作品タイトル不明
二歳児、剣を抜く 1
ルティアとハルトは、ずいぶん強くなった。
最近になって、またロレンシア辺境伯領のトーナメントに行きたいと言い始めた。
トーナメントは十歳からは大人の部への参加となる。
子どもの部で力試しするのも良いだろう。
――そういえば、ジェイルはどうしているのだろうか。
最近、ハルトは上手に手紙を書けるようになった。
だから、録音の魔導具は使わずに手紙でやり取りしているようだが……。
「気になるのは、最近になってロレンシア辺境伯領周辺の魔獣が急に鳴りをひそめたことだわ」
定期的にベルティナとやり取りをしているので、状況はある程度把握している。
千年の間、ロレンシア辺境伯領は砂漠から押し寄せる魔獣との最前線であった。
現在作られている魔導具は、三年前より格段に性能が良くなった。
だが、それでも魔剣と聖剣のような神代の魔導具どころか、当時の技術が辛うじて残されていた三百年前の魔導具にすら及ばない。
聖剣を手にして子ども部屋に向かう。
旦那様がフィアーゼ侯爵になった以上、子どもたちへの教育はいずれ騎士になるであろうことを踏まえてのものだけでは済まない。
高位貴族としての教育にも、本腰をいれなければならないだろう。
「ルティア、ハルト?」」
子ども部屋のドアは、少しだけ開いていた。
ゆっくりと扉が開く。ぴーちゃんが開けてくれたようだ。
――本当に不思議なのだけど、ぴーちゃんは以前よりも格段に性能が良くなっている気がする。
普段はアンナの頭の上に居座っているけれど、先日など拭き掃除のお手伝いをしていた。
掃除もできる魔導具――だが、神代技術搭載蜘蛛型魔導具第三世代改良型は、本来は魔獣との戦闘目的で作られたはずだ。
三百年前に残されていた神代の技術とパーツを寄せ集め作り上げられた最高傑作――だと、ハルトが熱く語っていた。
『ピピピッ』
実際にぴーちゃんは以前、魔獣の攻撃から私たちのことを守ってくれた。
けれど、こうしてまるで執事長の動作を真似たようにアームを折り曲げて挨拶する姿は、家事用の魔導具みたいで可愛らしさが先立つ。
「……神代にはこんな不思議な魔導具がたくさんあったのかしらね」
現存する魔導具は武器型がほとんどだ。
だが、もしかすると千年以上前は家事だって魔導具が手伝っていたのかもしれない。
――一節によると、神代の魔導具と技術は、大陸の東の端にあるエデンタール王国、彼の国が接する海に沈んでしまったとい言われている。
千年前の記録は、ほとんど残されていない。
レイブランドとフィアレイアに聞けば、何かわかるのかもしれないが……。
「ハル、もう少し背中を伸ばしたままのほうが凜々しいわ」
「うん、こうかな……?」
「格好いいと思うわ!」
「えへへ、次はルティーの番だよ」
二人が練習しているのは、王族を前にしたときの作法だ。
以前は、おままごとの一環として練習していたけれど、自分たちで練習するようになったのだ。
――毎日一緒にいるのに、子どもたちはふとした瞬間に大きく成長している。
そんなときには、その成長の過程を見逃してしまったという気持ちと、成長への喜び、そしていつか離れて言ってしまう未来を想像して複雑な気持ちになる。
「ハルト、ルティア」
「「お母さま!! 見てくれた~!?」」
二人は勢いよく走り寄って、私に抱きついてきた。
こうして甘えてくる姿は、今までとまったく変わらず、やはり可愛らしいのだった。