作品タイトル不明
王城の宝物庫 1
――さて、レイに不思議な力があることは明らかだ。
そして、王城に行けば、その理由の一端がわかるのかもしれない。
「おしろ、いくの?」
「そうだ」
「おとうしゃまのおしごと?」
「ああ……」
「ふーん」
レイは、手を差し出した。
心得たように、旦那様が抱き上げる。
こんなとき、ルティアとハルトはいつも羨ましそうなのである。
――こんなふうに、当たり前のように抱っこをせがみ抱き上げられる。
ルティアとハルトには、ほんの少し遠慮がある。
それはやはり、赤子のときから当然のように抱き上げられてきたか否かの差なのだろうか。
「……おかあしゃまのとこ、いく」
「ええ」
「おとうしゃまは、にーにとねーね!」
「……わかった」
「「わわ……!?」」
七歳になったルティアとハルトは、かなり重くなった。
だが、騎士として鍛えている旦那様には二人を抱き上げるなど造作もないことなのだろう。
ひょいっと抱き上げれば、ルティアとハルトの目線は私よりも高くなった。
「「歩けるよ? お父さま!」」
「……いいじゃないか」
「「え?」」
「きっとこうして、二人を抱き上げられるのは今しかない」
ルティアとハルトは、顔を見合わせて、それから旦那様に抱きついた。
ある意味、子育てには終わりがある――子どもたちが永遠に私の子どもたちだとしても。
「ふふ……おかあしゃま、だいすき」
「ええ、私も大好きよ」
もしかすると、レイは単に私に抱っこしてもらいたかっただけなのかもしれない。
けれど、兄と姉の寂しそうな様子に思うところがあったのかもしれない。
まだ、二歳なのだからどちらなのか考えても詮無いことだろう。
「行こうか」
「はい」
フィアーゼ家の紋章は、薔薇と百合と剣。
色合いはレイブランド、花から受ける印象はフィアレイア。
二人の血が混ざり合って続く、フィアーゼ侯爵家。
私とルティアのドレスは、薔薇と百合、ハルトは剣と薔薇が組み合わされた意匠。
色合いは紺色だが、同色の刺繍糸で施された刺繍は豪華だ。
旦那様だけは騎士服を身につけている。
けれど、聖剣を下げた彼の姿は白銀と赤の色合いも相まって、まるで百合と薔薇、そして剣を象徴しているようだ。
聖剣は、彼の腰に下がっている。
「魔剣さんの片割れは、馬車の中でお留守番だね」
「私たちのどちらかが騎士団長さまになったら、連れて行くからね?」
魔剣はどうしてもついて行きたいと言うため、聖剣とともに宝石がついた側の一本だけが旦那様の腰に下がっている。
「え? 本体はこちらだ?」
「あちらは、もはや、しょうちょうにすぎない?」
確かに魔剣の心は、剣ではなく赤い宝石に宿っているように見えるが……。
――宝石がついていない双剣の片割れは、何を象徴しているのだろう。
なんとなくではあるが、それは千年もの月日でレイブランドから離れてしまった心の一部のようにも思えるのだった。
「……僕には『しょうちょう』が何かはわからないけど」
「『しょうちょう』も魔剣さんの一部なんでしょう?」
子どもたちの声は真剣だ。
難しい単語への理解は難しくても、察しているのだろう――それが、魔剣を構成する大切なものであると。
「私たちにとっては大事なんだよ」
「魔剣さんの全部が大事なの!」
ハルトは宝石がついた剣を、ルティアは宝石がない片割れをぎゅっと抱きしめた。
赤い宝石がチカチカと光る。
それはきっと――泣き笑い。
「まけんしゃん、いい子いい子なの」
「「え? 泣いてるの?」」
ルティアとハルト、そしてレイがその言葉を口にした途端……。
まるで否定するように魔剣は、激しく光り輝いた。
今日も私は目を押さえ、旦那様とルティアとハルトは耳を押さえた。
「まぶちっ……! うるしゃーい!」
間に合わなかったらしいレイの叫び声が、馬車の中に響き渡った。