作品タイトル不明
フィアレイア
――聖剣に命を込めたという、剣の乙女の姉フィアレイア。
彼女について、残された資料はあまりに少ない。
ロレンシア辺境伯領で、剣の乙女に剣を手渡すもう1人の乙女の像、魔剣を手にフィアーゼ家に嫁いだ姫、そして祈りを捧げ魔剣と聖剣をレイブランドと剣の乙女に手渡した。
彼女について私が知っているのは、あとは千年の眠りについていたこと……それくらいだ。
スヤスヤと眠るレイを見つめる。
無意識だったが、レイの名前はフィアレイアにレイブランド、そしてアンドレイ――彼らの名前の一部だ。
(――フィアレイア)
ソファーには、フィアレイアだけが置かれている。
自分たちが触れられなくなったことがよほどショックだったのだろう。
ルティアとハルトは、魔剣からひとときも離れたくないようで、抱えたまま子ども部屋に行ってしまった。
(あなたはいったい、どんな人だったの?)
フワリフワリと聖剣の宝石が、淡い水色の光を帯びる。
それは、私とベルティナ、そしてレイと同じ色合いだ。
「……会話が、できたらいいのに」
「……できないわけではないけれど」
「え?」
目の前に、淡い金色の髪にアイスブルーの瞳をした女性が立っている。
彼女は困ったように笑い、それから口を開いた。
「聖剣の眠りが覚めたから、きっとまたアレが目覚めるわ」
「アレって?」
「泉を守っているの。だって、そこには片割れの一部が眠っているのだから」
「……黒い森の、魔獣」
「今はそう呼ばれているのね」
フィアレイアは、どこか遠くを見つめた。
「――封印してから千年。三百年前に再び封印したとレイブランドから聞いたわ」
「……」
そのとき、レイブランドと戦った騎士が命を懸けて魔獣の封印を再び強固なものにしたという。
「その魔導具も、命を流し込むものだったのですか」
「そうね。神代の魔導具の一部には、そんなものがあった」
フィアレイアは、悲しげに微笑む。
「……レイはまだ幼いから、長く話すことはできないから、ほんの少しだけ」
「――レイは、兄様の」
「……どうかしら。でも、子どもたちの中には、似たような子が何度も生まれるわ」
フィアレイアの言う子どもたちとは、この先に生き続ける私たちの子孫のことなのだろう。
「戦うことが出来ず、戦えたら良いと願ったけれど、剣になってしまえば戦うことしかできない――だからどうか、子どもたちを守ってね」
「ええ、約束するわ」
涙が、次から次へと頬を伝っていく。
失われ、帰ってこない人への恋慕。
もしかしたら、これが再会なのかもしれないという期待。
「なかないで」
「――っ、レイ」
フィアレイアの姿が消えて、アイスブルーの瞳を潤ませたレイが私の瞳をのぞき込む。
「だいじょぶ」
「……ええ、そうね。大丈夫」
転んで泣いたとき、暗闇に怯えたとき、子どもたちに無意識に語りかけた言葉が、つらいときには時折子どもたちから返ってくるのだ。
あの日、兄様が口にした言葉によく似たレイの言葉が、私の決意をより強固なものに変えていく。
「泣かない、大丈夫、あなたたちを守ってみせる」
私はレイを抱きかかえ、立ち上がった。