしろ、そこへ行く方法が他に見つかるかもしれないし……その世界に必要なものがあるなら、僕らが協力できるかもしれない」

『……何を腑抜けたことを言うかと思えば』

カチカチ放火王は何か、動揺したように体を揺らめかせた。元々消えそうな火が、ますます弱弱しくなる。

「だから、その世界のこと、僕らに教えてほしい。そうしたら……何か、変わるものがあるかもしれない」

戸惑うように揺れる火の、その中でやはり戸惑うようにうごくカチカチ放火王の表情を見つめて、僕はそう、訴えた。

……すると、カチカチ放火王は、何か……覚悟を決め直したような顔で、僕を見る。

僕が戸惑いながらカチカチ放火王を見つめ返すと……カチカチ放火王は、言った。

『知っているだろう。貴様は、自分が生まれた世界のことを忘れたのか?』

「……え?」

どくどくと、自分の中で心臓が激しく脈打つのを感じる。血が激しく流れているはずなのに、手足がどんどん冷えていく。

『残された時間はそう多くない。……余は、遠くなく、必ずや、復活する。この世界を滅ぼす。それまで精々足掻くがいい。……――に生きられぬ、弱き者よ』

……そして、カチカチ放火王は僕にそう言い残して、今度こそ、消えてしまったのだった。