作品タイトル不明
王城の宝物庫 3
王城の奥に向かう。
可憐な飾りが徐々に荘厳な物へと変わっていく。
向こうから、二人連れの誰かが歩いてくる。
ここから先は、謁見室しかないはずだ。
「「……」」
ルティアとハルトが歩みを止めた。
二人はじっと歩み寄ってくる人影を見つめる。
「ねえ」
「うん」
二人は走り出した。
大きな人影は、辺境騎士団長シノア・イースト卿。
小さな人影は――。
「「ジェイルさま~!!」」
ルティアとハルトは、ジェイルを取り囲んだ。
彼が兄のイースト卿と一緒にいること自体は不思議ではない。
だが、問題は彼がまだ十三歳になっていないことだ。
――ロレンシア辺境伯領では、よほどの事情がない限り、十三歳になるまで壁の外に出ることが許されていない。
それは、子どもたちを壁の中で守り育てるためであり、力のある子どもが幼いうちから戦いにかり出されないためのリミッターでもある。
「どうして……」
「お久しぶりです、夫人」
「「ジェイルさま! 来るのは来年になるって言ってたのに!」」
「うん、実はトーナメントで優勝したんだ」
「トーナメントで」
「優勝?」
ルティアとハルトは顔を見合わせた。
ロレンシア辺境伯領のトーナメント。
そこで私と旦那様は初めて出会い、三年前にはルティアとハルトは初めて参加して優秀な成績を残した。
――だが、十歳から先は大人の部に参加することになっている。
わずか十二歳のジェイルが大人の部、それも近接武器の部で優勝したとなれば驚くべきことだ。
「――優勝したら、十三歳になる前に王都に来て騎士団訓練所に入っていいって約束だったから」
「「……騎士団訓練所!」」
騎士団訓練所、それは若い騎士候補生たちを養成する機関だ。
もちろん旦那様も通っていた。
入所するための条件は、騎士からの紹介があること、そしてただ試験に合格――それだけだ。
「……急遽、討伐任務が入らなければ阻止したものを」
「約束は約束だよ、兄上」
「――違いない」
イースト卿は、軽く口元を歪ませた。
彼の気持ちはわかる。過酷な場所から大切な人をたとえ一年でも遠ざけたかった、その気持ちは……。
入所募集は年一回。もうすぐ十三歳になるにしても、ジェイルが壁の外に出て入所試験を受けることができるのは一年後だったはずだ。
「推薦はした。あとは、辺境伯領の誇りと力を見せつけてやれ」
「――自信はある。だって」
ジェイルは、ルティアとハルトをまっすぐに見つめた。
三年前、魔獣から私のことを守ろうとした彼は、あのときよりも頼もしい。
だが、まだ十二歳――幼さが残っている。
「……いいな」
「うん……いいね」
ルティアとハルトは、尊敬だけでなくうらやましさを隠しきれないでいる。
彼らはまだ七歳。もしかすると、実技試験だけなら合格ラインに達しているかもしれないが……。
――まだ、のびのびと安全な場所にいてほしい。
「また、改めてご挨拶に伺う予定です。フィアーゼ卿、ベルセンヌ卿、受かった暁には、弟をよろしくお願いいたします」
「辺境伯領でもその才能には光るものを感じた。未来の力、頼もしい限りだ」
「訓練所で鍛えるのを楽しみにしている」
旦那様とベルセンヌ卿は、それぞれ笑みを浮かべた。
旦那様の笑みからは第一騎士団長としての威厳を感じた。
ベルセンヌ卿からは――近衛騎士団長としての優雅さというより訓練所の鬼教官としての凄みを感じた気がした。
ジェイルもそのことを感じたのかもしれない。
彼は背筋を伸ばし「よろしくお願いいたします!」と元気に挨拶した。
「それでは失礼いたします」
イースト卿とジェイルが去って行く。
ここに来たのは、ジェイルが騎士団訓練所の入所試験を受けるため王都に来たことを陛下にご報告するためだろう。
――陛下の笑みが脳裏に浮かぶ。あのお方はまるで、王国全体を眺め、一つ一つの駒を最適な位置に動かすように人を見ている印象がある。
だが、それが王国全体を守り、ひいては一人一人を守り切るための最善なのかもしれない。
「……ねえ、騎士団訓練所に見学に行きたいの!」
「お父さま! 見学だけならもうできるよね!」
「……そうだなぁ」
「騎士団訓練所は君たちを歓迎する」
旦那様は困惑しているようだったが、ベルセンヌ卿は乗り気だ。
彼はルティアとハルトの剣の師匠でもある。
そして、彼の甥であるレントン様は、ハルトの友人でもある。
これからも、ベルセンヌ家との関係は続くのだろう。
とりとめなく考えているうちに私たちはいくつもの扉を越え、謁見室の巨大な扉の前に立っていた。