軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19話:踊る魔物*10

ふるふるふるふる、絵が震える。

「あ、これ、やったんじゃない!?」

ライラが喜びの声を上げる中、僕はまだ緊張を解けずに、じっと、キャンバスを見つめる。

どうか、どうか……と思いながら、震える絵を見つめて……。

……やがて絵は、きゅ、と一点に集まって、それから、ふわり、と宙に広がっていった。

そして。

「きゃ」

ラージュ姫が小さく悲鳴を上げる。その横では、玉座の上で縛り上げられていた王様が光り輝いていて……。

「……な、何が起こった」

王様が、角も鱗も無い姿で、ただ、目を瞬かせる。

そして王様は、きょろきょろと周囲を見て、何か、記憶を辿ったらしくて……。

……そのまま気が遠くなってしまったらしくて、きゅう、と気絶して、玉座に凭れて伸びてしまった!

ま、まあ、やった!とりあえず、王様は元に戻った!

王様を、元に戻すことに成功した。

……そう思った途端、糸が切れたみたいに体が動かなくなってしまって、僕はそのまま倒れることになる。

「トウゴ!ちょ、ちょっと!大丈夫!?」

「あ、うん、大丈夫……絨毯がふかふかでよかった」

けれど、体が動かなくなっただけで、意識ははっきりしてる。絨毯のふかふかした肌触りを頬で感じながら、ちょっと眠気が通り過ぎていくのを待つ。

「寝ててもいいわよ?」

「ううん……起きるよ。多分、ラオクレスの肩を治さなきゃ、駄目だ」

ライラの言葉に甘えて寝てしまいたいくらいだったのだけれど、さっき、ラオクレスは王様の魔物の手で肩をメキメキやられていた。今も、鎧の肩の部分がひしゃげたままになっていて、ラオクレスはそちら側の腕をそれとなく使わないように行動しているのが見える。

「らおくれすー、来てー」

「……何だ、今回は寝ないのか」

自分で動くのはちょっと億劫だったので、その場で起き上がってふかふか絨毯の上に座り直して、そこへラオクレスを呼ぶ。

「うん……肩、見せて」

「……お前が寝て起きてからでいい」

「やだ。見せて」

僕が画材を出すと、さっ、とライラがラオクレスの後ろから回って、鎧の肩の部分をさっと外してしまった。ありがとう!

……ひしゃげた鎧の下になっていた部分は、酷かった。

内出血になっていて、青っぽく赤っぽく黒ずんでいる。もしかしたら、骨にも影響があるかもしれない。

「骨まで治るかは分からないけれど、とりあえず内出血は治す」

全部治ってくれたらいいなあ、と思いながら、ラオクレスの肩を描いて着彩。肌の色はもう覚えてるから、内出血の無い肌の様子を描いて、それを反映させる。ラオクレスの肩の色が戻って、ラオクレスが手を握ったり開いたりして調子を確かめるのを見て、とりあえず、満足。

「王様の具合はどう?」

「ああ、トウゴ様!」

僕が玉座の方へ近づくと、ラージュ姫がぱっと顔を明るくして、僕に飛びついてきた!

「戻りました!父が、父が……確かに、人間の姿に!ああ、何とお礼を申し上げればよいか……」

ラージュ姫はすごく嬉しそうだ。うん。とりあえず、姿は戻せたみたいで、それは確かで……僕も安心してる。

「でも、中身がどうなっているかは分からないよ」

「ええ、構いません。父が今、どんな状況であろうとも、理性も何もかも失った魔物であるよりはこちらの方が良いでしょう」

ラージュ姫はそう言って、僕の手を取って……それから、ふと、言った。

「……最悪の場合でも、遺体を納めた棺の中が見える状態で葬列を出すことができますから」

あ、ああ、ラージュ姫、そこまで考えてたのか……。

うん……やっぱり僕なんかよりずっと深刻に大事に考えていたんだなあ。王様のこと。

それから、王様を寝かせるためのふかふかのベッドを描いて出して、そこに王様を寝かせて、そして僕もなんだか眠くなってきてしまった。

ベッドを出すのも億劫だったから、絨毯がふかふかなのをいいことに、この場で眠らせてもらうことに……。

……と思っていたら、キョキョン、と聞き覚えのある声がして、窓から鳥が首を突っ込んできていた。いつの間に。

ということで、僕は今、鳥を布団にして、鳳凰と管狐をお腹に乗せて、ほかほかいい気持ちで眠ろうとしているところだ。鳥、ナイスタイミング。

……鳥としては僕の布団になりに来たわけじゃなかったみたいだから、ちょっと不服そうな顔をしているけれど、ちょっとだけ、布団になってもらおう。

「おーい、トウゴー、お前、どれぐらい寝そうだ?」

そこで、ひょっこり覗き込んできたフェイに聞かれて、眠い頭で考える。

……これ、魔力切れになるかならないか、微妙なラインだなあ。

「うーん……1日以内……たぶん」

なので正直にそう言ってみたら、フェイが「賭けようぜ!俺、1日半!」とか言いだした。それにライラが「じゃあ私、1日と3時間で!」と乗っかり、「あらあら、なら私は1日ぴったりにしておこうかしら」とクロアさんが笑い、「18時間」とラオクレスまでもが乗り……最後に、全員の視線を向けられたラージュ姫が、「な、なら、私は12時間、で……?」と言って、皆が笑顔になり……。

「よし。じゃあトウゴ、お休み。1日を半日過ぎたっくらいで起きてこい。な」

フェイがそういうことを言って、笑顔で僕を眠りの中へ見送ってくれた。

……僕が1日未満って言ってるのに1日半なんて予想を言われてちょっと腹が立つから、できるだけ早く起きてやろうっと……。

ぐっすり眠って、うとうとして……本当ならこのままもう一度眠ってしまいたかったのだけれど、ぼんやりした頭の中にはちゃんと『フェイを負かしてやるぞ』という記憶が引っかかっていたので、僕は眠気を振り払って、なんとか体を起こした。

鳥の羽毛に埋もれて寝ている間、体温が籠ってちょっと汗ばんでしまったらしくて、起きた途端、逆にちょっと涼しくなる。

僕が起きると鳥も起きたらしくて、もぞもぞ動いてキョンキョン鳴き出した。うるさい。

「ん……うおっ!?トウゴ、もう起きたのかよ!」

鳥の声に気づいてやってきたらしいフェイが、僕を見つけて驚く。してやったり。

……窓の外は夜だ。ということは、僕、多分、12時間かそこらへんで起きたんじゃないかな。

してやったりの気持ちでちょっと上機嫌になっていたら、フェイが「くそー、あと1日寝てろよなあ……」とか何とかぶつぶつ言いながら、水のコップを差し出してくれたのでありがたく飲む。ひんやりした水が美味しい。多分、勝利の美酒の味。

水を飲んで、もう少しばかりぼんやりさせてもらって、フェイだけじゃなくてクロアさんとラオクレス、ライラもやってきてそれぞれに色々言っているのをぼんやり聞いて……そうしている内に意識もはっきりしてすっかり元気になった。

「あの、王様は?ラージュ姫は?」

そこでようやく、気になっていたことを聞くと、クロアさんが笑って答えてくれた。

「もう王様は目が覚めたわ。それで、今はラージュ姫や他の王子王女も混ざって、皆で大喧嘩してるところよ」

大喧嘩、と聞いて、僕らはそっと、王様の私室へ向かった。

「……のですから、いい加減に……」

「なんだと!?……の分際で、何を……」

「……かし!この状況……」

「……にを、そもそも、お前達のせいで……」

……ドアの外にまで、騒ぐ声が聞こえてくる。元気だなあ。

喧嘩中失礼します、という気持ちを込めて、そっとノックしてみると、ちょっとしてから部屋が静かになって、そして、ドアが開いた。

「ああ、トウゴ様。お目覚めになられたのですね?」

「うん。賭けはラージュ姫の勝ちだよ」

僕を見て顔を輝かせたラージュ姫に彼女の勝利を伝えると、ラージュ姫は、まあ、と言いながら、なんだか嬉しそうににこにこ笑った。……ちなみに僕の後ろではフェイが悔しがっているので僕はいい気分。

「あの、王様の具合は?」

ひとまず、一番心配なことを聞く。するとラージュ姫は苦笑いしながら、部屋の中を見せてくれて……そこでは、王様がベッドの上で上体を起こしていた。その姿は人間のもので、もう、魔物らしいところはどこにも残っていない。……よかった!

そして、王様がさっきものすごく言い争いをしていたことは分かっているので、王様がちゃんと話せるようになったことも確認できた。

……つまり、ひとまずは、成功だ。

もしかしたら……その、何か、良くない影響がないとも限らないのだけれど、でも、もし王様の内面が多少なりとも変わってしまっていたとしても、それは僕に分からないことだし、もうしょうがないことでもある。うん……。

「……貴様、レッドガルドの!」

僕らが部屋の入口で王様を見てほっとしていたら、王様も僕らを見つけたらしい。そして僕より先に、フェイに目を付けた。

「あー、えーと、お邪魔してます」

フェイは気まずげにそんな挨拶をして、王様を見て……そして、きっと本心から、言った。

「ひとまず、ご無事なようで何よりです」

うん。僕もそう思う。ご無事なようで何より。

……ただ、王様としてはもう、色々なものに八つ当たりしたい気分らしくて、早速、フェイに噛み付いてきた。

「何が無事なものか!貴様ら、貴様ら……よくも」

勿論、こういうことを言われても困る。『よくも』と言われても、そんなのしょうがない。貴族達が貴族連合を作って王国から独立しようとしていることはしょうがないし、王様と敵対することになってしまっているのもしょうがないと思う。そこは、分かり合えないから壁を造るしかない理論だ。

そして、今回王様の『邪魔』をしてしまったのだって……まあ、しょうがない。王様が魔物のままで居たかったとしても、それを望まない者達がこちらには居て、両者の力のぶつかり合いの末、勝敗が決した。そういうことで諦めてほしい。

「えーと……陛下。ご提案があるのですが」

怒っている王様の前にフェイが進み出て、ぴしり、と姿勢を正す。こういう時のフェイを見ていると、ああ、フェイって貴族だったな、っていう気分になる。

「是非、対談の席を設けて頂きたい。両者にとってより良い道を選ぶために、我々には対話が必要ではないでしょうか」

フェイが申し出ると、王様はものすごく渋い顔をした。

「断る。今更貴様らと話したところで何も利は無い」

取り付く島もない……。

「国に仇為す逆賊共め、貴様らなど、この私が、滅ぼして……」

更に、王様はちょっと出してほしくない方向の元気を出し始めてしまった。待って待って。滅ぼさないで。

「なら先に俺達があなたを殺しますよ」

……と思ったら、フェイも大分元気なことを言いだした。待って待って。殺さないで。

「なんだと……!」

「俺達にはそれができる。なんなら、陛下がちょっと変わったお姿になられた時点で、あなたを討伐していてもよかった」

フェイがそう言って真っ直ぐ王様を見つめると、流石の王様もたじろいだ。

「……けれどそれをしないのは、あなたを殺して得られる平和があまりにも薄っぺらいからです。もし、どうしようもなく、両者の間に隔たりがあって、争うことでしか解決が図れないのだとしても……最初から争うってのは、他の可能性を全て潰しちまうことですから」

ちょっと寂しそうな顔で、フェイはそう言う。

……うん。そうだ。あったかもしれないより良い選択肢を消してしまうのは、寂しい。あまりにも。

「俺は、両者共により被害が少なく、利が大きい選択肢があると信じています。ですから、どうか、一緒にその選択肢を探すために、対談を」

「こ、断る!貴様らの掌の上で踊らされてたまるか!」

……けれど、フェイの言葉は、王様に上手く届いてくれないみたいだった。

「お父様。よくお考えください」

そこへラージュ姫が進み出て、王様に言った。

「この状況。既に、お父様は殺されていても何ら不思議ではなく、名誉を貶められていたとしても何ら不思議ではありません。今この状況で、降伏勧告ではなく対談の打診があること自体、奇跡的なことです」

ラージュ姫の言葉に、ラージュ姫の兄弟達も何人か、うんうん、と頷いている。……それでも中には首を傾げていたり、僕らを睨んでいたりする王子様や王女様も居るんだけどさ。

「それでも尚、この国を、戦場にするおつもりですか。魔の力に身を落として、多くの民を犠牲にして」

「ラージュ、貴様……余を脅すつもりか!この、裏切り者!一族の恥晒しめ!」

更にラージュ姫が畳みかけると、王様はいよいよ怒り狂った。あああ……。

「余を見世物にでもするつもりか!それを陰で嘲笑うつもりだろう!ああ、さぞいい気味だろうな!お前達の憎む王は魔物になったのだ!さぞかし、いい気味だと思っているのだろうが……!」

「あの、王様」

このままだと埒が明かないなあ、と思った。王様を安心させないことには、何も好転しないぞ、ということは分かってる。

……王様は不安なんだ。きっと。

自分で、自分が辿ってきた道を後悔していて、その後悔を暴かれることを怖がっている。間違えたことを隠すために、どんどん間違っていってしまいそうだ。

だから、王様を、安心させなきゃいけなくて……。

「僕も魔物ですよ」

だから僕は、切り札を出すことにした。

ちょっと身を捩って、羽を動かす。ふるふる首を横に振って髪についた埃を払うような、そんなイメージで。

すると、服で隠れていた羽が、のびのびと伸びて広がった。ふう、すっきり。

「ね?」

僕が羽を出すと、その場にいた全員が、ぽかん、としていた。

フェイ達は『出しちまってよかったのか?』っていう顔でぽかんとしているし、僕の羽を初めて見たラージュ姫の兄弟達はやっぱりぽかんとしているし……。

「これは……」

王様は、目の前でわさわさし始めた羽を見て、一番ぽかんとしていた。

しばらく、王様はぽかん、としていた。

その目にあるのは、嫌悪とか憎悪とかそういうものじゃなくて、同時に、恐怖とか慚愧とかそういうものでもなくて、呆れでもなくて、怒りでもなくて……なんとなく、ただ、ぽかん、としている。穏やかなぽかん。

憑き物が落ちた、というか、拍子抜けしたついでに色々抜けてしまった、というか。そういう様子で王様は、じっと、僕の羽を見る。

如何ですか、という気持ちを込めて、僕は王様をじっと見つめ返す。王様は、ただまじまじと、僕の羽を見て……。

「……なんと、美しい」

王様は、そう言った。

かなり意外な台詞だったから、驚いた。

『なんだ、お前も所詮は魔物か!』って言われるかな、とか、『味方が現れた!』って言われるかな、とか、色々とそういうのは考えていたのだけれど、これは予想外だった。

『なんと、美しい』って。美しい、って……ちょっと照れる。

王様の手が、半ば無意識といった様子で僕の羽に伸びる。

ちょっと緊張したけれど、そのままじっとしていたら、王様の手がそっと僕の羽に触れた。……その手つきは、存外、優しかった。ちょっとくすぐったい。

くすぐったくてちょっと身を捩ったら、王様は、はっとしたように手を引っ込める。あ、嫌だったわけじゃないんだけれど。

「魔物……では、あるまい。このような、このような美しく神々しいものが、魔物であるわけは……ああ、もしや、精霊様、か?」

そして王様は、すごく戸惑ったような、少し怯えたような顔でそう言う。その言葉も声も、さっきよりずっと落ち着いていて、理性的だ。なんだろう。びっくりしたついでに頭が冷えた、っていうことなのかな。

……そして、この質問に僕はどう答えてよいものやら、ちょっと迷う。魔物です、って言ってしまってもいい気がするし、精霊です、ってもう明かしてしまっても大して変わらない気もするし……。

「ねえ、父上。このように美しいものがこの国にはたくさんあるのだと、思い出していただけましたか?」

けれど、僕が答えるより先に、ラージュ姫がそう言って、そっと、王様の隣に寄り添うように立った。

「滅ぼしてしまうのは惜しいと、思って、頂けましたか?」

ラージュ姫は少し震える声で、そう、王様に尋ねた。

王様は一瞬、何か皮肉気なことを言い返そうとしたように見えた。ラージュ姫を傷つけるようなことを考えたんだろうし、何か、八つ当たりめいたことを言おうとしたんじゃないかと思う。

けれど……王様は、ちら、と僕を見て、それから僕の羽を見て、そして、下を見て……。

「……そうだな」

そう、小さな声で、言った。

……王様は、なんだか頭が冷えたらしい。

今の王様にあるのは、怒りや憎しみよりも、後悔や恐怖なんじゃないかな。なんだかそういう顔をしている。

「陛下。先ほど、俺達の掌の上で踊らされるのは御免だ、と仰いましたね」

そこへ、フェイが割って入る。王様は咄嗟に敵対心をうまく出せなかったみたいで、中途半端な顔で頷いた。

それを見てフェイは満面の笑みを浮かべて……言った。

「なら、一緒に踊りましょう!」

「……は?」

「俺達も踊りますよ。あなた1人には踊らせない」

フェイはそう言って、底抜けに明るい笑顔を浮かべて王様に迫る。そのついでに、僕の首根っこを捕まえて、引き寄せた。びっくりした。

「こいつもそうですが、俺達全員、魔物みたいなものですよ。1人1人が全く異なる、分かり合えなくて当たり前の魔物達だ」

フェイはきっと心の中で、『俺のご先祖様はドラゴンだし……』とか思っていることだろう。多分。

「そんな魔物達が、集まって踊るんですよ。考え方も思惑も何もかもが異なる奴らが一緒に踊る!中々愉快でしょう!……でも、そういうことだって、できるはずだ」

「な、何を……」

王様は混乱に混乱が重なったような顔でただ困っている。

「王様。別に、憎きレッドガルドの野郎共と踊って頂けなくとも構いません。そういうことなら仕方ない。俺達は隅っこで指咥えて見てますから。でも、なら代わりに、こいつはいかがですか?こいつと、手を取り合って、踊ってみませんか?あなたと一緒に踊りたい奴は、俺だけじゃないんですよ」

フェイは『こいつ』の手……つまり、僕の手を引っ張って、王様の前に出した。

「こいつの手は、いいですよ。綺麗なもんを生み出す手だ。可能性を生み出す手です。取り合って踊るには、これ以上の手は無い」

王様は小さく頷いた。……過剰評価の紹介に頷かれてしまうと、僕としては、その、結構恥ずかしい!

「戦うのも滅ぼすのも、その後にしましょう。生み出すのは難しく、壊すことは容易い。なら……一回、何か生み出してから壊すかどうか考えてみるのも、そう悪くないと思いますよ」

フェイはそう言って、僕の手をそっと、王様の前に出した。そして、僕の手を握っていない方の手を、王様の前に差し出す。

「ねえ、お父様」

そこへ、ラージュ姫もそっと、声をかけた。

「共に踊りましょう。平和を喜ぶ踊りを。……誰かに踊らされることなく、皆で。それぞれの意思で。……まだ、私達にはそれが許されるのですから」

……それでも王様は、迷うように僕の手をじっと見ている。

精霊っていう権威に押し流されそうなのか、なんだか頭が冷えて平和的な考え方ができそうなのか、はたまた、色々と自棄になっているのか……。

王様の考えはよく分からないけれど……とりあえず。

「何か作るなら、僕、お手伝いします」

僕は手を伸ばして、王様の手を握ってみた。

魔物の手じゃない、人間の手だ。ちょっとごつごつして、ちょっと年老いたかんじのある手。……僕の父親の手も、こんなかんじだったかもしれない。

「作る……」

「でも、壊すのは手伝いません」

僕に手を取られて困惑していた王様は、僕の言葉に何を思ったのか、じっと、握られた手を見つめて……そして。

「……余は……力があれば、このように在れたのだろうか」

そう言って……そっと、僕の手を握り返してくれた。

その途端。

「契約を違えたな」

王様の影が、喋った。

僕らが唖然として、王様が恐怖に表情を歪める中、影が動く。

伸びて、伸び上がって……王様の影は、まるで実体を持ったかのようになって、立ち上がる。

真っ黒の、影でできた人の形をした何かは……その手に、真っ黒な、大鎌を持っている。

「貴様の血を……憎き勇者の血を!貰い受けるぞ!」

そしてそう言うや否や、王様の影は、王様の首を、大鎌で薙いだ。